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途上にて(後編)

翌日……。

昨日聞いていた通りの長い登り坂……というより小さな山かな。

一応、ある程度の物が運べるように広く整備されてるけど、所々にくぼみや突起があって邪魔になりそう。

緩やかな場所と急な場所が交互に続く感じで、疲れるのが早い。

一時間ぐらい経つと、歩くだけで結構きつくなって前に出す足も殆ど力を入れずに出す感じになっていた。

時々ある下り坂や平らな場所がすごく楽に感じられて、時折吹く微風の涼しさに助けられた気がした。

アルゴさんは僕よりもきつそうにしていて、車輪が突起や石に引っかる度に、ガーラントさんに押して貰っている状態。

大丈夫かな? っと少し見た時が歯を食いしばってる状態で……顔はすごく怖かった。


一つの山を登りきって少し下った所で休憩を取ることになり、

「少々きつそうだな?」

「うん……」

思わず近くの石に腰をかけてしまった僕に、シェリーさんが気遣ってくれる。

荷車を平らな場所に停めた後、すぐそばで腰を下ろして少ししんどそうに肩で息をしているアルゴさん。

頭のてっぺんから汗びっしょりになっているから、余計辛そうに見える。


「リーラ嬢とアルゴ殿はしっかり休んで頂きたいので、フィリエル殿とレリック殿で取ってきて頂けませんか?」

「そうね」

「その方が良さそうじゃな」

全員を軽く見回した後、ガーラントさんからの提案に二人は快諾して道を外れた方向へ歩いていった。


『ウィンドベル』

小さな鐘の音と共に穏やかな風が吹き、歩き通しで熱を持った体に当たるからすごく心地良い。

休憩場所の周辺に木が多いせいか風も時々しか通らないので、僕が補った感じにまるのかな?

