移り行く心配事
シェリーさんが見えなくなると同時に、レリックさんとフィリエルさんの視線が僕へと注がれる。
レリックさんに抱えられたままなので、僕に逃げ場はない。
抱えられてなくても逃げれる気はしない……例え万全の状態であっても逃げれないと思う。
どんな事を聞かれるのか不安だけど、シェリーさんとの約束は守らなきゃ……例えくすぐり地獄に合ってもね。
心の中で自分を励まして気を強く持とうとするけど、現実は多分耐えれないと思うので半分諦めも混じっちゃう。
「さて……リーラに何を聞くべきかのう……」
レリックさんの言葉に身構えるように俯いてしまう。
何を聞かれるのかなと不安が少しずつ僕の心の中で広がっていく。
「家の中に入ってから聞きましょ。リーラちゃんをずっと抱えたままじゃきついでしょ?」
「そうじゃな、どちらにしても家には入らんといかんしの」
フィリエルさんに言われ、レリックさんが頷くと、家の中へと歩き出す。
レリックさんを気遣うフィリエルさんの言葉に、僕への詰問の時がほんの少しだけ先に伸びた事に胸を撫で下ろした。
寝室まで移動し、レリックさんは僕をベッドに腰掛けさせるように下ろしてくれて、
僕と隣り合うようにレリックさんとフィリエルさんは座る。
「ありがとう」
「わしが好きでやったことじゃ気にするでない」
笑顔でお礼を言うと、レリックさんはなんでもないという風に答える。
このまま聞くことを忘れてくれないかなぁと淡い思いで笑顔を保つ。
「ふむ、わしの質問を笑顔で待つというのか、余裕じゃのう?」
レリックさんから不敵な笑みが漏れ、僕はがっくりと項垂れた。
やっぱりそんな期待通りには忘れてくれないよね。
「そこまで落ち込まんでもいいと思うが……わしの質問に答えるだけじゃろうに」
半ば呆れたように言うレリックさんがするであろう質問の予想が付いてしまう。
そしてそれはシェリーさんに口止めされている為に答えられない。
「まぁ、リーラも考えるところがあるのかもしれんが、質問には答えてくれるかの?」
「うん……」
レリックさんの問いに躊躇いがちに頷く。
「昨夜シェリーと何を話したんじゃ?」
その質問の内容に目を見開いてしまう。
昨夜の事は僕とシェリーさんしか知らないはずなのにどうして……。
「そこまで驚く事でもなかろう、リーラが寝床にいなければフィリエルが探すじゃろう?」
「あっ……」
ガーラントさんと二人で夜に話した時の事を思い出す。
あの時は秘め事にするはずがフィリエルさんの勘違いによって全部話す羽目になっちゃった。
「リーラを探している時にシェリーと外で話していることに気付いたみたいじゃが、ガーラントの時のことを思い出して聞かずに離れたと聞いておる」
苦笑いしながらレリックさんが言うと、
「だって同じ事したら馬鹿みたいでしょ……」
フィリエルさんも苦笑いになる。
僕とシェリーさんが昨夜二人で話をしていたのは分かっているけど、内容については分からないみたい。
「ただのう……今日のシェリーの言葉の節々に不穏な言葉が混じっておったのが気になっての」
「聞いてみても今は言えないみたいに言うじゃない?」
二人とも僕を見つめ、僕が話し始めるのを待っているみたい。
やっぱり気になるよね最後のシェリーさんの言葉に首を傾げていたもんね。
「ごめんなさい……昨日の事は言えない」
肝心な事が約束で言えないことが申し訳なくなり、深く俯いてしまう。
「そうしょげるでない、なんとなく予想は付いておった。 シェリーに口止めされたんじゃろう?」
レリックさんの言葉に僕は肯定も否定も出来ず沈黙してしまう。
昨日シェリーさんと話していた内容の一部なので言えない。
「そこで何も言わないのは肯定しているものと同じよ?」
フィリエルさんはやれやれといった感じに苦笑する。
「だって……」
何も言ってないのに、内容の一部がばれてしまっている事に肩を落とす。
「話してくれんかのう……子供を心配する親としては安心しておきたいんじゃ」
レリックさんが頭を下げて僕にお願いする。
その行動に心が揺らぐ、シェリーさんは両親を心配させない為に僕に口止めをお願いしたのだから、
こうなってしまっては僕が黙っている意味はあまり無い。
でも……約束は約束だから……。
僕は俯いて再び口をつぐむ。
「仕方ないのう……穏便に済ませておきたかったがリーラの体に聞かねばならんか」
レリックさんは僕の目の前でくすぐるように指を動かす動作をする。
それを見て、僕は少しでも耐えれるようにと背中を丸めて両腕で自分を抱くようにして身構えると、
不意に頭の上に何かが乗せられた感触がして、それはゆっくりと動かされる。
「……えっ?」
覚悟していたものとは違う行動に途惑いながら見上げると、レリックさんは目を細めて僕の頭を撫でていた。
