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とりあえず敵である男をアスファルトに埋めた

 どうやらこの男は殴った相手を裸の女性に変身させる能力者らしい。泡まみれなのは逃亡を阻止するためだろう。アスファルトの上なのに地面との間にほとんど摩擦がなくツルツルと滑る。立ち上がるどころか後ずさりすることすらできない。男の視線は明らかにいやらしいものだった。どことは言わないが暗がりの中じっと見ている。にやけた表情を見る限り変身後の姿はこの男好みなのだろう。腕や身体、脚はかなり華奢だ。この男の好みに加え、身体能力を下げる効果もあるのかもしれない。

 普通の人間はこういうときどんな反応をするだろうか、と考えられる程度に私は冷静だった。恥ずかしがったり戸惑ったりするのだろうか。冷静さの理由は二つある。一つ目は、私はすでに能力(のちにエスペラスと呼ばれるもの)の存在を知っていることだ。私自身の能力が発現して以降、仲間と能力について考察してきた。性別を変えるの能力者が存在しうることは想像がつく。まさかこんな路上で襲われるとは思っていなかったが。理由の二つ目はシンプルで、私の能力を使えばこの男を無力化することが容易だからだ。男に悟られないように私の能力を行使することができたため、能力を封印する力はないらしい。身体を元に戻せるかはわからないがそれは仕方ない。できればこの男に能力を悟られずに無力化したい。能力を人に知られることはよろしくない。一方この男を殺すほどの気はない。

 男はニヤニヤしながら私の方に近づいてきた。能力は出していない。訓練していない人間は、エスペラスを体内に潜ませたまま能力を行使することはできない。

 この男を無力化する方法で手っ取り早く思いついたのは、身体を動かせないように地中に埋める事だ。私の能力を使えば可能だ。能力の種類から考えて身体が動かせなければこの男は害はないだろう。あんまり頭の良い手じゃない気がする。男は一歩また一歩と近づいてくる。私は恐れたように後ずさりしておいた。彼我の距離五十センチのところで彼は私の胸へと右手を伸ばした。私はなんとかバランスをとりながら右手で彼の右手を掴む。

 次の瞬間彼の右手のあったところに右手の形をしたアスファルトがあった。男は私の後ろに移動しているはずだ。わたしの体の上に右手の形をしたアスファルトが降ってきた。なんとか右手で支えようとしたが力が足りなかった。どれだけ筋力ないんだ、この身体。アスファルトの手首の部分が私の太ももに当たった。痛い。

「うおあ」

 情けない悲鳴が聞こえる。振り返ると右手の埋まったままうずくまっていた。おそらく身体をひどく打ち付けたはずだ。「いてぇ」と呻く。「俺の手」というと彼は右手を強く引っ張ろうとし、悲鳴をあげた。

右手型のアスファルトは身体から滑り落ちていなかった。どうやら男の無力化と同時に泡の能力は解除されたらしい。身体は元に戻らないが。

 裸のまま立ち上がって男から離れる。男はキョロキョロしている。私は男を後にして早足で逃げた。

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