15話 1日目:昼 【母】殺害現場と騒動(下)
【続・マリアンヌ視点】
私が殺害現場こと噴水広場に着くと、そこは騎士団によって立ち入りが規制されていました。
第三王女の死体が貼り付けてあったらしい銅像を中心にです。
普段人気がないこの場所に、今はわんさかと人が集まっています。
野次馬がめいめいに話し合っており、わいわいがやがや騒がしいです。
彼らの中には少しでも殺害現場に近づきたい者がいるのでしょう。
現場に近づこうとしては騎士達に押しとどめているのです。
そんな積極な態度をとる人意外にも、背伸びをして銅像部分をよく見ようとしている人もチラホラ。
私もそこに加わり殺害現場をよく見ようとします。
すると、噴水の傍や銅像の周りには大量の血が残ってるのが分かります。
特に銅像の周りです。
血だまりがあり、その周りにとポツポツと血の跡が。
銅像には人型のシルエット。
きっと王女様が磔にされた跡なのでしょう。
血の跡を見るだけで、どんなに風に吊るされていたのか想像して寒気がします。
騎士団は現場検証のためか、あえて血を残しているようです。
現場の様子をスケッチして纏めている騎士もおり、捜査資料を作成しているのでしょうか。
と、その時。
後方が騒がしくなり、そちらに目を向けると。
怪しげな黒ローブの集団が現れます。
「災いがこの世に現出されたのです!」
「呪いがこの王都に溢れ出てきたのです!」
「災いが天地の渦から漏れ出てきたのです!」
人ごみを分けて登場し、殺害現場に近づこうとする黒ローブ集団。
「なんだなんだ?」
「うわ、押すなよ」
「どきなさい、司祭様がお通りになるのですよ」
「うをぉ」
「司祭様に道を空けなさい!神道ですよ」
「このやろう!」
「おい、やめとけって。見ろ、あいつらユヌス教団だぞ。
逆らうと大変な目にあうぞ」
「お、おう」
黒ローブの集団、ユヌス教団は、殺害現場を囲んでいる群集を押しのけて進んでいき。
騎士団と向かい合います。
が、黒ローブの集団は騎士団さえ押しのけて進もうとします。
「ちょ、ダメですよ。ダメ。下がってください。
危ないですから、ほら、後ろに」
「なんですか?あなたは。
この方をどなたと思っているのですか?
司祭様のお通りですよ。あなたこそ下がりなさい」
「何言ってるんですか。ダメです。
ここは殺害現場です。騎士団が捜査中です。
誰であろうとダメなものはダメです」
「そんなのもの知ったことではありませんわ。
司祭様が災いを察知されて来たのですよ。
道を空けなさい。さぁ、早く」
騒ぎを聞きつけ、それまで銅像付近で捜査捜査をしていた男。
騎士団の現場指揮官がやってきました。
「何事ですかな、私達は捜査中なのですが。
そちらはユヌス教団の方とお見受けしますが」
現場指揮官は極めて礼儀正しく応対しました。
司祭の周りにいる女が反応しようとしましたが、司祭が手を制してそれをとめます。
「いかにも、私達は救世主、ユヌス様に仕える敬虔なる者達です。
ここを通して貰えますかな?」
「それは無理です。今、ここは見ての通り捜査中です。
いくら司祭様とは言え、お通しはできません」
「何、捜査のお邪魔はしませんよ。
私達はただ穢れを払いに来ただけなのですから。
教会でユヌス様と交信していますと、大きな穢れを察知したのです。
それはそれは大きなうねりでした。
このまま放置すれば、災いが王都中に広がってしまう程の穢れです。
そうなってからでは遅いのです。
あなた達はその事に対して責任が取れるのですか?」
「いや、これは殺害事件でして、「災い」や「うねり」を持ち出されましても。
それは関係ないのでは」
「違います。これは穢れが起こした結果です。
こんな残人な事件が穢れでないわけはありえません。
私達はこの町の人々を守りたいだけなのです。
今回は痛ましい事件でしたが、この様な穢れ連鎖してはいけません。
ですから、その因果である穢れを払いに来たのです。
通して、貰えますかな?」
「そうだそうだ。司祭様にお通ししろ」
「道を明けろ。これ以上災いを撒き散らす気か」
「王城の犬めが」
ユヌス教徒が騎士団員に対して叫びだし、押し問答を始めます。
それを騎士団員が押しとどめます。
見る見る内活気を帯び、一触触発の雰囲気です。
「待ってください。司祭様。
ここには入れません。
殺害現場を荒らす事は許されません。
あまり暴れると拘束することになりますよ。
そうなる前にお引取りきり下さい」
司祭は信者に合図して騒ぎを収めます。
「別に私達は争うつもりなどありません。
敬虔な使者ゆえ、平和を愛しておりますので。
心地よい心の安らぎを求めているのです」
「それでしたらお引取りを。さすれば、さぞ心の平安を得られるのでは。
無為にここで争わなくても」
「いいえ、そんな無責任な事はできません。
このまま穢れを放置することなどできましょうか?
