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朗報

「お帰りなさい、その様子だとうまくいったみたいね」

「ああ、これも父上、母上……そしてリーラの後押しのおかげだ」

シェリーさんはフィリエルさんの言葉に応えるように、こちらに向けて柔らかい微笑みを返す。

何だろう……今が幸せなのかな? ここを出発する時よりも笑う表情が柔らかく見える。

「レリック殿の姿が見えないようですが、どこかに出かけられてるのですか?」

ガーラントさんが中を少し見渡した後に尋ねる。

レリックさんに何か用事でもあったのかな?

「レリックならアルゴさんと一緒に工房にいると思うけど……」

「アルゴ殿が到着されていたのですか」

フィリエルさんの回答は新しい情報をもたらしたのか、アルゴさんの名前に反応する。

「ランド村からの迎えがもう来ていたのだな……すまない、約束した日より早く戻ってきたが待たせてしまったな」

「ううん、職人さんが納得するまで出発の準備もできないと思うから大丈夫だよ」

待たせたことを謝罪するシェリーさんに首を横に振って出発がまだ先であることを伝える。

「レリックに何か用事があるのかしら?」

脱線しかけた話を戻そうとするフィリエルさんの一言に、

「レリック殿だけではなく、フィリエル殿にもお話があります」

ガーラントさんは真剣な表情で返す。

「私にも?」

人差し指で自分を指さしながら、きょとんとした表情のフィリエルさん。

二人に話ってなんだろう?

シェリーさんの両親にガーラントさんが話があるということは……夫婦になった事の報告かな?

二人一緒に来てるってことはそうだよね……そう思って胸を撫で下ろした。


「ガーラント曰く、父上と母上に認めて貰ってこそ、よい夫婦になれるそうだ……勧められて行ったのだから改まって許可を求める必要はないと思うんだがな」

話の内容を説明すると肩をすくめて苦笑する。

シェリーさんにとってはガーラントさんのやり方が真面目すぎるのかな?

「そんな事言わないの。しっかりと手順を踏んでいく真面目さが好きなんでしょ?」

「は、母上その言い方はずるいぞ」

フィリエルさんが苦笑いで窘めると、シェリーさんは図星を突かれたのか慌てて返す。

やっぱりお母さんだ。 娘のことをよくわかってる。

いいなぁ……目を細めてその光景を見つめていると、僕の視線に気付いたのかシェリーさんが近づいてくる。

「リーラの後押しもあったおかげでうまくいった。 ありがとうな」

そう言って僕を抱きしめながら、

「チョコレートの事を私が誤解していることを知りながら、黙っていたな?」

耳元で囁いた後、他の人には見えないように僕を睨みつける。

「あう……ごめんなさい」

やっぱりそれで苦労しちゃったんだ……そう思い、肩を落としてしまう。

「ふふ、冗談だ。 私が誤解してたおかげでうまくいった部分もあるからな……それにリーラにも事情があったのだろう?」

シェリーさんは表情を一変させて僕へ微笑みかける。

それに答えるように僕が頷くと、

「無理に聞こうとは思わないが、何時か話して欲しい。 私に何か出来るならば喜んで手伝うからな」

シェリーさんの真剣な物言いに僕は再度頷いた。


「シェリーとガーラントさんは夕食を取ったの?」

フィリエルさんが思いついたように口を開くと、呼ばれた二人は首を横に振る。

「食事を作るわね。少し時間がかかると思うからゆっくりしててね」

「あ、僕も手伝うよ」

奥に行こうとするフィリエルさんについていこうと立ち上がると、

「私が手伝おう、リーラはガーラントの話し相手になってくれ。母上に習う事が沢山あるからな」

シェリーさんは僕の両肩に手を置いて座らせる。

その様子をフィリエルさんは少し驚き、ガーラントさんは嬉しそうにシェリーさんを見ていた。

習う事が沢山あるってことはガーラントさんの為なのかな?

