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僕の居場所

ここは……?

気が付くと見慣れた自分の部屋の天井が見える。

早く起きなさい、遅刻するわよー。

母さんの声が僕に届き、目をこすりながら起き出して声の聞こえたほうへ向かう。

母さんに近づくと……急に視線が低くなり、着ていたパジャマはクリーム色の服とスカートに変ってしまった。

急に変ってしまった状況に目を見開いて立ちすくんでしまうと……母さんが僕に近づいてきて優しく抱きしめる。

ごめんなさい、もう何もしてあげる事はできないの。

悲痛な面持ちで呟くように言う母さん。

そんな顔で言われたら、助けて欲しいなんて言えないじゃないか……。

母さん……母さん……僕も抱きしめ返し、呟くようにそれを繰り返すばかりだった。


夢だったのか……やっぱりもう戻ることは出来ないんだよね……。

ぼやけた意識の中で現状を再認識するにつれて、目頭がじわ~っと熱くなり頬を伝うように塩で味付けされた液体が流れていき、少しずつはっきりしていく意識に密着した何かを感じる。

うん……?

濃い緑色の何かが視界に入る……僕の頭はふわふわした何かに挟まれていて、どこか懐かしい感触にこれはなんだろうと疑問に思いつつもぼんやりその心地よさに浸っていた。


「目が覚めた?」

声が聞こえると同時に、僕の頭が優しく撫でられるのが感じられる。

おそるおそる顔を上げてみれば、そこには柔らかく微笑んでいるミーナさんの顔があった……つまり僕はミーナさんを抱き枕にして豊かな胸の間に顔をうずめていたみたい。

「怖い夢でも見たの? 頬が濡れてるわよ」

ミーナさんが僕の頬を指でつたいながら涙をふき取る。

現状を認識するにつれて……恥ずかしさがすごい勢いで頂点に達し、

「にゃぁぁぁっ」

よくわからない叫び声をあげるに至った。

混乱する頭の中で昨日のことを思い出していくと、ご飯を食べた後急に眠くなって……そこで記憶が途切れている。


穏やかな笑顔で僕を見つめるミーナさんは何を考えているのかを察したようで、

「ご飯食べた後リーラちゃん寝ちゃったから、ディンにここまで運んでもらったのよ」

ご飯食べた後すぐ寝ちゃって、しかも運んでもらうなんて……。

申し訳なさにシュンと俯いてしまう。

「ほらほらそんな顔しないの」

ミーナさんに優しく抱きしめられて頭を撫でられる。

「リーラちゃんは私に抱きついてきて、母さん母さんって寝言を言いながら泣いてたのよ」

優しく語りかけるミーナさん言葉と抱擁に恥ずかしかった気持ちは薄れていき、心地よさを感じていた。

数分ほどその状態に甘えて「落ち着いた?」とミーナさんの言葉に僕はゆっくり頷いた。

ミーナさんは抱擁をゆっくり解いてベッドから降り立ち上がり、

「リーラちゃんもいらっしゃい朝ごはんにするわ」

どこか楽しそうに僕へ微笑みかけ、言われるがままについていく。

「良く眠れたか?」

僕を待っていたかのようにテーブルにかけたまま声をかけてくれるディンさんに、

「ベッドまで運んでもらいありがとうございました」

深く頭を下げてお礼を述べた。


「気にするなたいしたことじゃない」

髭を触りながら事も無げにいうディンさんは格好よく見える。

「リーラちゃんが寝た後にミーナに聞いたが、行く宛とかないんだな?」

続けるように問いかけるディンさんに僕は頷くしかなかった。

知り合いも家族も居ない、お金もない、ましてここがどこかもわからない。

あるものは……女の子の今の体と服、不安と現代の日本におけるゲームや生活のわずかばかりの知識……。

到底役に立つものではなく、自分の置かれた環境を再認識して俯いてしまう。

「また不安にさせちまったか」

額に手を当ててディンさんは少し顔をしかめている。

「グス……」

不安が心の中の寂しさと悲しさを増幅させて、僕の頬を湿らせていく。

「すまん、言葉足らずだった。行くとこがないのならしばらくうちに居てくれないか?」

早口で話すディンさんの言葉に、ハッとしたように俯いた顔を上げる。

ここに居ていいの……?

