表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/84

悲愴なる決意

僕が突っ伏してから二週間が過ぎ、ここに来て約一月が経過した。

結局あの翌日カリンさんの雑貨屋さんに「なんてこと考えるんですか」と一人怒鳴り込んだけど。

気がついたら、三日間ミントを漬けた蜂蜜飴を舐めながらご機嫌で家の前まで歩いてきてて、

「おかえりなさい、カリンさんにしっかり抗議できた?」

とフィリエルさんに声を掛けられ、目的を思い出して両手を地面につけて落ち込んだのは苦い思い出。

一日一個という割合でダイヤモンドに魔力を込めていき、四日後には全部魔力を詰め終わると、その翌日に「これにも魔力込めれるかのう?」とレリックさんに銀色に光る角材みたいなものを手渡される。

『ブレッシングマテリアル』

魔力を込めていくと……体積が多い分魔力が多く入るのか、魔力を全部持っていかれて体に力が入らなくなり、ほぼ一日寝て過ごす事になってしまった。

フィリエルさんに半分ずつ入れる方法を教えてもらったので、次回は二回に分けようと思う。

レリックさんの話だと最後の仕上げに、魔力を込めて完成で、魔力を込めた銀の角材から作るから、まだまだ時間がかかるみたい。


カリンさんに二週間漬けた蜂蜜飴を味見して欲しいと言われ、少しだけ高揚した気持ちで村へと駆けていく。

村へと入ったところで、村長さんが日向ぼっこしているのが見える。

何時もは家の前でしているのに、今日は村の真ん中辺りで座っている。

「村長さんこんにちは」

「リーラか、今日は一人かの」

声を掛けると、ゆっくりと僕へと顔を向け、目を少し細める。

日差しが少し眩しいのかな?

「うん、カリンさんのお店へちょっと」

「そうかそうか、いつも元気がいいのう」

挨拶のような会話を交わし、お店へと歩み始めようとしてふと思い出す。

この前フィリエルさんと来た時に、村長さんから神聖魔法について書かれた本が図書館にあるとか聞いていたし、

治癒の魔法も伝承と一致したからとレリックさんが言ってたから、伝承について聞いておくと、僕の知らない神聖魔法を知るヒントになるかも?

