彼方からの手紙(中編)
※入れ替わり表現があります
フィリエルさんは広げ終えた手紙に目を落とすと、すぐに小さく目を広げて食い入るように読み始める。
その様子から、読むことは出来るみたいだけど……読み続けるにつれて、フィリエルさんの耳が垂れ下がっていく。
周りを見ると、皆心配そうな表情に変わっていて、レリックさんだけがいつも通り平然としていた。
フィリエルさんは手紙から目を離し、
「この手紙は私宛で間違いないわ」
こちらへ視線を向けながら微笑みかける。
「母上……」
シェリーさんが心配と不安が混じった表情で声をかける。
声をかけるのも仕方ないのかな……こちらをむいたフィリエルさんは顔は微笑んでいるけど少し無理をしているように見えるし、耳は気落ちしているのがはっきりわかるぐらい垂れ下がっていた。
「そんな顔しないの、手紙の内容はすぐに解決するには難しい物だっただけよ」
「そ、そうなのか? では内容を教えて欲しいんだが……」
フィリエルさんの表情からの言葉では安心できないのかな……シェリーさん相槌をうちながらも手紙の内容を尋ねる。
「手紙の内容は私にしか解決できない事なの。 今はちょっと言えないけど、ここを出発するまでには話すわ」
「……わかった。 母上がそう言うならそれまで待つ」
今は言えないというフィリエルさんの言葉に、シェリーさんは納得が行かないと言った表情で承諾した。
「レリック……」
「わかっておる。 後片付けはわしとシェリーでする。 今日はしっかり休んでおくんじゃ」
フィリエルさんが何か言い掛けたのを遮るように、レリックさんが首を横に振って答えると、
「うん……お願い」
フィリエルさんは小さく俯いて寝室へと歩いていった。
「父上……」
「恐らくあれはフィリエルの里からの手紙じゃろうな……何と書かれておるかはわからんが、出発までに気持ちを整理をして話すじゃろう」
シェリーさんの呼びかけに答えるように、レリックさんは手紙の内容を推察し、
「じゃから、深く詮索せんでやってくれ」
真剣な面持ちでフィリエルさんへの配慮を皆に求めた。
「リーラよ、フィリエルと一緒に居てやってくれんか、わしやシェリーより、今は良いと思うんじゃ」
レリックさんの提案に頷いて、皆の様子を見てみると、不安そうにするシェリーさんはガーラントさんに肩を抱かれ、レリックさんは腕を組みながらテーブルへ視線を落とし、考え込んでいる。
アルゴさんは器に水を注いで、シェリーさんに手渡していた。
その様子を見て、皆できることをやっているのだから僕も頑張らなくちゃと思い、寝室へと向かおうとしたところで、
「リーラよ」
すれ違い様に呼び止められ、思わず視線を向ける。
「さっきのフィリエルの表情は、リーラがわしに見せた物と同じじゃ。 おそらく差出人はフィリエルの家族じゃろう」
レリックさんから他の人には聞こえないぐらいの声で囁く。
家族からの手紙で気持ちを沈ませる理由……もしかして身内の人が亡くなったとかなのかな……?
想像を膨らませかけてやめる。
あれこれ考えすぎても良くないし、出発までにはフィリエルさんが教えてくれるはず。
「それじゃ行ってくるね」
「うむ、頼んだぞ」
レリックさんは僕の言葉にゆっくりと頷いてくれた。
寝室へ入ると、ベッドに腰掛けて俯いているフィリエルさんが見え、深く考え込んでるようで、僕に気付く様子はない。
僕に出来ることは……ぎゅっと抱きしめて上げることぐらいかなと思いながら近付いていくと、さっきの手紙がテーブルの上に置いてあるのが目に入る。
ふと、シェリーさんの言う読めない文字ってどんなのだろう? と興味本位で手紙を手にとって広げてみる。
え? 一瞬、僕は自分の目を疑ってしまった。
見たことのない文字のはずなのに、意味が手に取るようにわかり、読むことが出来る。
まず、久しぶりと言っておこうか。
君が里をでてからもう何年になるのだろうな。
こうして筆を取って手紙を書く日が来るとは思わなかった。
外へでる手助けをした後、どうなるのかと思ったが、
君の事は風の便りで聞いている。 幸せそうで何よりだ。
別れの際に私が言っていた事を覚えているだろうか?
