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出発へ

翌日……。

よく眠れたおかげなのかな、爽快な目覚めで頭の中もすっきりしている。

ゆっくりと起きあがって周囲を見回すと、窓から差し込む薄明かりが夜明けが近いことを表していて、隣ではフィリエルさんが心地よさそうに寝息をたてている。

「二度寝も魅力的だけど……」

自分だけに聞こえるぐらいの声で小さく呟いて、音を立てないようそろりそろりと移動を始め、眠っている人を起こさないように静かに扉を開ける。


外にでるとひんやりした空気が心地よく、胸一杯空気を吸い込む。

周囲を見渡せば、山の向こうから朝日が覗きかけていて、これから毎日違う場所で朝を迎えることになるのかな……慣れ親しんだこの風景と今日でお別れになる事が寂しく感じた。


ゆっくり上ってくる朝日をぼんやり眺め、自分なりに満足した所で散歩がてらに湖の方へ歩いていくと、湖に近づくにつれて話し声らしき物が聞こえてくる。

誰か先客が居るのかな? そんな事を思いながら湖を見渡せる場所へ到着する。

何時もと変わらない、向こうの景色を映す湖面にそよそよと吹く風が小さな波を立てている。

その中でこちらを背にして座っている人影が二つ。

後ろ姿から、ガーラントさんとシェリーさんであることがわかり、ガーラントさんの右腕を抱くようにしてシェリーさんが身体を預けているように見える。

良い雰囲気にそっとして起きたかったけど、話している内容を聞いてみたいという自分の心に勝てず、聞いておけば将来きっと役に立つ……そう心の中で言い訳して二人の近くの岩の陰に隠れた。

「こうして二人きりになれるのは次はいつになるだろうな」

「一年以内とだけ言いましょう……後はシェリー殿の予定次第です」

「そうは言ってもガーラントも反対しなかったのだからな?」

「反対した所で変わるとも思えませんでしたし……何より、リーラ嬢が反対を唱えるとは思いませんでした」

「確かにな、私もガーラントならともかく、リーラが反対するとは思わなかったさ」

二人の談笑する声が聞こえる中、改めてお互いを良く知る二人を羨ましく思った。


それは新しい人生(?)を始めて半年も経たない僕には無いもので……その事実が僕を寂しくさせる。

岩陰からこっそり覗いて見えた二人の後ろ姿が、前世の自分と自分を慕っていた年の離れた妹と重なり、不意に思い出してしまった妹との思い出が頭の中を駆け巡る。


お兄ちゃん、お兄ちゃんと僕の後をついて来た妹。

あぐらをかいてのんびりTVを見ていると、その上に座って笑顔を見せてくれ、僕のことを良く見ているのか機嫌の悪いときには決して座ろうとはしなかった。

僕の前世が終わる少し前にピカピカのランドセルを見せてくれたっけ……お祝いだよって妹の好きな海豚のキーホルダーにくまのぬいぐるみと大きめの円筒形の容器にぎっしり詰まったアーモンドチョコレート。

