その名はシェリー(中編)<フィリエル視点>
※フィリエル視点のお話になります
シェリーの名前の由来を聞いた途端に、目を丸くしたリーラちゃんの手からスプーンが滑り落ちて音を立てる。
音に反応するように全員の視線が集中し、
「「リーラ(ちゃん)?」」
私とシェリーが同時に驚きの声を上げる。
声が届いたのかリーラちゃんはハッと気が付いたように慌ててスプーンを拾い、
「ご、ごめんなさい。ちょっと疲れてるのかも」
苦笑いで思いついたように落とした理由を説明する。
「そうか、荷車から降りたと時もそのまま立てずに手を付いていたしな」
シェリーは納得したように頷く。
「そんな事があったのね」
自分の知らない事を知って相槌を打ちながら納得しかけたけど、何か腑に落ちなかった。
疲れているのは本当だろうけど、スプーンを落としたタイミングとその時の表情が少し不自然に感じられた。
「初めての旅じゃからのう、疲れてしまうのは仕方ないかもしれん」
レリックはシェリーの話に同意しながら、
「食事が済んだらフィリエルと一緒に休むのがいいじゃろう」
ちらりと私を見て休む事を勧める。
二人っきりになれば理由を聞きだしやすいと思ったのかな? レリックの勧め方と私へ向けた視線からそう読みとった。
「いつ来ても良いように準備はしてあるからゆっくり休んでね」
レリックの提案にシエルさんがリーラちゃんに微笑みかけながら同意する。
「ありがとう。 先に休ませて貰うわね」
いつものように好意に甘えることを伝えてリーラちゃんを見れば、深く追求されない事に安心したのかホッとしたように息を吐いていて、それから後はいつも通り美味しそうにパンを頬張っていた。
食事を終えて寝室へ行く途中、リーラちゃんは何か言いたそうに私の顔をちらちら見ていた。
私に相談したい事があるのかな? 確証は得られないけどリーラちゃんの態度からそう感じられた。
寝室のベッドに腰を下ろし、自分の隣を音が立たないくらいの強さで叩く。
リーラちゃんは私の意図を理解して隣に座ってくれた。
「ここに来る間、私の顔をちらちら見てたわね?」
私の問いにリーラちゃんは少しの間、目を見開き小さく頷いてくれた。
出来るだけ話しやすくする為に覆うように優しく抱きしめる。
入れ替わった時に『自分』から抱きしめられた経験でわかるんだけど……こうする事ですごく安らぐのよね。
その証拠というわけではないけど、リーラちゃんの表情がすごく穏やかなものに変わっていく。
「スプーンを落とした時、何か思い出したの? 私から見た感じだけど疲れから落としたようには見えなかったわ」
私の言葉にリーラちゃんは驚いたように見上げ、
「えっと……思い出した訳じゃないんだけど……」
少し間を置いて話し始めた。
シェリーと『シェリー』の墓へ行った時に見かけた女性の事。
シェリーは女性の横を素通りして、気になって振り返った時には誰も居なかった。
「家族の人なのかなって思って見てたら、シェリーさんに絵の人物だと言われて……」
『シェリー』を見たという言葉に衝撃を受けている所に、ふっとリーラちゃんから不安の入り交じった視線が送られていることに気付く。
『シェリー』の事について深く考え込みそうな衝動を抑え込んで、
「大丈夫、リーラちゃんが嘘を吐いてるなんて思ってないわ」
リーラちゃんの不安を取り除くために微笑みかけながら少し強く抱きしめる。
正直信じられないような話かもしれない……だけど不思議な力を持っているリーラちゃんならばありうる話に思えてくるし、何より『シェリー』に関することで私に嘘を吐く理由はないものね。
夢の中で亡くなった人と話した出来事を聞いたことを思い出し、もしかしたらリーラちゃんは『シェリー』と意志疎通をする事が出来るかもしれない。
「私と『シェリー』がどんな関係だったか知りたい?」
問いかけにリーラちゃんは少し驚いたように私を見つめ、ゆっくり頷いた。
次に『シェリー』に会う事が出来たら私の想いを伝えてくれるかもしれない。
そんな淡い期待をこめて少し遠い過去の出来事を思い出しながら話し始めた。
そう、あれは私がレリックに助けられた事件から二年ぐらい経った頃の事……その頃のレリックと私はお互いに好意は持っていたけど、レリックは種族の違いを、私は男性であった過去を気にして先に進めない関係が続いていた。
そんなある日、私の部屋へドルゴさんが女性を連れて戻ってきた。
彼女の名前はシェリー、私の時と同じように一人で居た所に声をかけたみたい。
「アルルさんにはお願いしてみたんだが……宿の世話で手一杯だそうだ」
ドルゴさんは大袈裟に肩をすくめるけど口元は笑っている。
「えっと……それってつまり……?」
何となく嫌な予感を感じながら言葉を詰まらせる。
「フィリエルちゃんに世話というか面倒を見て欲しい……というのもアルルさんの勧めなんだ」
「ええ!」
言葉に驚きの声を上げた後に不安そうな表情をするシェリーさんを見て慌てて口を両手で覆う。
多分……同じ女性同士だから私に任せようと思ったのだろうけど……。
里を出て以来、アルルさん以外の女性と接する事がほとんどなくて、男性として生きた時の方が長い私にしっかり相手ができるのかな?
