杞憂
アルゴさんの前で神聖魔法の属性をつけてしまった……。
魔法だけならまだ見間違いと言うことで誤魔化せるかもしれないけど……目の前にある薙刀の刃から小さなもやがでている。
どうしよう……。
神聖魔法の属性を付けてしまった物を見ながら途方にくれてしまう。
僕の返答を待っているアルゴさんにどう言ったら良いのか分からない。
神聖魔法の属性を込めたってことは多分わからないと思うから……適当な属性を言って誤魔化せるかな……?
そう思いかけてすぐに首を振ってその考えを頭から追い出すと、
僕が初めて属性を宝石に込めた時にお金にしようと言って怒られた事を思い出す。
アルゴさんが他の人にこれを込めた人が僕である事を話してしまったらよくないし……。
でもフィリエルさんには話してしまうと不安を与えかねないと言われたから……。
どうしたら……どうしたら良いんだろう。
頭の中でぐるぐると結果の出ない議論が繰り返されて、迷子になった子供のように僕の心は次第に闇に覆われ始める。
「リーラちゃん大丈夫か? 顔色が悪いぞ」
アルゴさんは心配そうにこちらを見ていて、僕はその声に反応するようにビクッと震えてしまう。
「だ……大丈夫」
何とか声に出して伝えようとするけど、小さく掠れてしまう。
「大丈夫には見えないから聞いているんだがな……」
アルゴさんに溜息混じりに言われて俯いてしまうと、
闇に覆われ続ける僕の心が次第に視界を乱す何かを生み出していく。
アルゴさんを困らせたいわけじゃないのに、泣いて誤魔化したいわけじゃないのに……心の中で言い訳するしかなくて頬を伝う水滴を腕で遮るように拭う。
不意に両肩を軽く掴まれる感触がして、僕の正面にアルゴさんが真面目な面持ちで僕を見据える。
「リーラちゃんを困らせたいわけじゃないだがな……すまねぇ。俺のせいで泣かせちまったな」
アルゴさんの謝罪の言葉に申し訳なく思ってしまう。
その言葉が僕の心に染み込んでいくと、あふれ出る液体はおさまりを見せる。
僕だってアルゴさんのことが好きだし困らせたくないもん……。
「今のリーラちゃんに込み入った質問をするのは厳しそうだな……俺の質問に頷くか首を振るか、わからない場合は……右手を上げてくれるか?」
真剣な表情を少し崩して困ったように言うアルゴさんのお願いにゆっくりと頷いた。
どんな事を聞かれるかわからないけど……僕を困らせたくないと言ってくれたから大丈夫だよね。
「リーラちゃんはこの属性を込めたのは初めてか?」
薙刀の刃の近くの部分を持って尋ねるアルゴさんに僕は首を横に振る。
宝石や十字架、フィリエルさんの首飾りにも込めたからね。
「そうか、レリックさんとフィリエルさんはリーラちゃんが魔力を込めれる事を知っているのか?」
僕が頷くと、アルゴさんは少し安心したように表情を緩める。
二人が知ってたほうが都合がいいのかな?
