動画を見ながら話し合い
一度つけたリボンを外して髪をとかしてもらっているところで、ピンポーンと音がした。「はーい」かわいらしい声で返事をすると、トテトテ玄関まで歩いて行った。鍵を開けるとガチャリと扉を開く。来たのはヒロだった。
「おかえりなさいませ、ご主人様」満面の笑みで迎える。ゴスロリらしいセリフが思いつかなかったため、メイド風だ。
「レン?」ヒロは、頭の上からつま先までジロジロと見た。少なくとも二回胸を注視した。口がぽかんと開いている。
「入ってくれ」と私が言うと我に返ったようだ。「お、おう」と生返事すると中に入ってきた。
「例の動画を見たか?」ヒロが聞いた。
「例の? なにそれ?」スーが答える。私もかわいらしいきょとん顔でヒロを見つめる。ヒロは胸をチラッと見てから目をそらした。カバンからMacBookAirを取り出した。そして、chromeでYoutubeを開いた。
「この動画だ」
そう言って見せたのは例の動画の日本語字幕版だった。「エスペラス」(希望)と名付けられた能力をエスペラントを話す女性が紹介している。私たちにはエスペラスが作り物でないことはわかった。
「この動画が理由でネット上では能力のことをエスペラスと呼んでいる。2chなんかを見ていると、似たような能力者がたくさんいるようだ」
「昨日話し合った通りになってきたね」とスーが言う。「やっぱり能力を持った人はいっぱいいるんだ」
「私が生き証人だよ」と私が言う。「殴られただけで別人になったんだ。エスペラスはかなり強力な能力を持っているものらしい」
「そういえば……」とヒロが続ける。「レンは戻れるのかい?」
「女にする能力は、恒久的なものみたいだね。」
「そうか……」
「まあ、悪くない。今の姿は気に入っているよ」
「気に入っているで済む問題なのか」
「それより、昨日の仮説覚えているか。能力は本人の望みに深く関わっているというやつ」
「もちろん」二人同時に答える。
「昨日会った男や今の動画を見るとやはり、エスペラスは本人の望みを叶える能力を持つみたいね」
「やっぱりそうか」とヒロ。
「卵を孵化できる人とできない人がいるのは真剣に叶えたい望みがあるかどうかなのだろう。「エスペラス」希望とはいい名前だ」