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家族と隣人

翌日。

ディンさんとミーナさんとテーブルを囲んで朝食を取り始める。

玉葱を使ったスープといつものパンがテーブルにのっている。

僕が知っている時代から比べれば質素なのかもしれないけど、十分美味しくて結構好きになっていた。

食事の前にっと、

「えっと……ディンさん、ミーナさんこれからもよろしくお願いします」

僕はペコリと頭を下げる……正直ちょっと恥ずかしい。

いつかはお父さん、お母さんと呼べるようにしないとね。

二人は笑顔で頷き、

「これからもよろしくな(ね)」

改めての挨拶の後の朝食は楽しいものなった。


食事の後、外に出ながら思い出す。そういえば、リックとルックと約束はしたけどいつから出発なんだろう?

ぼんやりとどんなとこかなぁって思いながら村を歩いていると、

「よぉ」

いつものあご……もといアルゴさんが声をかけてきた。

「おはようございます」

「ご機嫌だな?何かいいことでもあったか?」

「そう見える?」

正直、家族として迎え入れてもらったことが嬉しいので顔に出てるのかな?

「そうだな……何というかいつもどこか不安そうな雰囲気を纏っていたんだが今日はそれがないな」

そういうアルゴさんもどこか嬉しそうだ。

「アルゴさんこそご機嫌ですね?」

「おう、最近ディンがすごく嬉しそうに嬢ちゃんのことを話すからな」

うん? 僕のこと?

「正直目に入れても痛くないほど可愛いんだろうな、ナナちゃんが亡くなって以来あれだけ楽しそうに話すディンを見たのは……そう嬢ちゃんが来てからだな」

アルゴさんは考えるような素振りし、僕に視線を移す。

「僕?」

言いながらもキョトンとしてしまった。

「そうだ、嬢ちゃんが来てから村の雰囲気もよくなったところが多い。まぁ一部は昨日も言ったとおりだから仕方ないがな」

アルゴさんの顔に少しの苦笑が混じる。

挨拶のたびに色々僕を気遣うような言葉をかけてくれるアルゴさんには感謝している。

「アルゴさんはいつになったら僕を名前で呼んでくれるんですか?」

「そういえばそうだな、たしかリーラちゃんだったか?」

「正解です」

名前をしっかり覚えてくれていた。アルゴさんに笑顔で応える。


「そして今日から、ミーナさんとディンさんの娘となります」

昨日のやり取りをアルゴさんに話すと……。

「そうか、ようやく吹っ切れたんだな……リーラちゃんのおかげだな」

どこか感慨深くで呟くように言うアルゴさん。

「僕のおかげ?」

首を傾げてしまう。お世話になってるだけだと思うんだけど……僕が何か出来たんだろうか?

「そうだな、リーラちゃんにはまだ難しいかもな」

そう言ってアルゴさんは、僕の頭を少し乱暴に撫でながら思い出したかのように取り出す。

「ディンに頼まれた物を持ってきたんだが……リーラちゃん受け取りな」

手渡されたのは革製のショルダーポーチ。つまり肩にかけられるタイプの小物入れ。

「え……でも頼まれ物なら代金を渡さないと……」

多分ディンさんと値段交渉はどこかでしているはずだし……。

「いらねぇな、リーラちゃんがディンの家族になった祝いだ」

なんでそんなにアルゴさんが喜ぶのかわからなかったけど、喜んでもらえるなら僕も嬉しい。

でも僕が受け取っていいのかな?

「身につけてみろ、そうしたらわかる」


アルゴさんに言われたとおり肩に紐をかけてみるとちょうど腰の辺りに小物入れが来るように作られていた。

僕の知ってる時代のような、サイズ変更のできるアジャスターなんてないからこれは僕の為に作られたことがわかる。

「アルゴさんありがとう」

僕は贈り物をすごく気に入り、精一杯の笑顔でアルゴさんにお礼をいうと、

「その笑顔好きだぜ、今日も気持ちよく仕事が出来そうだ」

アルゴさんのニッと歯を見せた笑顔が眩しく白い歯と髪の毛のない頭が光ったような気がした『キラーン』『ピカーン』という文字がみえたかも?

