手にした憧れ
※入れ替わり表現があります
翌日。
ガーラントさんも一緒にテーブルを囲んでの朝食。
「流石に……両親の前であのような説明する事になるとは思いませんでした」
今朝一番から苦笑いのガーラントさんに、
「「ごめんなさい」」
一緒になって頭を下げて謝る僕とフィリエルさん。
ガーラントさんの秘め事を言わざるえない状況を作ってしまったからだ。
「二人とも頭を上げてください、いずれわかる事だったのですから」
「でも……」
僕は申し訳なさに困惑の声を上げてしまう。
一生に何度あるかないかの決心だったと思うから……。
「気にしてないと言えば嘘になりますが、こうなれば二人も私の応援をせざるをえないでしょう?」
「聞いてしまった以上は」
「応援せざるを得ないわね」
ガーラントさんの言葉に二人は苦笑しながら頷いた。
「そうそう、忘れるところでした。リーラ嬢にこれを」
と言ってガーラントさんは銀色の円柱を懐から取り出し僕へと手渡す。
「気に入ってくださるといいのですが……開けてください」
言われた通りふたを引っ張ってみると、キュポっと音を立てて外れると、
覚えのあるにおいが僕の鼻をくすぐる。
「これってチョコレート……?」
気がつくと僕の口から言葉が漏れていて、
「リーラ嬢はご存知でしたか、実はですねこちらへ行くから留守にすると隊員達に言ったところ、リーラ嬢へお礼をしたいという事になりまして、全員から銀貨を二枚ずつ集まり、私がある程度足して購入しました」
ガーラントさんは手に入れた経緯と、僕に渡す理由を説明する。
値段の高さに困惑する僕に、
「ガーラントさん達の気持ちなのだから貰っておきなさい、返しても困るわよ」
上から落ちてくるように声が聞こるので見上げてみると、微笑を浮かべるフィリエルさんが見える。
そうだよね、フィリエルさんの言うとおり、ガーラントさん達の気持ちなのだから……笑顔でお礼を言わないとね。
「ありがとうございます」
と出来るだけの笑顔でお礼を言うと、
「喜んでもらえて幸いです、早速味見をお願いしたいのですが……」
「リーラちゃんこれを使って」
ガーラントさんが僕に味見をお願いすると、フィリエルさんは器とスプーンを用意してくれる。
どうして器とスプーンなのかなと、もう一度チョコレートを見て容器を傾けると理由がわかる。
チョコレートは固まってない液体だった。
少しだけ器にチョコレートを移してスプーンですくってすすってみると、口の中に広がる風味が、僕の風化しかけた前世の記憶を蘇らせる。
母親には内緒とパチンコの景品にチョコレートをくれた父、幼少の頃、父に叱られて落ち込んでいるところに、チョコレートを買ってきてくれた祖父、
バレンタインデーに少しだけ高めのチョコレートをくれた母……大好きだったチョコレートと家族の思い出。
僕が居なくなっても皆元気で居てくれるかな……気がつくと目から涙が溢れていて、僕の視界を歪めていた。
「リーラ嬢?」
ガーラントさんの途惑ったような声が聞こえると、
「多分、前世の何かを思い出したのよ、以前にも少し食べた後に急にしょげてしまった事があったの」
フィリエルさんの言葉が聞こえると同時ぐらいに、温かい何かに覆われる。
見上げるとフィリエルさんが穏やかに微笑んでおり、僕は抱きしめられてた。
フィリエルさんから伝わる温かさが僕の心を落ち着かせてくれる。
「落ち着いた?」
「うん……」
フィリエルさんが僕の顔を覗き込むように見て、確認するように声を掛ける。
このやり取りも何回目かなと、少しだけ申し訳なく思ってしまう。
「そのチョコレートが原因だと思うけど……泣いちゃった理由を教えてもらえる?」
僕はその言葉に頷くと、ぽつぽつと話し出す。
一言、一言にフィリエルさんはうんうんと頷いて、話し終えると、
「リーラちゃんが前世で家族に愛されていた事が良くわかったわ、でもね、リーラちゃんはここで生きているの。
悲しい事だけど……少しずつ忘れて行かないと駄目だと思うの、前世はリーラちゃんであってリーラちゃんで無いのよ」
「僕であって僕でない……?」