里の掟を破ってしまったことは、年月が経ってしまった今はもう罪に問われないはずだ。
母が病を患い、床に伏せている。
幸い快方に向かっているので心配はないが、時折、顔を見たいと漏らすようになった。
出来れば早いうちに、里へ顔を出して欲しい。
追伸 兄として挨拶をしたいので、家族と一緒に来て欲しい。
里と交流のあるキカサ村の村長ブランにこの手紙を見せれば案内するようにしてある。
会える日を楽しみにしている。
フィリエルへ フェイより。
手紙を読み終えて、フィリエルさんの沈んだ気持ちがよくわかった気がする。
大丈夫と書いてあるとは言っても、母親が寝込むぐらいの病気をしたんだから心配だよね……。
本当はすぐにでもとんで行きたいんだろうけど、僕と一緒にランド村へ行く約束があるから、その気持ちを押し殺しちゃったのかな。
手紙をテーブルの上に戻すと、僕が近付いている事に気づかないフィリエルさんの正面からぎゅっと抱きつく。
「……リーラちゃん?」
僕の行動に驚いたのか、少し間をおいて俯いた顔を上げる。
「ごめんなさい」
自分が足枷みたいになっていると思うと、申し訳ない気持ちになり、謝ってしまう。
「どうして謝るの?」
不思議そうに返すフィリエルさんに、
「だって……僕とランド村に行くから、病気のお母さんに会いにいけないんでしょ」
自分なりに手紙の内容とフィリエルさんが沈んだ理由を考えて答える。
「リーラちゃん……もしかして……」
「うん……あの手紙は僕にも読めちゃった」
驚いた表情で恐る恐る問いかけるフィリエルさんに、僕は頷いて答えた。
少しの間、お互いに無言の時間が続き、フィリエルさんが額に手を当てて深いため息を吐いて、
「まさか、リーラちゃんが読めるとは思わなかったわ」
困ったような苦笑いを僕に向ける。
「ごめんなさい。 気持ちを整理するのを待てば良かったんだけど、言わずに居られなかった……」
しゅんとして再び謝る僕に、
「私が心配させるような行動を取ったから……謝るのは私の方よ、ごめんなさい」
フィリエルさんは首を横に振って僕に謝る。
「それに、リーラちゃんが負い目を感じる必要はないの」
「え……?」
思いがけない言葉をかけられて、目を丸くして見つめ返してしまう。
「この手紙をこうして読めるのも、リーラちゃんのおかげなの」
続けてかけられる言葉に困惑してしまい、
「僕のおかげ?」
思わず聞き返してしまう。
「そうよ、リーラちゃんがシェリーの傷を治してくれなかったら、この手紙は届かなかったはずよ」
フィリエルさんは小さく頷いて、その理由を説明してくれる。
つまり……シェリーさんを治療したからこそ、ガーラントさんの所へ行くことになって、手紙の受取人の名前を判別できたということかな。
「だから、手紙を読めただけで私は十分なの」
そう言うフィリエルさんの表情は優れないもので、無理をしているように見える。
やっぱり、病気のお母さんの事が気になるのかな……快方に向かってると書かれてても心配だよね。
里を捨てたはずのフィリエルさんに会いたいって手紙が来たんだから……。
「先にフィリエルさんの故郷に行こう。 ランド村へ行くのはその後でもいいはずだよ」
僕は予定の変更をフィリエルさんに提案する。
ディンさんとミーナさんに会える日が遅くなるのはちょっと辛いけど、それよりもこんなに沈んでいるフィリエルさんを見続ける方がもっと辛いからね。
「そう言ってくれるのは嬉しいけど……だめよ、リーラちゃんは二ヶ月も待ってたんだから、ランド村へ行く方が先よ」
僕の提案に頷きかけたけど、すぐに首を横に振って提案を退ける。
やっぱり簡単には頷いて貰えないみたい。
「一応僕もエルフだから……エルフの村を見てみたいな。 里がない僕にはそんな機会はないからね」
僕自身の希望として行きたいと言ってみる。
行ってみたいのは嘘じゃないし、知っておいた方が後々良いと思うしね。
「それならランド村へ行った後でもいいでしょ?」
フィリエルさんは当初の予定を変更する必要はないと首を横に振る。
その通りだけど……。
「それじゃ駄目!」
自分でも驚くほど大きな声で返してしまう。
「ど、どうして?」
フィリエルさんは僕の声に驚いて小さく体を竦ませ、怖ず怖ずと尋ねてくる。
