表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/84

感謝の贈り物(前編)

翌日……。

何か出来る事はないかと考えながら朝食の手伝いを……するはずだったけど、シェリーさんの希望で出発まで練習するらしく、僕は頬杖をついてぼんやりと考えることになった。

僕に出来る事……頭の中で繰り返され、自分に何が出来るのかなと自問自答する。

「ころころ表情が変わって見る方は楽しいんだが……朝から悩み事か?」

こぼれ落ちて来た声に見上げると、爽やかな笑顔のアルゴさんが僕を見下ろしていた。


「あれ? 朝食まで三人で工房の整理のはずじゃ?」

「家族以外には見せたくない物もあるんだろうな、リーラちゃん一人っきりだから相手をして欲しいとさ」

僕の質問に、アルゴさんは苦笑いで肩をすくめて答える。

昨日は僕が何か出来ないかって焦ってたから気を使わせちゃったかな。

そう思いながら肩を落としかけた時、自分に出来そうな事を閃く。

それをする為に必要な物は多分アルゴさんが持っていると思うから……何とかして譲って貰わないと。

「え、えっと……アルゴさんは僕にくれたアクセサリじゃ釣り合わないって言ってたよね」

「そうだな。 正直どうやったら釣り合うかわからねぇ」

僕の質問にアルゴさんは同意する。

思っていたとおり解答を貰って、これなら譲ってもらえるかもと思い、

「お願いがあるんだけど……いいかな?」

アルゴさんを見上げながら欲しい物を得る為に言葉を選んでいく。

「うん? 俺に出来ることならかまわねぇが」

僕がお願いするのが珍しかったのか、少し不思議そうにしていたけど、直ぐに答えは返ってきた。

「小さな宝石が十個欲しい」

「へっ?」

僕の要求する内容が意外だったかな、アルゴさんは目を丸くして、

「宝石が欲しいのか?」

要求内容を聞き返す。

「うん、アルゴさんが僕に魔力を込めて欲しいって渡してくれた物と同じ大きさの物が良いかな」

それに頷いて大きさの指定をしたら、アルゴさんは難しい顔をして黙り込んでしまった。

やっぱり十個もお願いしたら、魔力を込めた事と相殺で貰うのは無理なのかな……それなら。

「ちょっと待ってて」

そう言い残し、急いで寝室に行ってポーチから金貨を掴んで戻り、

「僕に出せるお金はこれで精一杯なの。 十個が厳しいなら五個でもいいから……」

頭を下げて金貨を両手の上に乗せて差し出す。

「そいつは、いらねぇよ」

落ちてきた声に反応するように見上げると、表情を引き締めたアルゴさんが片手で僕の腕を掴み、もう片方の手で僕の指を折り曲げて金貨を握らせる。

「自分の為に使いな。 勘違いさせちまったな、すまねぇ。 返事をしなかったのは数があったのか思い出していただけだ」

黙り込んだ理由を説明して僕を見据えると、

「リーラちゃんが自分の為に宝石が欲しいなんて言うとは思えねぇからな。 誰かの為に使うつもりだろう?」

ずた袋から鮮やかな色の宝石を出し、お願いした数を手渡してくれた。

「ありがとう!」

自分なりの笑顔でお礼を言うと、

「何をするつもりかわからねぇが、程々にな」

ニッと笑って軽く釘をさされた。

僕が何をやろうとしているのかはわかっているみたい。

……でも誰の為にやるのかはわからないかもね。

大丈夫、心配をかけないように無理をしない方法を考えてるから。

そっと心の中で呟いた。


朝食も終わり、忙しなく動く皆の邪魔にならないように昨日と同じで家の壁を背にして日向ぼっこ。

持ってきたポーチの中から無作為に一つを取り出して、周囲に誰も居ないことを確認して、

「ブレッシングマテリアル」

宝石に魔力を注ぎ込み、小さなもやが出ている事を確認してポーチにしまう。

一仕事した後の小さな疲労感に浸りながらいると、一陣の風が頬を撫で「お疲れ様」って僕を労ってくれているような気がした。


軽く目を瞑り、風が葉を揺らす音色に聞き入りながら、朝食の時を思い出す。

ガーラントさんが言うには、ここに来る五人は前回の討伐隊の人で、僕の魔法の事を喋らないと誓ってくれた人が来るみたい。

思いついたときはその辺りが心配だったけど、それなら……僕の魔力を込めた宝石をお守り代わりに渡しても大丈夫だよね。

早ければ明日、遅くても明後日には来るのだろうから頑張らなきゃ。

でも無理をして出発の日を先延ばしにしたら意味がないからね。

だから、こうして魔力を込めた後にしっかり休めば使った魔力が戻るのも早いはず。

小さな疲労感と心地よい風が僕の意識を手放させるのに時間は掛からなか

った。

無理をしないように魔力を込めては眠ってを繰り返して、夕方には四個込めることが出来た。

ちょっと疲れちゃったけど心地良い疲労感だった。


夕食時にレリックさんに魔力切れを起こした時みたいに長い間眠ってたように見えたと心配されたけど、日向ぼっこが気持ちよくてよく眠れたよって笑顔で返し自分が元気な事を伝えたら、そうか……と納得したように頷いてくれた。

