人形師の夜
狼の鳴き声がする。
童話でかかりそうなメロディーがかかり、幕が開く。
「リア、もう直ぐ生き返らせるからな!」
暗闇の中、声だけが聞こえる。
中央のスポットライトのみが点くと、白衣の男とロリータファッションの少女が現れた。
椅子に座った少女は目を開く。
「初期設定を行います。主を認識、お名前をどうぞ」
「トール」
「トール、認識しました。では、私の名前を設定下さい」
「あ…リア」
「あ、リア…アリア、でよろしいでしょうか?」
誤認識だったが、トールはそこで考える。
彼女はリアであってリアではない。
「うん、君の名前はアリアだ」
優しい笑みを浮かべ、トールは言った。
そこで一度暗くなる。
トールとアリア、それは棗とリアナだった。
〈オリジナルみたいだけど、中々良いじゃない〉
海里は心の中で呟く。
衣装もとても凝っていて、裁縫技術も素晴らしい。
周りを見渡すと、皆舞台に心を掴まれた様だった。
アリアには心が無い。
トールの願いを、命令として実行する。
「アリア、楽しいかい?」
ナレーションの後、アリアはブランコに乗っていた。
トールはそれをゆっくり押す。
「楽しい…わかりません」
アリアは無表情に言った。
アリアの改良は少しずつ続く。
やがて年月が過ぎ、トールは白髪になった。
「トール、何故私に心を作ったのですか?」
病床のトールに、アリアは呟く。
姿は変わらなくとも、それは感情を持った女性だった。
「それは、ロボットとして生きて欲しく無かったからだよ…」
トールは言う。
「迎えが来た様だ。アリア、さようなら…」
トールは言うと眠り、アリアは泣き叫ぶ。
「スペックオーバー、自動停止します」
アリアは突然言うと、そのまま固まった。
「悲しい話だったね」
「いつの間にか引き込まれてたよ」
観客達はそう言いながら出ていった。
「海里叔母様!」
ロリータ服に身を包まれたリアナは確認すると現れる。
「どうだった?凄いでしょ?」
「うん、良かったよ。でも、学生なんだし明るい話の方が良かったかな?」
海里は素直な感想を述べた。
「それは、私達も思いました。でも、脚本書いた礼子が結末を変えなかったんですよ」
そう言ったのは棗だった。
リアナが現れた出入り口から現れたのだ。
「皆、お疲れ様!片付け終わったら夜打ち上げね!」
『はーい!』
棗が大きな声で言うと、色々な所から返事がした。
「あんた、本当人気ねぇ」
ゆるパーマの女性が腕を組んで言う。
「楽しい脚本じゃなくて悪かったわね、でも観客は満足してたでしょう?」
「まぁね、内容が暗い事以外は皆納得してるって」
「もう…」
二人の会話を唖然として聞く。
「あ、彼女が脚本の秋月礼子。彼女も友人です」
棗は思い出した様に紹介した。
「鴇音、来て!」棗は急に叫ぶ。
すると、鴇音は現れた。
「彼女が礼の長澤鴇音。で、私達4人がこの舞台のファーストメンバーです」
棗は言ったのだった。




