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道すがら(中編)

倒された魔物達の解体作業を始まる中で、さっきの人たちに終わったことを伝えて上げようと思い、走っていった方へ歩いていく。

皆忙しそうだし、少し戻って近くに居なければ引き返せばいいよね。

そんな事を考えながら少しだけ歩いたところに、さっきの二人……白髪交じりの壮年の男性と二十代ぐらいの青年が座り込んでいた。

「嬢ちゃん……すまない。 厄介な物を押しつけちまった」

近づく僕を見つけ、申し訳なさそうにする壮年の男性。

「親父、どうすんだ? 荷物は絶望的、魔物を押しつけちまう……お先まっ暗だ」

青年が顔を青くして壮年の男性に視線を向けている。

親父って呼んでいるところから親子なのかな?

「生きていればなんとかなるもんだ。 嬢ちゃんの同行者は驚く事なく対応していたから魔物は退治してくれるだろう」

「退治しても、俺たちに討伐料払えって言ってきたらどうするんだよ」

父親が何とか宥めようとするも、青年は頭を抱えて嘆き続けている。

魔物も倒し終わったし、そんな事は言わないよって言おうとした矢先、一陣の強い風が吹く。

「嬢ちゃん……エルフだったのか」

「親父、この子をあそこに連れて行けば……魔物に襲われた損失も補える!」

二人の僕を見る目が変わる。 目を見開く父親と悲嘆に暮れた表情を一変させる青年。

どうしてエルフってわかったのかな……少しの間困惑したけど、原因はすぐに理解できた。

かぶり直した時に浅くかぶった為に、さっきの風でフードが後ろへずれてしまっていた。


「だめだ。 やむを得なかったとはいえ、魔物を押しつけてしまっただけでも弁解出来ない事なのに、その上人攫い等できん」

青年の提案に父親は首を横に振る。

「命は助かっても、金になるはずだった物は魔物に滅茶苦茶にされちまったんだぜ、背に腹は変えられねぇ」

僕を連れて行けば損失を補える? 意味を上手く飲み込めない僕に青年が手を伸ばす。

「やめろ」

父親が間に入り伸ばした手をたたき落とすと同時に、手のあった場所を矢が通り抜けてその先の木に刺さる。

「それが正解だ。 手を出していたら墓標を増やすことになったかもしれないな」

声のする先には怒りの表情で弓を構えるシェリーさんが居た。

「……すまない」

「ひぃ」

矢に驚くものの、シェリーさんに向かって頭を下げる父親と怒気に当てられて半分恐慌状態になる青年。

「ふむ、この状況を説明してくれるか?」

今ここに着いたのか、シェリーさんの後ろからレリックさんが顔を覗かせて僕に尋ねる。

正直僕の方が教えて欲しいぐらいなんだけど……って思いつつ二人の会話を思い出しながらありのままを伝える。

「成る程のう……さっきの魔物に荷物をやられてしまったか」

僕の説明を聞いて父親へと視線を向ける。

「その通りです、窮した状態とは言え息子がとんでもない事を口走りました……申し訳ない」

「親父……」

再び大きく頭を下げる父親を申し訳なさそうに見つめる青年。


「リーラはどうしたいんじゃ?」

「ふぇ?」

レリックさんから唐突に質問が飛んできて、思わず間抜けな返事をしてしまう。

「ふむ、言葉が足りんかったかのう。 この困った二人を助けたいか? それともリーラに危害を加えようとしたことを咎めたいか?」

レリックさんに改めて言われ、なんとなく理解する。

つまり、この二人に対しての判断を僕に委ねるって事みたい。

すれ違った時に心地良い挨拶を交わしたことを思い出す。

困り果ててしまったから手を出してしまったのだろうし、それも父親がしっかり止めてくれて、青年も自分の行動に後悔してみるみたいだから……悪い人達じゃないよね。

「……出来れば助けて上げたいかな」

正直、僕に何が出来るのかわからないけど、この人達を放っておきたくない。

