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恵まれた境遇

目を覚ますと水色の何かが目に入る。

「起きた?」

頭の上から僕に声がかかり、見上げるとフィリエルさんの顔がそこにあった。

「はい、ありがとうございます、すごくすっきりした気がします」

不安が無いわけではないけど、泣いてしまったことで気分は爽快になった。

「でもどうして僕に『泣いて』って言ったんですか?」

「最初に見たときどこか思いつめた表情をしてた気がしたの。レリックにここに来るまでの話を聞いて核心に変ったわ」

僕の疑問に微笑みながら応えるフィリエルさんはとても楽しそうに見えた。

「なんというか、私の小さかった頃の姿にリーラちゃんはよく似てるのよ」

僕も同じようなことを思ったかな……僕が成長したらフィリエルさんみたいになるのかなと。

そういえば僕を心配してくれる大きな理由って……

「フィリエルさんとレリックさんの関係って何でしょう?」

「夫婦ね」

ああ……なるほど、僕がフィリエルさんに似ていたから世話をやいてくれたのね。

なんとなく腑に落ちた気がした。


「よく年の差夫婦とか言われちゃうわ。私のほうが年上なのにね」

そういうフィリエルさんは苦笑している。

衝撃の事実を聞いた気がした。レリックさんよりフィリエルさんのほうが年上?

「どうみてもフィリエルさんのほうが年下に見えるんですけど……」

「エルフはとっても長生きなのよ。リーラちゃんも私ぐらいになったら成長が止まるわ」

僕に微笑みかけるようにエルフの特性?を説明する。

僕も一応エルフみたいだから長生きするのかな?

そんな考えをめぐらせる、ふと気付いてフィリエルさんを見てしまう。

僕の考えていることに気付いたように、

「そうね。レリックと同じように年をとることもできないし、私だけが後に残るわね」

それって悲しいことだよね……僕がこの世界に来る前に読んだ小説とかでは、自分だけ生き残って知り合いはもう亡くなったと嘆いていた描写が書かれていたものが複数あった。

「そんな顔しないの。子供もいるし一人ぼっちになることはないわよ」

僕の考えが読まれてるみたい、そんなに表情にでてるのかな。


「でも……レリックには散々言われたわね。『お互いの寿命が違いすぎる』って」

それでも一緒になったということは、納得してるからなのかな。

愛があれば種族も超えちゃうか……聞こえはいいけど現実は残酷かも。

僕もフィリエルさんと同じように恋を……って今はちょっと考えられないかな。

目の前にいる成長した見本?がいるので容易に想像できそうだけど……。


「いつかリーラちゃんにもわかるときがくるかもね」

僕に微笑みかけるフィリエルさんはすごく綺麗だったけど……。

わかりたいようなわかりたくないような、ちょっと前まで男として生きていた僕にとってはすごく複雑かな。

いつの間にか夕日が差し込んできてて、今日は眠ってばかりだったなぁと思い返す。


昨日は体力的と精神的に、今日は精神的にだけ疲れたかな。

差し込んできた赤い光を遮る様に目の上辺りを手のひらで覆うと、くぅ~……いつもお腹の虫は正直者みたい。

「ふふっ、夕食にしましょうか」

楽しそうに笑うフィリエルさんに対して僕は恥ずかしさで一杯になっていた。


3人で丸テーブルを囲んでの夕食、献立はパン真ん中に切れ目を入れてバターを塗ってレタスをは挟んだ物と刻まれた野菜を煮込んだスープ。

森を抜けても食べるものはそんなに変らないみたい。

「しかし……こうして並んでるのを見ると本当の親子みたいじゃのう」

パンを片手にレリックさんが楽しそうに言う。

「そうね、シェリーがここに居た頃を思い出すわね」

シェリーって誰だろう?レリックさんたちの子供なのかな?