昨日と違って自分なりに頑張れたという思いからなのかな? 昨日と比べたらすごく気分が良かった。

一日中眠っていたからちょっと難しいかもしれないけど、夜もよく眠れるといいなぁ。

そう思いながら、ベッドに横になって目を瞑ろうと思った矢先、フィリエルさんに抱き寄せられる。

何だろう?と不思議そうに見つめる僕を、

「魔力を消耗しているみたいだけど何をしてたの?」

心配そうに見つめるフィリエルさんの一言に目を見開いてしまう。

「いつも一緒に寝ているからわかるのよ」

僕の表情を見て、気づいた理由を教えてくれるフィリエルさんに、どう答えようかと黙り込んでしまう。


しばらくの間お互いに無言の時間が続き、真剣に僕を見据えるフィリエルさんに対する答えを思いつく。

「お願いを聞いてくれたら僕のやっていることを話すよ」

「内容にもよるけど……リーラちゃんが交換条件をだすなんて珍しいわね」

目を丸くするフィリエルさんに欲しい物を説明すると、

「それぐらいなら出来ると思うけど……何に使うの?」

用途を思いつかないのか小さく首を傾げる。

「えっとね……」

今日ずっと眠っているように見えた理由とアルゴさんに宝石を譲って貰った事、それに魔力を込めた後の用途を話した。

「そっか……それでリーラちゃんは小さな袋が欲しかったのね」

目的を理解したフィリエルさんは目を細め、

「私達を心配させないように無茶もしていないみたいだし、リーラちゃんなりに考えたうえで頑張っているのね」

理解を示してくれ、もしかしたら止められるかもしれないと思っていた僕は胸をなで下ろして小さく息を吐いた。

「明日中には用意しておくわね。 それと、よく眠れるように手伝ってあげる」

優しく髪を梳き始めるフィリエルさんに甘えるように心地よさに浸りながら意識を手放した。


翌日……夜中に目を覚まし、こっそり魔力を詰め、折り返しまでたどり着いたと一人微笑む。

今日も頑張ろう。 そう思いながら再び夢の世界へと旅立った。

いつもと同じように朝食も済ませ、昨日と同じように壁を背にして魔力を込めて眠る。

お昼までにもう一つ作って、良いペースで作れていることに満足しながら昼食のパンにかぶりつく。

「昨日から眠っている所ばかり見るのですが、すごくご機嫌ですね」

「そうだな……ほとんど寝ている姿しか見てない気がするな」

どこか納得出来ない様子で僕に話しかけるガーラントさんにシェリーさんが同意する。

「……」

特に隠すことでも無いけど、出来ることなら全部終わってから話したいし……でも怪しまれるのも困る。

どうしようかと迷い、黙り込んでしまったところに、

「リーラちゃんなりに出来ることを見つけたのよ、全部終わったら自分から話してくれると思うわ」

フィリエルさんがフォローしてくれて、二人は顔を見合わせる。

「ふむ……フィリエルがそう言うのなら、楽しみは後に取っておくかのう」

「俺もレリックさんに賛成だ。 一昨日のしょんぼりした顔を見るよりは気持ち良さそうに寝ているのを見るほうがいいしな」

アルゴさんはレリックさんに同意して、理由を付け加える。

「まぁ、確かに」

「見ていて心地良いものではあるな」

二人もアルゴさんの言う事に同意するけど……寝てる間に結構見られてるのかなって思うと少し恥ずかしくなり俯いてしまう。

アルゴさんも気にしてくれてたんだ……だから宝石もすぐに渡してくれたのかな。

この場でありがとうって言いたいけど……終わるまで伏せて置きたいので心の中で感謝することにした。

夕食までに二つ作り、食事も終わり寝室へ行きベッドに腰掛ける。

「はい、リーラちゃんにお願いされていたものよ」

フィリエルさんに小さな巾着の束を手渡され、

「ワンピースを作った生地の余りで作ったの。 リーラちゃんの要望通り出来てると思うけどどうかしら?」

出来具合を尋ねられて一つを手に取ってみる。

袋は僕の人差し指と中指が一緒に入るくらいの大きさで、紐は僕の腕の長さの七割ぐらいかな。

「ありがとう、お願いしていた通りの大きさだよ。 これで僕の考えていた事が出来るよ」

渡された巾着とかけられた言葉に応えるように笑顔を返す。

ポーチの中身を覗いて魔力のこもった緑の宝石を取り出して巾着へ入れ、

「はい、フィリエルさんの分」

そう言って笑顔で手渡す。

「え? これはここを守ってくれる人達の為に作ったんでしょ?」

フィリエルさんは手渡された巾着を見ながら戸惑っている。

あ……そう言えば言ってなかったっけ。

「うん、その為にいるのは五個だけど、僕は十個作るって言ったよね?