「そうか」

シェリーさんは僕の解答に満足したのか、弓を下げて表情を緩める。

青年もそれを見てホッとしたように大きく息を吐いた。


レリックさんとシェリーさんは必要だからって二人の引いていた荷車の回収をしに赴き、僕は先に戻る事に。

戻ってみると解体が終わったのかケルスや猪らしき物は見えなくて、肉の塊や皮みたいな物に猪の牙が並んでいる。

正直グロデスクな見た目なので、自然と目を背けてしまった所で頬に軽い音と共に衝撃が伝わり、

「っ」

思わず頬を押さえてしまう。

「一人でどこへ行ってたの」

怒ったような声がおりてきて、見上げてみれば眉をつり上げたフィリエルさんが僕を見据えていた。

「た、助けを求めて来た人に魔物は討伐したから大丈夫だって伝えようと思って……」

今まで僕に見せたことのないその表情に圧倒されながら、自分の行動を説明するけど、向けられた厳しい視線から最後の方は尻すぼみになってしまう。

「どうして黙って行ったの」

「み、皆忙しそうにしてたから……ごめんなさい」

問いつめるような口調で尋ねられ、なんとか答えながらも耐えられなくなり肩を落として謝ってしまう。

頬から伝わる痛みに加え、心配させてしまったかもって心の痛みが相まって、瞳から流れ出て頬を下っていく感触が伝わってくる。

「ここはもう村の中ではないの。 シェリーが気付いて後をつけていなかったら、皆で探し回ることになるのよ」

強い調子で続く言葉に自分のした事が良くない事であったことを思い知らされ、止まらない涙で視界がかすんでいく。

「どこへ行くにもリーラちゃんにとって初めての場所なのだから、何も言わずに離れたりしちゃだめよ」

強い力で引き寄せられ、頭を胸に埋めるように押さえられる。

掛けられた言葉はただただ優しくて、肌を通して伝わる温かさが心地良い。

心配をかけるような行動をした申し訳なさとそれでも案じてくれる嬉しさが、僕の中でぐるぐる回って流れる涙が止まるのに時間がかかってしまった。


フィリエルさんは僕の涙が止まったのを確認して抱擁を解き、

「ごめんね、痛かったでしょ?」

辛そうな表情を僕に向ける。

「ううん、僕が悪かったんだから謝らないで」

僕は首を振ってフィリエルさんに答えを返す。

謝るって事は僕に手をあげたくは無かったんだよね。

自分の行動がそれをさせてしまった事に胸が痛み、同じ失敗は繰り返さないぞと心に刻んだ。

「こうして見る限りじゃ親子にしかみえねぇな」

「ええ、正直忘れてしまいそうです」

後方から二人の声が聞こえて小さく振り向けば、眩しそうにこちらを見ていた。


しばらくしてレリックさん達は赤紫色に染まった荷車を従えて戻って来た。

荷車と親子が一緒に来てる事を不思議そうに見る三人へ、レリックさんが魔物に襲われて積み荷が駄目になってしまった事を説明する。

「それでじゃな、そこの魔物の解体品をローエル村へ運ぶ仕事を頼もうと思うんじゃが」

皆を見渡しながら自分の意見を伝えるレリックさん。

「カリンさんなら適正な価格で買い取って貰えそうね」

「いいんじゃねぇか? ここで荷物を増やす必要もないしな」

「異論はありません」

そうと決まれば行動は早くて、あっという間に荷車に乗せ終えてすぐに運べる状態になる。

なんというか……皆手慣れてて動きに無駄がないっていうのかな、僕が手伝える隙間は全くなかった。


「あとこれを雑貨屋の店主さんに渡してね、積み荷の内容とあった出来事を書いておいたわ。 私達と懇意にしてるから他へ持って行くより良い値段が付くはずよ」

フィリエルさんが手紙を手渡し、父親はそれを受取って大事そうに懐にしまっていた。

「何と言って良いのか……正直言葉になりません」

「なんの、この爺が孫に良い格好したいだけじゃよ」

感極まったような表情で父親が頭をさげると、レリックさんはほっほと微笑み返していた。