「ディンに言いたいこともあるし一緒に行くか」

僕は頷き、アルゴさんと一緒に僕の家へと向かった。

家の前では、ミーナさんが洗濯物を干している途中でこちらに気付き、

「あら、アゴさん、リーラちゃんも早く戻ってきたのね?」

「まったくいつになったらちゃんと呼んでくれるんだ?」

やれやれといった感じに、いつもの一言から始まる会話。

ミーナさんの視線の先にはアルゴさんのあごが……。

気持ちはわかるけど直そうよ。

「ディンはいるか?」

「まだ中に居ると思うけど何か用事?」

「ああちょっとな」

そういうアルゴさんの表情は真剣なものだった。

「僕は外にいたほうがいいかな?」

アルゴさんの表情を見てから一緒に居ていいのか判断に迷ったため聞いてみることにする。

「いやリーラちゃんも一緒に来てもらったほうがいいかな」

その言葉に頷き、僕もアルゴさんに続いて家の中へと入った。

「よぉディン」

「アルゴさんおはようございます」

朝の挨拶にしてはちょっと重い雰囲気を持ってきたアルゴさん。

「リーラちゃんを養女に迎えたそうじゃないか、ナナちゃんの事は吹っ切れたんだな?」

「ナナのことはもう大丈夫だが……」

歯切れの悪いディンさん。


そうだよねそんな簡単に忘れられないよね。

会ったこともないけど聞いた感じだと優しい子でリックとルックからも慕われてたみたいだし

「どうしてだ? 養女にまで迎えたのに……リーラちゃんではまだ不足なのか?」

「不足ってわけじゃないんだ……リーラちゃんはいい子だし、俺達の支えになってくれてはいるでも……俺達に隠していることがあるみたいなんだ」

「そうなのか?」

アルゴさんが振り向き僕に問いかける、後ろに居たせいでディンさんは気付かなかったようだ。

僕に気付いたディンさんは言った直後に、しまったという表情が顔に出る。

多分昨日のトーストの件も含んで、僕に常識を逸した何かがあったのかな。

思い当たる節はいくつかあるけれど……。

隠しているわけじゃない……ただ言って理解してもらえないから黙ってただけのこと。

隠し事といわれればそうなのかな、上手く説明できなかったり理解してもらえなかったら、頭のおかしい子みたいに思われそうだったから。

「そう不安そうな顔をするな、リーラちゃんが魔物だったりするわけじゃないんだろう?」

穏やかな口調で、僕を諭すかのように言う、アルゴさんの表情は優しいものだった。

その言葉に僕が頷くと、

「本来ならディンが正面から聞かないと駄目なんだろうがな……それでリーラちゃんは隠している事があるのか?」

アルゴさんの言葉に首を振る、隠しているわけじゃない。

ディンさんが僕に直接聞かないのは、今の関係が壊れることを恐れているからだと思う……。

「それなら、隠すつもりは無いけど、言ってないことはあるんだな?」

その問に頷く、転生前の知識や常識はここで言っても役に立たないものばかりだから。

「教えてくれないか? 俺がいないほうがいいなら席を外すが」

僕は首を振った。

アルゴさんにも聞いてもらっても支障はない……むしろ気を使ってくれるアルゴさんに聞いてもらいたいのかも知れない。

「ディン……今の話はどういうこと?」

その言葉に振り返ると、ミーナさんが心配そうな面持ちでこちらを見ていた。


僕は意を決して言うことにした。

この世界から言うと異世界での前世の記憶があること。

しかし、この体が生きてきたであろう記憶がまったくないこと。

そこは文明が栄えており、この世界よりずっと便利であること。

魔法という概念自体なく、人は道具や技術によりこの世界でいう魔法の代用をしていること。

三人は耳を傾けて真剣に僕の話すことを聞いてくれた。

この世界ではありえないであろうことばかりの内容なだけに、懐疑的な目を向けられるかと思ったけどそうはならなかった。

「……というわけです」

僕が話し終えると、皆考え込むように黙ってしまった。


僕はどうすればいいのかわからなくとまどっていると、

「リーラちゃんの世界じゃ俺みたいな職人っていないのか?」

「職種は沢山あるけど、尊敬されている人が多いですよ」

アルゴさんが疑問は、僕にとっては応えれる範囲のものでよかった。

「さっき依頼品を渡した時、リーラちゃんがすごく喜んだのはどうしてなんだ?」

「僕の世界ではオーダーメイドっていうんですけど、その人の為にだけ作ってもらうものはすごく高級なものなんです」