残りの五個は、レリックさん、シェリーさん、ガーラントさんにアルゴさん。 最後にフィリエルさんで合計十個だよ」

疑問に答えてフィリエルさんが胸をなで下ろすのを待って、

「後二個はまだだけどね」

と苦笑いで付け加えた。


「ありがとう。 大事にするわね」

フィリエルさんは巾着を首にかけ、胸の辺りに降りてきた袋を両手で自分の体に押し当てる。

その様子はすごく嬉しそうで、やってよかったとこみ上げる嬉しさと充実感で一杯になった。


そして、寝る前に一つ魔力を込めた時に小さな目眩を感じたけど、眠っちゃうから大丈夫だよね……そのまま横になって目を閉じた。

ふっと夜中に目を覚まし、ゆっくりと起きあがる。

寝る前にあった目眩を感じなかったので、小さく意気込んで最後の一つに魔力を込める。

寝る前に感じた物より強い目眩を感じ、無理しちゃったかなと後悔。

朝まで眠ればきっと大丈夫、怒られちゃうかなという不安はひとまず押し込んで、目眩が収まってきたところで、作って貰った巾着に一つ一つ宝石を詰めていく。

詰めたものからポーチにしまっていき、全てを詰め終えた事を確認すると、満足感からなのかな……自然に笑みがこぼれる。

ポーチを元に戻して横になると、満足感に疲労感が相まって心地よい眠りへ導いてくれた。


「……ちゃん」

小刻みの揺れと聞こえる言葉によってゆっくりと目を開いていき、はっきりしていく視界の中で、

「リーラちゃんおはよう。 よく眠れたみたいね」

フィリエルさんが僕に微笑みかけてくれる。

覚めきってない目を人差し指でこしこしこすりながら、少し遅れて挨拶を返す。

深夜に魔力を込めたせいなのかな、体が少しだるくて疲れが取り切れてなくてもっと眠っていたい気分。

起きなきゃと体を起こすけど、まぶたが重くて下がり始め、開けたはずの視界を暗闇が覆っていく。

「もう……仕方ないわね」

フィリエルさんの少し呆れたような声が聞こえ、

「…………」

続いて小さくて聞き取れないような声が耳に届く。

眠たさに頭が回ってない僕は再び夢の世界へ足を踏み入れる直前に、背中に冷たい何かが触れる。

「うにゃ!?」

驚きのあまり変な声を上げ、夢の世界への旅立ちの機会を逃してしまった。

冷たい原因を取り除く為に手をやると、冷たい物に触れ、手にしてみれば小さな氷の塊だった。

「目が覚めたようね」

「う~~、ひどいよ」

楽しそうに微笑むフィリエルさんを恨めしそうに睨む。

「リーラちゃんまた無理をしたわね?」

急に真剣な表情で話すフィリエルさんに返す言葉に詰まってしまい、小さく肩を落としてしまう。

やっぱりわかってしまうのかな……ううん、これだけ眠そうにしてたらフィリエルさんも経験してるはずだからわかるよね。

「最後の一つだからって無理しちゃったかも」

「気持ちは分かるけど、その為に皆心配しちゃうのよ?」

しょんぼりしてしまう僕にフィリエルさんがかけてくれた言葉が突き刺さる。

「少しずつ加減をする事を覚えてきているみたいだから、これ以上は言わないで置くわね」

そう言って背中をポンポンと軽く叩いて微笑みかけてくれる。

「うん……」

「もっと眠っていたいとは思うけど、お昼は食べて欲しいな」

小さく頷き、かけられた言葉に目を丸くしてしまう。