「泣かないでくれ、ミーナに怒られちまう」

僕への対応に困ったディンさんがおろおろしている。


「あらあら……どうしてリーラちゃん泣いてるのかしら?」

後ろから聞こえた言葉に振り変えると、昨日と同じパンの籠と野菜と思われる葉っぱが乗せられた大皿をもったミーナさんが立って居た。

目の笑ってない笑顔がすごく怖い。

「す、すまんうまく切り出せなくて不安を煽ってしまった」

ディンさんが平謝りにミーナさんはテーブルへ籠と大皿を置いて溜息をつく。

「口下手のディンにお願いした私が悪かったわ。 ごめんなさいね」

ミーナさんは屈んで僕の目線に合わし、頭を撫でながらごめんねと再び謝る。

「ディンが上手くいえなかったみたいだけど、リーラちゃんがよければしばらくうちに居ていいのよ」

「でも迷惑じゃ……」

僕がそう言いかけるとミーナさんは首を振って、

「迷惑なら最初から声をかけないわよ」

にっこりと微笑んでくれた。


「まぁそういうことだ」

「あ、ありがとうございます」

見ず知らずの僕にここまでしてくれるなんて……と胸が一杯になっていくのを感じる。

あれ……嬉しいのに視界が歪んでいく……なんで?

「あらあら……リーラちゃん泣き虫さんね」

ミーナさんは困ったように微笑みながら、僕を優しく抱きしめながら頭を撫でてくれた。


僕が落ち着いた後、朝食をとりながらふと飾られた絵に気がつく。

絵にはミーナさんとディンさんの間に小さな女の子が居て、幸せそうな顔をして描かれていた。

僕の視線に気がついたのかミーナさんが口を開く。

「あの絵の女の子はね私とディンの子でナナって言うんだけど……」

そこでミーナさんの言葉の歯切れが悪くなり、

「二年前に流行の病で天国に行っちまった」

まずいこと言わせちゃったのかな……僕はパンにかじり付いたまま停止してしまった。

「気にするな、ここに飾ってあるんだからすぐに気付くさ」

「リーラちゃんが悪いわけじゃないの、気を使わせちゃってごめんね」

気にするなという二人にどう返していいのかわからないまま、パンを食べることを再開するしかなかった。


「村長さんに挨拶に行きましょ、リーラちゃんを紹介しなきゃね」

食事を終えた後に、ミーナさん一言で挨拶へ行くことになった。

「そういえばリーラちゃん裸足だったわね……これを履いてみて」

言われて自分の足を見下ろし、素足のままだったことを再確認する。

ミーナさんによって僕の足下に置かれた物は、革製のサンダルのようなもので、僕の足がすっぽり入るのは明白だった。

「丁度よさそうなものがなかったの。でも裸足よりはいいでしょ?」

ミーナさんはサンダルを履いた僕の足下を、見ながら苦笑いをしている。

僕は小さく頷いて、その場で少し足踏みをして十分歩ける確認して、

「ありがとうございます」

ぺこりと頭を下げた。

「後でしっかりしたものを用意するから我慢してね」

苦笑を続けながら言うミーナさんに、裸足でも仕方ないと思っていた僕は感謝の気持ちで一杯だった。


ミーナさんディンさんに連れられて村の中を歩くなか、興味深そうに僕を見る人が何人か居た。

村に見かけない人が居るのが珍しいのかなぁって考えていると、

「よぉ、ディンにミーナじゃないか」

顎のしゃくれた頭に毛のないおじさんに呼び止められる。

「ア(ル)ゴさんおはようございます」

「ああ、おはよう。いつになったらミーナは普通に呼んでくれるんだ」

「すみませんもう癖になっちゃって……」

ディンさんとミーナさんの挨拶に髪の毛の無いおじさん……アルゴさんは苦笑いを返していた。


ふっとアルゴさんの視線が僕のほうへ向いて、

「昨日ずっと座ってた嬢ちゃんじゃないか。ディン達が面倒見ることにしたのか?」

「ええ……身寄りもないみたいですし」

「可愛がるのはいいが……まぁいい」

何かを言いかけてやめる。もしかしたらナナさんのことを思い出したのかな?

「ほらほらリーラちゃん挨拶を……」

ミーナさんに後ろから押し出される形になって、アルゴさんの正面に立たされる。

身長差からあごを見つめる形になり、

「リーラといいます、アゴさんよろしくお願いします」

ペコリと頭をさげて気付く、あああああ、アゴさんって言っちゃった。

「俺はアルゴだ」

再び苦笑しながら訂正するアルゴさん。

他の人にもアゴさんと呼ばれているのかも?

