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森の向こうで

目を覚ますと見覚えの無い丸太の並んだ天井が見えた。

地面で寝ていたはずなのに……と寝てしまう前の記憶を手繰り寄せる。

強く生きてくれ……夢の中でお父さんが言った言葉を思い出す。

多分僕は村に戻れてないんだね……戻れているなら自分の家にいるはずだしね……。

だれかが僕をここに連れてきてくれたんだ……。

連れて来てくれた誰かに心の中で感謝を述べる。

こうして生きている、生きていれば家へ帰ることは可能なはずだと自らの中で意気込む。

「っつ」

とりあえず体を起こそうとした途端、体の節々から痛みを感じる。

見た感じだと擦り傷があるぐらいで大きな傷は無いから筋肉痛かな?

「目が覚めたかの?」

視界に白髪の白髭をたっぷり蓄えたお爺さんが見える……視線を下げていくと半袖のシャツと黒いズボンに覆われた肉体は筋骨隆々だ。

この人が僕を運んでくれたのかな?

「助けて頂いてありがとうございます」

体を起こした状態でそのまま頭を軽く下げてお礼をいい、相手の出方を伺う。

善意で助けてくれたと決まったわけじゃない……かもしれないしね。

警戒したところで僕の力ではどう見てもかないそうにないけど。


「まぁ気持ちはわからんでもないが警戒するだけ無駄じゃよ、それにわしに害意はないぞ」

ほっほと笑い、

「それともそのほそっこい体でわしをねじ伏せれるかのう?」

ニヤっと意地の悪い微笑を僕に向ける。

「……無理です」

僕は肩を落として小さく呟く。

顔に出ていたのか思っていることが筒抜けみたい。

年はとってるように見えてはいても、僕なんて一発で仕留めれるだろう……。

「ふむ、正直でいいのう」

お爺さんは僕に微笑みかけ、

「おおそういえばまだ名乗ってなかったのう、わしはレリック、これでも一応鍛冶屋をしとる」

「僕はリーラと言いますランドの村に居ました」

お互いの自己紹介をする、レリックさんは鍛冶屋さんなのかぁ……。

あの引き締まった肉体になんとなく納得する。

「ふむ、レブの森の向こうから……どうしてあんなとこで寝てたのかのう?」

レリックさんは少し考え込むようにした後に、

「あそこに居た理由を教えてくれんかの、言いたくないならそれでもかまわんが」

最もな疑問を口にする。

普通に考えれば、僕みたいな少女が森の中で焚き火のして寝てるなんてありえないもんね。


「えっと……」

僕はあった出来事をポツリポツリと話し出す。

村の子供に誘われて湖まで行った事。

その帰りに魔物に遭遇し、一緒に居た子供達を先に返して、何とか魔物を追い返したこと。

帰り道が分からず野宿するために焚き火を起こしたものの睡魔に負けてしまったこと。

そして村へ帰りたいことを伝えた。

「よくまぁ……お前さん……リーラでいいかの?」

僕の名前に呼びなおしてくれる……僕を気遣ってくれてるのかな?

僕は頷き肯定の意を伝える。

「わしのほうはそうじゃのう……レリックでいいぞ」

「わかりました、レリックさん」

「ふむそれでだな、リーラよ、村に返してやりたいとは思うのじゃが、出会った魔物というのが問題でな」

レリックさんはあごひげをさすりながら、言葉を選ぶように続ける。

「ケルスが出現したのであれば、森は通れないのじゃよ」

「え……どうして?」

ということは僕は村へ戻れないのかな……?