「心配無いって書いてあっても、行かなきゃ駄目!」
強い調子で迫る僕に、フィリエルさんは目を丸くする。
「だって……僕みたいに……急に家族と会えなくなる事になるかもしれないんだよ……」
つまりながらも、なんとか自分の考えを伝える。
言ってしまった後に自分の事を再認識してしまったのかな……急に自分の中で不安が広がってしまい、温かさを求めるように、フィリエルさんに力一杯しがみつく。
「リーラちゃん……」
どこか困ったように僕を呼ぶ声が聞こえ、背中に腕を回され、頭を軽く胸へと押さえつけられる。
フィリエルさんの胸に顔を埋めるようになり、伝わる温かさに反応するようにじんわりと染み出す涙が衣服を湿らせていった。
僕の命が急に消えたように、フィリエルさんのお母さんの病気が急に悪くなる事だってあるかもしれない。
そんなことになったら、フィリエルさんはずっと後悔することになると思うから……。
最後は尻すぼみになっちゃったけど……僕の気持ちは伝わったよね。
「……わかったわ」
僕の中にあった不安が消えていったのを見計らうように、上からこぼれ落ちてきた言葉に、がばっと顔を上げると、苦笑いのフィリエルさんが見える。
「ランド村に着いたら、ディンさんとミーナさんに遅れたことを謝らないといけなくなったわね」
「うん、僕も一緒に謝るね」
悪戯っぽく言うフィリエルさんに、僕は小さく笑って頷いた。
フィリエルさんの言葉から、僕のお願いを聞き入れてくれたことがわかって嬉しい反面、僕がお願いしたこととはいえ、ランド村への到着が遅れてしまう事を、申し訳なく思って心の中で二人に謝った。
「喜ぶのは少し早いわよ。 レリック達の了承も得ないといけないわ」
「あ……」
フィリエルさんに指摘されて気づく。
二人で行くんじゃないから……そうだよね。
「明日にでも話しておけば大丈夫かしらね。 私だけの意見で変えて欲しいというのなら難しいかもしれないけど、リーラちゃんから言ってくれたことなのだから大丈夫なはずよ」
他の人の意見を忘れてて肩を落としかけた僕に、フィリエルさんは人差し指をあごに当てて少し考えて、問題なさそうと答えてくれる。
「そうなの?」
「ええ、リーラちゃんの為に皆同行するのよ。それに手紙の内容から危険があるという訳でもないから大丈夫なはずよ」
聞き返す僕に頷いてくれた。
抱擁を解いて、フィリエルさんの隣に座ると、
「まさか、リーラちゃんがあれだけ強く言ってくるとは思わなかったわ」
「その後、泣いちゃったけどね」
さっきの事を思い出したのか、眉をハの字にしたフィリエルさんに苦笑いで言われ、僕も苦笑いを返す。
正直自分でも驚いてたし、それだけ自分が強く思ってたのかも。
「そうね……私もリーラちゃんぐらいの頃はよく母に泣きついてたわ。 さっきのリーラちゃんみたいにね」
昔を懐かしむように話すフィリエルさんに、
「そうなんだ……泣き虫だったのかな?」
相槌を打ちながら尋ねてみる。
「その頃は色々あって感情がすごく不安定だったの。泣き虫と言われても仕方ないぐらい泣いてたわね」
当時を思い出しているのかな? 小さく苦笑いが混じってる。
「という事は、当時のフィリエルさんは今の僕によく似てるのかな」
何の気なしに思いついた事を口にすると、
「ええ、髪の長さを除けばよく似ていると思うわ」
それに頷いてくれた。
「昨日はシェリーと一緒に寝て貰ったけどよく眠れた?」
「うん、よく眠れたけど、夢が原因で『お婆ちゃん』と言ったみたいでデコピンもらっちゃったけど」
ふと思い出したようなフィリエルさんの質問に、指で弾かれた場所を手のひらでさすりながら答えると、苦笑いを返してくれた。
「お婆ちゃん……か。 シェリーにも私の家族に会わせる良い機会なのかもしれないわね」
どこか遠くを見るような目で天井を見つめるフィリエルさん。
手紙には家族と一緒にってあったし、フィリエルさんのお母さんに会いに行くのだから、シェリーさんから見ればお婆ちゃんに会うことになるのかな。
「フィリエルさんのお母さんってどんな人なの?」
手紙を読んだときから気になっていた事を聞いてみる。
フィリエルさんのお母さん……やっぱりフィリエルさんみたいに優しいのかな?