ふっと、前世で母が祖母に料理の教えて貰っている光景が蘇り、僕もミーナさんやフィリエルさんに習うようになるのかなとぼんやり思った。

二人が奥へと入って行き、ガーラントさんと二人っきりになる。


しばらくの間、沈黙が続いてしまう。

話したいこと、聞きたいことは沢山あるけど、いざ口を開こうと思っても考えがまとまらない。

そんな事を考えているうちに、ガーラントさんが先に口を開き、

「シェリー殿の腕の怪我を治したのはリーラ嬢ですね?」

真剣な面持ちで僕に問いかける。

その言葉に僕は瞳は大きく見開いてガーラントさんを見返す。

以前、ここを訪れたときはそんな事を全く言わなかったのに……。

どうしてシェリーさんが腕を怪我をしていたことを知っているの? 

「怪我の事を黙っていたのは、シェリー殿が自分で報告するべきだと思ったからです」

僕の疑問をわかっていたかのように答えるガーラントさんに戸惑ってしまう。

多分ガーラントさんは僕が治した事を確信してるよね……それでも尋ねるのは確認しておきたいのかな?

色々な考えが頭を過ぎるけど、僕の回答をじっと待っているみたいだから答えなきゃ駄目だよね。

「ガーラントさんの思ってる通り、治したのは僕だよ」

意を決して質問に答えると、

「リーラ嬢の魔法の事は聞いていたので、そうだと思いました」

僕の回答に納得したように頷いた。

「では、シェリー殿もリーラ嬢の魔法の事を知っているのですね?」

新たな質問に僕が首を振ると、宛が外れたように首を傾げる。

「えっとね……」

ガーラントさんの疑問に答える為に今までの事を伝える。

シェリーさんが帰ってくる少し前にわかった新たな魔法。

その魔法を使って僕の魔法の事を隠すように怪我を治したこと。

その為にシェリーさんはフィリエルさんに宿った人に治して貰ったと理解していることを伝えた。


「なるほど……だから私がリーラ嬢にチョコレートを贈った理由を伝えなかったのですね」

ガーラントさんは腑に落ちたように穏やかな表情を返す。

「うん、そのせいで色々あったみたいだね」

「ええ、『リーラを将来の伴侶としてみているか』と言われて絶句してしまいました」

困ったように苦笑を浮かべるガーラントさんの返答に思わず「あう……」と声を漏らし、思っても見ない誤解へ発展しかけた事に申し訳なく思ってしまう。

「気に病む事はありません。 それが私の気持ちを伝えるきっかけにもなりましたから」

ガーラントさんは僕の目線にあわすように屈んで首を振る。

「うん……ありがとう」

うまくいったから気にしなくて良いと言ってくれるガーラントさんに頷いて見せると、小さく微笑んでくれた。


「シェリー殿にはこのまま内密にするのですか?」

何時か来ると思ってたガーラントさんの言葉に僕は首を横に振って、

「ううん、機会を見て話そうと思う……家族と思ってくれてる人に黙ったままなのもね」

「シェリー殿なら他人に話す事はないでしょうが……」

ガーラントさんは僕の方針に賛成しつつも歯切れの悪い回答をする。

夫婦間の秘密を取り除く事になるから喜んで賛成すると思っていたけど……何か懸念があるのかな……。

「不安そうにしないで下さい。打ち明けることに関しては賛成なのです。しかし、シェリー殿が受ける衝撃を考えるとタイミングが難しそうです」

「あっ……」

言われて気がつく。

打ち明けると言うことは……。

瀕死になったレリックさんを治療。

シェリーさんの怪我を治療。

ネックレスの魔力は僕が込めたこと等々。

それぞれ十分な衝撃になるよね……。

これを伝えるのかと思うと、思わず頭を抱えて俯いてしまう。

「まぁ、何とかなるでしょう。 シェリー殿もおそらく疑問に思っている部分もあるでしょうし、何よりリーラ嬢が治してくれたおかげで夫婦になる誓いも立てられました」

