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伝わった想い<フィリエル視点>

※フィリエル視点のお話になります

「うん……信じられないかもしれないけど……」

リーラちゃんは自信なさそうに紙を下げる。

昨夜、『シェリー』の話をしたばかりなのに……。

リーラちゃんが『シェリー』に再び会った事に驚いている所へ、

「ふむ……こう言っておるがシウス、シエルはどう思うかの?」

レリックが説明の感想を二人に求めた。

「レリック!?」

まるで信じてないような言い方に思わず声をあげてしまう。

私達が力になってあげないといけないのに……。


「リーラが悪戯でわしらを困らせようとするはずが無いのはわかっておる。 じゃがな、『シェリー』に関する事ではわしらよりも二人の方が繋がりが深い。 手紙の内容がどんなものであれ、信じて貰うようにせねばならん」

私を真っ直ぐ見て自分の考えを話す。

口振りは真剣なものだけど口元は小さく笑っていて、私に向けて『大丈夫』と言っているように感じられた。

「……そうね」

驚いたけど……しっかり考えた上での発言であった事に胸をなで下ろす。

冷静に考えてみれば、レリックがリーラちゃんを疑うはずないものね。


「姉からの手紙と言われても……正直信じられないな」

「結論は聞いてからにしましょう。 頭ごなしに否定しても仕方ないでしょ」

話を聞くのを放棄しようとするシウスさんへシエルさんが待ったをかける。

シウスさんがそう言うのも仕方ない……かな。

『シェリー』が亡くなってから長い年月を経た今になって、手紙が届いたなんて言われても納得し難いと思う。

レリックの言った通り、私達はリーラちゃんが悪戯で手紙を書いたりするはずがないのは数ヶ月一緒に暮らしていたのでよくわかる。


「そうだな……おかしな内容なら、この部屋の掃除と姉さんの墓の草むしりを一人でやって貰うとしよう」

シウスさんがこちらを見ながらシエルさんの求めに応じたのは……もしかしたら、私が手紙を書くように仕向けたと思ってるのかな。

昨日話した内容から書けるかもしれないけど、そうだとしたら書く前に私へ相談すると思うし……何より、夜中に手紙を書く行動が不可解すぎる。

『シェリー』が案内してお願いしたのなら、現実味はないけど内容は別として紙を用意出来たのは頷ける。

シウスさんの罰則の説明にリーラちゃんは安心したように緩める。

手紙の内容に自信があるのかな……それとも失敗しても罰自体が自分で何とか出来るって判断した?

気が付けば『シェリー』の手紙の内容より、リーラちゃんが何を考えているのかへ焦点が移っていた。


「『シェリー』からの手紙を読み上げてくれるかの?」

レリックの言葉を待っていたようにリーラちゃんは頷いて手紙に目を落とし、いつもよりきつめの表情に変えて読み始めた。


シウスさんへ宛てられた内容は、自分の急死への謝罪。

私達と和解に感謝、シエルさんとの結婚への祝福だった。

自分がその場に居られなかったのを謝っているけど……『シェリー』の気持ちを考えるだけで胸を締め付けられるようだった。

シウスさんは何か言いたげにリーラちゃんへ視線を送っているみたいだけど、手紙を読むのに専念しているのか気付く様子はないみたい。


続いてシエルさんには感謝の言葉が並べられて、これからもシウスさんを支えて欲しいというお願い。

心に届いたのかな、シエルさんは手の平で口元を覆い、皆に背を向けるようにシウスさんの胸にすがった。

シエルさんの行動に、シウスさんは困惑しながらも包み込むように抱きとめる。


おそらく、後は私とレリックに宛てての手紙が読み上げられるのだろうけど……『シェリー』は私へ何を伝えたかったのかな。

深く考え込みそうになった所で急に抱き寄せられ、

「親しかったんじゃろう? 『シェリー』を信じておれば良い」

私の胸の内を見透かしたように声をかけてくれた。

「うん……」

返事をしながらシエルさんと同じ様にすがりつくと同時に、レリックへ宛てられた内容が読み上げられる。

レリックへの実らなかった想いの告白と気遣いへの感謝。

私が居なかったら『シェリー』は幸せに生きられたのかな?