アルゴさんにもらったポーチを両手で抱えるように持って笑顔で応える。

僕だけに合わせて作ってもらったものだから嬉しくないはずがない。

「それじゃ俺はもしリーラちゃんの世界に飛ばされてもしっかり生きていけるな?」

ニッと歯を見せてサムズアップするアルゴさん。

「アルゴさんだったらどこでも生きていけそうだな」

ディンさんの言葉に皆から笑いが漏れる。


「それじゃ……私達冒険者ってのはどうなるのかな?」

ひとしきり笑ってしまった後に、ミーナさんが僕に質問する

「高い山に登ったり、昔の遺跡を探したり……だけどモンスターとか居ないから退治のお仕事はないかも? すごく希少でお金のある人の道楽か本当に好きでやってる人しか居ない感じかな?」

詳しいわけでもないので思いつく限りで説明すると、

「残念だなアルゴさんみたいに生きていけそうにはないな」

ディンさんが苦笑交じりにいうとミーナさんは「残念ね」と微笑み返していた。


結局は僕の取り越し苦労だったのかな?

「話してよかったなリーラちゃん」

気が付くとアルゴさんに頭を撫でられていた。

「アルゴさんのおかげで変な目で見られなくて済みました」

「そんなことはないさ、二人もリーラちゃんが嘘を付かないって分かっていたからこそ耳を傾けてくれたんだ」

アルゴさんの言葉に、ミーナさんもディンさんも頷いていた。

「リーラちゃんがどうして一人で村に来たのかが納得できたからな……どうして同族のとこに行きたくないのかと思ったら前世が俺達と同族だったからだとは思わなかったよ」

「材料が手に入りそうな知ってる料理があったら教えてね。頑張って作るわ」

ディンさんとミーナさんの言葉はいつものものと変らなかった……話を聞いてもらった上で変化が無いことが嬉しかった。


ミーナさんがふと気付いたように口を開く、

「リーラちゃんそのポーチどうしたの?」

「ディンからの頼まれ物が出来上がったからな、会ったついでに渡しといた」

アルゴさんがどうだと言わんばかりに胸を張ると同時に、ディンさんとミーナさんの視線がポーチに集まる。

「さすがアルゴさんだな……ぴったりじゃないか」

「ディン、私に内緒で頼んだわね……」

賞賛するディンさんとジト目でディンさんを睨む様に見ているミーナさん。

「す、すまん本当は一緒に渡したかったんだが……」

「まぁそう言うな、リーラちゃんを養女に迎えたんだろう? 俺からの祝いって事で代金は無しでいいぜ」

その言葉にミーナさんとディンさんは固まってしまった。

「アルゴさん……これってもしかしてすごく高いの?」

「ディンからは金貨二枚で頼まれてたからな、結構奮発したのかもな」

それを無料にするアルゴさんがすごいです、金貨二枚の価値が良く分からないけど、固まった二人を見ると高いんだろうなと思う。

「それからな、リーラちゃんから笑顔って代金もらったぜ?」

僕の笑顔にそんな価値はありません……と思いながらふと村のお手伝いでもらったお金の入った器が目に入り……。

これだけでも受け取ってもらおうとそれを手に取りアルゴさんに手渡す。

「これは?」

「お手伝いでもらったお駄賃を集めたものです、全然代金には足りないと思うけど受け取ってください」

アルゴさんは苦笑しながら、

「いいって言ってるのにな……リーラちゃんにはかなわないな、遠慮なく代金としてもらっていくぜ」

といって受け取ってくれた。

自己満足だけど受け取ってくれたのですごく嬉しかった。

「そう、その笑顔だ。やる気がでるからまたよろしくな」

自分では気が付かなかったけど笑顔になってのかな。

「アルゴさんまさかリーラちゃんを嫁にとか言うんじゃないだろうな?」

固まった状態から回復したディンさんが慌てたように言うと、

「俺があと十歳若かったらな」

笑うようにアルゴさんが返すと、ディンさんはホッとしたように「そうだよな」と呟いていた。

「それじゃこれで失礼するかな」

「アルゴさん」

「うん?」

「ありがとうございました」

僕は深く頭を下げてお礼を言うと、アルゴさんは手を振って僕の言葉に答えるようにして外へ出て行った。

僕をいつも気にかけてくれアルゴさんのおかげで、よりミーナさんとディンさんとの絆が深まった気がする。

そのことに深く感謝するのだった。


読了感謝です!

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