不意に僕の上に手の平が乗せられた感覚が伝わって来て、

「リーラ嬢には生涯頭が上がらない気がします」

手の平が緩やかに動かされ、撫でられる心地よさが伝わってくる。

心地よさに浸りながら、ふと湧いてきた疑問を口にする。

「もし僕が怪我を治さなかったらどうなってたの?」

言ってしまった後に気付き、口を手の平で覆う。

自分が治せるからの発言で……失言でしかなかった。

「ごめんなさい……」

しゅんとして謝ると、ガーラントさんは首を振って、

「あの傷は綺麗に治らないのが普通です。謝る必要はありません」

僕へと微笑みかける。

「元より薬草を買い集めてはここへ通うつもりでした。リーラ嬢とあの時お話しした通り、シェリー殿には結婚を申し込むつもりでした。勿論怪我の事を知った上でです」

僕の質問に気を悪くした風でもなく、淀み無く答えてくれる。

「ただ……リーラ嬢が怪我を治さなかった場合は、シェリー殿は腕の怪我を持ち出して『私より良い相手がいるだろう』と求婚に応じなかったかもしれません」

ガーラントさんはそこで一息入れて、

「しかし、応じるまで諦める気はさらさらありませんでしたよ」

心地よい微笑みを僕に向けてくれる。

始まりは僕の失言だったけど……ガーラントさんのシェリーさんへの想いがすごく伝わってきて、感動する思いだった。

「シェリーさんはレリックさん以上の人をしっかり捕まえたんだね」

「リーラ嬢にそう言ってもらえると心強いです」

思わず漏れてしまった言葉にガーラントさんは照れたように笑う。

「そんなところに立ち止まってどうしたの?」

不意に声のした方へ視線を向けると、不思議そうな表情をしてお鍋を持っているフィリエルさんと、パンが積められた籠を持ったままゆっくりとへたり込んでいくシェリーさんが居た。

もしかして……二人で話している事を聞かれてた!?


思わずガーラントさんと共に駆け寄ると、シェリーさんは気落ちしたように俯いてしまい、フィリエルさんは首を傾げながらも心配そうに見ている。

「寝室へお連れします。リーラ嬢はこれをお願いします」

ガーラントさんは僕にパンの籠を渡すと、シェリーさんを抱え上げ、お姫様だっこして歩き出す。

シェリーさんはその行動に驚いたような表情を浮かべるけど、抵抗することなく再び俯く。

渡された籠はほんのりとした温かさを感じるだけで、それなりの時間が経っているとわかる。


どこから聞いていたのかな……シェリーさんの様子からかなりの衝撃を受けているみたいだし……。

何時かは話そうと思っていたことだけど、聞かれているとは思わなかったよ……。

ガーラントさんの後ろをついて行く足取りは重くて、思わず溜息を吐いてしまう。

「リーラちゃん……」

僕と一緒に歩きながらフィリエルさんは心配そうに名前を呼ぶ。

フィリエルさんの気遣いは嬉しいけど今は……。

「僕よりもシェリーさんを見てあげて」

「……わかったわ」

首を横に振って伝えると、フィリエルさんは思案顔になり、少し間を置いて頷いてくれた。

これからシェリーさんが受けるだろう衝撃を考えると不安になるけど、伝える機会が巡ってきたと思うことにしよう。


ガーラントさんは寝室に入ると近くにあるベッドにシェリーさんを座らせる。

「……すまない」

「気分が優れないようでしたら少し眠られる事を勧めますが……」

ガーラントさん提案にシェリーさんは軽く目を瞑って首を横に振る。

「そうですか……どのあたりから聞かれていたのですか?」

「私に内密にするのかというあたりからだ……」

シェリーさんは表情を暗くしたままガーラントさんの質問に答える。

ということは治療した『フィリエルさん』が僕であることを察しているのかな?