「どんな時でも私の事を考えてくれて、味方で居てくれたの」
そう話すフィリエルさんはすごく嬉しそうで、どれだけお母さんの事が好きであったのかが伝わる。
「手紙が来るまで思い出すことは無かったけど、母に甘えてた頃が懐かしいわ」
「会いにいくんだから、そのまま甘えたらいいと思うけど?」
続けて呟くようなフィリエルさんに、首を傾げながら思ったままを述べると、
「そうね、リーラちゃんぐらいの年なら素直に甘えられると思うけど……それをするにはちょっと年齢を重ねすぎたわね」
フィリエルさんは苦笑いを浮かべて小さく首を横に振った。
大人になると甘えるのが恥ずかしくなったりするのかな? 前世の事を思い出してみても、自分の両親が今の僕のように甘えている場面をみた覚えはないもんね。
僕ぐらいの年齢なら甘えられる……か。
それなら、あの魔法を使えばできるかも。
「今でも甘えてみたいと思う?」
「できるなら、甘えてみたいかな」
僕の質問にフィリエルさんは小さく微笑んで答えてくれる。
フィリエルさんがそう思ってるのなら、
「甘えやすくしてあげるね」
「えっ?」
フィリエルさんは僕の言葉の意味を掴みかねたのかな、きょとんとする。
それを身ながら十字架の木製の部分を取り外して、両手で覆うように握りしめる。
そして、あの時と同じように念じると、十字架が応じるように輝いて、それと同時に視界が暗転した。
目を開くと、すぐそこに目を閉じたままの『僕』が見えるのと同時にちょっとした疲労感が押し寄せてくる。
十字架が魔力の消費を押さえてくれたみたいだけど、パンを温めるのに使った分消耗してたのかな。
前回使ったときより体への疲労感が強いかも。
『僕』が少しずつ目を開き、
「……私?」
ぼんやりとした口調で首を傾げる。
そして、少しずつ目を見開いていって、
「リーラちゃん?」
『僕』が僕を指さしながらの質問にゆっくりと頷いた。
「ど、どうして?」
戸惑った様子の『僕』に、
「僕ぐらいと年なら素直に甘えられるって言ってたからかな」
理由を簡潔に説明する。
「それだけの理由で……魔法を使ったの?」
僕の説明に、『僕』からは戸惑いのが消え、怒りを含んだような冷たい言い方を返される。
「仕方ないわね」とか「もう……」という風に、苦笑いか少し呆れられるように返される事を予想してただけに、戸惑いを感じながら、
「う、うん」
ぎこちなく頷いた。
あ、あれ……もしかして不味いことしちゃったのかな。
そう思った矢先に、『僕』の眉が次第につり上がっていき、
「リーラちゃん!」
叱るような呼び方にビクッと怯んでしまう。
「私を想っての行動なのはわかるの。 でも私の意志の確認はどうしてしないの! 前回の事は仕方ないけれど、今回は一言あってもいいはずよ」
「あう……ごめんなさい」
強い調子で『僕』に叱られて肩を落としてしまう。
……そうだよね。
前回はフィリエルさんが目を覚ます前に終わらせるつもりだったもんね。
意志の確認とか一言言っておくべきだよね。
「それにね……シェリーにガーラントさんが居るように、私にはレリックがいるのよ。 ちゃんと自分から甘えられる相手が居るの」
そこで一回区切って、『僕』は大きなため息を吐くように一息吐いて続ける。