「やれやれ、リーラがここまで強情に拒むとはのう」
口調は呆れてるようだけど、顔は穏やかに微笑んでいる。
白状するまでくすぐられると思っていただけに、肩透かしを食らったような気分。
でも……くすぐりがこなくてホッとしていて、撫でられてることが心地いい。
魔力を消耗してしまったせいもあるのかな……心地よさに急な眠気が僕を襲い、
フィリエルさんへ体を預けるようにもたれ掛かる。
「リーラちゃん?」
フィリエルさんが僕を気遣うように呼ぶ声が聞こえた気がするけど……眠気に抗えなくてそのまま目を閉じて意識を手放した。
意識が戻り目を開くと、フィリエルさんが僕を見下ろすように見つめているのが目に入る。
「目が覚めた?」
フィリエルさんに微笑みかけながら言われ、「うん」と返事を返す。
良く眠れたのかな、体にも力が入りそうだし頭の中もすっきりとしている。
この柔らかい枕はフィリエルさんの太ももなのかな? すごく寝心地がよかったかも。
「魔力切れの影響かしらね、急に私のほうへ体を傾けてきたと思ったらもう眠っていたもの」
フィリエルさんは僕に話しかけながら手櫛で僕の髪を梳いていく。
優しく梳かされていくのが心地よくて、目を細めてしまう。
「一生懸命なのは分かるけど、何度も言うように無理しちゃダメよ」
フィリエルさんが苦笑いになりながら注意すると、
同じことを繰り返して心配させた事を思い出して僕はしょんぼりとしてしまう。
僕って成長してないのかな……。
「そこまで落ち込まなくてもいいと思うけど……でも無理した時にはしっかり反省するためにも罰は必要かしらね」
フィリエルさんが考え込むように思案顔になる。
その様子を見ながら、以前に貰った『罰』を思い出す。
驚かせた後に真実を伝える優しい嘘……でもその後は魔力切れで寝込んでしまう事は無かったから……。
自分の中で必死に言い訳していると、
「罰って……?」
気が付けばその一言が口から漏れていた。
どんな罰を考えているのか心の中では気になっていたのかな。
「そうね……リーラちゃんが男の子だったら、拳骨いれたりするのもいいのかもしれないけど……」
フィリエルさんはそう言うと、再び僕の髪を手櫛で梳き始める。
髪を梳かされる心地よさに、再び眠りそうになる。
「前世はそうだったのかもしれないけど、今は可愛い女の子だもの、やっぱりへたり込むまでくすぐるのが一番かしらね」
「あう……それはもう沢山」
苦笑になりながらそう結論付けようとするフィリエルさんの言葉に眠気は綺麗に消えて、僕は小さく抗議の声を上げる。
「私も体験したから良くわかるわ、リーラちゃんくすぐり弱いのよね……だから罰として考えれば抑止力になるんじゃないかしら?」
フィリエルさんはうんうんと頷きながら理解を示して、やはりこれが効果的と結論付ける。
「……うん」
僕は渋々と返事をする。
気をつければ大丈夫だよね……多分。
以前にくすぐられた時のことを思い出して、少しだけ憂鬱になる。
「目が覚めたかの」
声のするほうに視線を向けると、レリックさんがフィリエルさんの後ろから覗き込むように僕を見ていて、僕は頷く事で返事を返す。
「シェリーの事を聞き出す前に夢の中へ逃げられてしまったからのう」
楽しそうに言うレリックさんに、
「あはは……」
僕は乾いた笑いを返した。
「そういえば……」
僕がぽつりと一言漏らすと、
「どうした?」
レリックさんはそれに気付いて聞き返す。
「どうして、僕をくすぐるのをやめたの?」
「端的に言えばリーラが弱っておったからじゃな、なんなら今からくすぐって聞きだしてもいいが?」
僕の疑問に答えると、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
首をぶんぶんと横に振ると、フィリエルさんが何かを我慢するように顔をしかめる。
「どうしたの?」
その様子を不思議に思って聞いてみると、
「リーラちゃんの髪がこすれてくすぐったかったのよ」
フィリエルさんに苦笑いで言われてしまう。
首を横に振ったときに、僕の髪が太ももをくすぐったみたい。
「ごめんなさい」
僕の意図することじゃないけど、嫌な思いをさせたかも……と謝る。
急にくすぐられたりする感触は心地いいものじゃないよね。
「気にしなくてもいいのよ、私が好きで乗せてるんだから」
フィリエルさんは柔らかな微笑を僕へと向ける。
それに釣られるように僕の顔も緩んでしまう。
コホンとレリックさんが出来払いをすると口を開く。
「もう一度確認するが、シェリーと話したことは言う気はないんじゃな?」
レリックさんは僕が頷くのを見て、
「わかった……それでは別の方法をとるかのう」
自らも納得したように頷く。
これで強引に聞き出す事がなくなったのかなと、少し安堵する。
でも別の方法って何だろう?
