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月夜の密談

※入れ替わり表現があります

四人テーブルを囲って一息。

レリックさんが戻ってくるのを予想してか水を入れた器を四つ並べてあり、少しすすってのどを潤すと、

「さっぱりしてきたかの……というには表情が暗いのう?」

レリックさんは僕達を見回して、難しい表情になる。

「フィリエルよ、水浴びで何があった?」

「私が『フィリエル』さんではないのをシェリーさんに感付かれてしまいました」

レリックさんの問に苦笑しながら返すと。

あえて名前をつけて言ったのは、中身が『リーラ』である事を感付かれていない事を伝えるためで、レリックさんなら多分気付いてくれるはず。

「ふむ……そうか」

レリックさんは顎に手を当てて思案顔になると、

「父上……母上が明日には元に戻るというのは本当か?」

「そう聞いておる」

レリックさんが即答すると、

「どうして……私に黙っていたんだ?」

「今日だけで済む話なら、特に話す必要もないと思ったからじゃ」

レリックさんの解答にシェリーさんは不満そうに見つめ返している。

「本物の母上は今どこにいるんだ?」

「それは、そこの『フィリエル』が答えてくれなかったかの」

レリックさんは僕へ視線を向けて言うと、シェリーさんは納得がいかないのか、

「今は言えないと言われた……父上はそれで納得したのか?」

「納得するしかないじゃろう。 シェリーの傷を治してくれたんじゃから言う事を信じねばなるまい」

なおも食い下がるシェリーさんにレリックさんは諭すように言うと、

「しかし……」

「それじゃ聞くがのう、昨晩の腕を治して貰った時のフィリエル……中身は違うが、どう思った?」

まだ納得がいかないといった感じのシェリーさんにレリックさんが質問を投げかける。

「正直、現実とは思えなくて……母上が神々しく見えた」

質問に途惑いながらも解答するシェリーさんは傷があった辺りを再度確認するように見て、

「左手の指が動くのがまだ夢ではないかと思っている」

動くのを確認するようにグーパーを繰り返す。

「シェリーの言うとおりじゃな、動かなくなった指を動かせるようになる事は夢みたいなものかもしれん」

シェリーさんの解答にレリックさんは満足そうに頷き、

「夢みたいな事をしてもらったんじゃろ? 相手の事を信用してやらねばなるまい」

「父上に言う事はわかる……しかし……」

シェリーさんはレリックさんの言葉に理解を示しつつも、僕に向き直って、

「それでは今の母上にメリットがない」

少し不安の入り混じった表情で言うと、僕は考え込んでしまう。

フィリエルさんで居ることのメリット……あまり考え込んでいると裏があるのかと思われてしまいそう。

仕方ないので僕が『フィリエルさん』になることで得られるメリットを話そう。

「この体でしか出来ない事や感じられる事が沢山あるの、他に何かを求める事はないわ」

シェリーさんに微笑みかける。

嘘は言ってないけど、言えない事もいっぱいある……でも、いつかは全部話せると思うから。

今はごめんなさい、心の中でシェリーさんに謝る。

「もう一度確認するが明日には元の母上に戻るのだな?」

シェリーさんの質問に頷く事で答えると、

「わかった……貴女の言うことを信じよう」

「ありがとう」

シェリーさんの言葉に安堵して、微笑みながらお礼を言うと、何かのしかかるような重みが感じられるので視線を向けてみると……『僕』(フィリエルさん)が僕に寄りかかるようにして目を閉じていた。

「何も言わんと思ったら寝ておったのか」

僕の視線の先に気付いたのかレリックさんが苦笑して言うと、

「気疲れしたのかもな……リーラには気を使わせてしまったからな」

シェリーさんは目を細めて、目を閉じた『僕』(フィリエルさん)を見つめている。

「リーラちゃんをベッドに寝かしてくるわね」

僕の言葉にレリックさんが頷くと、

「うむ、良く眠れるように添い寝してやってくれんか、色々お主も疲れておるじゃろう」

今度はレリックさんの言葉に僕は頷いた。

『僕』(フィリエルさん)を抱き上げて寝室へと行き、ベッドに降ろすと、僕も隣に横になる。

頭を撫でてあげたらよく眠れたりするかな? と思い手のひらをの頭へのせると、『僕』(フィリエルさん)の目がパチリと開くと、

「リーラちゃんと二人で話したかったから寝た振りしてたの」

片目を瞑って少しだけ舌をだす。

僕もこんな表情できるんだねと、自分の顔なのにちょっと可愛く見える。

「僕と?」

寝た振りをして僕と話す内容って何だろう?

