私が耳を触られるとめちゃくちゃ感じる猫耳美少女になった件
自分に見とれそうになるのをこらえて、視線を男に戻す。
男は私のことなんか見ちゃいなかった。男が見ていたのは私の右側。つられて振り返ると、スーは猫型エスペラスを一匹拘束していた。猫はぐったりして眠っているようだ。脇腹にダーツのようなものが一本刺さっている。耳はどこにも落ちていない。男に視線を戻すと、もう一匹の猫が男を守るように立っていた。尻尾がタヌキみたいに膨らんでいる。
「くそっ」というと男は回れ右して走り出した。残っている方の猫は後ろについていく。
「追いかけて」とスーの声がした。
私は走って追いかける。男は買い物袋をぶら下げた女性たちの合間を縫って駆けていく。買い物客がまばらなためさぞかし逃げやすいだろう。私も追いかける。しかし、差はどんどん広がっていく。息が切れてきた。苦しくて立ち止まる。うつむいて肩で息をする。耳は良くなったみたいで、男がエスカレータを駆け下りる音だけは聞こえていた。
この身体体力なさすぎ。
店に戻るとスーは一人で待っていた。猫はいなかった。お客さんは一人残らず逃げ出したようで、店員さんは顔が引きつっていた。
「猫に逃げられちゃったの?」と尋ねる。
「逃げられたわけじゃないよ。ちょっとね」というとニヤリと笑顔を浮かべた。スーのエスペラスは他人のエスペラスを捕獲するものなのかもしれない。
「猫のことは心配しなくて良い?」
「問題なし」とスーが言ったので猫のことはスーに任せる。一応信頼しているのだ。
「帽子を買ったほうが良いかもね」と言いながら、スーは私の耳を触った。
「ひゃうん」とまた声を出してしまった。
「どうしたの? 耳を触られると気持ちいいのかな?」というが早いがスーは私の耳をもみくちゃにした。ぞわぞわした感覚が全身を駆け巡る。「あ」また声が出た。「んー」というと私は腰砕けになって座り込んだ。そこまでなってやっとスーは耳から手を離した。私は走るのをやめた時以上に息を切らしながら言った。
「敏感なの」目からは涙が出ている。
「ふーん」とスーはわざとらしい生返事をした。