いいえ、できません。
私達は皆様の愛と平和を祈っているのですから。
勿論、騎士様、あなた達の事もですよ」
「そうですか、それはありがとうございます。
ですが、そうでしたらお引取りを」
「災いを目の前にして帰る事は出来ません。
要は、この中に入らなければ言いのですね?」
「はぁ、まぁあそうですが」
騎士は言葉を濁して答えます。
「分かりました。
では、この場で祈らせてください。
それでしたら問題ありませんね」
「そういう事になりますね」
司祭が手を上げると、信者が全員ひざまづきました。
「騎士団の皆様も、我が教団の教義に賛同して頂けたようです。
では、今からこの血の穢れを払いましょう」
「いや、私は賛同したわけでは」っと騎士団の現場指揮官は抗議しますが。
その声は群衆の声にかき消されました。
司祭が祈りの言葉を述べ始めます。
呪文の様なそれは、大きく、よく通り、重く低い声で。
彼は祈りの言葉を繰り返します。
それを真剣にきいているらしい信者。
「なんだあれ?」
「分からねー」
「何やってるんだ?」
「知らん」
群集は隣のものと言葉をまじわしながらも、比較的静かにその様子を見守ります。
暫くして儀式は終わると。
司祭は教団を興味深く見ていた群衆を見渡しました。
「皆さん、ユヌス教団はこの街に平和と繁栄をもたらす事を目的にしております。
今回の様な不幸が広がらないように、この国を守りたいと思っております。
皆様一人一人の味方であります。
ご興味がありましたら、是非我が教会にお越し下さい。
今宵は第三王女様を追悼するミサを行う予定です。
ささやかながら、冥福をお祈りするためにお酒と料理も要しておりますので。
では、それでは、平和と繁栄を祈りまして」
司祭が大げさに礼をすると、信者がさっと動き出しチラシを配りだします。
私の元にも信者が来ます。
「きっと、幸せになれますよ」女性信者がそういって私にチラシを渡しました。
多くの群集にチラシを配り終わって満足したのか、ユヌス教団は去っていきました。
彼らは最近王都で急成長の宗教団体だと聞いた事があります。
名前だけは耳にしていましたし、街で信者を見かけたことがありましたけど、ここまで存在を意識したのは初めてでした。
周りでは。
「へぇー、酒と飯がでるのか。行って見ようかな」
「やめとけよ、あいつらみただろ。どこかおかしかっただろ」
「でも、ただ飯が食えるんだぜ」
「そうだけど」
そんな声がチラホラ聞こえます。
彼らの勧誘活動はある程度効果を出しているのかもしれません。
私はチラシの場所と時刻をさっと確認しました。
(今夜かぁ・・・)
酒という言葉が私の心を引いた事は確かです。
彼らが本当に平和を願っているのなら、この殺人事件の真犯人をほっておくはずがありません。
私は息子が罪と犯していないと信じています。
彼らはもしかしたら不当に捕らえられている息子の力になってくれるかもしれません。
そう考えますが。
(だめ、だめだわ。
あんな怪しい団体を頼るなんて。
私はなんて事を考えてるのかしら。
きっと心が弱っていて、こんな考えが浮かんでしまったんだわ)
すぐに考えを打ち消します。
ちゃんとまともな人に協力を仰がないといけません。
となると、やはり一番最初に行くべきは息子の妻の場所でしょうか。
やはりそうですね。
息子の妻なのですから。必ず息子のためになってくれるはずです。
そう思い、私は息子の家に向かうことにしました。
しかし息子の家に行くとメイドが一言。
「奥様は留守です」
どこに行ったかを聞くと「王城です」と。
どうやら入れ違いになったようです。