お財布はかなり軽くなったけどとびきりの笑顔で「ありがとう」って言ってくれたから後悔はしなかった。


……どうして今まで思い出さなかったのだろう。

僕が死んでしまった事でショックを受けていないかな……。

想うことは出来ても決して手の届く事の無い場所に居る自分。

何もしてあげることが出来ない無力感が心を沈めていく。

それに反応するように頬を雫が伝って落ちていき、膝を抱えながら声を殺して泣いた。


…………気が付くといつもの天井が見え、ベッドに寝かされていることがわかる。

「あ……れ……?」

ぼんやりする頭の中で、寝ぼけたような声を上げてしまう。

自分の記憶が正しければ僕は湖の近くに居たはずだけど……。

それも夢だったのかなって記憶と違う場所にいる事に困惑してしまう。

「起きたみたいね」

声のする方へ視線を向けると心配そうに僕を見つめるフィリエルさんが居た。

「どうして湖の近くで眠っていたの?」

責めるわけではなく、理由を教えて欲しいという感じの問いかけに、僕はどこから話して良いのかわからず黙ってしまう。

フィリエルさんは痺れを切らしたのか僕の顔をめがけて手を伸ばし、それに反応するように目を閉じてしまう。

叩かれる事は無いと思うけど……そう思いながらも衝撃に備えていると、頬からまぶたにかけて撫でられる感触が伝わり、触られた場所からひりひりとする小さな痛みが走る。

「自覚はないのかもしれないけど、赤くなっているの」

目を開くと目の前にフィリエルさんの顔があり、

「泣いていたんでしょう? それを見てシェリーも心配していたのよ」

心配そうな表情を崩さすに僕をジッと見ている。

「えっとね……」

全部話してしまおう……最初から迷う必要はなかったんだね……。

話し始めながら、躊躇うことによってより心配掛けてしまった事を後悔した。

早く目が覚めて最後になるかもと思い散歩をしていた事。

声の元をたどっていくうちにガーラントさんとシェリーさんを見つけ、こっそり会話を聞いていた事。

その二人の後ろ姿から前世の妹との関係を思いだして、何も出来ない自分にしょんぼりして泣いてしまった事、自分でも気付かないうちに眠ってしまった事を話した。


「そうだったのね……シェリー達がリーラちゃんを見つけてつれて帰ってくれたのよ」

「ごめんなさい……」

僕がベッドの上に寝かされていた理由を説明され、反射的に謝ってしまう。

「謝る必要はないのよ」

そう言って僕を軽く抱きしめ、僕の頭を胸へと押し当てる。

「リーラちゃんに初めて会ったときのような顔をしているわ。 目一杯泣けばすっきりするはずよ」

押し当てられた胸から感じる温かさに誘われるように、さっき沢山流したはずの涙が再びあふれ出る。

自分の中に残った悲しい気持ちを押し出すように声を殺して泣く僕を、フィリエルさんは黙って優しく頭を撫で続けてくれた。


ひとしきり泣いた後、すっきりして心が軽くなったような気がして、

「もう大丈夫だよ」

フィリエルさんを見上げながら自分なりの笑顔でお礼を言うと、フィリエルさんはにっこり微笑んで抱擁を解いてくれた。

「リーラちゃんがこうして元気でいるのなら妹さんもきっと大丈夫よ」

「どうして?」

僕が元気な事と妹が大丈夫である事がうまく結びつかない為、フィリエルさんの言葉に首を傾げてしまう。

「リーラちゃんは昔は男の子だったかもしれないけど今は女の子でしょ?」

「うん」

続く問いかけに頷くけど意図が掴めず、もし見えるのなら僕の頭の上に?マークが並んでいたと思う。

「性別も変わってしまったリーラちゃんがこうして元気で笑っていられるのなら、家族の元に居られる妹さんはリーラちゃんの事で沢山悲しむと思うけど、しっかり立ち直れているはずよ」

フィリエルさんはそう言って僕を見据える。

言うべき事は言ったから、僕の出方を待っているのかな。

……つまり、妹と同じ性別になった僕が、より困難な状態に陥っていたにもかかわらず元気で笑っていられるのなら、妹もきっと立ち直っているはず……そう言われた気がした。

でも……僕はランド村付近で偶然ミーナに拾われて、過ごすうちに家族になって欲しいと言われて……今居るローエル村でもレリックさんが気付いてくれて僕を拾ってくれて、今では家族と思ってくれ……そっか。