正直不安で一杯だけど……。
「私もここに来てからそんなに長くないの。 わからない事も多いと思うけど……それでもいいかな?」
「は、はい。 宜しくお願いします」
シェリーさんに微笑みかけると少しだけ緊張が解けたように見えた。
ドルゴさんとアルルさんの思惑にはまっちゃった気もするけど付き合う事で新たに知る事も多いはず……出来るだけ力になってあげなきゃね。
それから数ヶ月、近場の案内や一緒にアルルさんのお手伝いをしているうちに、私とシェリーは頻繁に二人で行動する親しい友人と呼べるような関係になっていた。
私が里をでた理由は変わっていると思っていたけど、シェリーが旅をしている経緯をも結構なものであった。
裕福な家で生まれて跡継ぎになる弟も居た事から自由に育った為、幼少の頃に読んだ絵本の影響を受けて自分の王子様(?)を探す為らしい。
私と比べてもシェリーの方が変わっていると思うけど、宿の皆から言わせればどっちもどっちだと言われて少し落ち込んだ。
世間の事はあまり詳しくなくても冒険者になる為の訓練はしっかりしていたらしく、レリックの良い練習相手になっていた。
二十日程前から二人がが稽古をつけているのを見ていると、今までに感じたことのない例え難い不快感を感じるようになり、二人が居る時に居合わせないように避けるようになった。
レリックにそれを見咎められたけど……心の中からわき上がってくるもやもやしたものが何かわからなくて俯いて黙り込むしかなかった。
心配してくれてる事はすごく嬉しかったけど、自分の気持ちをうまく話せる自信が無くて伝えられないまま少しぎくしゃくした関係が続いたある日、
「私、レリックさんの事が好きです」
思い詰めた表情のシェリーから突然の告白に、強い衝撃を受けて頭の中は真っ白になった。
「でも……レリックさんは私の事をそんな対象としてみていません。見て貰えないのは辛いけど……それ以上に今の二人を見ている方が辛いんです。 私は二人共大好きだから……だから二人でしっかりお話しして下さい」
シェリーはしゅんとなっていき、話し終えた時には俯いていた。
「シェリー……」
思っても見なかった言葉と感情をぶつけられて、
「ごめんね……ありがとう」
シェリーを力一杯抱きしめながら、自分を想ってくれる嬉しさとシェリーが苦しんでいる事に気付けなかった申し訳なさで一杯だった。
私の抱擁に応じるようにギュっと抱きしめ返してくれ、シェリーが落ち着いたのを見計らって、
「しっかり話してくるわ。 でもレリックの事を諦めないで欲しいの」
優しく語りかける。
今の状況が自分にとってすごく良い事はわかってるけど、私を大好きだと言ってくれたシェリーに諦めて欲しくない。
このせいでレリックがシェリーを選んでしまってもそれはそれであきらめが付くと思うし、なにより私だって二人を大切な人だと思っているのだから。
私の返答が自分の思っているものと大きく違っていたのかな、驚いたような表情を浮かべた後にゆっくり頷いてくれた。
その後、善は急げとレリックの所へ二人で押し掛けて気持ちを伝えると目を丸くして、
「今は二人の気持ちに答えることは出来ない。 俺が一人前になった時に答えを出すから待って欲しい」
翌日聞かされた答えがそれだった。
まだ自分には早いって言ってるけど、レリックなりに私達を気遣った答えなのかな?