「そうよ、前世の名前は『リーラ』じゃなかったんでしょう?」
フィリエルさんの問いかけに頷く。
僕の名前はミーナさんに貰ったもので、前世とは全く関係の無い名前だから。
つまりここに生きている僕は『リーラ』であるから前世を事は割り切って生きなければいけないってことだよね。
「でも……」
「そうね、すぐには無理だから少しずつね」
言おうとしたことをフィリエルさんに先に言われてしまい、頷くしかなかった。
その後、僕の前世ではチョコレートが安価であった事にガーラントさんは驚いていたけどそれはまた別のお話。
昼食を取った後に隊員さん達にチョコレートの感想をどう伝えるのかを聞いてみると、
「美味しくて泣いていたと伝えておきます」
と笑って答えてくれた。
美味しいし、泣いていたけど少し違うような気がする……嘘じゃないけど。
そしてガーラントさんが帰ることとなり、見送る事に、
「次に来る時は夫婦になってるといいのう」
「努力します」
レリックさんの言葉に苦笑いで返し、
「頑張ってね」
「はい」
フィリエルさんの言葉に頭を下げて答えると、
「リーラ嬢の親となってくださる方に無事会える事を願っております」
「ありがとう」
僕の頭に手のひらを乗せて、微笑みかけてくれた。
「それでは失礼いたします」
ガーラントさんは深々と頭を下げると背を向けて歩き出す、見えなくなるまで手を振っていると、名残惜しそうに三度ほど振り返っていた。
ガーラントさんが帰って言った後。
シェリーさん……何時帰ってくるのかな?と、ぼんやりと考えていた。
午後は何事も無く夕食を取ると、寝室へ行き、フィリエルさんと並ぶように床に就く。
今日の事を思い出しながらフィリエルさんを見るとすでに舟を漕ぎ出しており、規則正しい寝息が聞こえる。
僕が落ち込んだり不安になる度に、抱きしめて心を落ち着かしてくれる、温かい人。
僕も成長して、子供を産んだりして母親になれば分かる気持ちも分かるのかな?
僕にとって憧れというのかな、将来フィリエルさんみたいなれるといいな。
眠りに付きつつ考えていると……脳裏に言葉が浮かんできて、いつの間にか眠りへと落ちていった。
ふっと目を覚ますと何かに密着されている感覚があり、胸の辺りを圧迫しているのを感じる。
今まで感じたことの無い感覚に戸惑いながら視線を向けてみると『僕』が僕に抱きついていた。
多分これは夢なのかなと思い直し、『僕』を客観的に見ることが出来るんだとジッと見てみる。
穏やかな寝顔から規則正しい寝息が聞こえ、深い眠りについていることが分かる。
ふっと思いついて頬をつついてみると、『僕』の口から「レリック……」と言葉が漏れ、僕を抱きしめている力が少し強くなる。
胸の辺りの圧迫感が強くなり不思議な感覚に「んっ」と僕の口から今まで出したことの無いような声が漏れる。
『僕』の口からレリックと呼び捨てで言っていたのには違和感があったけど、
夢だからと思いあまり気にせずにいると、「あふ」と欠伸がでて、『僕』から感じる温かさの心地よさに再び眠りへと落ちていった。
誰かに頬をぺちぺちと叩かれる感触が伝わる。
目を開くと『僕』の困ったような表情が目に入り、
「あれ……まだ夢見てるのかな僕が見える」
まだ夢を見ているのかなと、まだ残る眠気に再び目を閉じる。
それからすぐに小さい溜息みたいなものが聞こえたかと思うと、胸のあたりを鷲掴みされたような感覚と、今までに味わった事のない不思議な何かが僕を覚醒させる。
衝撃のあまりに目を開き声を出そうとすると「むー」口をふさがれいて、目の前に居る『僕』は唇に人差し指をつけ、『静かに』と手振りで指示をする。
『僕』は僕の口から手を離し、部屋の向こうを指差しながら『ついてきて』と歩き出す。
まだ、頭の中が起き切れてない僕はそのまま立ち上がってついていくことに……立ち上がると何時もより高い位置に視点があり、胸の辺りに不思議な重みがあるので少し首を傾げてしまった。
『僕』は備え付けてある水がめの近くまでいくと中を指差す……覗いて見てということなのかな?