「私だけが何も知らなかったのだな……」

シェリーさんが俯いたまま自嘲めいた言葉を呟くように口に出す。

言葉のやりとりから状況を察したフィリエルさんがシェリーさんへ近づき、正面から抱きしめる。

「母上……?」

「黙っていてごめんなさい」

シェリーさんはぼんやりとした目で謝罪するフィリエルさんを見つめていた。


どのくらい時間が経ったのかな……お鍋から湯気が立たなくなった頃にシェリーさんから「母上……ありがとう」少しだけ調子を取り戻した声が聞こえる。

フィリエルさんが優しく抱きしめ続けた結果、落ち着いてきたみたい。


「リーラが良いと思うなら隠していることを話してくれないか?」

「シェリー殿……」

そう言うシェリーさんの顔色は良いとは言えない……声をかけるガーラントさんは心配そうに見つめている。

「心配しなくても大丈夫だ。 私なりに覚悟はしているからな」

そう言って返すシェリーさんの微笑みはすこしだけ無理をしているように見える。

いいのかな……と思いつつフィリエルさんへ視線を向けてみると、

「リーラちゃんの思うようになさい。 気持ちの中ではもう決まってるんでしょ?」

僕の心の中を見透かしたような言葉と微笑みを返してくれる。

『頑張ってね』そう言われた気がした。


「少し長くなるかもしれないけどいいかな?」

僕の言葉にシェリーさんはゆっくりと頷いてくれた。


意を決して僕はぽつりぽつりと話し始める。

魔力が尽きかけたフィリエルさんの代わりに魔法を使って倒れたこと。

僕を庇って瀕死になったレリックさんを治療したこと。

魔法を使ってフィリエルさんと入れ替わってシェリーさんを治療したこと。

他にも伝えたいことはあったけど、僕の魔法の事はこれで伝え切れたと思う。


「そうか……」

僕の話を聞き終えたシェリーさんはどこか落ち着いた様子だった。

立ち聞きしていた分、予想がついたのかな?