翌日以降、シェリーとレリックの稽古を見ることが心地良いものに変わっていて、休憩用の差し入れを作る事がちょっとした日課になった。
……それから二ヶ月程経ったある日、シェリーから山賊討伐の依頼を受けたいと申し出があった。
理由を聞くと、山賊が出没する地域の付近にシェリーの故郷があるらしく、家族に害が及ぶ前に退治したいとの事。
ドルゴさんを交えて相談した結果。
「詳しく聞いてきたんだが、山賊を見限った案内人いるらしいな。 不意をつけるなら悪い依頼じゃないと思うぜ」
「依頼を受けても問題なさそうだな」
ドルゴさんの意見にレリックが同意し、私も頷くことで同意を示した。
皆の同意を得られたので、それまで硬い表情で様子を伺っていたシェリーはホッとしたように大きく息を吐いて、
「よかった……ありがとう」
小さな笑みを浮かべた。
二十日後……私達は山賊のアジトのある森へ足を踏み入れていた。
案内人を先頭に討伐への参加者が続く。
私達四人と他六人の総勢十人。
案内人からの情報では十~十五人ぐらいで不意をつけるので十人で十分らしい。
情報源は全て案内人のものだけど、被害調査で調べた限りでは規模はほぼ間違いないらしい。
案内人は山賊をやめたいらしく、情報を提供するにあたって自分の罪を問わない事を交換条件として出したことから信用出来ると判断したみたい。
案内人を先頭に森の奥へ……奥へと進む。
その中で案内人の足取りが軽い事が気になった。
よく知っている森であるから速く進めるのはわかるけど、なんだろう? 見回りとかの予定がわかってるにしても警戒感が無さ過ぎる気がする。
杞憂かもしれないけどと前置きして案内人に関して感じたことをドルゴさんに伝えると、
「成る程な……用心するにこした事はねぇからな。 もし裏切り行為が嘘なら不意を突かれるのはこっちだ」
表情を引き締めて私の考えに同意してくれたので胸をなで下ろした。
「杞憂であったらそれはそれで問題ないしな」
ホッした私に気持ちの良い笑顔を向けてくれた。
ドルゴさんと軽い打ち合わせをして、進みながらレリックとシェリーへそれを伝え終えたその時、
「もうすぐなので、少し様子を見てきます。 俺が戻ってくるまでしばらくここで待っていて下さい」
案内人がそう言い残して駆け足気味に進行方向にある腰の高さぐらいの岩を通り過ぎた時、辺りの背の高い茂みがガサリと音を立てた。
「フィリエルちゃん!」
ドルゴさんの呼ぶ声に反応するように、
『アースウォール』
打ち合わせ通り討伐隊の側面に人の二倍近く高さがある土の壁を展開する。
それは雨避けように私がアレンジしたもので、上の部分が弧を描くように繋がっている。
私が魔法を唱えて小さな目眩を感じると同じくらいに案内人が大きく腕を振り上げる。
多分それが合図だったみたいで、次々射られた矢が飛んでくる。
左右から射られたであろう矢は土の壁に阻まれ、前方から来る矢は幸い私達の場所まで届かなかった。
しかし、先頭に居た二人は前方からの矢を防ぎきれず膝を地につけていた。
前方にも土の壁を作れば良かったけど……私の魔力では厳しいと判断して作らなかった。
小さな目眩を感じているから、もし前方にも作ろうものなら私は倒れてしまい足手まといになっていたはず。
申し訳なく思いながら目眩を感じていることを悟らせないように必死に耐えていた。
「ちっ……フィリエルちゃんの読みが当たっちまったな」
ドルゴさんはそう言い捨てて前方に駆け出す。
降り注ぐ矢を避けながら先頭に立ち、野営用に準備していた油の入った皮袋を矢が打ち出された方へ投げつけ、
『フレイムカッター』
袋を追いかけるように火の魔法を放つ。
ドルゴさんから放たれた二つの物がぶつかった直後、ブワッと炎が広がり、矢が打ち出されたと思われる場所から悲鳴が、土の壁の向こう側からは怒号が響く。
「レリックは俺と前へ、二人は後方を。 そちらさんも負傷者の移動と加勢を頼むぜ」
