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プロローグ ゲームの必勝法

【?視点】




 夜の闇の中でその人物は決意していた。




 この計画を実行しなければならない。

 復讐を果たさなければならない。

 受けた痛みは返さなければならない。

 決意を具現化しなければならない。

 途中で計画を放棄してはいけない。




 必ずやり遂げなければいけない。



 

 何かを成功させる時に大事なのは入念な計画だ。

 時間をかけて準備する。

 時には。

 何時間も、何日も、何週間、何ヶ月、何年もかける。

 


 偉大な彫刻家や建築家の様に。

 少しづつ進めるのだ。

 決して急いではいけない。

 かけた時間が計画をより確かなものにする。



 相手を詳細に探り、弱点を探り出す。

 勿論こちらの存在はばれてはいけない。

 相手にばれずに動くのだ。

 こちらの意図がばれては全ては水の泡と消える。




 それに、目的を間違えてはいけない。

 短絡的な行動。

 感情に酔った行動は厳禁だ。

 ただ動物の様に感情を発露しても。

 そこに残るのは虚しさだけ。

 

 積もり積もった積年の想いは。 

 そんな事では決して満足しない。

 心は満たされない。

 かえって想いを強くする。 


 重ねた想いと同じように。

 復讐にも気持ちを重ねるのだ。

 時間をかけて気持ちを熟成させる。

 ドクドクを煮込んでいく。

 そして、受けた想いと同じ気持ちを相手に返す。 




 そのためには・・・

 より慎重に。

 より正確に動く。


 根底にある想い、目的を取り違えてはいけない。

 ただ想いを晴らせばいいだけではない。

 相手にも同じ、それ以上の受けた想いを返す。

 それでこそ復讐だ。 

 単純な結果、客観的な結果に囚われてはいけない。

 大事なのは同じ気持ちを抱かせる事なのだから。




 しかし、所詮は人の頭で考えた計画。

 必ずしも上手く行くとは限らない。

 よく分からない事。

 未来に対する人間の洞察など、大した事はない。

 どんなに優れた人物の計画。

 時間をかけて詳細に組んだ計画でも。

 必ず予定は狂い。

 計画は破綻する。

 人の歴史が証明している。




 全てを予測する事など不可能なのだから。

 未来予知をできる人間など存在しない。

 もしいるとすれば・・・

 その者は人ではないだろう。

 一つ別の領域に住む者だ。

 神の如き人間だろう。

 人は神ではない。 

 神には決してなれない。

 神は存在しない。




 人は愚かしいのだ。

 誰もが一時は永遠が続くと。

 この感情が長続きすると勘違いする。

 


 恋人との幸せな時間。

 友達との楽しい一時。

 趣味に没頭している時でもいい。

 充実感に満たされた幸福に包まれた瞬間。

 それが永続すると思うのだ。

 永遠が続くと信じて疑わない。




 だが。

 事実は違う。

 感情は変わるのだ。

 時と共に人の想いは変わる。

 自分も相手も。

 例外ではない。

 常に人の感情は動いていく。


 例え過去に燃えるように愛した人物でも、今は分からない。 

 愛情が消え去る事はあるし。

 消えないこともある。


 相手の心のうちは覗けない。

 今はどんな気持ちなのか分からない。

 昔は愛してくれていると確信できたのに。

 今は分からない。

 自信がない。


 なぜなら。

 人の気持ち。

 自分の心が、想いが。

 時と共に変わることを知っているから。

 自分の気持ちも変わるのだから。

 相手の気持ちが変わらないとは確証が持てない。




 今見ている夜空と同じようなものだ。

 静止しているようで、静止していない。

 よくみれば雲だって動いているし、星々も動いている。

 ぱっと見た風景と。

 詳細に見た風景では全然違う。

 奇麗な夜空とて、永遠ではなく変化している。

 美しいもの程変化しやすいのかもしれない。

 儚げな魅力があるのかもしれない。




 身に染みてそれを体験した。

 痛い程に強く感じた。

 胸が張り裂けるほど体感した。

 知りたくはなかった現実。

 


 だけど・・・

 そのきっかけがあったからこそ。

 計画を立てることを思いついた。

 

 強い想いがなければ。

 この計画も途中で放棄していただろう。

 ふいに思いついては消える、無数の思いつきと同じ様に。

 

 だけど。

 あの時の想いが心を動かす。

 静かにドクドクと煮えきった想いが心を動かす。

 想いが計画をより確かなものにする。

 復讐の想いを形にする。






 復讐計画はゲームのようなものだ。

 根本はカードゲームや子供の遊びと変わらない。

 ルールや制約の枠内で。

 相手を出し抜き勝つこと。

 それが全て。

 相手に勝ちさえすれば。

 相手の動きを読むことさえ出来れば、復讐は成功する。

 勝利を復讐達成に置き換えるだけだ。



 それならば。

 復讐計画の必勝法は、自ずとゲームと似通ってくる。

 神の如き超越した能力やチート能力がない場合。

 お互いの能力差がない同じ人間の場合。

 