そんな事を考えながらシェリーさんの言葉を待つ。

本当は機会を見て話すつもりだったけど……なんというかこれも一つの機会なのかな。

でも話し終えたからなのかな、何を言われるかわからない不安はあるけど、なんだかすっきりした気分。

隠し事をしてた事が心苦しかったのかも。

「近くに来てくれないか?」

シェリーさんの言葉の意図がわからなくて首を傾げてしまう。

断る理由も無いので言われるがまま近づいていくと、不意にシェリーさんに抱き寄せられる。

「知らぬ間に私はリーラに助けられていたのだな」

いろんな感情が交じったシェリーさんの笑顔に言葉が詰まり、ギュッと強めに抱きしめられる感覚に、少しあった不安が解消されていく。

正直、話さなかったことを怒られるかもと思ってたからね。

シェリーさんは不意にハッと気付いたように表情を変える。

「リーラに腕を治療して貰ったという事は……あの時の母上は……」

「僕……」

シェリーさんはその時の事を思い出したのか、独り言を言うかのように呟く言葉に相槌をうつ。

「自分の胸の大きさで相談したのも……」

「僕です……」

続く言葉にも相槌うつと、シェリーさんは大きく溜息を吐いて、

「私はあの時リーラに慰められたり相談していたのか……」

がっくりとうなだれて抱擁を解く。

「ごめんなさい……で、でもあの時は『フィリエルさん』として振る舞ってたから……」

その様子を見て思わず謝ってしまう。

母親だと思って話した事なのに、中身は僕だった事がショックだったのかも……確かに十二歳ぐらいの僕に相談する事じゃないよね……。

「しょげないの。あの時は私もしっかり聞いていたし、リーラちゃんの返答は私とそう変わらない物だったわよ?」

気付けなくても仕方ないといった感じにフィリエルさんが慰めの言葉をかけ、シェリーさんの頭を撫で始める。

「し、しかし……」

口では不満そうにしているけど、撫でられるのが心地いいのか表情は柔らかい。

「リーラちゃんは言ってないけど……シェリーを治してくれたのは自発的なもので、私もレリックも頼んでは無いの」

フィリエルさんは困ったような笑顔で話し続ける。

「あと、シェリーがここを出発するときにリーラちゃんがどうして調子悪そうにしていたと思う?」

「それは……」

フィリエルさんの問いかけにシェリーさんは何かを言いかけて、ハッと何かに気付いたように目を見開いて僕を見つめる。

「まさか……魔力を込めたからなのか?」

質問に頷くことで答えると、シェリーさんは力なく頭をさげてしまう。


その様子を見かねたのか、フィリエルさんはシェリーさんの後ろから肩を抱き締めて、

「思うところは色々あると思うけど……シェリーが知りたいと望んだのよ?」

覗かせる顔は優しく微笑んでいる。

僕も沈んでいるように見えるシェリーさんに何か出来ないかなと、力一杯正面から抱きしめる。

「私は落ち込む暇も貰えないようだ」

溜息混じりの聞こえる声に見上げると、困ったように笑うシェリーさんが見える。

言葉通り、表情から沈んでいるようには見えないから大丈夫なのかな。

僕がしたことが効果があったのかはわからないけど、目的は達成されたからちょっとした満足感はあった。

「落ち込んだシェリー殿を慰めさめる役目は私がしたかったのですが……」

目を細めてガーラントさんがこちらを見ていて、

「リーラ嬢とフィリエル殿の方が効果がありそうなので少々妬けます」

どこか残念そうだった。


「二人ともありがとうな」

しばらくの間続いた抱擁を解くと、シェリーさんは小さく微笑む。

「あれほど気落ちしたシェリーを見るのも久しぶりね」

「し、仕方ないだろう。知れば知るほどリーラに頭を上げられなくなるような内容だったからな」

懐かしむように指摘するフィリエルさんに、シェリーさんは拗ねたようにそっぽを向いてしまう。

「なぁ、ガーラント」

「何でしょう?」

小さく溜息を吐きながら、相手の名前を呼ぶ。

「恩に報いるためにランド村へ同行したいのだが……」

「わかりました。 出来れば一年以内に戻って頂けると嬉しいです」

シェリーさんがおずおずといった感じに尋ねると、ガーラントさんは言われることを予想してたのか表情を崩さずに答える。

「い、いいのか?」

シェリーさんは慌てながら確認するように尋ねる。

すぐに良い回答が貰えると思ってなかったのかな。

「ええ、リーラ嬢の存在がなければ、夫婦になることすらかなわなかったかもしれませんから」

問いかけに微笑んだまま理由を答えるガーラントさん。

長い付き合いだからお互いのことをよくわかってるのかな。


二人のやりとりを見守りながらふと気がつく。

「えっと……今の話からすると僕がランド村へ行く時にシェリーさんも一緒に行くってこと?」

「ええ、私も一緒に行きたいところですが今の場所を離れるのは難しいので」

僕の質問にガーラントさんが答えてくれる。

表情は微笑んでいるたけど、本当に一緒に行きたそうな口振りだった。


「そ、そんなの駄目だよ……」

僕は両腕を前に出して左右に振る。

折角夫婦になれたのに、僕の為に離れて暮らすなんて……。

「私が行くとまずいことでもあるのか?」