「村長さん、神聖魔法の伝承と知っていますか?」

「ふむ? 傷を癒したり、病を治したり……おおそうじゃ、口寄せや悪霊の浄化も出来たと聞いておる」

思い出すように言いながら「あくまで伝承じゃがな」と付け加える。

口寄せと悪霊の浄化かぁ……ちょっとイメージがわかない。

「なんだか現実離れしてるね」

「そうじゃの、使い手が居なくなって久しいと聞いておるしのう、探せば世界のどこかには居るかもしれんのう」

目の前に居ますとは流石に言えないので、

「どこかにいるなら、会ってみたいな」

居るかもしれないという言葉にちょっと期待を込めてみると、

「それはほぼ無理じゃろうな」

村長さんはまるで当たり前のことを言うように、ばっさりと切り捨てる。

「どうして?」

小首を傾げるようにして、聞き返すと、

「まず居たとしてじゃのう、リーラは怪我したら、傷口をふさぐ為に手当てするじゃろう?」

村長さんの意図は掴めないけどその通りなので頷く。

怪我をしたら手当てをするのが極自然なことだからね。

「それでも痛みが引くまで時間はかかる。 それでじゃ、傷を治す魔法を使える者が近くにおるとすればどうする?」

「お願いして治してもらう?」

僕の解答に満足そうに村長さんが頷き、話し続ける。

「うむ、しかし、その魔法が使える者が少なければどうなるかのう?」

「傷の深い人を優先して治すのかな?」

「うむ、手遅れにならない者から優先して治療するじゃろう」

再び満足そうに頷き、

「じゃがのう、魔力には限りがある。じゃが、治療して欲しい人は後を絶えない、リーラならどうする?」

村長さんからの深まる謎かけに考え込み、一つの結論に行き着く。

「お金をとって、人数を減らす……」

前世では、治療の困難な病気は高額なお金がかかっていて、払いきれなくて、借金する人もいたらしい。

近所の噂が耳に入った程度の知識だけど。

「そうじゃ、一番簡単な方法じゃな。金を持っている者だけがその恩恵を受けれるようになる。

つまり、王族や貴族、裕福な商人が自分の為に囲い込んでしまうという事じゃ」

お金がある人だけが助かる……か。

弱肉強食に近いものになるのかな。

「得てして、その者たちは自分勝手でわがままでであるものじゃて。

自分の痛みを引かせたいが為に酷使するのが目に見えておる、じゃから使い手が絶えてしまい、伝承だけのものになったのかもしれんのう」

どこか遠いものを思い浮かべるように話す村長さんの言葉が僕に突き刺さる。

僕が神聖魔法を使えることを知られたら……。

村長さんの言葉からすれば……僕の運命は決まってしまっている事になる。

レリックさんが、魔力の込めた石を売る事を怒鳴ったのはこれの事なのかな……。

頭の中で不安が渦巻く中、

「も、もし、村に使い手さんがいたら、どうするの?」

仮定として村長さんへ尋ねる。

僕が神聖魔法を使えるとは……思わないだろうからね。

「ふむ、稀な事を聞くのう」

村長さんは視線を少しの間、空へと泳がせた後に口を開く。

「すぐに出て行ってもらう事になるじゃろうな」

「ど、どうして?」

村長さんの有無を言わせない厳しい内容の言葉に、驚きながら聞き返す。

「村長という立場上、仕方ない事なんじゃよ、村に傷を癒せるような者が居れば助かるじゃろう。

しかしじゃな、それが知れ渡ると、その者を得ようとするものが出るんじゃよ……そしてそれは必ずと言っていいほど、村に災いをもたらす事になる」

僕が災いをもたらす事になる……その内容だけが僕の頭の中で繰り返し響く。

「もたらす利益よりも、被る被害の方が大きくなりすぎる、そうすると村長としては、被害が出る前にその者に出て行ってもらうしかないのじゃよ」

僕は村に居るべきじゃない……村長さんの言葉が僕の心に染み渡ると、視界が歪みだす。