「それじゃ最後だ、この属性の事について俺に話してくれるか?」
最後の質問に、少し迷った後に右手を上げる。
いずれか話すことになるかもしれないけど……今はわからないからね。
「わかった、この事についてはリーラちゃんが俺に話すまで追求はしない……しかし、こんな属性初めて見るな」
アルゴさんは再度溜息をつくと、薙刀の刃の近くの柄の部分を持ち、それを食い入るように見つめ始める。
追求がこない事に安堵するけど、いずれは説明しなきゃいけないよね。
どう説明しようかと考えていると……ドアが開く音が聞こえる。
音のした方に視線を向けると、
「足りなくなると困るから小麦粉買いに行ってたら遅くなったわ」
茶色の袋を両手で抱えたフィリエルさんが微笑みながら入って来て、その後ろにはレリックさんが続いている。
そして僕とアルゴさんを見るなり硬直してしまい、抱えていた小麦粉の袋が腕からすり抜けて落下する。
ドサリと音を立てると、衝撃で破れた袋から漏れた小麦粉が地面を薄化粧する。
その様子を僕とアルゴさんは呆然として見ていた。
「どうしたんじゃ?」
フィリエルさんの様子をおかしいと感じたのか、レリックさんが不思議そうな表情でこちらを覗き見ると、少しだけ目を見開く。
硬直が解けたフィリエルさんは何かを思いついたように僕のほうへ素早く移動して掴み取るように僕を抱き寄せると、アルゴさんから距離をとるように後ずさる。
訳もわからずフィリエルさんにギュッと抱き締められている僕は呆然とするしかなかった。
「リーラちゃんに刃物を突きつけて何をする気だったの!」
フィリエルさんはキッとアルゴさんを睨みつける。
「ちょ、ちょっと待ってくれ誤解だ」
アルゴさんは慌てて手の平をこちらに押し出すようして、手振りで待ったをかける。
確かに僕は刃物の近くに居たけど、それは魔力を込める為であって……アルゴさんに落ち度は無い。
でも理由をしらないフィリエルさんはアルゴさんが僕に刃物を突きつけているように見えたのかな……。
早く誤解を解かなきゃ……でもどうしたら良いんだろう……その思いだけが先走り、言うべき言葉が出てこない。
「何が誤解なのよ。 リーラちゃんが不安そうにして……泣いた跡まで残ってるじゃない」
フィリエルさんはアルゴさんの言葉を振り払うように、言い返して僕を強く抱き締める。
あうあう、僕の失敗のせいでアルゴさんが窮地に立たされてしまってる。
「フィリエル落ち着け、周りを良く見るのじゃ」
やれやれといった感じに言うレリックさんは溜息を一つつく。
もしかすると……レリックさんは僕のやってしまった事に気付いてるのかも。
「どういう意味?」
フィリエルさんは怪訝そうにレリックさんを見返し質問を返す。
「アルゴの得物の刃の部分をみるんじゃ、答えはそこにある」
レリックさんの指摘に促され、フィリエルさんの視線がアルゴさんの薙刀へと向く。
やっぱりレリックさんは気付いてたみたい。
「そっか……そういうことね」
フィリエルさんもそれに気付き、納得したように息をつくと表情を緩めて僕へ微笑みかける。
僕が原因で勘違いさせたのに怒る訳でもなく、優しく抱き締めるだけ。
「ごめんなさい……」
僕はようやくしぼり出すように言葉をだす。
うっかりとはいえ、この騒ぎの大本を作ったのは薙刀に魔力をこめた僕のせいだから……。
「ふむ、リーラは何か謝らねばならないことをしたのかの?」
レリックさんは僕の様子を見つつ、優しく問いかける。
フィリエルさんに指摘したように、この中であった事の大方は予想が付いているのかも。
分からないのならきっと、不思議そうに聞いてくるはずだもん。
どう答えたらいいのか迷っていると、
「答えにくいか……それならわしとフィリエルが来るまでのことを教えてくれんかの」
レリックさんは質問の内容を変えて僕に尋ねる。
それなら……と僕はアルゴさんとのやり取りを話し始める。
薙刀に魔力を込めて欲しいとお願いされた事。
僕が躊躇していると、ヘアピンを渡されて理由を説明される。
嬉しくなって、張り切って一番得意な属性を込めた後に、自分のミスに気がついた事。
ナナさんの事はアルゴさんは話して欲しくないと思うから省いた。
僕が泣いちゃった事も話さなきゃいけなくなるしね。
話し終えた後、アルゴさんは安堵したのか表情を緩めている。
事情を理解してもらえたからかな?