妹が家族と一緒に居るように、僕は家族同然と思ってくれる人と一緒に居るのだから、僕が支えられて今は笑っていられるように……妹もきっと笑えるようになっているはず。

「……そうだよね。 僕がこうして居られるのだから大丈夫だよね」

多少状況は違うにしてもきっと大丈夫、自分に言い聞かせるように呟く。

「一度会って、元気でやってるよって伝えられたら良いんだけどね」

出来ない事とわかっていても、そんな考えが浮かんでしまう。

「お兄さんがお姉さんになって元気でやってるって言われたら、妹さんはどんな顔をするのかしらね?」

僕の言葉に対するフィリエルさんの指摘に、その場面を想像した僕は思わず頭を抱えてしまう。

「確かに……この姿だと僕である事をわかって貰うのも大変だね」

自分である事を証明する手段が記憶以外無いのだから、もし会えたとしても……自分だと理解してもらえるのかな。

頭を抱えながらどうすれば信じて貰えるのかを真剣に考えかけて……やめる。

今はそれよりも、出発の事を考えなきゃ。

首を横に強く振って頭の中を切り替える。

もし……会う機会を得られるならその時考えればいいと思い直した。


「そうね……リーラちゃんが眠って居る間に、起きた時に気分が優れないのなら、出発を延ばそうかって話がでてるんだけど」

フィリエルさんは苦笑いで小さく頷いた後、そう言って僕を見据える。

その瞳は僕に「どうする?」と選択を委ねているように感じた。


「フィリエルさんのおかげでスッキリしたから大丈夫だよ」

少し考えた後の解答をフィリエルさんに返す。

体調は良いし、沢山泣いたからうまく区切りをつけれたと思う。

何より僕の為に僕の為に皆動いてくれているのだから、延期にはしたくないからね。

「本当に? 無理してない?」

フィリエルさんは僕の解答に対して怪訝な表情を向ける。

やせ我慢した事もあったから、フィリエルさんから向けられる疑いの眼差しも仕方ないのかも。

「うん、大丈夫だよ。 僕が必死に隠しても耳や顔にでちゃうもん」

フィリエルさんの問いかけに苦笑いで返す。

今までの経験上隠そうとしてもほとんど上手くいった事がないしね。

「言われてみれば……そうね。 内容はわからないにしても、リーラちゃんに何かがあったら顔を見ればすぐわかるものね」

フィリエルさんは納得してくれたみたいだけど……素直に納得されたのが少し悔しいので、

「フィリエルさんも一緒だよ?」

巻き込むように一言付け足した。

「……否定できないところが悲しいわね」

僕の言葉にフィリエルさんは小さく顔をしかめながら肩をすくめ、しばらく沈黙した後に二人一緒に吹き出して笑い合った。


「こちらの準備は終わったが……話し合いはどうなった?」

笑いが収まって少し経った頃に、シェリーさんが入って来てフィリエルさんに結果を尋ねる。

「私が見た時より赤くなっているじゃないか……」

シェリーさんは無造作に僕を見た直後、食い入るように見て心配そうに声を掛けてくれる。

自分ではわからないけど、さっき泣いちゃったからより赤くなっているのかな。

「……延期したほうが良さそうだな」

シェリーさんはフィリエルさんの解答を待たず、結論を口にする。

「早合点しないの、リーラちゃんは大丈夫。 色々思うところはあったみたいだけど、泣いてスッキリ出来たのよ」

フィリエルさんは苦笑いしながら、シェリーさんに解答を返す。

「そうなのか?」

シェリーさんは再び僕へ視線を戻して確認をとり、

「うん」

僕はそれに頷いた。


「しかし……父上が許可するだろうか」

シェリーさんはそのまま僕をジッと見て思案顔になる。

「大丈夫よ…………リーラちゃんはちょっと嫌がるかもしれないけど」

フィリエルさんはシェリーさんの耳元で僕に聞こえないように囁き、最後の部分だけ視線を僕に向けて聞こえるように話す。

「成る程、それなら大丈夫だな。 父上とアルゴの負担が増えるかもしれんが、文句は言わないだろう」

シェリーさんは納得したように思案顔から表情を緩めた。

「えっと……僕が嫌がるってどういう事?」

僕に伏せている事から、多分教えて貰えないだろうけど……気になるので駄目もとで聞いてみる。

「私の杞憂に過ぎないかもしれないから……内緒」

フィリエルさんは唇と十字になるように人差し指をあて、僕にウインクする。

僕が嫌がってレリックさんとアルゴさんの負担が増える事……考えてみるけどさっぱりわからない。

「考え込むほどの事じゃないさ、多分父上は予測した上で行動しているからな」

頭に手のひらが乗せられた感触に見上げれば、僕に向かって微笑みかけているシェリーさんが見えた。


その後、レリックさん、ガーラントさん、アルゴさんの順に心配されたけど、フィリエルさんが皆を集めて僕とのやりとりを話し、今日出発する事が僕の希望である事を伝えるときつくなったら早めに言う事を条件に承諾して貰った。

……僕ってそんなに危なっかしいのかな?