勧められたパンを頬張りながらぼんやりと思う。

「ああ、シェリーはわしとフィリエルの娘のことじゃ。今は冒険者となって世界を放浪しておるよ。

時々ひょっこり帰ってくるんじゃが」

どんな人なんだろうか?こんな優しくしてくれる人たちの娘なら穏やかな人なのかなぁ。

「ひょっこり子連れで帰ってこないかちょっと心配してるわ」

フィリエルさんが苦笑交じりに僕を見ながら話す。


「僕がその子供です!」

話に乗って冗談を言ってみた。

……二人とも固まっちゃった……フィリエルさんに似てるってだけに信憑性が妙にあったのかな?

「……冗談ですごめんなさい」

すぐにでも土下座するような勢いで謝った。

「このおいぼれを脅かすでない」

「ちょっと信じちゃったわ……あの子ならありうると」

二人とも安堵し溜息混じりに言う……シェリーさんってどんな人なんだろう?

「冗談が言えるまでには気持ちは落ち着いてるのね。それはいいことなんだけど」

「冗談だと言われるまで内心焦ったぞ……」

そして、苦笑を禁じえなかったみたい。

「それで、リーラはこれからどうしたいんじゃ?」

「できれば、すぐにランドの村へ帰りたいです……僕の親となってくれると言ってくれた人たちを悲しませたくないかな」

レリックさんの言葉に応え、無理なことは分かってるけど、僕の希望を伝える。


ディンさん、ミーナさん多分悲しんでるだろうな……養女として迎えてくれた次の日に行方不明になっちゃったもんね。

「ふむ……それでは手紙を出すかの。費用はわしが立て替えてやろう」

「いいの?……でも」

レリックさんからすごく魅力的な提案に飛びつきたい気持ちで一杯になるけど……。

助けてもらった翌日にそこまで頼むのはやっぱり図々しい気がするし、何より返す当てのない借金をしていいはずが無い……。

「ふむ何か気になることでもあるかの?」

「えっと……お金を稼ぐ当てもないし、ここに置いてもらえるだけで十分だと思うから」

一息に言ってしまう。せっかくの好意だけどそこまで甘えちゃ駄目だよね。

いまこうして食事できるだけでもすごく恵まれた状況だと思う。


「ふ~む」

僕の言葉にレリックさんは考え込むようして首をひねると突然悪戯っぽい笑みを浮かべ、

「それじゃわしが勝手にアルゴに手紙を出すとしよう。内容はじゃな……」

レリックさんはフィリエルさんの耳元で小声で何かを伝えている。

「いいわねそれ、きっとアルゴさんがとんでくるわよ」

伝え終わるとフィリエルさんは楽しそうに笑う。

一体どんな内容なのだろうか……すごく気になる。

「これはわしが勝手に書くことじゃからの。リーラには内緒じゃな」

もし内容が見えたとしても……僕には読めないと思うし問題はないかも?

でも変な内容だったらどうしよう……僕が死に掛けてるからすぐ来いとか書かないよね……?

「心配そうな顔しないでも大丈夫よ、驚きはするかもしれないわね」

それでも僕の無事を伝えてもらえるなら……その好意に感謝しよう。

「ありがとうございます」

「お礼はアルゴが来てからじゃな」

ほっほと笑うレリックさん手紙の内容はアルゴさんが来た時に教えてもらおう。

気になることは何とかなりそうなのでそれまで何を手伝えばいいのだろうかと思案していると、

「焦らなくてもよいぞ、明日はフィリエルに村を案内してもらうんじゃな」

「そうね。少なくとも季節が変るぐらいはここに住むことになるし……村を覚えてもらったほうがよさそうね」

僕の明日の予定は決定したようです。


夕食も終わり、寝室へと付いていく。

去年までシェリーさんが使っていたベッドがあったらしいけど、使ってないので村の人へあげたそうだ。

というわけで僕はフィリエルさんと一緒に寝ることになった。

フィリエルさんと向かい合う形となって横になる。近くでみるとやっぱり綺麗だ。

視線をさげると布地を大きく押し上げているものが目に入る、自分のと比べてみると歴然の差だ。

僕も成長すると大きくなるのかなと思ったり……。

見て楽しむものが比較して嫉妬する物に変ってしまったことに心境はちょっと複雑かも、今の自分の体に慣れて来ているってことでもあるんだろうけど。


「心配しなくても、成長すれば大きくなるわよ」

僕の考えを見透かしたように、微笑みかけてくれるフィリエルさん。

まだ12歳ぐらいなんだから成長期なんだろうけど。

「リーラちゃんは本当に記憶がないの?」

「うん……でもどうして?」

急な質問に僕は俯いてしまう。騙してる訳ではないと思うけど……この世界でのこの体が誕生して成長するまでの記憶はなくて生まれ故郷も分からないし、ランド村で目覚めてからの記憶しかない。