「まだ……シェリーに掴まれた跡が赤くなってるわね」

『僕』(フィリエルさん)は申し訳無さそうに僕の腕の赤くなっている部分に撫でるように触れると、少しだけ痛みを感じる。

顔をしかめるほどじゃないので苦笑いで返す。

「痛みはまだ感じる? 」

「少しだけね」

正直に答えると、

「早く元に戻れないかしら……そうすれば痛みを私が引き受けられるのに……」

「ううん、これは僕が不用意にフィリエルさんの使えない魔法を使ったせいだから……」

気にしないでと首を振ると、少しだけ間を空けて頷いてくれた。

「でも、フィリエルさんがシェリーさんの気を逸らしてくれたから……」

「あれは何とかしないとって……気が付いたら行動してたわ」

苦笑いで返す『僕』(フィリエルさん)は少し気落ちしているように見える。

シェリーさんの気をそらしてくれた時の『僕』(フィリエルさん)の表情は悲痛に染まりかけていて、何かを言いたそうにシェリーさんを見上げていたのを思い出す。

自分はここに居ると言いたかったのかな……。

「それで……近くでシェリーの顔を見るとすごく悲しそうに見えて『私はここよ』って言いたいのを必死に飲み込んだの」

視線を下げて言う『僕』(フィリエルさん)の表情は暗く、

「明日になれば元に戻れるからって、何とか言い聞かせたの……ごめんなさい、こんな話する為に二人になったんじゃないのに」

自分の心境を『僕』(フィリエルさん)が言い終えると、目頭から透明な液体があふれ出していた。

「リーラちゃんの体は涙もろすぎるのよ……」

あふれ出る涙を指でふき取りながらする言い訳に、涙もろいのは良くわかっているので苦笑いしてしまう。

でもその涙は僕の秘密を守る為に飲み込んだ言葉によるものだから、フィリエルさんの涙は僕のせいなのかな。


そう思ったせいか、気がつくと『僕』(フィリエルさん)を優しく抱き締めていた。

しばらく抱擁を続けてから覗き込むと、『僕』(フィリエルさん)は目を細めており、

「ごめんね、僕のせいだよね」

自分のせいで涙を流させた事を謝ると、

「シェリーの腕を治してくれた事に比べたらなんでもないわ……と言っても説得力ないわね」

僕の胸の辺りから見上げて苦笑いを見せる『僕』(フィリエルさん)

「でも……」

ちょっとだけ納得しかねて食い下がる僕に、

「それなら私からのお願い、ぎゅっと強く抱き締めて」

言われたとおりに強めに抱き締めると、目を細めて心地よさそうにしている『僕』(フィリエルさん)が見えて、

「なんていうのかな、すごく懐かしい気持ちになるのよ……あの頃は感情が不安定でこんな風によく母親に抱き締めて貰ってたわ」

視線の先は僕ではなくて、どこか遠くを見ているようだった。

フィリエルさんは里を捨ててレリックさんと一緒になったんだっけ、ここに来たばかりの頃を思い出す。

家族はシェリーさんの事しか話してもらってないしね。

「母さん……兄さん……元気にしているかな」

ぽつりと漏らしたその一言に、フィリエルさんの家族ってどんな人なのかなと考えをめぐらせてみる。

もしかすると、フィリエルさんと容姿が似てて、僕の容姿もフィリエルさんに似てると思うから……。

昔の頃に戻った感じだったのかな?

フィリエルさんがシェリーさんの腕の事を知って急に意識を失ったときは、兄さんごめんなさいと謝っていた。

でも……今の言葉だと案じているように聞こえるし……。

「フィリエルさ……」

と声をかけようとして、見下ろしてみると……目は閉じられていて規則正しい呼吸の音が聞こえる。

少し考え込んでいるうちに眠ってしまったのかな?

