16話 1日目:夕 【妻】公爵令嬢アナスタシアの交渉術(上)
【アナスタシア視点】
来ちゃった!
そう、私は王城に来ちゃいました。
私がカミラを伴って王城に着くと、いつも通り中に通された。
で、近くにいる人に「夫はどこにるの?」と聞くと、「それはお答えできません」の繰り返し。
誰に聞いても同じ回答。
まるでロボットみたいな同じ事を言われた。
なんなの一体。
宇宙人にでもこの城はのっとられたの?
私は中々教えてくれないので、次に捕まえた一人に。
「なんで教えてくれないの?私は妻なのよ」っと、ちょっと強く聞いてみると。
「申し訳ありません、アナスタシア伯爵夫人。
彼の居場所については現在秘匿案件になっております」
でたー、秘匿案件。
これは外交情報や王室関係など、重要情報を制限する際に使われる言葉。
やぶると罪に問われるので、皆口を閉ざすのだ。
でも彼の居場所がそれに該当するなんて、ちょっと笑っちゃう。
伯爵程度の居所にはふさわしくない取り扱いだ。
まぁ、それぐらい、王城は王女殺害について神経をすりへらしているのかもしれない。
私は「そうですか」といって一旦引き下がる。
秘匿案件といわれたらしつこく聞いてもあまり意味無いし。
誰だって自分の身を危険にさらしてまでは教えてはくれない。
それに多くの人はそもそも居場所を知らないかもしれないし。
なのでとある貴族の部屋を訪れた。
王城での警備を担当しているベネット侯爵の部屋。
私のお父さんの古いお知り合い。
「お久しぶりですわ、ベネットおじさま」
「これはこれは、アナスタシア。
いや、今はアナスタシア伯爵夫人といったほうがいいかな。
父上はおかわりないかな?」
私を心地よく受け入れてくれるベネット侯爵。
「はい、おかげさまで。
おじさまも元気でなによりです。
ですが、今日は父のことではなく夫のことで参りましたの」
ベネット侯爵は僅かに口元を引きつらせて苦い顔をする。
「ああぁ、その事ですか」っと悪い予感が的中したように。
「そうだね。そう、今日は大変な目にあったと聞いているよ」
「はい、そうなのです。
騎士団が野盗の様に家を荒し回っていったのです。
もう、家の中はめちゃくちゃです」
「ははは。でも、それは一応彼らの仕事だからね」
「笑い事じゃありませんわ。
仕事だとは思いますけど、さすがに横暴ですわ。
それに彼らは夫を拉致していったのですよ。
今もどこにいるか分かりません。
この城に運び込まれたと聞いたのですけど、誰も詳しい場所を教えてくれないんです。
皆、私にいじわるするのです」
私は一瞬顔を下げてから、チラッと上目づかいで侯爵を見る。
侯爵は罰の悪い顔をしている。
「ええ、それはかわいそうに。
でも拉致ではなく、拘束だと聞いているよ。
その・・・事件の容疑者として」
侯爵は第三王女殺害事件の事をぼかした。
まるで口に出すのも嫌みたいに。
その言葉を口に出すことで、私が傷つくと思っているのかもしれない。
「私にとっては拉致も同じですわ。
彼らは家に来ていきなり夫も殴って気絶させたのですよ。
思いっきりで剣で。夫の首が吹き飛ぶかと思いました。
そんな暴挙が許されるのですか?」
「それは・・・問題だね。問題だ。
でも彼が抵抗したと聞いているよ。その・・・剣を手に取って反抗しようとしたとか」
「それは関係ありませんわ!
誰だって、武装した男に囲まれた剣の一つや二つ取りたくなります。
あの騎士たち、鬼の様な形相で今にも夫を剣でズタズタにしそうな雰囲気でしたの。
私、すごく怖かったんですの」
「それは・・・お気の毒に」
侯爵は少々具合が悪いようだ。
私の事を気遣ってくれているけど、騎士団の事もかばってる。
多分、騎士団の行動は正しいと思っているけど、私の困っている姿も見たくないんだと思う。
「それでなんですがね。ベネットおじさま。
私は夫が心配なんですの。
どこかに監禁されているのは分かっているんです。
もし、拷問を受けていると思うと・・・とっても心配なんです。
王城ってそういうことするのでしょ?
私はどうしても会いたいのです。
それに、お腹をすかしてるんじゃないかと思って差し入れも持ってきましたのよ。
ほら、カミラ」
「はい、アナスタシア様」
カミラが袋からクッキーを取り出す。
部屋に香ばしい匂いが広がる。
「アナスタシア、安心して。
さすがにいきなり拷問をするような事はないと思うよ。
後、差し入れについては私の方から旦那様にわたるように手配しましょう」
ベネット侯爵は、カミラからクッキーを受け取るように秘書に指示しようとするが。
私はそれをさえぎる。
「ありがとうございます。
でも、私は夫の顔を見たいのです。
一目でいいのです。元気でやっているのか見たいのです。
直接渡したいのです」
ベネット侯爵は表情を固くする。
「いや、それはちょっと・・・難しいかな。
それにまだ拘束されて数時間しかたってないわけですし」
「時間なんて関係ありませんわ!
今にも死刑になる夫に会いたくない妻なんていません。
おじさま・・・お願いです。
少しでいいので、会わせてくださいませんか。
おじさま・・・」
私は瞳をうるませて、侯爵に頭を下げる。
「や、やめなさい。
そんなこと、ほら、頭を上げて。
そんな事をされても彼の容疑は王族殺しだからね。
そうそう会うのは難しいんだよ。
少し時間が経てば、家族なら面会は可能になると思うが」
「いいえ。すぐにも死刑になってしまうかもしれませんわ。
だから今すぐに会いたいのです。
そうに決まってますわ。ギロチン送りになる前に会いたいのです。
お願いします、おじさま。おじさまだけが頼りなのです」
口元もむにょむにょ動かして悩む侯爵。
どうしようか葛藤しているようだ。
私は自分の顔を両手で抑え、涙がこぼれてきたような仕草をする。
それが決めてだった。
「分かった。分かった。
アナスタシアの父親とは長年の付き合いだ。
君が困ってるのなら手を貸そう」
「ありがとうございます。おじさま」
私はベネット侯爵の手を握り。
「それでおじさま。今すぐ会えるのですね?
そうなのですね?どこに行けばいいのですか?」
私は期待の意味を込めて侯爵を見るが。
「いや、そんなに焦らないでちょっと待ってほしい。
少し段取りがいるから隣の客間で控えてもらえるかな。
そう時間はかからないと思うから」
「分かりましたわ。おじさま。ありがとうございます」
私はカミラを連れて隣の部屋に移動した。