良くわからないまま、水瓶の中を覗くとフィリエルさんが映る。
「えっ」
思わず声を上げて振り返ると誰も居ない……水瓶の中に映るフィリエルさんは驚いたような表情をしている。
水瓶から顔を出し振り返ると『僕』がこちらをじっと見つめて、
「さっき『僕』って言ってたから、そこに居る『私』はリーラちゃんなのね?」
『僕』からの問に頷き、
「ということは……そこに居る『僕』はフィリエルさんなの?」
『僕』はゆっくりと頷いた。
僕とフィリエルさんの中身が入れ替わったみたい……。
「どうしてこうなったのかしら……」
『僕』が小さく溜息をつくと、僕を不安そうに見上げる。
いつも見上げるのは僕だっただけに、少し不思議な感じがして、つい見つめてしまう。
「リーラちゃん落ち着いているわね? 何か心当たりはあるの?」
僕は首を振って心当たりがない事を示すと、
『僕』はあてが外れた為かさっきより不安そうに僕を見つめている。
そんな『僕』を見ていると……不思議な感情がわいてきて、気がつくと『僕』をギュッと抱きしめていた。
「ちょ、ちょっとリーラちゃん?」
突然の僕の行動に途惑う『僕』を見ていると、逆に僕の心は落ち着いてきて、
「こうした方がお互いに落ち着けるかなって」
思っていた事とは違うけど、こう言ったほうがフィリエルさんも落ち着けるはず……。
フィリエルさんが僕を抱きしめる時もこんな感情があったりするのかな。
「いつもリーラちゃんはいつもこう感じているのね……」
『僕』の表情は少し満足そうに目を細めている。
もう大丈夫かなと抱擁を解くと、
「とりあえずレリックさんに説明をしないと……」
そう言って歩き出そうとする僕の腕を『僕』が引っ張っている。
振り返ると『僕』は首を振って、
「レリックが気付くまでお互いの振りをして見ない?」
どこか楽しそうに『僕』が提案する。
その提案に僕が途惑っていると、
「戻れなかった時のことも考えて練習も必要でしょ」
確かにそうだけど……『僕』の言っている事と表情と耳のあたりが一致してないので、フィリエルさんはこの状況を楽しもうとしているみたい。
僕も成長したらこんな感じになるのかなぁと思っていただけに、同じように楽しむべきなのかな。
ふっと見下ろしてみると、昨日の僕とは比較にならない大きさの胸が目に入り、興味本位でちょっと触ってみると、くすぐったい感触が僕に伝わってくる。
「二ヶ月前まで男の子だったものね、気になるのも仕方ないわね」
『僕』が理解を示しながら苦笑していた。
レリックさんが起き出す前に朝食を作る事になり、一緒に作業を始める。
加減のいる細かい仕事はフィリエルさんがして、高いところにある物を取ったり重い物を持ち上げたりするのが僕の仕事となった。
いつかは僕も出来るようにならないと……と思いながら、フィリエルさんの指示に従って作業を進める。
傍から見たら親子が協力して作業しているように見えるのかもしれないけど、作業の内容はあべこべみたいな感じになっている。
メインの作業をする『僕』と雑用の作業をする『フィリエルさん』……レリックさんが見たらさぞ不思議そうな表情をしてくれたかも。
献立はいつものパンに玉葱のスープ、なんとか完成すると、『僕』が額の汗を腕で拭っていて、
「運ぶのはお願いするね『フィリエルさん』」
『僕』が片目を瞑ってウインクしてお願いする。
ここからなりきる事をはじめるんだなと思い、
「わかったわ『リーラちゃん』」
とフィリエルさんがいつも持っているようにパンの籠とスープの入った鍋を持つと、テーブルへと運んでいく。
『僕』はスープを入れる器とスプーンをもって並ぶように歩いてくる。
その姿を見て、元に戻ったら僕も運ぶのを手伝おうと心の中で思った。
テーブルへと近づくとレリックさんがもうテーブルについており、こちらに視線を向けると、
「おはようレリック」
「うむ、おはようじゃ」
いつもフィリエルさんが言っているように心がけて挨拶をすると、
「おはようございます、レリックさん」
『僕』が僕を真似て挨拶をする。
僕そのものを見ているみたいでちょっと不思議な感覚。
「おはようじゃ、フィリエルとリーラが一緒に来るのは珍しいの?」