「母親に甘えるならリーラちゃんぐらいの時が一番甘えやすかったって意味で……これ以上言っても仕方ないわね。反省してるようだからお説教はこれで終わりね」
言いたい事を言い切って気が済んだのか『僕』は表情を緩めていく。
前回入れ替わったと時に、レリックさんにキスされて抱き締められた事を、今更ながら思い出してさらに肩を落として俯いてしまう。
「お小言が過ぎたかしらね」
「ううん。 僕が確認しなかったのが悪いから」
苦笑いになる『僕』に首を横に振って答える。
「自分を相手に叱るのって不思議な気分だわ」
「僕も自分に叱られるのは不思議に感じたよ」
小さく肩をすくめる『僕』の言葉に、苦笑いで同意する。
確かにこれはこれで、貴重な体験なのかも。
そして、『僕』は頬に手のひらを当てて思案顔になると、
「それなら……折角だから甘えても良いかな?」
僕の顔を覗き込むようにして尋ねてくる。
「うん、勿論だよ」
願ってもない言葉にすぐ頷いた。
「えっと、この前みたいにぎゅっとしたらいのいかな?」
「うん。お願いね」
僕の質問に『僕』は頷いて微笑んでくれる。
できるだけ要望に添えれるようにと、軽く抱き寄せてから少し強めに抱き締める。
これでいいのかなと、『僕』の顔を覗き込んでみると心地よさそうに目を細めている。
「この感覚……母親に抱き締められていた時の事を思い出すわ」
「前の時も同じような事を言ってたね」
『僕』から呟くようにこぼれた言葉に相槌を打つ。
「確か……その後に『兄さん、母さん元気にしてるかな』って言って眠っちゃったんだよね」
続けて思い出しながら呟くと、
「そんな事言ってた?」
『僕』は顔を上げて、僕を見上げるようにして目を丸くする。
言った覚えが無いって事は無意識に言ってたのかな。
「うん、聞き返そうとしたら眠っちゃってたよ」
質問に頷いて返すと、
「そっか……」
『僕』は俯くようにして胸に顔を埋めて強く抱き締めてくる。
僕の伝えた言葉に何か思うところがあったのかな。
力強く締め付ける力に応えるように、片腕で優しく抱き締め、片手で撫でるように手櫛で髪を梳いていく。
自分の体だけに、どうしたら心地よく出来るのか手に取るようにわかる。
しばらくの間ゆっくりと髪を梳き続けていると、締め付ける力が急に抜けていく。
耳を澄ませば規則正しい呼吸の音が聞こえてきて、視線を下げると僕に体を預けるようにして『僕』が心地よさそうに眠っていた。
明日になればいつものフィリエルさんに戻ってくれるといいな。
僕の軽率な行動で怒られちゃったけど、結果的にはうまくいったと心地良く眠る『僕』を見て思う。
ほんのりと胸の奥底に感じる温かい気持ちは、フィリエルさんの体からこそ感じられるものなのかな。
「あ……」
ふと思い出した明日の予定に、『僕』の髪を手櫛で梳く手が止まる。
皆の前で新しい十字架の効果を試す事が出来なくなっていることに今更ながら気づき、思わず頭を抱えてしまう。
このまま一緒に寝てしまおうと思ってた気持ちをなんとか切り替え、『僕』を起こさないようにベッドに寝かしつける。
入れ替わっていることを皆に隠すことでもないけど……余計な心配をかけたくないし……。
「とりあえずレリックさんに相談しようかな……」
自分の軽率な行動に小さくため息を吐いた。
読了感謝です