「アルゴさんこの子の靴を作ってくれないか? 家にあった靴を履かせてみたんだが」

「ふむ……ちょっと足を触ってもいいか?」

僕が頷くのを見てアルゴさんは足をペタペタ触り始める。

足の裏を触られられてくすぐったいのを目を瞑って耐えていると、

「すまんくすぐったいか、もうすぐ終わるから辛抱してくれ」

しばらくして触られる感触はなくなり「ふむ」という声が聞こえた。

「なるほどな靴の大きさを変更するのと新しく作るのとどっちがいい?」

アルゴさんがサイズを測り終え、ディンさんに提案する

「新しく作って欲しい。どのぐらい掛かる?」

「今は特に頼まれ事はないしな。材料次第で七日欲しい」

一週間かかるんだ……結構手間なのかな?

靴の作り方を知らない僕が想像を働かしてもピンとこない。

現代みたいな工場生産ではないと思うから全部手作業なのかも。

だとしたらすごく高いものなるのかな……。

ディンさんのズボンの裾を引っ張り、僕に視線をむけてもらい、

「新しく作るって沢山お金がかかるんでしょ?」

気になることを伝える。

この時代の相場なんてわからないけど高いものだとしたらちょっと……。

「そんな顔しないの、足を守る為に必要なのよ。そのままじゃどこにも行けないでしょう?」

ミーナさんが気にしちゃ駄目と言わんばかりに笑顔で説いてくる。

「だそうだアルゴさんどうしようか?」

「ディン……お嬢ちゃん使って値切りするのかよ」

アルゴさんはおでこに手のひらをあてて「まいったな」と苦笑している。

値切り?僕が?わからずに首を傾げるばかりだった。

結局二割ぐらい安く作ってもらえるとか、どうして安くなったんだろう?

「それじゃアルゴさんお願いします」

「おう値段は安くしても手間は惜しまないから安心しとけ」

ディンさんが小さく頭を下げると、アルゴさんは軽く自分の胸を叩いて応じた。


アルゴさんと別れてすぐに村長さんの家へ到着する。

ディンさん家よりも大きく、高い場所にも窓みたいなが見えるから二階建てみたい。

入り口と思われるドアの近くで腰の曲がったお婆さんが椅子に腰掛けていて、

「「村長おはようございます」」

ディンさんとミーナさんが一緒に挨拶をする。

このお婆さんが村長さんみたい。

「おやディンにミーナかおはよう……その子は?」

村長さんが僕を睨み付けるように凝視する。

「リ、リーラです初めまして」

おずおずといった感じの挨拶に村長さんはフンっと鼻で笑う。


「この子をうちで面倒を見ようと思うのですが」

「どこの馬の骨か森の小石かわからない子をよくもまぁ……」

ディンさんの言葉に村長さんが噛み付くように言い放つ。

僕は村長さんの言葉に心の中でそうだよね……と思いながら俯いてしまう。

「そこで俯いてないで、何か言ったらどうだい」

何を言えっていうの……右も左もわからない僕にどうしろっていうのさ……。

ディンさんもミーナさんも何も言い返さない……言い返せないのかな村長さんだし……。

何も出来ない自分が情けなくなり、透明な液体が目からぽろぽろ落ちていく。

「やれやれ泣くんじゃないよ。お前がしっかり言わないとミーナもディンも何も言えないじゃないか」

ため息を吐きながら僕へ言葉をかける村長さん思わず見上げ、首を傾げてしまう。

え……どういうこと……?

「他人のお前をミーナとディンが一緒に住むっていってるんだ。恩に報いる気はあるんだろう?」

お世話になる以上は出来ることは何でも手伝う気の僕は強く頷く。

「それをここで言葉に出して言うんだよ。全くそれぐらい言うまでもないことなんだがね」

村長さんは再びため息をついて続ける。

「いいかいディンとミーナ。この子を預かる以上、この子が何かをやらかしたらお前達に責任があるからね」

「「はい」」

ディンさんとミーナさんが応えると村長さんはさらに続ける。

「そしてリーラ。世話になるからには出来ることで応える事、精一杯働きな」

「はい」

僕は大きく応えた。

「よし、この回答をもってリーラを村の一員として認める」


こうして僕はランド村の一員として認められた。

次回投稿は来週末を予定しています。

読了感謝です。

2015/8/14 加筆修正

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