ここで暮らした日々を思い出せば全く否定出来ないことに気付いて肩を落とした。


結局、内緒にされた事はわからないまま出発の時を迎え、皆荷車の近くに集まる。

レリックさんは焦げ茶色の革製のジャケットに紺色のズボンで、下には白いシャツを着ているのかな? 胸のあたりでジャケットの間から白い布が覗いている

フィリエルさんはいつもの格好に羽織るように教会のシスターさんが着るような全身を包むローブを身につけている。

シェリーさん、ガーラントさん、アルゴさんはここに到着したときの格好そのまま。

僕もここに来た時の格好で、二着のワンピースは荷物の中に入れてくれてるみたい。

フィリエルさんに「ランド村に着くまでにぼろぼろになっても困るでしょ」と言われてこの格好に落ち着いた。

リヤカーの中にはアルゴさんのずた袋、衣類の入った箱、食料の入った箱等が乗せられていて、前の方の一部分だけぽっかりと空いているのをもう少し積めそうなのにって横目で見ながら思っていた。


僕達の正面にはグレイさん達が見送りに出てきて横一列に並んでいる。

「それでは、わしらの留守を頼む」

「お任せ下さい! レリック様達の無事を祈りながらお帰りを待っています」

レリックさんとグレイさんが別れの言葉を交わし、僕達は村へ歩き始める。

「爺は楽をさせて貰うかのう」

「まぁ、俺が若いからしかたねぇな」

レリックさんがホッホと笑いながら言うと、アルゴさんは苦笑いで応じる。

リヤカーはアルゴさんが引くことになったみたいで、長刀を横に括り付けていて、危険な刃の部分は革製の鞘で覆われていて上手くもやも覆い隠していた。

ちなみに上り坂や下り坂で厳しいときはレリックさんも手伝うらしい。


村へと向かう道すがら、

「僕は耳を隠さなくていいの?」

フッと気付いた疑問を尋ねてみる。

二人は耳を隠しているのに僕はそのまま何も身につけていない。

「リーラちゃんの分はカリンさんにお願いしてあるわ」

フィリエルさんは聞かれるのを待っていたかのように微笑みながら、答えてくれる。

すぐに教えてくれたから僕を驚かそうってわけじゃないみたいだけど……どんな物を用意してくれてるのかな?

期待に胸を膨らませるうちに、カリンさんのお店に到着した。

「私達は村長さんに挨拶してくるから、その間に受け取っておいてね」

「私とアルゴ殿は建物の影で待っています」

レリックさんとフィリエルさんはそのまま村長さんの家へ行き、ガーラントさんとアルゴさんは外で待ってるみたい。


「それじゃ入るか」

シェリーさんに促され、一緒にお店に入る。

「いらっしゃい。 待ってたわ」

「聞いたよ、リーラちゃん達今日出発するんだね」

入ると同時にカリンさんとガルさんがこちらへ振り向き応対してくれる。

「母上が頼んでいた物はできあがっているか?」

「勿論よ」

シェリーさんの問いかけに、カリンさんは待ってましたと言った感じに四角いお盆を取り出す。

その上には畳まれた白い布みたいな物と小さめの緑色のリボンが二つのせられている。

「母上からはかぶる物を頼んだと聞いているが?」

「リボンは俺からだよ」

シェリーさんが首を傾げて聞き返し、ガルさんがそれに応じる。

「……母上だけでなく、リーラにまで色目を使う気か?」

「じゅ、純粋にこれをつけた方が耳を隠しやすいと思ったから……だ」

シェリーさんの冷たい視線を受け、慌てて弁解するガルさん。

最後の部分が尻すぼみになってるから弁解が上手くいってない様子。

確か、僕は対象にならないって言ってた気がするから純粋な好意からだろうけど……堂々と言い返せないのはシェリーさんが怖いからなのかな?