寝たふりをしてたっていってたけど本当は眠かったのかもね。

スースーと聞こえる穏やかな寝息と表情から心地よさそうに眠っている。

言葉の意味がすごく気になってしまうけど、『兄さん』の事に関してはシェリーさんも知らなかったみたいだから、きっと何か深い事情があるのかな。

結局僕と話したかった事ってなんだろう? 気になるけどこの心地よさそうな眠りを邪魔する気になれなくて、仕方ないかな……くすりと微笑が口から漏れてしまう。

心地よく眠れるかなと、抱擁を解いて優しく頭を撫でていると、『僕』(フィリエルさん)は僕をキュッと抱き締めて「母さん」と呟くように寝言を漏らすと、再びギュッと抱き締めしめる。

子供の頃に抱き締めてもらった夢でも見ているのかな? 口元が少しだけ綻びているように見える。

そんな『僕』(フィリエルさん)の顔を見ていると……「はふ……」小さく欠伸が出てしまう。

レリックさんは一緒に寝てきなさいと言ってたし、『僕』(フィリエルさん)への抱擁を解いて肩を抱くように腕を回すと、

「おやすみなさい」

一人呟くように言って目を閉じると、『僕』(フィリエルさん)の寝息に誘われるように意識が遠のいていった。


目を覚ますと、辺りは暗闇に包まれている。

長く寝ちゃったかな……と体を起こすと当たりは静まり返っている。

起きるには早すぎそうだし、もう一度寝なおそうかなと横になると『僕』(フィリエルさん)の寝顔が目に入る。

僕が眠る前と同じように規則正しい寝息が聞こえ、目を覚ます気配は無い。

多分魔力も戻ったと思うし……戻れるか試してみようかな。

明日の朝までに戻っておかないといけないしね。

でも……あの十字架を取りにいくのはやめておこうかな、もう使えないってシェリーさんに言ってしまったし、見られると話がややこしくなりそう。

ちょっと魔力の補助が無いのが不安だけど……僕は元に戻ることを願うように思い浮かべると、脳裏に言葉が浮かんできて視界が暗転する。

目を開くと、フィリエルさんが見え、規則正しい寝息が聞こえる。

元に戻れたとホッとすると、少しだけ目眩がする……魔力がぎりぎりだったのかな。

そのまま寝てしまおうと思い目を閉じたところで……小さくベッドの軋む音が聞こえる。

再び目を開いて耳を澄ましていると、ドアを開ける音がキィと聞こえる。

だれか外に出たみたい、レリックさんかシェリーさんだと思うけど……興味本位で確かめようと思い、音を立てないように気をつけて起き上がると、足音を殺してドアへと近づき開く。

キィ、とドアを開け外に出ると、出てすぐの場所に座っていたシェリーさんがドアの音に反応したのか振り向く、その姿は月明かりに照らされて白髪が輝いているように見えて、ちょっと幻想的ですごく綺麗だった。