 必勝方法は三つ。



 ・先手を取る

 ・頭を使う

 ・相手を騙す



 これらの要素が最重要になってくる。

 

 この中で一番簡単なのが。

 先手を取ること。

 時間をかければ誰にだってできる事。

 元来の素質や身体能力、頭のよしあしや性別は関係ない。

 子供でも大人でも、男でも女でも、平民や貴族でも変わらない。


 頭を使う事と、相手を騙す事は少し難易度が上がる。

 必ず自分より賢い人間は現れるし。

 相手を騙すのはリスクが高く、失敗すると手ひどい一撃を食らう。

 

 思い上がってはいけない。

 自分を神だと思ってはいけない。

 謙虚に自分の能力を受け入れなければならない。




 だからこそ。

 普通の人だからこそ。

 計画を立てるのだ。

 確実に相手の先手を取り。

 一歩先に行くために。


 先行していれば、相手が気づいても負ける事はない。

 相手が気づいた時には、どうしようもない距離が出来ているようにするのだ。

 そうすれば。

 相手が賢くても、騙すのが上手くても問題ない。 



 それがゲームの必勝方法。

 復讐計画を完遂させるための方法。

 一番優れた方法。







 その際に重要な点がもう一点ある。

  

 目的を元に。

 細部ではなく、枠組みを決めることだ。

 柔軟に対応可能な枠組みが重要なのだ。

 どんな事が起こっても対応できるように。

 枠組みだけ練り。

 後は運に任せ。

 計画が枠組みから出ないように動き回る。

 決して自分の能力を過信してはいけない。 

 人は神になれない。



 相手の反応を見て。

 その時々、柔軟に反応すれば良いのだ。

 枠組みの中でのギリギリ最低限の行動をすれば成功する。

 誰が実行しても成功する難易度で計画を立てる。

 そんな計画が必要だった。

 

 勿論。

 そんな計画を簡単には立てられない。

 個人の能力を超えている。

 そのためには環境。

 周りの状況が最重要で。

 

 じっと。

 じっと耐えしのんで。

 そんな計画を立てられるチャンスを待った。


 状況に応じて何度も計画を練って。

 その度に白紙に戻してきた。

 好条件は中々巡ってこない。

 必要なのは諦めない気持ち。

 自暴自棄になってはいけない。

 





 しかし・・・

 時を待った結果。

 ふいにチャンスは訪れた。

 復讐計画を実行できる条件が揃ったのだ。

 これ以上に良い条件は訪れないだろう。



 これから行う事に対しての準備は出来た。

 時間をかけて復讐計画を準備した。

 運が味方についた。

 時は来た。

 準備は万端だ。

 障害はない。

 今行うしかない。

 このチャンスを逃せば、もう巡ってこないだろう。




 ここから一歩進むと。

 もう引き返せない。

 これまでとは違う領域に進む。


 想いは同じでも。

 計画をして、準備していた時とは明らかに違う。

 実際に行動するということは。

 一線を越えるということだ。





 一歩進めさえすれば。

 すぐにあの者は破滅に追いやられるだろう。

 あの者は。

 死神の鎌が近づいている事にも気づいていないはずだから。

 




 ずっと。

 ずっと。

 一歩一歩死神の鎌が近づいていたのに。

 あの者はこれまで気づいた気配がなかった。

 こんなに近くに。

 触れるほど近くにいたのに気づかなかったのだ。


 


 気づいてさえくれれば。

 根底にある想いに気づいてさえくれれば。

 計画を途中でやめたかもしれないのに。


 心のどこかでそれを願っていたのかもしれない

 甘さが。

 希望が残っていたのかもしれない。

 永遠を信じていたのかもしれない。

 相手を信じていたのかもしれない。





 しかし。

 現実は違った。

 あの者は何にも気づかず。

 こうしてチャンスは巡ってきたのだ。

 計画を実行するのに相応しい時が来てしまった。




 ここで引くことは出来ない。

 このチャンスを逃す事は出来ない。

 後は全てを運に任せるのみ。

 計画を成功させるために動くのみ。





 もう、振り返らない。

 決して足を止めない。

 振り返っても止まる事などできないのだから。

 これまでの時間を無駄には出来ない。

 準備にかけた時間と想いは無駄には出来ない。

 積もり積もった想いを晴らさなければならない。





 心の片隅では。

 誰かに止めて欲しい思いもあったけれど。

 その時は終に訪れなかった。 

 あの者は気づかなかった。

 時は訪れなかった。

 



 それが運命なのだろう。

 神の定めなのだろう。

 ならば仕方がない。 




 運命に従い行動しよう。

 時が来たのだから。

 人は誰しも運命には逆らえない。





 今夜が決行の日だ。

 復讐を始める。










 夜の闇の中で。

 その人物は微笑んだ。

 


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連載始めました↓
彼女が二股していたので、腰が砕ける程衝撃を受けた。

 

連載始めました。よろしくお願いします。↓
転生したら吸血鬼さんだった件~チートで世界最強です~

 

さくっと同時連載中。↓
もう、結構ですわっ!

 

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