ガーラントさん達は僕が魔法を使った事を見ていたはず……だれかの口から漏れたら……。

フィリエルさんやレリックさんも僕のせいでこの村に居られなくなる……。

どうしたら……いいのかな。

不安だけが心の中に渦巻いていく中、頭を撫でられる感触が伝わってくる。

「感情移入してしまったかのう、リーラには悲しい話じゃったの」

あやすように頭を撫でる村長さんは、僕へと優しく微笑んでくれる。

その行為は嬉しかったけど、本当の事を言えない僕の心は痛むばかりだった。

しばらくして何とか涙を止める事ができたので、

「長いお話をありがとうございました」

お礼を述べ、頭を下げて村長さんと別れると、

カリンさんの家の前まで歩いて行き、立ち止まる。

どうしよう……こんな状態でカリンさんに会ったら心配されかねない。

落ち込んでる理由を聞かれたらどう答えればいいのかな……。

少しの間扉の前で考え込んでいると……。

「あら、リーラちゃんいらっしゃい」

「うにゃ!?」

後方から声を掛けられてしまい、驚きのあまり変な声を上げてしまった。


カリンさんのお店の中に通され、

「脅かすつもりはなかったのだけど……ごめんなさいね?」

カリンさんは申し訳無さそうにして、僕に謝る。

正直、心臓が止まるかと思うほど驚いてしまったため、まだ心臓の鼓動が早く感じる。

でも……少しだけ沈んだ気持ちも吹き飛んだかも。

「どうしてあんなに驚いたの? それに落ち込んでいるようにも見えるけど」

心配そうな面持ちで僕へと尋ねてくると、

「村長さんから言伝えの話を聞いてたら悲しくなっちゃって……」

「そっか、悲しいお話の登場人物に感情移入しちゃったのかな?……リーラちゃんは優しいわね」

うんうんと頷きながら僕へと微笑かけてくれるカリンさんに、僕は俯くばかりだった。

優しくなんてないです……優しいのは皆さんで……僕は……災いをもたらす存在。

村長さんの言っていた言葉が脳裏に蘇り、僕の心をより暗くさせる。

「ほらほら、顔を上げなさいな、可愛い顔が台無しよ?」

カリンさんに言われ、俯いた顔を上げると、僕の口へ何かを押し込まれる。

それは甘く、口の中に清涼な風が通っていく。

沈みかけた心の闇を少しだけ取り去ってくれた気がする。

「二週間漬けた物よ、どうかしら?」

「美味しいです」

僕の言葉にカリンさんは怪訝な顔をし、

「これは重症ね……何時ものリーラちゃんなら、私も釣られそうなぐらいいい笑顔するもの」

と言うと、小さくため息を付き、

「何か深い理由がありそうね……詳しくは聞かないけど、私にできる事なら言ってね」

「うん……」

カリンさんの言葉は嬉しいのに……その理由を言えないもどかしさが僕を悲しくさせる。

その後会話らしい会話も出来ず、カリンさんのお店を後にする。

「力に慣れなくてごめんなさい」

とお店を出る間際にかけられた言葉は僕の心をより暗くする。

謝らなければいけないのは、黙っている僕のほうなのに……・。


カリンさんのお店を後にして家へと戻る途中。

自分の存在が村には村にとって害を与えてしまう可能性があると言われた事に、

自分はどうしたらいいのかわからず、重い足取りで一歩一歩と家へと歩いていく。

このままじゃ……ここに居て良いと言ってくれた、フィリエルさんとレリックさんにも迷惑がかかってしまう。

僕のせいで村に居られなくなるかもしれない。

どうしたらいいのだろう……どうすれば……。

あ……僕がここから居なくなればいいんだ……フィリエルさんもレリックさんも悲しむかもしれないけど。

時計を一ヶ月戻すだけ……。

一ヶ月戻すだけ……それだけだと思うのに、僕の頬がどんどん湿っていくのはなんでだろう?