「誰かと思えばリーラか、眠れないのか?」

「う、うん」

シェリーさんに声を掛けられ、ちょっと遅れて頷く。

見惚れてたなんて言えなくて……ずっと見下ろしているのも良くないと思い、シェリーさんの隣に腰を下ろす。

なんだかガーラントさんと一緒に夜空を見上げてた時を思い出して苦笑する。

あの時はこんな感じに体を預けたんだっけ……気が付けば自然にシェリーさんへ体を預けていて、

「ご、ごめんなさい」

焦って謝ると同時に肩を抱かれる。

急な事に驚いて見上げると、シェリーさんは僕に微笑みかけてくれ、

「かまわないさ、一人で居るのもいいが……話し相手になってくれるとありがたい」

気にするなと行動で示してくれる。

ガーラントさんのときと同じような状況になっている事に、くすくすと笑い出してしまう。

「どうした、私は何かおかしい事をしたか?」

「ううん、ちょっと前にガーラントさんと全く同じような事をしてたからおかしくて……ごめんなさい」

不思議そうに僕を見つめるシェリーさんに、なんとか笑いを止めて謝ると、

「そうか……ガーラントがここに来たんだったな、よかったらその時のことを教えてくれないか?」

シェリーさんの求めに応じるように僕は頷いて話し出す。

シェリーさん以外の女性と話したことが無くて話題に困っていたこと。

僕と一緒に居ることで、シェリーさんとの幼少の事を思い出したり、

自身の誕生がフィリエルさんとレリックさんの出会いのきっかけになったこと等を伝える。

僕の魔法のこと、ガーラントさんが告白する事を決めた事は伏せておいた。

魔法の事は勿論だけど、告白の事を教えてしまっては駄目だよね。

「そうか、リーラと二人っきりになるだけで困っていたか」

楽しそうに笑い出すシェリーさんに僕は目を丸くする。

「ああ、すまない……リーラの話を聞いて安心したよ、ガーラントに他の女性の影はないという事がわかったからな」

すごく安心した様に穏やかな表情になるシェリーさん。

告白する自信になったのかな? お互い好き合ってるみたいだしうまく行くといいな。

思わず僕は表情を緩めてシェリーさんを見つめてしまう。


「聞いてばかりですまないが、リーラがここに居る経緯を教えてくれないか?」

「僕の?」

急な事に自分を指差して聞き返してしまう。

「そうだ、父上に聞いてみたのだが……本人に聞けと言われたのでな」

シェリーさんは正面から僕を見据えて、返ってくる言葉を前って居るみたい。

レリックさんがそう言ったってことはつまり……どこまで話すかは僕に任せるって事かな。

「わかりました」

僕は小さく頷いて話し始める。

ランド村の川の近くで目覚めてからの記憶しかない事。

ランド村の夫妻に拾われて平穏な日々を送った後、村の子供に連れられてレブの森へ入り、帰り際にケルスに遭遇して一人残ってなんとか撃退した事。

焚き火を起こして眠ってしまったところをレリックさんが見つけてくれた事を話し終えると、シェリーさんに頭を撫でられていた。

「大変だったな、森の向こうの夫妻も優しき人なのだろう、今のリーラとその話でよくわかる」

僕へと微笑みかけるシェリーさんに、

「うん、二人とも優しい人だよ……勿論シェリーさんの両親もすごく優しいよ」

「まぁな、父上と母上の事はリーラ以上によく知ってるさ」

当然といった風に言ってるけど少しだけ嬉しそうにしているシェリーさん。

「嬉しそうだね」

「リーラも家族が褒められれば……」

全部を言い切る前にしまったという風に顔をしかめて、

「すまない……褒められて少し浮かれてしまっていたのかもしれない」

申し訳無さそうに謝るシェリーさんに僕は首を横に振って、

「ううん、家族みたいに接してくれる人が居るから大丈夫」

気にしていないという風に微笑み返すと、シェリーさんは何かを思いだしたように、

「ガ、ガーラントがここに来た時何か手土産を持ってこなかったか?」

話を変えようと、少し慌てたように話題を切り出す。

肉親が居ない事を気遣ってくれたのかな、折角の話題をここで止めちゃ駄目だよね。

僕はその話題に沿うように口を開く。

「僕にってチョコレートを持ってきてくれました」

前世を思い出して泣いちゃったっけと、あの時の余韻を思い出しながら言うと、シェリーさんの肩が小刻みに震えている。

「シェリーさん?」

何かまずいこといったのかなと思いながら声を掛けると、

「リーラのいうチョコレートというのは焦げ茶色をした液体のやつか?」

「うん、ガーラントさんが銀色の筒に入れてたのを僕に渡してくれたよ」

「は、母上に持って来たのをリーラが貰ったのだろう?」

急に青ざめたような表情になるシェリーさんに驚きながらも、ガーラントさんは僕の為にって持ってきてくれたので首を振ってそれを否定する。

何故か落ち込んだように俯いてしまったシェリーさんは、

「ガーラントは小さな子供のほうが好みなのか……」

ぽつりと漏らした一言にその意味がうまく飲み込めず、どう言っていいものか途惑ってしまう。

多分……小さな子供というのは僕の事だと思うけど……好みっていうのは何を指すのかな。

しばらく考え込んで一つの結果に行き渡る。

もしかして……カリンさんが言ってたような関係じゃないかってことを疑っているのかも?