「なるほどのう……リーラとしてはアルゴの得物に魔力を込めた事がまずかったと思っておるんじゃな?」
レリックさんは納得したように呟くと、僕に確認するような質問を投げかける。
「うん……」
僕は俯いて力なく返事をする。
レリックさんは他の者には見せるなと言ってたけど、判断は僕に任せるとも言っていた。
シェリーさんにも僕が使えることは内緒にしているのに、僕のうっかりでアルゴさんに特別な力の一部を見せてしまった。
「アルゴへのお礼として魔力を込めたんじゃろう?」
「うん……」
続く質問に同じように返事をすると、
「それならリーラが気に病むことは何もないじゃろ?」
「えっ……?」
レリックさんの思わぬ言葉に僕は目を見開いてしまう。
アルゴさんに知られても問題ないということなのかな? それとも僕のミスをカバーしようとしているのかな……。
その言葉の意味を掴みかねて考え込んでいると、レリックさんはポンと頭の上に手を乗せて微笑みかけてくれる。
その表情から『わしに任せておくんじゃ』と聞こえたような気がした。
「つまり、リーラはアルゴにお願いされたとおりにしただけじゃな?」
「うん、言われた通り一番得意な属性を込めたよ」
続く質問にはレリックさんの表情から聞こえた声のおかげか淀みなく答えることが出来る。
レリックさんは僕の解答に満足そうに頷くと、
「アルゴよ、リーラが魔力を込めた物を見てどう思う?」
アルゴさんへと向き直り問いかける。
「なんともいえねぇ……俺が渡したヘアピンじゃつりあわねぇ事だけはわかる」
アルゴさんは再び薙刀の刃に視線を移すと一つ溜息をつく。
僕が魔力を込めた物への扱いに困ってしまっている感じ。
「価値に気付いているのなら話は早そうじゃの、リーラの力の事は内密にせねばいかん」
「言われるまでもねぇ……この事が広まってしまえばリーラちゃんは籠の中の小鳥になっちまう」
レリックさんは真面目な面持ちで口止めを要求すると、アルゴさんは了承しつつも肩をすくめて苦笑する。
僕の魔法のことが広まると良くないと聞いていたけど……。
「籠の中の小鳥って……?」
僕も意味は知ってるけど……どうしてそうなるのかがうまく飲み込めなくて聞き返してしまう。
「それは……」
「リーラはまだ知らなくて良い」
アルゴさんが言いかけた所に、レリックさんがそれを遮るように口を挟む。
知らなくて良いといわれたら余計に気になっちゃうよ……。
「いずれは知ることになると思うわ。でもね、まだ知らないほうがいいの」
フィリエルさんは僕を諭すように言うと、再び僕を優しく抱き締め、
「大丈夫、私とレリックがそんな事はさせないから」
そういって僕に微笑みかける。
きっとこれは僕を不安にさせない為、言われるとおり僕はまだ知らないほうがいいのかも。
知りたい気持ちはそっと胸の奥にしまっておこう、いつかは教えてもらえるよね。
フィリエルさんから伝わる温かさに身を任せながら、ぼんやりと思っていると……朝から色々あったせいかな瞼がすごく重くなって……。
目を閉じると、ストンと落ちるように僕の意識は途切れた。
目を開くと丸太の並んだ天井が見える。
……眠っちゃったんだっけ。
意識が次第にはっきりとしてくと、辺りに誰も居ない事に気づく。
僕をベッドに寝かしつけてから、三人で話しているのかな?
少しずつ回り始めた頭の中で、意識が途切れる前の記憶を手繰り寄せる。
アルゴさんが僕を迎えに来て……ってあれ?
今更ながら、ランドの村へ帰る話に全く触れてなかった事に気付く。
アルゴさんがどれくらいここに居てくれるのかを確認しないと……シェリーさんが戻ってくるまで出発しちゃいけない事を伝えなきゃ。
僕は慌てて起き上がり、早足で皆がいると思う部屋を目指して歩いていく。
アルゴさんとレリックさんがテーブルで向かい合って話しているのが目に入る。
テーブルの上には、飲み物が入ってると思われる木の器が二つ、込み入った話をしているのかな?