そんな考えが頭の中を過ぎった直後に、私へ宛てられた手紙が読み始められる。


あの時の夢は本物で、庇った事は後悔はあるけど満足はしている。

そして私が幸せになるのが一番の望み……。

私へ宛てられた内容が何度も心の中を駆け巡り、強く胸を締め付けられる感じにレリックへすがる両腕に力が入る。

……もしかしたら、私の心がこうであって欲しいって想いが見せたものじゃないかって思ってた。

私のミスから招いてしまったから恨まれているかもって思い詰めた時もあった……。

それなのに……私の幸せが一番の望みだという『シェリー』からの伝言に申し訳ない気持ちと感謝の想いで一杯になって、嗚咽をあげる私をレリックは何も言わず優しく抱きしめる。

「ありがとう。 もう大丈夫よ」

どれぐらい時間がたったのかわからないけど……落ち着きを取り戻してレリックへ微笑みかけると眩しそうに目を細めて私へ微笑み返しながら抱擁を解いてくれた。


リーラちゃんにお礼を言いたくて振り返った先には、こちらを穏やかな表情で眺めているシウスさんとシエルさんしか居なかった。

「シェリーが気を聞かせてリーラを連れて行ったんじゃよ」

私の視線から察してレリックが答え、

「して、シウスよ。 リーラへの罰はどうするんじゃ?」

続けてシウスさんへ問いかける。

聞こえる声からレリックが意地の悪い笑顔を浮かべているのが手に取るようにわかる。


「意地悪はしないでほしいな。 私の顔をみればわかるだろう」

苦笑しきりのシウスさんだけど、リーラちゃんが手紙を読む前に見せた固い表情はどこにもない。

「二人減ったが……大掃除は手伝って貰うからな」

そっぽを向いて紙を拾い始めるシウスさんに、私とシエルさんはくすりと小さな笑いを漏らして後に続いた。

机の上に点々と散らばるインクのシミを水分を含ませた布で少しずつ汚れを落としていく。

ここでどんな会話を交わしたのかな。

手紙以外にどんな事を話したのか想像を膨らませていくうちに、手を止めて小さな溜息を吐いていた。

もう一度『シェリー』と話せれたらいいのになぁ。

そんな考えが頭を過ぎると同時に顔をしかめるレリックが思い浮かんだ。

そうね……今でも十分幸せなのにそんな事を望んだら罰が当たるわね。

苦笑いになりながら作業に戻った。


「この後お義姉さんのお墓へ行きませんか?」

掃除も終わりかけた頃に、シエルさんから呼びかけられる。

「ええ」

「そうじゃな」

「そうだな」

同じ事を考えていたのかな、即座に返事が返ってきた。

ここを離れる時に立ち寄っていこうと思っていたから、渡りに船とばかりに返事をしていた。


「これで十分だな」

綺麗に片付いた部屋を見渡してシウスさんが満足そうに頷く。

「一人で散らかしたにしてはちと時間を要したのう」

それに続くようにレリックが苦笑混じりに肩をすくめる。

そう言うのも、散らかった紙からインクが床に染み出していて、拾い上げて終わりというわけにはいかなかったからだ。

「そうね……でも私達に出来ない事をして貰ったのだから」

「お義姉さんへの報告も兼ねて掃除もしましょう」

区切ったところで続きをシエルさんに先取りされてしまった。


全部言えなかったのが残念だったのかな?