振り返ってきぱき指示を出し、
「……わかった」
六人パーティのリーダーがドルゴさんの要請に応じて指示を出し、二人は負傷者の元へ後一人ずつ前後の加勢に加わった。
ドルゴさんの反撃のおかげで前方は負傷者の移動開始するまで山賊は警戒して襲ってこなかった。
しかし、移動を開始した直後。後方の壁の切れ目から三人続けるように入ってくる。
まず、私の弓による威嚇で気勢を削いでシェリーの細剣による一突きで一人沈める。
それを狙ったように山賊がシェリーめがけて鉈を振りかぶった所へ加勢に来た槍使いの男性に貫かれる。
やるべき事を心得ている……加勢に来た男性の手腕に心の中で舌を巻く。
残った一人は矢で牽制し怯んだところへシェリーが細剣ふるって沈めた。
それが後二回散発的に続いて、同じように山賊は地に伏せていった。
散発ではなく続けて来られたらこちらは無事ではなかったのかも……うまく連携をとって攻め込まれなかったので助かったのかな。
矢をいつでも放てるように構えたまま壁の切れ目を注視していた。
「このまま進んでも地の利は向こうにある。 今回は引き上げたほうが良いだろう」
ドルゴさんの提案にリーダーも頷いて同意を示す。
それは今回の討伐が失敗に終わる事を意味するけど、不意をつける前提条件が崩れてしまった以上仕方ない。
シェリーは小さく肩を落としていたけど納得しているようだった。
警戒しながら負傷者への応急手当を手早く済ませ、徐々に来た道を引き返していく。
山賊が現れることなく、遠目に森の出口が見えて小さく安堵が広がっていく。
その時、離れた木陰に小さく動く物が見える。
動物でも居たのかなと少し注視したところ、私へ向けて弓を引き絞っているのが確認できた。
出口が近づいた事に下ろしかけた弓を慌てて構える。
私の行動に気付いたのか慌てて山賊が弓を引く。
先に矢を放てると確信し、狙いをつけて引き絞った矢先、過去に兄を射た記憶が蘇って矢を放つ瞬間に小さな躊躇いが生じてしまった。
わずかに生じた隙に相手の手から離れ、私へ向かって一直線に迫る。
自分に失敗に気付いた時には避けるタイミングを逸していた。
そこへシェリーが間に入り、肩当てで矢を受ける。
「シェリー!」
「大丈夫、少し刺さっただけよ」
悲鳴を上げる私にシェリーは苦笑いを返す。
ほとんど肩当てに防がれていて、貫通してるのは少しみたいだけど……。
シェリーはすぐに矢を放った山賊を追いかけようとしたけど、
「相手の思うつぼになるぞ」
ドルゴさんに止められ渋々諦めていた。
魔法で冷水を出して傷口を洗い、強めに布で縛る。
応急手当も終えた後、負傷者の状態を考慮して明日の夕方を目処に一番近い村であるシェリーの故郷の村へと進路を取った。
移動を始めて二時間程経った頃、シェリーが崩れ落ち、急遽その場で野宿をする事になった。
高熱を出したシェリーを少しでも楽にする為に、氷を召還して薄い皮袋に詰めて額にのせる作業を繰り返す。
しかし、シェリーの意識は無く、ただただ苦しそうに荒い呼吸をしている。
「矢尻に毒を塗られていたかもしれねぇ……くそ、こうなっちまったらシェリーちゃんの体力だけが頼りだ」
ドルゴさんはシェリーの容態を診て頭を抱えてしまう。
「捨てた矢を拾ってくれば……なんとか」
思いついた事を口にしてすぐに駆けていきそうなレリックに、
「馬鹿野郎! 引き返した所でお前の命が危険になるだけだ。 もし矢があった所で毒の種類がわからなきゃ意味はねぇんだよ」
悲痛な面持ちで厳しい言葉をぶつける。
「何も……何も出来ないのか」
レリックは地面に拳をつきたてやるせなさをぶつけていた。
私は現実を受け入れられなくてただただ眺めるだけで、ドルゴさんに看病を任され我に返ったときにはシェリーの側についていた。
自分を庇わなければ……ううん、私が躊躇せずに矢を放っていればこんな事にならなかったのに……後悔と自己嫌悪で一杯になるけど、ただただ助かって欲しい一心でシェリーの看病を続けた。