この一ヶ月の事がどんどん思い浮かび、目頭からあふれ出る涙が止まらない。

近くにあった木にもたれかかる様にして、涙がおさまるまで流し続けた。


どれぐらい泣き続けたのかな……まぶたのあたりがヒリヒリする。

泣き明かして少しだけすっきりした心の中で、ここから出て行こう……自分なりの決心を決める。

今すぐだと見つかってしまうから……夜こっそりでていこう。


自分の行動を決めると、家への歩みを再開する。

心の中が晴れた分、少しだけ足取りが軽くなった気がした。

家の中へと入ると、フィリエルさんが僕を見て目を丸くしてしまう。

「リーラちゃんどうしたの……目が真っ赤よ」

「うん……ちょっと」

心配そうに聞いてくるフィリエルさんに歯切れの悪い返答をしてしまう。

村長さんとの話はしない方がいいよね……僕が出て行く決心をした事を勘ぐられても困るし……。

強く迫られたら、誤魔化せる自信なんてないもん……。

「無理には聞かないけど、私にできる事があったら言ってね?」

フィリエルさんはすごく聞きたそうに見えるけど、

カリンさんと同じように、一歩引いて、僕が言うのを待ってくれるみたい。

優しさと、言う事ができない申し訳なさに板ばさみにされ、

「ありがとう……」

俯きながらそう言うのが精一杯だった。

僕の思うとおりに事が運んでしまえば……言う事はなくなってしまうのかな。

「レリックも戻ってくると思うから、夕飯の支度してくるわね」

奥へと入っていくフィリエルさんは僕の様子が気になるのか、二度振り返って僕を見ていた。

心配かけちゃってるよね……ごめんなさい。

しばらくすると、レリックさんが戻ってきて、僕の様子をジッと見て、

「ふむ……そんな時もあるじゃろう」

と少し険しい表情をしてながらも、納得したみたいだった。

根掘り葉掘りと聞かれなかったことに、ホッとする気持ちと、それをどこか残念に思っている気持ちがあった。


何時ものように並ぶ白いパンには、たっぷりとパターと蜂蜜が塗ってあり、

気落ちしているように見える僕への気遣いが感じられ、すごく嬉しいのに……この後自分のする行動を考えると、申し訳なさで一杯になる。

「どうしたの? 大好きでしょ?」

「う、うん」

フィリエルさんに言われ、慌ててパンへと手を伸ばす。

いつもならすぐに手を伸ばして、かぶりついているところだから……。

「本当にどうしたの? 帰ってきてから塞ぎこんだままじゃない」

フィリエルさんの声色から……すごく心配されている事がわかる。

「まぁ、そういうでない、リーラにも一人で考え込む事もあるじゃろう」

「でも……」

レリックさんの言葉にフィリエルさんは少し不満そうな声を上げる。

二人の優しさが、僕の今思っている事、考えている事を全部話したい衝動に駆られてしまう。

でも……迷惑をかけたくない一心でその心にふたをする。

結局食事では僕から話しかける事は無く、いつもなら三個ぐらい食べてしまうパンも一つ食べるのが精一杯で、

沈んだ心が僕のお腹にもふたをしたのかな……美味しいのに二個目を食べれる気がしなかった。

食事も終わり寝室へ、食事中ずっと僕の行動を気にしていたフィリエルさんに対して、レリックさんは僕を目をじっと見た後、

何時ものように平然としていた。

らしいと言えばらしいんだけど、もしかしたら僕の行動に気付いているんじゃないかと気になった。

そんな訳ないのにね……。


フィリエルさんと一緒に横になると。

「理由は聞かないわ、明日は元気に笑ってね」

寂しそうに微笑むフィリエルさんに、僕は頷く事ができず、苦笑いを返すのがやっとだった。


ふっと目を覚まし、音を立てないようにゆっくりと起き上がる。

目を閉じたまま、なかなか寝付けずにいたけど少しだけ眠れたかな……。

音を立てないように、顔を両手でぺちぺち叩いて意識をはっきりとさせる。

隣ではフィリエルさんが穏やかな寝息を立てており、反対側へ視線を向けるとレリックさんも静かに眠っている。

フィリエルさん、レリックさんこの一ヶ月間ありがとうございました。

心の中でお礼を言い、行動を開始する。

といっても僕の持ち物なんてポーチとリボンしかないので、たすきをかけるようにポーチ身につけると、二つ並んでいるリボン……カリンさんが一つ新たに作ってくれた方を手に取り、手早く髪をリボンでまとめる。

いつも僕がつけていたほうのリボンを手に取り、少しだけ抱きしめると……元に戻しておいた。

フィリエルさんのつけていたほうを持っていくね……僕がつけていたほうは置いていきます。


足音を殺して、ゆっくりと歩き出す。

家のドアを出来るだけ音を立てないように、キィと開け外に出るとゆっくりと閉める。

深夜の空気は少し冷たく、心地よい 家から村へ、村から別の場所へと歩き出す。

足取りは決して軽くないけど、もう決めてしまった事だから……一歩一歩と家から遠ざかる。

この世界に来た時にもどっちゃったかな……僕に手を伸ばしてくれたミーナさんの顔が思い浮かぶ。

能力が無ければよかったのに……と思いかけてやめる。

この能力があったからこそ、レリックさんとフィリエルさんが今一緒に居られるのだから。

今までの事を振り返りながら歩いていくと……少しずつ夜が明けていく。

どれぐらい歩いたのかな……気がつくと歩き続けた疲労のせいで脚がすごくだるい。

街道から離れない程度に生えている木を背もたれにし、一休みしようと座っていると……、

夜しっかり寝てないせいか、急に眠くなる。

夜も明けてしまったし、獣がいるようでもないからいいかな……僕はゆっくりと目を閉じ、意識を手放した。

読了感謝です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