「いつぞやの朝に寝坊してきたリーラにそっくりじゃった」

お墓への移動中レリックに楽しそうに言われ、

「そうやって笑える……わしは幸せなんじゃろうな」

口を尖らせようとする私だけに聞こえるよう、感慨深く呟いた。

「うん……私も幸せよ」

体を預けるようにレリックの腕を抱く。

茶化した後にそんな事をいうのはちょっとずるい……私がこう行動を取るのをわかってるんだから。

それを裏付けるように、私の腰の辺りに腕を回し、寄り添いながら『シェリー』の眠る場所へ向かう。


最期まで私を想ってくれてたのね……ありがとう、そしてごめんなさい。

ここに来る度に同じ事を思っていたけど。今日は……ううん、今日から変わるの。

ありがとう……貴女のおかげで私は幸せよ。

『シェリー』の望みに添えるよう努力をするのが私に出来る事なのかな。

墓標を前にして、私へ宛てられた内容が頭の中を駆け巡って行くうちに視界が歪んで、さっき流しきったと思っていた感情の塊が目頭からこぼれていった。

「ずっと悩んでおったのじゃろう?」

心を優しく撫でるような言葉に、気が付けばレリック胸にすがって服を湿らせていた。

落ち着いた所で振り返ってみると微笑む二人の視線が私へ注がれていて、恥ずかしさに似た感情が押し寄せてくる。

それを誤魔化すようにそっぽを向いて屈んで草をむしり始めた。

……さっきのシウスさんを笑えないわね。

ほとんど同じ行動を取っている自分に苦笑を禁じ得なかった。


草むしりをしながら墓標を前にして……皆、何を思ったのかな?

きっと楽しいこと、悲しいことを思い出しながら『シェリー』の言葉を噛みしめていたのかな。

そんな事を考えている内に掃除を終え、綺麗になった墓標周りに満足しながらふっと思いつく。

帰途につく中でシエルさんに使える食材を尋ね、答えの中から数種類使ってリーラちゃんに作ってあげたい事を伝えると快諾してくれた。


リーラちゃんの美味しそうに頬張る光景を想像しながら、小さく意気込んでドアを開けると中は静まりかえっていた。

二人で外にでちゃったのかな? 首を傾げながら材料の確認を始め、その中で置いていたパンが無くなっているのに気付く。

シェリーが気を利かせてリーラちゃんに出してくれたのね。

深夜から起きて何も食べてなかったみたいだから、結構お腹を空かせてたはず……しっかり食べてくれたかな。

夕食の下準備を進めながら、朝食を食べられなかったリーラちゃんの事を考えていた。


テーブルで向かいあって話し込んでいる二人に軽く摘める物を出した際に、

「リーラとシェリーは寝室におったぞ」

私を見るなり、小さく微笑んで一言。

「ありがとう。 行ってみるわね」

次に取る行動を読んでるかのような言葉に、心の中で感嘆しつつ笑顔を返して部屋を後にする。

本当……私の事をよくわかってる。

寝室へ向かいながら小さく息を吐き、レリックが伴侶で本当によかったとしみじみ思った。


寝室にいるって事は……夜通し起きていたリーラちゃんは夢の中かもしれない。

足音を殺しながら近づいてドアに手をかける。

カチャリ……小さな音を立ててドアを引いた先には、予想通りに仰向けになって心地よさそうに眠っているリーラちゃんとその隣で自分の右腕を枕にして横になって寝息を立てているシェリー。

多分リーラちゃんが気持ちよさそうに眠っているのを見るうちにつられて寝ちゃったのね。

シェリーが小さな頃に私も同じように寝てしまったことが何度かあったので、懐かしさも手伝って思わずくすりと笑みがこぼれてしまう。

そしてシェリーのおでこに人差し指でコツリ。

「はは……うえ?」

「起きているつもりだったんでしょ?」

朧気に瞼を開くシェリーの耳元で囁く。

効果覿面といっていいぐらいにシェリーの目が大きく開かれ、何か言いたそうに私を見ている。

「私も同じだったからわかるのよ」

ベッドの隅に腰掛けてシェリーヘ微笑みかける。

「そ、そうなのか?」

シェリーは小さく驚きの声をあげるけど、どこかホッとしたように息を吐く。

その時は私が釣られて眠ってしまうのだから、シェリーが知らなく当然よね。

「それで、その時の私は……」

食いつくように尋ねるシェリーに当時の状況を思い出しながら話す。

つい半年ほど前まではこんな会話を交わすとは思ってなかっただけに、少し戸惑うけど新鮮に感じられる。

ガーラントさんと一緒になったから子供を欲しくなったのかな?

時折リーラちゃんへ移る視線からそう感じられた。

「孫を見る日は早く来そうね」

「は、母上」

冗談混じりの私の一言にうっすらと顔を赤くするシェリー。

今までこういったやりとりには関心というか機会がなかったからやっぱり初心ね。

ガーラントさんもこの手の事には奥手だと思うから、孫を見るには数年かかるのを覚悟しておいた方が良さそう。

心の中で苦笑しつつ天井を見上げて思いを馳せる。

期待以上の幸せになるから、これからの私を見ていてね。 

読了感謝です!

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