「こりゃいい。 助かるぜ」

アルゴさんは天を突くように体を伸ばし、大きく息を吐く。

「レリック殿が戻られた時に渡す良い口実が出来ましたね」

「あれは、こんな時に飲むのが一番だしな」

楽しそうにこちらを見るガーラントさんとそれに頷くシェリーさん。

「その通りだ。 否定できねぇ」

二人へ苦笑いを返し、アルゴさんは荷台で何かを探し始める。

「レリックさんに何か渡すの?」

邪魔にならないように反対側から顔を覗かせて尋ねる。

「戻ってくればわかる。 楽しみに待ってな」

箱の中から瓶を取り出し、気持ちのよい笑顔で答えてくれた。

瓶は二リットルサイズのペットボトルぐらいの大きさで、中には薄い黄色の液体が入っていた。

レリックさんが取りに行った物とこの液体がどう結びつくかわからないけど、アルゴさんの口振りからこの液体を使って僕に何かを作ってくれるのかなって予想できた。

しばらくして、フィリエルさんと並んでレリックさんが小さな水瓶みたいな物を背負って戻ってきた。

「お疲れさまでした」

ガーラントさんがレリックさんに駆け寄って水瓶を受け取り、ねぎらいの言葉をかける。

木陰まで水瓶を持歩いて静かに降ろし、

「お願いします」

「準備は出来てるぜ」

ガーラントさんの言葉にアルゴさんが応えていた。


アルゴさんは杓で水瓶の中身をすくって、口に付けないように浮かせて流し込み、

「流石、フィリエルさんだな。 しっかり冷やしてある」

確認した後に木の器へ一つずつよそっていく。

そして、さっきの瓶のふたをあけて器へ加えて少し混ぜる。

どんな感じなのかなって、一つ手に取ってみる。

器の中は加えた液体の色がほんのり出ていて、小さな泡が少しずつ上ってきては弾けている。

どんな味がするのかな?って眺めているところで、

「っと、リーラちゃんのはこっちだ」

アルゴさんに言われて交換した器の中は少しだけ色が違うように見える。

「飲んでみて、きっと気に入るはずよ」

微笑むフィリエルさんに勧められて一口。

口の中にほんのり甘く、弾けるような刺激がはじる。

これって……考えるよりも先に、コクコク飲み干して小さく息を吐く。

炭酸飲料……前世で味わった物より、刺激も甘さも少ないけど冷たくてすごく美味しかった。

「器を出しな。 まだ飲みたいって顔してるぜ」

嬉しそうな表情のアルゴさんによって、余韻にひたるより早く次の一杯が用意される。


「顔には気に入ったと書いてあるが、ちとせかし過ぎじゃな」

レリックさんの指摘に僕は苦笑い。

確かに美味しいと思ったし、もっと飲みたいって思ったけど……そんなに顔にでてたのかな。


二杯目の器の中を眺めながらふっと思い出し、

「レリックさんの言ってた子供でも飲めるお酒って」

「うむ、それの事じゃな」

口にした言葉にレリックさんが頷く。

「この近くで汲めるあわ水と合わせて飲むのが、ここを通る時の楽しみだからな」

「ここを通る人は大体汲んで行きます。 少し寄り道になりますが、多少の疲労回復と何より爽快感が良いんです」

シェリーさんはぐい~っと飲み干して腕で口元を拭い、ガーラントさんは味わうようにゆっくり飲み干していた。

二人の説明を聞きながら……なんというのかな飲み方が反対なら収まりの良い夫婦? に見えるんじゃないかと思ってしまい、妙におかしかった。


二杯目をゆっくり味わいながら飲んでいる所に、

「これなら酔いませんのでリーラ嬢も安心して飲めますね」

「私は時々飲ませてみたいと思うがな」

気遣うガーラントさんに頷こうとした矢先、シェリーさんの冗談に聞こえない一言にむせてしまう。

「リーラちゃんが飲みたいと言うなら止めないけど……大人になるまでは控えて欲しいかな」

せき込む僕を思案顔で見つめるフィリエルさん。

「二回とも自分の意思で飲んだわけではないからのう。 気持ちはわからんでもないが、リーラが自分から希望するまでは飲ますでないぞ」

最後を締めくくるようにレリックさんが苦笑いで注意を促す。

「ガーラントさん以外、皆してリーラちゃんに酒を飲むことを望んでるように聞こえるぜ……」

言葉だけだと呆れたように聞こえるけど、何か真顔で悩んでるように見えるアルゴさん。

お酒を飲んだ後の記憶は思い出したくないのに……。

「もう、皆して!」

「その元気があるならまだ頑張れそうじゃな」

怒って声を上げる僕を見ながらレリックさんはニヤリ。

「私見ですが、酔ったリーラ嬢はいつも以上に素直に言葉や行動が現れます。 それが普段ある壁を無くしてるといいますか、より親近感が湧くので……時々はそんな風に振る舞って貰いたいのだと思います」