「リーラが眠っている時に考えたのじゃよ。 シェリーとの約束を破らずに内容を知る方法がないかとな」
レリックさんはそう言いながら顎に手をあてて、考え込むような素振りをする。
「それでじゃな、シェリーのガーラントに対する不穏な発言の理由をリーラは知っておるじゃろ?」
レリックさんの問に僕が頷くとのを見て話を続ける。
「その理由をじゃな、リーラの経験で同じような事があれば、教えてくれんか? 無論あればの話じゃが」
「つまり、僕の経験で同じような事があったらそれを言ったらいいの?」
僕の解答にレリックさんは「そういうことじゃ」と言って満足そうに頷いた。
「すまんのう、正直屁理屈だとは思うが、気になってしまってな」
少しだけ申し訳無さそうに言うレリックさんに僕は首を横に振る。
屁理屈かもしれないけど、僕はシェリーさんとの約束は守れるし、レリックさんも正確ではないけど近い内容を知ることが出来る。
その気遣いがすごく嬉しく、期待に答えようと同じような事があったかなと記憶を手繰り寄せる。
しばらく思い出すうちに、同じような出来事を思い出す。
「えっと……カリンさんにガーラントさんから貰った金貨の事を言えなかったのと同じかな」
あの時はフィリエルさんが誤魔化してくれて……。
その後レリックさんにまだ早いって言われた理由を教えてもらって叫んじゃったっけ。
その時の事を思い出すと頬が熱くなってきて、芋づる式のよう思い出し始める。
フィリエルさんと入れ替わった時に想像してしまった、『まだ早い』理由の一歩先。
そして、レリックさんに抱き締められた後の熱い口付け……。
「リーラちゃんどうしたの、顔が赤いわよ?」
「な、なんでもない」
フィリエルさんが不思議そうに僕を見ると、僕は慌てて近くの枕を掴み、抱くように持つとそれに顔を隠すように埋める。
レリックさんを見ると頭の中であの光景が再生されそうなので、枕を強く抱いて取られないようにする。
あの時はフィリエルさんの体だったから……といっても中身は僕だから、僕が口づけをされたわけで……。
結局、レリックさんを見てなくても頭の中で再生されてしまい、フィリエルさんの脚の上で枕に顔を埋めたまま転がり悶える事に。
「こ、こらリーラちゃんくすぐったいわ……きゃっ」
転がる事でフィリエルさんの脚をくすぐる事になり、堪えきれなかったのか悲鳴に近い声を上げる。
不意におなかの辺りに何かが当たったかと思うと僕の体が持ち上げられる。
「一体何を思い出したんじゃ……」
半ば呆れたようなレリックさんの声が聞こえたかと思うと、枕を取られてしまう。
開けた視界の先でフィリエルさんが疲れたように呼吸を繰り返しているのが見える。
ごめんなさい僕が転がったせいだよねと、心の中で謝る。
「ほれこっちを向かんか」
僕の頬に手のひらが当てられ、レリックさんの正面に来るように押される。
うう、見ないようにしていたのに……。
観念したようにレリックさんを見ると、何故かずっと続いていた頭の中での再生が止まる。
やっとのことで再生が止まった事に安堵する。
「わしの顔を見るのを避けておるようじゃが……どうしてかのう?」
レリックさんは不思議そうに僕を見ながら質問する。
「レリックさんにキスをされた時のことを思い出しちゃって……」
おずおずと僕が理由を話すと、
「はて? わしがリーラにキスをしたことがあったかのう?」
「私もレリックがリーラちゃんにキスをしてたのを見た覚えはないわね」
レリックさんとフィリエルさんは揃って首を傾げてしまう。
僕が『フィリエルさん』の中に居たときだから思い出せないのかな?