この世界での通れないの意味を計りかねてしまう、それがただの人による危険防止の通行止めなのか、魔物による何かで通れなくなってしまうのか。

「あれは群れを作る習性を持っていてな、1匹見かけたら二十匹は遠くない場所に居ると思ったほうが良いと言われておる」

「ということは……僕が必死に追い払ったのた偶然一匹だっただけで……」

「うむ、運が良かったのう」

もし二匹以上だったら……と思うとゾッとした。

確実に僕は生きてないだろうし……リックとルックも先に逃がすことも出来なかっただろう。

「それにな、ケルスは牙に毒を持っていてな噛み付かれるとすぐに解毒しないと死に至るのじゃ、

2年ほど前にランドの村で一人犠牲になったとか聞いたのう」

僕ももし噛まれていたら……生きてはいなかった……。

もう一つの知らなかった情報を知り、二重に運がよかったことがわかった。

知らなかったことが逆によかったのかもしれない。

知っていれば逆に恐怖ににげていたのかも……。

魔物の恐ろしさを知ることで僕がここで生きていることが本当に恵まれていることが分かった。

ふと思い出した疑問をレリックさんに訊ねる。

「僕があそこに居たことにどうやって気付いたんです?」

「昨日ふと森のほうを見ると赤く光っておるのが見えたのでの、山火事になっても困るし、様子を見に行ったのじゃが……そこに着いて驚いた」

僕が寝てたのね……。


「リーラの思ってる通りじゃよ、ほっといて獣の餌食になっても寝覚め悪いからのここに背負ってきたわけじゃ」

それであんな夢を見たのかな……?

「ありがとうございました」

好意で助けてくれたことがわかり改めて御礼を言う。

「気まぐれじゃよ」

髭を触りながらほっほと笑うレリックさんに心の中で深く感謝した。

「改めて聞くのも野暮かもしれんがリーラはエルフかの?」

「多分そうです」

「ふむ多分とな?」

「気が着いたらランドの村の近くに居たんです、それ以前の記憶はなくって……」

ややこしくなるのでこの世界に来てからということは伏せておくことにした。

「確かにこの辺りでエルフの里があると聞いたことは無いからのう……そうすると『はぐれ』というわけでもないかの」

「『はぐれ』?」

どういう意味なんだろう?集落からはぐれたって意味なのかな?

「里を捨てて、好き勝手に渡り歩く者のことじゃな」

里がない僕の場合はどうなるんだろう?

「『はぐれ』だと何かまずいことがあるんですか?」

「基本同族からはいい顔をされないぐらいじゃな、場合によっては連れ戻しに来ることもあるらしいの」

つまり……現状特に問題はないってことかな?