「何というのかな、反応がちょっと見た目に相応じゃない気がするのよね。レリックも言ってたけど、目覚めた時に泣いたり取り乱したりしなかったらしいじゃない?」

確かに僕の転生前の年はこの体の年齢よりは上だったけど……。

女の子の年相応だとフィリエルさんの言うようになるのかな?

「それにね、私が最初に見たときに何かを我慢してる感じが、男の子が必死に我慢しているのと同じように見えたの。でもね泣きじゃくる姿は女の子そのものだからちょっと不思議な感じがしたのよ」

……つまり、僕の中で男であった部分と女の子になって馴染んでいる部分がでてきたってことなのかな?

見抜かれてるのかな……やっぱり年の功? レリックさんより長く生きてるみたいだし。


「そんな顔しないの、リーラちゃんが言いたくない事なら言わなくてものいいのよ」

フィリエルさんはそう言ってくれてるけど……これから何ヶ月か一緒に生活するうえで隠し事は出来ない……かな。

信じてもらえるかは別として意を決して話すことにした。

「信じてもらえるか分からないけど……話すね」

ミーナさん達に話したことをそのまま伝え、僕の前世が男性であったことも伝えた。

フィリエルさんはうんうんと僕の言うことに耳を傾け、口を挟むこともなく聞いてくれた。

話し終えると優しく僕の頭を撫で始める。

「フィリエルさん?」

見上げるようにしてフィリエルさんを見ると、僕に優しく微笑みかけていた。

「大変だったのね。右も左も分からない所に放り出されて、魔物に襲われて……」

「僕自身すごく幸運だったのかな? こうして生きていられるから……」

ミーナさんに拾われて、養女として迎えてもらって……これからってところで魔物に遭遇して……レリックさんに見つけられてここに居させてもらえる……。


「ここに行き着いたのはリーラちゃんが必死に子供達を逃がすためにケルスとやりあったからでしょう?生粋の女の子なら一緒になって逃げてると思うわよ?」

「あれは……僕が一緒に逃げてもあの子達より足が遅かったから……」

僕の言い訳に近い言葉を遮るようにフィリエルさんが続ける。

「でもね、あのままリーラちゃんが死んでしまってたら逃げられた子達も一生傷を負って生きることになるのよ?」

分かってたけど……あの時のはああするしかなかったと心の中で言い訳をする。

「うん……」

フィリエルさんは俯いて返事をする僕の髪を手櫛で梳いてくれる。

心地よさに沈む気持ちが少し和らいでいく。

「リーラちゃんを責めている訳じゃないの。ただ……仕方が無かったにしても自分を大切にして欲しいのよ」

「自分を大切に……?」

「そうよ、リーラちゃんはまだ20日も生きてないんでしょ? 折角もう一度生きるチャンスを貰ったのだからしっかり生きなさい」

呟くように言う僕にフィリエルさんは笑顔で応える。

「うん」

力強く頷くと「ここ居る間は出来ることでいいから手伝ってね、でも無理しちゃ駄目よ?」

念の為という感じに釘を刺される。無理をする機会はないと思うけど。

僕は再度頷き肯定の意を伝えるとフィリエルさんは思い出したかのように、

「そうそう、リーラちゃんが私の体を見てる目は男の子じゃなくて女の子そのものだったわよ?」

悪戯っぽく言われ、見透かされていた事に恥ずかしくなり、顔を真っ赤にして俯くしかなかった。

読了感謝です

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