ガーラントさんに宥められ、そんな理由があるのならって残りを一気に飲み干すことで怒りを静めることにした。


「もう一杯分あるがどうする?」

「お願いします」

いつもの表情に戻ったアルゴさんの質問に、器を差し出す。

おかわりを入れて貰う動作の中で、手の平に収まる小さな瓶を取り出して、器へ注がれる液体はとろみがあるように見えた。

「リーラちゃんの分だけ特別なのよ」

肩にてを置かれる感覚に見上げると、にっこり微笑むフィリエルさんが居た。

「フィリエルさん……」

アルゴさんは何か言いたげに視線を送る。

「いいじゃない。 リーラちゃんを想って良いのを買ってきたんでしょ?」

「参ったな……」

フィリエルさんに図星を突かれたのか、アルゴさんは手の平を後ろ頭にあてて苦笑い。

小瓶を見た所で、何となく混ぜていた物が違うのは分かっていたけど、僕のだけ良い物を入れてるとは思ってなかった。

「僕の分だけどうして特別だったの?」

僕の質問にアルゴさんは思案顔になってしまい、

「それはだな……リーラちゃんは一番体力のないからな。 良い物を準備しておいたんだ」

少し時間をかけて答えを返してくれた。

誤魔化された感じはするけど、僕が一番体力が無くて足手まといになっているのは確かなので、器をのぞき込むように俯いた。

でも……フィリエルさんが言ったように僕を気遣って特別に準備してくれたのは間違いないんだから、落ち込んでちゃ駄目だよね。

心配をかける前に、沈みそうになる気持ちを追い出す為に首を横に振る。

「これを飲んで頑張って歩ききるね」

「おう、俺も今日は余裕がないからな。 その言葉は助かるぜ」

アルゴさんに笑顔で伝えると、腕を上げて笑顔を返してくれた。

そうだよね……歩き慣れてないのを承知の上で連れて行ってくれるんだから、僕なりに頑張って行くしかないもんね。

心の中で意気込んで器を口にした。


三杯目をゆっくり味わって飲んだ後、アルゴさんにこの飲み物の事を聞いてみた。

この近くに泡を含んだ水が沸く場所があって、この周辺にだけ自生しているある木の樹液を混ぜて飲むと疲労を取る効果が望める為、知ってる人はほぼ立ち寄るらしい。

ちなみに村に置いてない理由は、少量ならともかく大量に運ぶ場合、近くの村へ着くまでにあわがなくなっちゃうから意味がないんだって。

アルゴさんが引く荷車で想像したら、あわがなくなるのが簡単に予想できた。


翌日……。

昨日はなんとか歩ききったけど、今日は大人しく荷車の上。

あれからも長い上り坂や下り坂が続いたおかげで筋肉痛に……。

歩いて歩けなくはないけど、その度に小さな痛みが走るので明日の為に今日は休ませて貰うことになった。


通り抜ける微風と穏やかな日差しにプラスして道が良いかな? 程良い振動が伝わってくる。

「話相手になって欲しいところだが、昨日の疲れが取れてないんだろ? ゆっくり眠ってな」

「うん……」

目を細めるアルゴさんの勧めに、心地よさにうとうとしてたのもあって、すぐに意識を手放してしまった。


「お姉ちゃん美味しいね」

「うん、美味しいね」

笑顔の少女に釣られるように僕も微笑む。

僕と少女の前には深いグラスがあり、中にはストローと肌色より少し白っぽい液体が入っている。

少女はすごく美味しそうにストローをすすっていて、

「変わって無いなぁ……この味」

僕も少しすすって、胸の中で暖かい物を感じ取る。

「はて……リーラさんはここに来たことがあったかね」

男性の言葉の内容にハッとした感じに目を覚ますと同時に起きあがってしまった。

急な場面の切り替わりみたいな錯覚って言うのかな? 朱色の空が目に入ってきて目をぱちくりしてしまう。

「あれ……?」

改めて周囲を見回して首を傾げてしまう。

荷車で気持ちよくなって眠っていたのに、少女と一緒にジュースを飲んでて、日が沈みかけてる?


「疲れがたまってたみたいね。 荷車から降ろすときも起きなかったのよ」

軽い混乱を起こしているとこへ微笑むフィリエルさんに見つめられ、

「そっか……ずっと寝てたんだね」

ずっと眠ってたのを教えられて夢を見ていた事がわかり、混乱は収まっていった。

「ええ……でも、気持ちよさそうに眠ってたのに、勢いよく起きあがったわね? 夢の中で驚くような事でもあったの?」

何だか腑に落ちないといった感じなフィリエルさんの質問に、

「正直、僕もよくわからないんだけど……」

そう前置きして、夢の中の内容を簡単に話した。

「確かに、驚くような質問でもないわね?」

フィリエルさんは首を傾げかけて、

「『リーラさん』と呼ばれていたのなら、この前見たって前世の世界の夢の人物もリーラちゃん本人と言えるのかもしれないわ」

ハッと気づいたように表情を変え、少し興奮気味に素早く言葉を並べる。

フィリエルさんの言うとおり前回の夢の時は確証を持てなかったけど、指摘されて目が覚めるような思いだった。

……でも。

「夢は夢だから……」

思ったことが口に出してしまい、思わず両手で口を押さえる。

正直、ここに居ることも夢みたいな物で、そこからこの姿のまま前世の世界に行くというのが現実とは思いにくい。

「そうね。 希に未来を見ることあるけど、ほとんどは覚えてなかったり、よくわからない物も多いわね……でもね、それがリーラちゃんにとって良い方に向かうなら、覚えてても良いんじゃないかな」

困ったように笑いながら僕を軽く抱きしめ、

「本音を言ってしまうけど、その夢は夢であって欲しいと思うわ」

「えっ……?」

思わず聞き返してしまうような言葉に目を丸くしてしまう。

「現実になってしまったら、お別れになるでしょ?」

抱きしめられる力が強くなり、フィリエルさんの気持ちを理解する。

会ってから半年も経たないのに、これだけ想ってもらえる事に胸が一杯になる。

帰れるかな? ぐらいで深く考えてなかったけど……それが現実になるってことは、つまり別れになるんだね。

改めて現実になった時にどうなるかを理解し、現実的じゃないのもあるけど、行けるならすぐにでも行きたいという気持ちがそれほど強くないのも

認識できた。


「それでもリーラちゃんが望むなら、私に出来ることは全力で手伝うわ」

続いて降りてきた言葉に俯きかけていた顔を上げると、フィリエルさんは目を細めて優しく微笑んでいた。

「うん……ありがとう」

それでも僕の為ならと言ってもらえる現状に胸が熱くなり、体を預けることでそれに応えた。

読了感謝です。

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