レリックさんが少し不思議そうに言うので、何時ものフィリエルさんなら……と少しだけ考えながら持っていたものをテーブルに降ろすと、
「リーラちゃんが手伝ってくれたのよ」
と『僕』の頭を撫でて言うと、『僕』は振り返るように見上げると片目を瞑る。
多分これが正解ってことなのかな。
「そうかそうか」
目を細めて見つめるレリックさんに、『僕』は少しだけ頬を染めているように見えた。
フィリエルさんがいつもやっている事を思い出しながら、器にスープを注いでいくと、
「気のせいか今日の動きはぎこちなく見えるが、何かあったかの?」
レリックさんの指摘にギクリとなって器に注ぎ損なって少しこぼしてしまう。
『僕』はその指摘に少し驚いたような表情を浮かべており、
「そ、そう?」
僕は慌てて備え付けてある布でふき取り、少し焦ったような声を返してしまう。
そんな時にくぅーきゅるきゅると『僕』のお腹がなる音が小さく響き、『僕』は俯いて顔を赤くする。
その様子に、フィリエルさんの演技はすごいなと感心しつつ、次にとるべき行動を考えて、
「ふふ、リーラちゃんは手伝ってもらった分お腹が空いたのね」
とパンを『僕』へと差し出す。
うまく行動できたのかな、レリックさんは『僕』を目を細めて見ていた。
うまくいったかなと安堵し、いつもどおりに食事を取り終えると、レリックさんが口を開く、
「リーラよ、何を隠しておる?」
「な、何も隠してないわよ」
急な指摘に『僕』が慌てて応対する。
行動はあってるけど言葉があってない。
「フィリエルよ、一昨日言っておったのう、リーラが隠し事は力ずくで聞き出すと」
「え、ええ」
少し内容は違うけど、レリックさんの有無を言わせないような雰囲気に押され頷いてしまう。
そのやりとりに『僕』の顔は青ざめて行き、立ち上がると同時にレリックさんの片腕が腰の辺りをガッチリと掴む。
そして……レリックさんにくすぐられる『僕』の姿がそこにあり、
「きゃはははやめ……はははて」
『僕』の笑い声は家の中に響き渡り、くすぐりから逃れようとジタバタしているけど……それは意味がなく、
一昨日の自分はこういう感じ見えたんだと客観的に自分を見ていると、自分もくすぐったくなってきそうだった。
数分後ぐったりした『僕』が出来上がり、レリックさんに開放されると、まるでテーブルに置かれたタコのようになっている。
「喋る気になったかのう?」
「ふぁい……」
ぐったりしている『僕』が返事をすると、一昨日と同じようにしようと思い、『僕』を起こし、抱きしめる。
僕がそうされたように少しでも楽になればという想いがあったからなのかな。
「僕が説明します」
誤魔化しても無駄だと悟ってレリックさんに説明する事に、
「ふむ……面妖な事が起こったもんじゃのう……」
説明を聞いた後、レリックさんはひげをさするようにして、思案顔になっている。
「でもどうしてわかったんですか?」
一応なりきってやったはずなのに、すぐばれてしまった事を不思議に思って聞いてみると、
「ふむ、おかしい点はすこしずつあったのじゃが、確証に近いものを得たのは、今日の『フィリエル』はパンをかじって食べておって、『リーラ』は千切ってたべておった」
そう言われて、『僕』と顔を見合わせて、
「良く見ているわね……」
「流石レリックさん……」
それぞれ感想を漏らすと、
「すぐにわしに言わんかった理由はすぐわかったぞ? フィリエルがわしを試してみよう。とか言ってリーラを言いくるめたんじゃろ」
「「…………」」
その通りなので一緒になって沈黙してしまう。
「まぁそれは良いとして、二人とも心当たりはないんじゃな?」
二人一緒に頷くと、
「ふむ……まぁ来客があるわけではないから入れ替わったままで支障が出るような事はないが……なるようにしかならんかのう」
レリックさんは大きく溜息をつくと、
「それでフィリエルよ、今日のあれはどうするんじゃ?」
レリックさんの問に『僕』は溜息をついて、
「無理よ、今考える事でもないでしょ……それに今の状態でできるわけないじゃない」
「まぁそれもそうじゃの」
『僕』の回答にレリックさんは納得したけど何をするのかな?