「えっと……僕がフィリエルさんの中に……あっ」
『居たとき』と続けようとして慌てて自分の口を手を当てて塞ぐ。
しまった……これはレリックさんとの内緒の約束だった。
「リーラちゃんが私の中に居たときに何かあったの?」
フィリエルさんが僕の行動を見て何かを感じたのか、レリックさんへ向き直り質問する。
「中身がリーラと知らずに抱き締めてキスをしてしまったということじゃ」
レリックさんは溜息交じりにあっさりと白状する。
「……それ以上の事は?」
フィリエルさんが非難するように追求すると、
「やってはおらん。 反応がおかしいことに気付いて問いただしたら、リーラじゃった」
レリックさんは肩を竦めて淡々と答える。
「それだけの事なら私に隠す事でもないでしょ……どうしてそんな事をする事になったの?」
フィリエルさんはふぅ、と安堵の息をついて質問する。
僕に口止めしたときの口振りだと、フィリエルさんが怒ったり拗ねたりするのかと思ってたけど……。
特に怒るわけでもなくといった感じたので僕は首を傾げてしまう。
「シェリーの帰ってきた日にフィリエルが落ち込んでたじゃろ?」
レリックさんの問にフィリエルさんが頷くのを見て話しを続ける。
「気になってはいたんじゃが、シェリーとリーラのいる手前、慰めてやれなかったが……寝ておると誰かが肩に触れてのう、目を開くと不安そうにしているフィリエルが見えたんじゃよ」
そこで一旦区切り、軽く咳払いをする。
「他の者が寝静まるのを待って、わしの所へ来たのかと思って慰めてみたら中身はリーラじゃったというわけじゃ」
説明し終わった後のレリックさんは苦い顔をしていた。
「私が怒ったりする内容でも無いと思うけど……どうして隠していたの?」
「そんなの決まっておる、寝起きだったにしろ、雰囲気の違いに気付けなかったなどと言える訳が無かろう」
フィリエルさんの質問にレリックさんは答えた後、そっぽを向いてしまう。
それを見て、フィリエルさんはクスリと微笑を浮かべ、レリックさんの後ろから背中におぶさるように抱きつく。
「こ、これ」
フィリエルさんの行動を予期していなかったのか、少しだけ前のめりになりながらも元に戻す。
「レリックがそんな行動取るの久しぶりじゃない……私に甘えてもいいのよ?」
「リーラが見ておるじゃろ……」
困ったように僕を見るレリックさんの後ろでニコニコと楽しそうに笑うフィリエルさん。
確かにレリックさんが僕が拗ねた時のような行動を取るのってすごく珍しい気がする。
「リーラちゃん、さっき顔を赤くしてたけれど、レリックのキスはどう感じたの?」
フィリエルさんがレリックさんの肩の辺りから顔を覗かせて僕を見ている。
「気持ち悪いとかそういうのは無くて、今まで感じた事がなかった経験で……終わった時は残念に感じちゃった」
何か気になる事があったのかなと、思い出しながら答えを返す。
あう……思い出していたら頬がまた熱くなりそう。
「ふふ、頬を赤くしちゃって……残念に感じたのは多分、私の体でレリックに接したからよ」
何時の間に移動したのかフィリエルさんの声が聞こえると同じくらいに優しく抱き締められていた。
「リーラちゃんが体験するにはまだ早かったかもしれないわね」
見上げる僕に優しく微笑みかける。
「いつか同じように感じられる人に出会えると良いわね」
「フィリエルさんとレリックさんみたいに?」
僕の解答にフィリエルさんの表情に少し苦笑いが混じる。
「そうね……でも私とレリックみたいな出会いまでする必要はないと思うわ」
「お互いを助け合った結果、惹かれあっていったようなものじゃしのう……わしらのような恋愛はリーラには難しいかもしれんのう」
フィリエルさんとレリックさんはお互いを見つめ合って苦笑する。
出会った頃を思い出しているのかな?