「落ち着いて下さい。 ガルさんにそんな甲斐性も根性もあるわけないでしょ?」

「それもそうか、リーラもこれの話は半分だけ聞くようにな」

カリンさんの仲裁にシェリーさんも納得して視線を緩めるけど、ガルさんは容赦ない言葉に床に膝と手をついてしまった。

それを見て、僕が妹に贈り物をした時にこんな言われ方をしたらひどく落ち込んじゃうかも……。

そう思うとガルさんが可哀相に見えて、

「ガルさんなりに僕の為に選んでくれたんでしょ? ありがとう」

頭を撫でて顔を上げた所で感謝の気持ちを伝える。

「ガル……」

「ガルさん……」

何故か二人にジト目で睨まれるガルさん。

なんだかさっきより視線がきつくなってる気がするけど、どうしてなのかな?

「お、俺にかまうよりは、リーラちゃんにリボンをつけてくれよ」

二人の視線に耐えかねたのか、慌てたようにガルさんは早くリボンをつけるように促す。

「ガルの言う事も一理あるな。 私より慣れているだろうから、カリンがやってくれないか?」

シェリーさんのお願いにカリンさんは嬉しそうに頷き、

「すぐ終わるからじっとしていてね」

笑顔で僕に言いながら僕の髪の一部をまとめ始める。

頬に髪の感触伝わった頃に、

「後、これを身につけたら完成ね」

頭から肩にかけて何かがのせられたのが伝わり、手に取ってみると、さっき見た白い布で、広げて僕の頭巾になったみたい。

「リボンが上手く耳を隠しているな」

「そうですね、フードだけよりはずっと見えにくくなってますね」

僕の顔を覗き込むシェリーさんの一言にカリンさんも同意する。

一方ガルさんは追求が来ない事に安堵してるみたいで、改めてお礼を言いたかったけど、そっとしてあげる事にした。

どんな感じになっているのか確認できないかなって、水瓶の位置を聞こうと思った矢先、カリンさんに抱きしめられ、

「ここへ戻ってくる事があったら必ず顔を出してね、リーラちゃんの為に新しい飴を用意しておくわ」

寂しそうに僕を見つめていた。

それを見て、ここで過ごした日々でのカリンさんとのやり取りが頭の中を駆け巡り、気が付けば僕は強く頷いていた。


カリンさんのお店から出るとレリックさん達は戻っていて、ガーラントさん達と一緒に僕達が出てくるのを待っていたみたい。

「カリンさんに持たされたのね」

「うん、笑顔で見送れそうに無いからって手渡してくれた」

僕の抱える飴の詰まった瓶を見たフィリエルさんの言葉に、こくりと頷いて説明する。

「そっか……」

フィリエルさんは複雑な表情でお店を見上げながら呟いた。

「母上、他にも見るべき物があるだろう?」

シェリーさんは僕の頭を軽く押さえながら呼びかける。

「リボンを使って上手く隠してるわね、カリンさんが結んでくれたの?」

「うん、リボンはガルさんからの贈り物だけどね」

フィリエルさんの疑問に答え、中であった出来事を話す。

「あの子なりに考えて用意してくれたのね。 シェリーもリーラちゃんが可愛いからってやり過ぎよ?」

「し、仕方ないだろう。 一応形の上だけでも母親なのだからな」

フィリエルさんが苦笑いで注意したらシェリーさんは誤魔化すようにはそっぽを向いてしまった。

村の人達に僕の事を説明をしに言ったときに居なかったから、村の人達が事実を知っていることをシェリーさんは知らないのかな?

二人のやりとりを見ながらぼんやりと思っていると、

「荷車に積むからそいつを渡してくれるか? もって歩くわけには行かないだろう」

アルゴさんに言われ瓶を渡すと、割れないように慎重に荷物の間に挟んでいた。


「揃ったところで出発するかの。 リーラよ道のりは長い、くれぐれも無理をするでないぞ」

「うん」

レリックさんから改めて注意されて返事をすると、満足そうに微笑んだ後、振り返って村の出口へと歩き始めて皆それに続く。

ローエル村から出て少し歩いた所で振り返って、感謝の気持ちを込めて小さくお辞儀をする。

「遅れないようにね」

僕の動きを見ていたのか、フィリエルさんが隣で目を細めて僕を見下ろしている。

「追いかけなきゃ」

少しだけ離れた皆をめがけて、二人小走りで皆を追いかける。

こうしてローエル村での生活が終わりを告げ、ランド村への旅が始まった。

読了感謝です。

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