まだ朝だと思っていただけに驚きも大きかった。

「リーラちゃんの好きなパンを焼いているから、焼きたてを食べてほしいの」

僕の好きなパンという言葉に誘われ、フィリエルさんの後を追いかける。

テーブルにたどり着くと、皆がいるかなと思っていたけど誰も居なかった。

「工房に人が入れないように扉を閉めに行っているわ。 リーラちゃんを一人にしたくないから私は残っているの」

説明を終え「パンを取って来るわね」と奥へ消えていった。


一人残された僕は、何時頃来るのかな、準備した巾着を喜んで受け取ってくれるといいな。

ポーチを撫でるように触りながらぼんやりと考えていると、

「あうっ」

おでこに小さな衝撃を受け、小さく仰け反って、痛くはないけど思わず両手で弾かれた所を覆ってしまう。

「温かいうちに食べて欲しいから考え事はこれを食べた後でお願いね」

降りてきた言葉に見上げれば、苦笑いのフィリエルさんが見え、視線をテーブルに向ければ、お皿の上に湯気の立っているパンがのせられていた。

それは蜂蜜とバター、大蒜とバターが塗られた物で、どちらも僕の大好物。

今更ながら感じ始める鼻をくすぐる香りにおもむろに手を伸ばしてかぶりつく。


「ここを出たらこれも食べられなくなると思うから、幸せそうに頬張るリーラちゃんも当分見られないのね」

フィリエルさんが小さな溜息を吐きながらもどこか嬉しそうに僕を見ていた。


丁度僕が食べ終わった頃に、レリックさん達が用事を終え戻ってきて一息。

テーブルに水差しと人数分の木の器が並び、地図と思われる紙が広げられる。

そして、聞いたことも地名が飛び交い、地図の上を指でなぞったり、箇所箇所に印をつけている。

意味がさっぱりわからない僕は、まだ疲れがとれてないのせいか、それともお腹が良くなった為かわから無いけど、まぶたがすごく重く感じ、うつらうつらと船をこぎ始めて、必死に抵抗も空しく、夢への旅路についてしまった。


ドンドン、扉を叩く音で目を覚ます。

「よく眠れたかの」

声につられて視線を向けると穏やかな表情のレリックさんが見えた。

眠気に逆らって頭をふらふらさせたところまでは覚えているけど……また眠っちゃったのかな。


ぼんやりとしたまま、辺りを見回す。

入口で扉を開けて何かを話しているフィリエルさんが見え、他の三人は笑うのを我慢してるような表情で僕を見ている。

まだ回りきらない頭で考えても思い当たる原因がわからなくて、首を傾げてしまう。

「気付いてないみたいじゃが、よだれがついておるぞ」

レリックさんは自分の口元を指さし苦笑している。

「え……よだれ?」

その言葉に目を丸くしてオウム返しをする僕にレリックさんは小さく頷く。

「あうう……」

手をあてるとネットリした何かが口元から頬にかけてついてて、急いでふき取ったけど、恥ずかしさで頭を抱えながらテーブルに突っ伏してしまう。

「可愛い寝顔でした」

「起こすのも惜しいくらいだったな」

「ちげえねぇ」

ほめられているのか、からかわれているのか、わからない言葉に、僕は突っ伏したまま悶えるしかなかった。

読了感謝です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