「目を覚ましたようじゃの、何か急いでいるように見えたがどうしたんじゃ?」
レリックさんが僕に気付き、ちょっと不思議そうに声を掛けてくれる。
「リーラちゃんの寝顔可愛かったぜ」
アルゴさんはニッと歯を出して僕にサムズアップする。
僕はそれにどう返して良いのかわからず、頬が少しだけ熱くなっていくのがわかる。
寝顔が可愛いと言われてもどういったら良いのか分からないよ。
「これ茶化すでない。 リーラは何かを急いでいたんじゃろ?」
「すまねぇ、リーラちゃんを見たらつい言っちまった」
レリックさんが苦笑いになりながらアルゴさんを窘める。
僕の顔を見て最初に言う事じゃないと思うけど……それは置いといて確認しないと……。
「アルゴさんはここにどのくらい居る予定なの?」
「うん? そうだなぁ……一応三日間ぐらいを考えているんだが……」
僕の言葉にアルゴさんは少し考え込むような素振りをして解答する。
三日間……もしかしたらシェリーさんが戻るより早く出発になるかもしれない。
「レリックさんから聞いているぜ、シェリーさんを待つんだろ?」
続けて言うアルゴさんの言葉に思わずレリックさんへと振り向くと。微笑みながら頷いてくれた。
レリックさんが僕の寝ている間に言ってくれたんだ……僕の都合でアルゴさんの日程を変えてもらえるのか不安だったからすごく嬉しい。
「レリックさんありがとう」
「気にせずともよい、自分の娘のことじゃからの。 わしが話をつけるのは当然のことじゃ」
自分なりの笑顔でお礼を言うと、レリックさんは首を振って気にするなと言ってくれる。
とりあえず、僕の心配は杞憂で終わってくれたのでホッとする。
「リーラちゃん、ちょっと動かないでくれるか?」
アルゴさんが口を開いたかと思うと立ち上がり、僕の髪を触っているのが伝わってくる。
少しだけ引っ張られる感じがしたけど、特に痛くもないので何をしているのかなとアルゴさんを見上げる。
「終わりだ。 動いても良いぜ」
「ほほう、中々似合っておるのう」
二人の言葉に少し首を傾げながら引っ張られる感触のあった場所を触ってみると何か硬いものに触れる。
何がついているのか確認するために水瓶に近づいて中を覗くと、耳より少し上の辺りにアルゴさんから貰ったはずの三日月のペアピンが付けられてた。
「大事に持っていたのが寝ちまった拍子におちたのかもな」
アルゴさんは僕が思うであろう疑問を先取りしたような解答をすると、
「落とした事は気にしないでくれよ? 俺が最初からこうすればよかっただけだからな」
続けて苦笑交じりに僕が思うであろう事を口にする。
あうあう……僕の行動ってわかりやすいのかな?
「ありがとう」
でも僕のことを気遣ってしてくれたことなので精一杯の笑顔でお礼を言うと、
「おう、その笑顔を見ればこっちも嬉しくなるぜ」
アルゴさんは心地いい笑顔を返してくれた。
「あら、リーラちゃん起きたのね」
声のする方へ目を向けるとフィリエルさんがパンの入った籠を持ってこちらへと歩いているのが見える。
「うん、気がついたら寝ちゃってた」
「ふふ、朝から色々あったものね」
苦笑いしてしまう僕に、テーブルの中央辺りに籠を置きながらクスリと笑みを浮かべるフィリエルさん。
「うう……言わないでよ」
あう……できれば思い出したくないよ……。
朝から泣いてばかりだもん。
「はい、アルゴさんから聞いて作ってみたの」
しょんぼりとして俯きかけた僕にフィリエルさんがパンを手渡してくれる。
そのパンから感じる香りに思わずかじり付いてしまう。
ふんわりとしたパンから香る大蒜を少し焦がしたにおい……ミーナさんに僕がお願いして作ってくれたものと同じで、パンの違いはあるものの、噛み締める度に感じる美味しさに顔が綻ぶのを感じる。
フィリエルさんにお願いしようと思ってたけど色々あって言えずじまいだったことを思い出す。
「リーラを見つけたときにポーチも拾い上げたが、あの時のにおいはこれじゃったか」
パンを片手にレリックさんは思い出すように述べる。
レリックさんの言葉から、ミーナさんから小さな包みを受け取った時の事を思い出すと、早くミーナさんに会いたいという想いが溢れてくる。
今どうしているのかな? 手紙の内容を聞いた感じだと僕と一緒に住めることを楽しみにしていると書いてあったみたいだけど……。
ディンさんと一緒に元気にしているといいな。 再会の時はアルゴさんの時のように台無しにしないようにしないとね。
「リーラちゃんどうしたの? 手が止まってるわよ」
フィリエルさんが心配そうにする指摘に目を落とすと、半分以下になったかじり掛けのパンを持って思いにふけっていた事に気付く。
「ランド村での事を思い出してて……」
「そっか、リーラちゃんがお願いして作ってもらったのよね」
フィリエルさんは僕の解答に安心したように微笑みかけてくれる。
そういえば、アルゴさんにはこのパンの事は言ってなかったと思うけど……ミーナさんが教えたのかな?