改めて親子で深々と頭を下げた後、ローエル村方面へ歩き始める。

青年が何度かこちらを振り返って、僕に何か言いたそうに視線をとばしていてその表情から、もしかしたら僕に謝りたかったのかな……そう感じられた。


二人を見送った後に中断していた移動を再会し、お日様が別れを告げ掛けた所で、

「今日はあの辺りで休む事にするかの」

レリックさんは少し開けたところを指さして提案し、他の人からは異論は無かった。

ほぼ一日歩き通しで、正直へとへとに疲れてしまった僕は、渡りに船とばかりに近くの丸い石に腰掛ける。

「お疲れみたいね」

「あはは……一日中歩いたのは初めてだから」

どこか嬉しそうに僕に尋ねるフィリエルさんに渇いた笑いを返す。

小学校の遠足でも長く歩いたけど、それでも朝から夕方までいかないぐらいのお昼過ぎまで。

次の村までどのくらいあるのかわからないから、明日も歩ききれるかな……ってぱんぱんになった自分のふくらはぎを見ながら少し不安になった。


「わしらで野宿の準備をするからフィリエルはリーラと居てやってくれ」

「わかったわ」

準備を始めようと立ち上がるレリックさんの言葉にフィリエルさんは快諾する。

「ぼ、僕も手伝うよ」

疲れてるけど皆も同じはずだと思い、立ち上がった所で伸ばした足の力が不意に抜けてバランスを崩し、

「無理はしなくていいのよ」

前のめりに倒れ掛けた所をフィリエルさんに抱き止められて頷くしかなかった。


その後、準備の傍ら集められた枯れ木から火を起こして欲しいって

言われた時は、自分に出来ることがあってすごく嬉しかった。


起こした火の周りに石が並べられ、フィリエルさんによって準備された鍋が石の上に乗せられる。

しばらく経って鍋から湯気が立って来たので覗き込んでみると、赤い液体の中でフィリエルさんが中身を混ぜる度にじゃがいもや玉葱がぐるぐる回りながら顔を覗かせている。

鼻をくすぐる香りに反応するように「くぅ~」とお腹の音が鳴ってしまう。

「あう……」

小さく俯く僕に、

「もう少し煮込んだ方が良いのだけれど……仕方ないわね」

困ったように微笑みを向けながらスープをよそった木の器とスプーンを手渡してくれる。

「まだ熱いだろうから、このパンをつけて少しずつ食べるといい」

受け取ってすぐにスープを飲もうとする僕へシェリーさんが黒いパンを差し出す。

そうなのかなってパンを受け取り、言われたとおりに少しだけスープにつけてかじる。

程良い温かさで少しスープのしみた硬めのパンが柔らかくなっていて……噛みしめる度に口の中で広がる味がすごく良い。

スープが赤いのはトマトをいれているからなのかな? 

「わし達も食べるかの、リーラの顔を見る限りでは食べ頃で間違い無いじゃろう」

「違いねぇ」

眩しそうに僕を見るレリックさんとそれに苦笑いでアルゴさんが同意する。

「リーラ嬢のおかげでより美味しく頂けそうですね」

「……僕のおかげ?」

よそってもらったスープを片手に、目を細めて僕を見るガーラントさんの言葉に首を傾げる。

「スープにつけたパンは美味しいけど、それを教えてくれたのはシェリーさんでしょ? なのにどうして僕のおかげなの?」

首を傾げたままの僕の言葉に答えは返ってこなくて、皆僕に微笑み返すだけだった。


食事も済み、お腹も良くなったことで急に眠くなり、船をこぎ出しそうなのを頭をふらふらさせながら必死にこらえる。

「ふふ、疲れが出ちゃったのね」

「わしが片づけておく……」

小さく吹き出したようなフィリエルさんの言葉が聞こえ、ふらふらしていた僕を支えるように柔らかい感触が伝わり、レリックさんの言葉を最後まで聞く事無く、伝わる心地よさに意識を手放した。

読了感謝です。

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