「僕にもそう思えるような人が出来るのかな……あ」
気が付けば考えていた事を口に出していた。
「私に出来たのだからリーラちゃんにもきっと出来るはずよ」
笑顔で僕に微笑みかけるフィリエルさんの言葉に首を傾げてしまう。
確かにフィリエルさんに容姿は似てるかもしれないけど、まだ前世の記憶を引きずっている僕に出来るのかな。
「そうじゃな……アルゴの事はどう思っておる?」
「気の良い尊敬できる職人さん」
唐突なレリックさんの質問に率直な解答をする。
靴にポーチ、僕の宝物……両方ともアルゴさんが作ってくれた大切なもの。
アルゴさんは今頃こっちへ向かってたりするのかな?
「そうじゃなくて、アルゴさんを異性としてどう思うの?」
僕の解答が的外れだったのか、フィリエルさんが苦笑いを浮かべて、質問を僕に投げかける。
「え……?」
質問の内容を理解すると……ニッと歯を見せて笑い、サムズアップをしているアルゴさんを思い浮かぶ。
た、確かにあの時は格好良いとか思ったけど……でもアルゴさんは十年早かったらなと、言ってたし……あう……。
「ふふ、リーラちゃんの反応を見たら分かるわ。 大丈夫、そうやって悩むのは男性を同性として意識していない証拠よ?」
フィリエルさんは俯いてうんうんと悩む僕に優しく語りかけ、
「ふぇ?」
ちょっと間抜けな声を上げた僕の頭を撫で始める。
撫でられる心地よさの中で、自覚は無いけど少しずつ変わっていってるのかなとぼんやりと思った。
「さて……話を脱線しすぎたな、元に戻さんといかんのう」
「そうね、ちょっと話がそれちゃったわね」
すっかり忘れそうになっていた本題に二人とも苦笑いになる。
僕が他の事まで思い出してあれこれしちゃったせいかな。
ちょっとだけ申し訳なく思うけどまた脱線させちゃいそうなので口に出さないでおおく。
「ふむ、ガーラントと金貨か」
「それと同じような事というと、何かしらね」
二人とも考え込むように少しだけ首を傾げる。
解答に行き着いてくれるかなと期待する。
本当はばれてはいけないんだけど、期待しているのが不思議な感じ。
「……チョコレートかな?」
しばらく経つと、思いついたようにフィリエルさんが呟いて、
「ふむ、チョコレートか……なるほどのう」
それを聞いたのか納得するようにレリックさんが頷いた。
「リーラちゃんはシェリーに魔法が絡むからチョコレートを貰った理由は話せないわね」
「そうすると、ガーラントが純粋な好意でリーラにプレゼントしたことになるのう」
二人とも手に取るように近い解答をあげていく。
やっぱり親だから経験からシェリーさんの行動が読めちゃうのかな。
「シェリーがガーラントから高価な物を貰ったとか聞いた事ないのう」
「仕方ないわよ、シェリーは装飾品にあまり興味ないし、ガーラントさんも高級な物は好まないもの」
レリックさんが思い出すように言うと、フィリエルさんはそれに相槌を打つように答える。
二人の息はぴったりで、長年連れ添っているとこんな感じになるのかなぁ……僕も将来はこんな感じに……。
ぼんやりと自分の将来を思い浮かべると、さっきアルゴさんの事を考えたせいか、成長した自分とアルゴさんが連れ添って歩く姿を想像してしまい、首を振って霧散させた。
まだまだ僕には早いよね……気になる人も居ないし。
アルゴさんは僕の事をそういう風に見てないはずだから居ないことにしておく。
「リーラに礼をする度に変な疑いをかけられるとはガーラントも浮かばれないのう」
「そうね……本人は至って真面目にリーラちゃんにお礼をしてるだけなのにね」
レリックさんに同意するようにフィリエルさんが続けると、二人一緒に溜息をつく。
僕がぼんやりと考えている内に少し話が進んでいて、ガーラントさんへの疑いは僕が絡んでいるために申し訳なく思ってしまう。
「まぁ……ガーラントは誤解を解くのが大変じゃろうが、わしらの娘と夫婦になる為に苦労してもらうかのう」
「険しい道のりかもしれないけど、頑張ってもらうしかないわね」
レリックさんとフィリエルさんは苦笑してお互いを見つめ会うと、そう結論付けた。
読了感謝です