里自体僕には多分ないからね。

「それよりも、リーラはこれからどうするのかの?」

色々浮かぶ疑問とレリックさんの質問がぐるぐると僕の頭の中で回る。


とりあえず同族?の問題は置いといて、

「お金も換金できるものもないし……どうしよう」

正直何が出来るかわからないし、誰を頼れるわけでもない。

レリックさんにすがるしかないけど……断られたらどうしよう……。

「ふむ、聞くまでもなさそうじゃが、ランドの村に戻る以外行くとこはないんじゃな?」

「はい……」

僕は俯くしかなかった、何一つお金になるようなものを持ってないからここを出ても何も出来ない。

物乞い……しても与えてもらえるほどどこも裕福じゃないよね。

どうしようどうしよう……と僕の心が悲しみに満ちていく。

「リーラがよければしばらくここに居るがよい、ただし出来ることは無理にでも手伝ってもらうぞ」

「え……いいんですか?」

思いがけない言葉に僕は聞き返してしまう。

「せっかく助けたのに、そこらで野垂れ死んでもらっても後味悪いからのう、

それにわしにも手伝って欲しいことがあるのでのう」

悪態をつくレリックさんの顔は優しそうに微笑んでいた。

「僕のこと簡単に信用しちゃっていいんですか?」

正直な感想を言ってしまってしまった……と思う。

言わなくても良いことを言ってしまった。

「悪知恵が回るやつはそんなことはいわん」

僕の頭がよくないような言い回しだけど、この際それは気にしないでおこう。


「それでは……お世話になります」

ペコリと頭を下げてお願いする。

「うむ」

レリックさんは鷹揚にうなずく。

「ところで」

僕は大事なことを聞き忘れていたことに気がつき、

「ここはどこですか?」

ポンと手を叩き思い出したかのように、

「そういえば言ってなかったのう」

僕の現状を詳しく教えてくれる。

レブの森に国境があり僕はいつの間にか超えてしまった。

森を通っての越境は許可を得ていない限りは基本禁止されている。

魔物が発生しているため通行禁止になっている、同じようにして戻ることは無理で

迂回してランドの村に戻るには越境のお金が必要であり、徒歩で八日程度かかる事。

ランドの村はリンド王国所属でここはローエル村の外れでホーン王国所属である事。

レリックさん曰く戻るにしてもエルフは珍しいので一人で行くことは特に危険である等々。

「まぁ、こんなとこじゃな」

把握した現状に項垂れてしまう。

村へもどる道のりは長そうだ、距離的にも金銭的にも。

電話みたいな通信機器なんてないと思うし……。

「せめて僕が生きてることを伝えれたらなぁ……」

「手紙ならば二十から三十日ほどで着くと思うがの、そこそこ値ははるがな」

僕一文無しだからそれもだめ……か。

「焦るのはわかるが生きていればなんとかなるもんじゃよ」

確かに生きてさえ居れば望みはあるいつかはあえるよね。

「それと、ほれリーラの物じゃろう?」

レリックさん手渡されたものは……アルゴさんから貰ったポーチだ。


「よかったぁ……」

僕は思わずポーチを抱きしめてしまう、今の僕の財産はこれと足元に置いてある靴だけだから……。

「大事に抱えて寝ておったからの、大切なものなんじゃろ?」

「はい、アルゴさんという職人さんに作ってもらったものです」

レリックさんの質問に僕は微笑むようにして応える。

「ほう、あのアルゴがのう……」

レリックさんはアルゴさんを知ってるのかな?

「あやつに気に入られてるんじゃな、その小物入れはいいものじゃぞ」

確かに毎日声をかけてくれたし気にはかけてくれてたと思うけど……。

「そうなんですか?」

そんなに気に入られてたのかなと首を傾げてしまう。

「うむ、それを見ればあやつが気合を入れて作ったのがわかるもんじゃ」

うんうん頷くようにレリックさんがしみじみ語る。

職人は職人を語る……かすごいなぁ……。


「そういえばまだ季節1つほど先じゃがアルゴが納品に来るはずじゃから、それまでここに居てつれて帰ってもらうといいかものう」

レリックさんが名案とばかりに帰る方法を提案する。

アルゴさんがここに来るなら……僕もつれて帰ってもらえるのかな?

でも旅の邪魔にならないかな……。

「まぁそう考え込む出ない、帰れそうな方法が一つでもあれば気の持ちようも変るじゃろ?」

確かにそうだけど……。

「どうしてそこまで僕のことを心配してくれるんですか?」

助けたとは言え……ここまで案じてくれるのは何故だろう?

「それはな……」

とレリックさんが言いかけると同時にドアが開く。

「レリック、連れて来た女の子は目を覚ましたの?」

声と同時に僕と同じ髪と瞳の色でとがった耳の水色のワンピースを着た二十代ぐらいに見えるエルフの女性が入ってきた。


「フィリエルかちょうどいいところに来たの」

綺麗な人だなぁ……と思いつつ髪と瞳の色が同じなので僕が大きくなったらあんな感じになるのかなとぼんやり考えていた。

「初めましてフィリエルよ、貴女のお名前は?」

「僕はリーラといいます」

笑顔で自己紹介をするフィリエルさんそのまま僕をじっと見つめる。

「レリック、リーラちゃんとはどんな話をしてたの?」

「現状の確認と認識じゃな」

レリックさんがフィリエルさんに僕と話してたことを伝えると……。

「そう……辛い目にあってきたのね……」

フィリエルさん悲しそうに僕を見ると、近づき僕を優しく抱きしめた。

「我慢しなくていいのよ、しっかり泣いておきなさい……」

フィリエルさんの言葉が僕の心の中に染み渡ると……、抑えていた気はなかったのに中からあふれ出すように感情が爆発した。

泣き叫ぶといった表現がいいのかな……涙は止まることを知らず声を上げて泣いた。

いつ以来だろうか……声を抑えずに泣いたのは……。

そんな幼子のように泣く僕をフィリエルさんは優しく背中を撫でてくれた。

温かい気持ちが少しずつ僕の乱れた感情をおさめていく……。

泣き疲れたのか急激な睡魔に襲われ僕の意識はそのまま途切れてしまった。

読了感謝です

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