そんな事を考えていると、アルゴさんへの手紙を出してもらった事をフッと思い出す。
いまならその内容も聞けるかも……アルゴさんがとんでくるなんてフィリエルさんが言ってたから気になってたもんね。
「アルゴさん」
「どうした?」
アルゴさんは呼ばれる事を思ってなかったのか不思議そうに僕へと視線を向ける。
「アルゴさんに向けて手紙を出してもらったけど届いてた?」
僕の言葉に何かに気付いたのかアルゴさんは食べかけのパンを口に押し込むと、ずた袋の中から一枚の紙をとりだして僕に手渡す。
その紙はミーナさんが僕宛に袋に入れてくれたものと同じもので……僕には何が書いてあるのかわからない。
「そいつにはな『リーラという少女を保護した。話を聞くとランド村に戻りたいと言ってる。しかし、フィリエルはそのまま引き取りたいと思っているようだ。
理由は容姿を考えればわかると思う 。 納品を早めて早く迎えに来るように』と書いてあるんだ」
まるで暗記でもしているようにスラスラと内容を読み上げるアルゴさん。
その内容に驚きフィリエルさんへと視線を向けると、
「嘘は書かれてないわよ? リーラちゃんは家族同然だもの。ランド村の事がなければここで一緒に暮らしていたいと思っているわ」
と言って僕へと微笑み返してくれる。
えっと……嘘が書かれてないという事は……。
「手紙を書くときから僕の事を……?」
「……正確に言うと私の前で声を出して大泣きをしたときかな」
僕の言葉に、フィリエルさんは少しだけ思案顔になって答えると、
「あの時のリーラちゃんを見て必要なのは、支えてくれる家族なんだって思ったのよ」
僕へ優しく微笑みかけ、頭を軽く撫でてくれる。
僕がここに来てすぐのことなのに、そんなに想ってもらってたんだ……。
すごく嬉しい……言葉にしようと思っても胸が一杯になってすぐに言葉が出なかった。
食事が進んでいくと、
「ふむ、このパンだと酒が進みそうじゃな」
「俺も初めて食べた時そう思ったぜ」
レリックさんの感想にアルゴさんが同意する。
「レリックも気に入ったみたいね……リーラちゃんは聞くまでも無いかしら」
「違いねぇ、あの表情見ればわかるな」
苦笑いで僕を見る二人に、僕は首を傾げてしまう。
自分の表情は自分じゃ見れないからね。
客観的に自分を見る機会はあったけど中身はフィリエルさんだったから参考にならないと思うし……。
でも不快感を与えてるわけじゃ無さそうだからいいのかな?
蜂蜜もいいけど大蒜もおいしいな……そんな事を思いながらもぎゅもぎゅとパンを食べていく。
「ふと思ったんだが、前回来たときはライ麦のパンだったと思うが、今日はたまたま小麦のパンなのか?」
「リーラちゃんと一緒に住むようになってから小麦に変えたのだけれど?」
フィリエルさんはアルゴさんの質問の意図が掴めないのか首を傾げながら答えを返す。
僕の笑顔を多く見たいからって小麦のパンにしたといってたっけ。
「そうか……リーラちゃんの口がおごってなければ良いがな」
「それってどういう意味?」
アルゴさんの指摘に首を傾げかけてランド村では小麦のパンは出なかった事に気がつく。
「ランド村に戻ったらずっとライ麦のパンだからな覚悟しとけよ」
「だ、大丈夫……ライ麦のパンだって美味しいもん」
慌てて言う僕を見てアルゴさんは苦笑する……僕って我慢とかできないように見えるのかな?
前世ほど食べ物が色々あるわけじゃないけど、ランド村での生活で満足してたのだから大丈夫だよね。
自分の中で大丈夫大丈夫と暗示をかけるように繰り返していると、
「そうね、ここと同じように材料が手に入るとは限らないから、蜂蜜やバターをつかったパンは当分やめないとだめね」
フィリエルさんは天井に少しの間目を泳がせて思案顔になると、僕を残酷な一言を突きつける。
「あう……」
あの至福の時間が当分味わえないと思うと思わず肩を落としてしまう。
すぐにその行動が失敗である事に気付いて、頭を横に振って見上げると三人とも苦笑を浮かべていて、
「そんなに落ち込まれたら困るわね」
「大丈夫にみえねぇな」
「正直は良い事じゃな」
それぞれ感想を漏らす。
「あうあう……」
僕は落ち込んだように頭を抱えてうずくまるしかなくて、
それは見かねたレリックさんに頭を撫でられるまで続いた。
読了感謝です