「えっと、何をする予定だったの?」
「男女の愛の営みじゃ、わかりやすく言うとじゃな、こないだカリンが妄想してやつの一歩先のことじゃのう」
「レリック!」
『僕』が抗議するようにレリックさんの名前を叫ぶと、レリックさんは苦笑いを浮かべる。
えっとカリンさんの妄想というのは、僕とガーラントさんとのあれこれで……その一歩先で……今の僕はフィリエルさんの体だからつまり……。
その先を考えたところで、僕の思考は一旦停止し、再起動すると顔に熱が集まっていき……。
「うにゃぁぁぁぁぁぁぁ」
熱を放出するように『フィリエルさん』の叫び声が家の中に響き渡る。
「これは……ある意味新鮮じゃのう……」
「なんだか負けた気がするわ……」
叫び終わって屈みこんで頭を抱えている僕を見て、二人は微妙な感想を漏らしていた。
その後、戻らなかった場合の事をあれこれ相談していると、
『僕』がこっくりこっくり船を漕ぎ出し始めたかと思うと、すぐに規則正しい寝息が聞こえ出す。
「くすぐりが堪えてしまったのかな」
一昨日を思い出して苦笑しながら見つめていると、
「自分の寝ている姿は客観的に見てどうじゃ?」
「なんというか、すごく見てて安らぐというか、自分を見ているのに不思議な感じがするかな」
僕の回答にレリックさんは頷き、
「それがわしとフィリエルがいつも感じているものじゃ、正直に言うとな、リーラが可愛くて仕方ないんじゃよ」
面と向かって言われると少しくすぐったい感じがする。
「まぁ……シェリーが帰ってくる前に元に戻れると良いがのう」
「フィリエルさんになりきる練習が必要になりそうですね」
二人一緒に苦笑いを浮かべながら溜息をつき、
「まぁ、数日様子をみるしかあるまい、出来るだけ一緒に行動して、魔法は使わんようにするんじゃ、何が起こるかわからんからのう」
「わかりました」
レリックさんの言葉に頷くと、
「後の片付けはやっておくからの、フィリエルを寝床に運んで添い寝しておくんじゃ、ひょっとしたら元に戻るかもしれんからの」
レリックさんの言葉に頷くと、『僕』を抱き上げる。
少しだけずしりと来る重さに、これが僕の重さなんだと思いながら寝室へと運び、寝かしつけるとレリックさんに言われたとおり、隣に僕も横になる。
「どうして入れ替わったのかな?」
穏やかな寝息を立てる『僕』に問いかけるように独り言を言ってみる、当然だけど返事は無かった。
心地よさそうに眠る『僕』を見ていると、心の奥底から温かい感情があふれ出し、思わず『僕』を抱き締めてしまう。
いつもフィリエルさんはこんな感じなのかな? とぼんやりと考えていると、『僕』から感じる温かみに眠気を感じ、「はふ」と大きく欠伸をすると、早く元にもどれるといいなと願うように目を閉じると脳裏に何か言葉が浮かんできて、眠りへと落ちていった。
目を覚ますと何かに拘束されているのを感じ、目を開いてみると眠っているフィリエルさんが見える。
元に戻れたんだと安堵し、フィリエルさんになっていた事を思い出すと、すごく不思議な体験だったなぁと思うと同時にフィリエルさんをより身近に感じられた気がする。
僕はフィリエルさんの頬にこっそりと唇を落として再び目を閉じた。
読了感謝です