レリックとドルゴさんも度々様子を見に来てくれて、シェリーの容態を気遣い、精神的に参りそうになっていた私を励ましてくれた。
夜も更けて月明かりが注ぐ中、荒い呼吸が落ち着いたのを感じながら皮袋の中身を交換しようと持ち上げた時、シェリーの瞳がぱっちり開いて今までうなされていたのが嘘のように体を起こす。
「看病してくれてたのね。 ありがとう」
「だ、大丈夫なの?」
微笑みながらお礼を言われ、シェリーの急な変化に同様してしまう。
「とりあえず……わね」
奥歯に物が挟まった言い方が気になったものの、平気そうな表情のシェリーを見ながら胸をなで下ろし、
「良かった……」
シェリーへ軽くもたれるようにして抱きしめた。
「レリックとドルゴさんに気が付いた事を伝えないと」
一緒に心配してくれた二人を思いだし、抱擁を解いて立ち上がろうとした時、
「フィリエルと二人で話したいの」
シェリーは小さく首を振って私を止める。
その行動に首を傾げてしまったけど、病み上がりで一人にされるのが心細いのかなって伝えるのは後回しにした。
過去の出来事から矢を放つのが遅れた事を謝ると、シェリーは首を振り、
「案内人の違和感に気付かなかったらもっとひどい事になっていたはずよ。 本当は矢を叩き落とすつもりだったのだから私のミスよ」
笑顔で言われて救われたような気がした。
それから、お互いの家族の話に少し花を咲かせた後、シェリーは急に表情を引き締め、
「レリックと結婚しなさい」
伝えられた急な一言を目を白黒させてしまう。
「あれから私達の関係を沢山考えてわかったの」
シェリーはそこで区切って表情を緩めて、
「レリックはやっぱりフィリエルが一番なの。 それでね、私もレリックと二人でいるよりフィリエルを含めた三人でいる時が一番好きだって気付いたの」
自分の気持ちを吐露した。
「で、でも……」
現状がうまく飲み込めず戸惑う私に、
「大丈夫、フィリエルとレリックはうまくやっていけるわ。 私が保証する」
にっこり微笑んでくれた。
「うん……」
私が頷くと、シェリーは満足そうに小さく息を吐く。
言葉には出てないけど「よかった……」と言われた気がした。
「今日は色々あって疲れちゃった。 少し眠るね」
シェリーはそう言って横になり、
「幸せになってね」
小さく言い残して目を閉じた。
毒の影響もあるのかな、すぐに穏やかな寝息をたて始めた。
少しの間見守って苦しむ様子がない事を確認し、レリックとドルゴさんに
報告しなきゃ……。
「……リエル」
体を揺すられる感覚にハッと目を覚ます。
シェリーの事を伝えに行こうとした矢先に眠ってしまったのかな? 目をこすりながら開いた視界の先には難しいというより悔しそうにしているドルゴさんとレリック。
何かあったのかなって、慌てて二人の視線を追いかけるとシェリーが横たわって……夢の中でみた表情のまま息絶えていた。
自分なりに噛み砕いて話したところで、小さく締め付けられる感覚に視線を下ろすと、私と同じ色をした瞳がじっと見つめていた。
それは過去の自分に「今は幸せ?」と問いかけているように感じられ、
「大丈夫」
私は幸せよという言葉を飲み込んで微笑みながら抱きしめ返す。
気持ちが通じたのかな? リーラちゃんは目を細めて安堵の表情が広がっている。
結局あれが夢なのか現実であった事なのか未だにわからないけど、『シェリー』の想いだと信じて猛アプローチの末、二年後にレリックと結婚した。
そして、女の子を産んだ日に『シェリー』と名付けたいと話したところレリックに理由を尋ねられた。
私の見た夢? を包み隠さず話したらレリックはシェリーに微笑みかけ、
「また三人仲良く暮らせるな」
その言葉が伝わったのかわからないけど、シェリーは泣き声をあげる事で応じているように見えた。
読了感謝です!