「そ、それは……」

不思議そうに問い返すシェリーさんへ返す言葉に詰まってしまう。

正直に言えばシェリーさんが一緒に来てくれることは嬉しい。

それに夫婦で納得のうえで来てくれると居てくれてるけど……。

やっぱり夫婦になったばかりなのに離れ離れはになるのは良くないと思うし……。

前世の僕の両親も一緒にずっと暮らしてたし、フィリエルさんとレリックさんだって一緒に暮らしてる。

でも、このままじゃ僕がシェリーさんを毛嫌いして同行をしないで欲しいといってるみたいになる。

このままじゃだめ……何か良い理由を探さないと……自分の中で必死に考えて思いつく。

そうだ! これなら多分大丈夫なはず。

「シェリーさんはレリックさんが見たがってる孫を生まないといけないの!」

一息に言い切ると、三人ともポカーンとしていて、その反応に僕は焦りを覚えてしまう。

あ、あれ……確かレリックさんは見たいと言っていたし……それで結婚も迫ったはずだよね……。

その時の会話を思い出しながらも、思ってもみない反応に不安が広がる。

「そ、そうかリーラは私が子を授かる可能性があるから一緒に行かない方が良いと言うんだな」

「う、うん」

ちょっとぎこちない回答するシェリーさんに急いで頷く。

わかって貰えたみたい……ホッと胸をなで下ろそうとしたところで、

「シェリー殿との子作りはまだ始めておりませんので大丈夫です」

ガーラントさんは苦笑を交えて僕の欲しくない回答をくれた。

望んでるのはその答えじゃないとは言えず頭を抱えてしまう。

「リーラは私と同行するのが嫌なのか?」

僕の様子を見てシェリーさんは表情を曇らせる。

俯きながら首を横に振ってそれを否定すると、

「ならどうして拒もうとするんだ?」

シェリーさんは訳が分からないといった感じに僕に問いかける。

理由は僕のわがままだってわかってる。

でも……夫婦になってすぐに一年ぐらい離れてしまうなんてやっぱり駄目。

電話もないし、手紙だって沢山時間がかかるこの世界だから、どこにいるかも、何時帰ってきてくれるのかわからない不安はやっぱりあると思うし、その間に寂しくなって他の女性と仲良くしたら困るもん。

ガーラントさんなら大丈夫だとは思うけど……。

この考えを真っ直ぐに僕を見据えているシェリーさんにどう伝えたらいいんだろう……。

途方に暮れそうになりかけていたところで、思案顔で様子を見守っていたフィリエルさんが口を開く。

「気持ちは分かるけど、そんなに見つめちゃうとリーラちゃんは萎縮してしまうわよ」

間に入って視線を遮ると、

「大丈夫、今考えていることを素直に話せばいいの。 それでシェリーが怒ることなら私も一緒に謝ってあげるから」

屈んで僕に視線を合わせて、両肩に手を置いて優しく微笑みかけてくれる。

フィリエルさんの言葉に従って、ぽつぽつと考えていたことを話し始める。

同行すると言ってくれた事は嬉しい。

でもそのせいで、二人の中が悪くならないか心配である事。

二人で同意していただけに、正直に言い辛くて、レリックさんと話していたことを持ち出して同行を諦めて貰おうとしたこと。

包み隠さず自分なりに話し終えると、

「ごめんなさい」

俯くように頭を下げて謝った。

素直に言えなかった事で誤解をさせる部分が合ったと思うし、それで怒られても仕方ないと思う。

二人一緒に居て欲しいというのは僕のわがままだから……。


小さく息を吐く音が聞こえた方へ視線を向けると、

「私のことを考えてくれるのは嬉しいがな……」

眉をハの字にして苦笑するシェリーさんが見える。

怒っている様子でもないって事は呆れられたのかな……。

「だが、それは杞憂にすぎない。ガーラントと私は他の人が考えられないくらい視野が狭いからな」

「えっと……どういう意味?」

心配しなくても良いというシェリーさんの言葉に僕は首を傾げてしまう。

何となく意味はわかるけど……。

「お互いしか見えてないと言うことさ」

僕の質問に答えながらシェリーさんは服の襟を手前側に少し引っ張り、銀色の鎖を掴んで持ち上げていくと、服から金色の十字架が出てきて僕の視界を遮るように掲げる。

高価だとは思うけど、これを見せる意味があるのかな?

僕に見せる意図がつかめないまま、それを見つめ続けると、

「これはガーラントが私に夫婦となる誓いを交わした証としてくれたものだ」

嬉しそうに顔を綻ばせて、僕に説明する。

その表情から、貰ったときの嬉しさを感じさせる。

「ガーラントのような質素な生活を心がける者が高価な物を贈ると言う事は……それだけ私を大切に想っているという事だ」

「その通りですが……この場で言われると少々照れくさいです」

言い終えたシェリーさんにガーラントさんが苦笑いを向ける。

僕を説得する為なのだろうけど……二人の結びつきの強さを知る上で聞いてよかった。

「これでリーラの心配事への返答にするが……同行を許可して貰えるか?」

「お願いします」

あくまで僕の許可を求めるシェリーさんに頭を下げて答えた。

読了感謝です

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