思い出すだけで恥ずかしさがこみ上げてきて、頬が熱を持っていくのを感じる。

ちょ、チョコレートも高級品みたいだからってそんな事はあるわけが無い……でも事情は話せ無いし……。

「ぼ、僕はガーラントさんの事は嫌いじゃないけど、シェリーさんの思っている好きじゃないからね」

慌てて弁解するように言ってしまったけど……熱くなった頬で言うと逆効果かも……。

どうしようどうしようと、おろおろしていると、不意にくすりとシェリーさんが小さく吹き出す。

その様子をポカーンと眺めていると、

「すまない、私以上にリーラがうろたえているのでつい笑ってしまった」

そしてグッと抱き寄せられると、

「大丈夫だ、私に告白を勧めたリーラがガーラントに恋をしているとは思えないからな」

シェリーさんは僕に微笑みかける。

「そ、それじゃどうして急に落ち込んでたの?」

「母上が言っていたのだが……父上やガーラントみたいな質素な生活を心がける者がお金を使うときは大切な人の為だとな。

私にだってチョコレートみたいな高級な物を寄越した事のない奴がリーラに渡した事が衝撃だったのだ」

僕の質問に苦笑いをして答えるシェリーさん。

あうあう……僕がガーラントさんに気がない事は分かって貰えたけど……ガーラントさんが僕に恋をしてるみたいに取られてる……。

「ごめんなさい」

チョコレートをくれた理由を話すわけにもいかないので、申し訳なく感じて謝ると、

「リーラがそんな表情をして謝る事はない、ガーラントはリーラみたいな子が好みなのかもしれないが、勧められた様に自分の気持ちをぶつけてくるさ、少しばかり分が悪そうだがな」

苦笑いのままでシェリーさんは告白すると言ってくれたので、僕は安堵すると同時に、ガーラントさんごめんね……頑張って誤解を解いてねと心の中で謝った。

誤解を与えてしまった事に一抹の不安を感じるけど、お互いを想ってるなら大丈夫だよね……きっと。


「まだ、不安そうな顔をしているな……仕方ない」

考えていた事が顔に出てしまったのかなと思っていると、ギュッと背中を押されるように力を感じると、

シェリーさんの体に密着するように押し付けられる。

「母上にもよくこうして貰ったものだ、肌から感じる温かさが心地良いからな」

言われるとおり、感じる温かさが心地いい、こうして何回も落ち着かせてもらったし、フィリエルさんも母親からして貰ってたみたいだから、ある意味、親から子へと伝わっている方法なのかな?

ふっと見上げると、僕の視線に気付いたシェリーさんは微笑みかけてくれて、月の光に照らされたその姿はすごく輝いて見えた。


「しかし……」

シェリーさんの言葉になんだろう? 続きを待っていると……。

「こうしてリーラと居ると、昨日母上に抱き締められた事を思い出すのだ、なんでだろうな?」

シェリーさんは微笑しながら言う鋭い言葉に、僕はビクッと反応してしまう。

うう、シェリーさんの勘……鋭すぎるよ……。

「どうした? 私が何か気になる事でも言ったか?」

「う、ううん、なんでもない」

首を傾げるシェリーさんに、慌てて首を振る。

「おかしなやつだな」

またくすりと笑うシェリーさんは、何かに気付いたのか僕をジッと見つめる。

「そうか……あの時の母上から感じた雰囲気と魔力が似てるのかもな」

その指摘に僕は目を丸くしてしまい、

「だが、今のリーラから感じられるは魔力はあの母上よりはずっと低い」

続く言葉にホッと胸を撫で下ろす。

入れ替わった事で魔力がほとんど残ってないのが幸いしたのかも。

「リーラの百面相は面白いな」

「にゃ?!」

シェリーさんに虚を突かれて動揺してしまうと、頭の上に手のひらが置かれ、わしゃわしゃといった風に強く撫でられる。

心地良いけど髪を少し引っ張られる感じになってちょっと痛い。

「リーラと話せてよかった……すまないが、二人で話したことは胸にしまっておいてくれないか?

いずれ私から話す。今は……父上と母上に知られたくないんだ」

シェリーさんのお願いに僕は頷く事で肯定の意を示すと、

「すまないな、助かる」

そう言って抱擁を解くと、

「そろそろ戻るか、母上に気付かれる前にな」

立ち上がって伸びをすると歩き出す。

僕はそれに遅れないように追っていくと、

「ガーラントは雰囲気に惹かれたのかもな」

ぽつりとシェリーさんは呟くように漏らしていた。

読了感謝です

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