外伝2 異国での出会い<フィリエル視点>
※フィリエル視点でのお話になります
ホーン王国に入って、街道を歩く。
道行く人々が私を見て振り返る事が多い。
エルフが珍しいのかな?
とりあえず追っ手はもう来ないから安心はしたけど、良く考えてみれば、この国に何とか根を下ろして生活をしていかないといけない。
里からでたことの無い私には不安だらけ、生きて行く為に稼がないと……。
母からもらったお金も大事に使わなきゃね。
といってもどうやってお金を稼いだらいいのかな?
無計画に飛び出してしまった事に少し後悔する。
「お嬢ちゃんこんなとこで立ち止まったら危ないぜ」
声に振り返ると、私よりずっと年上に見える髪の毛の無い男性が苦笑いしながら私を見ている。
「ちょっとこれからの事で悩んでいたので」
「悩むのはいいが、道の真ん中で立ち止まると、馬車でも通ったら潰されてしまうぞ」
男性の言う通りなので街道から少し外れるように歩く、
「話しかけちまったしな、お嬢ちゃんが何を悩んでいるのか言ってみな、わかることなら答えるよ」
「えっと……お金の稼ぎ方を教えてください!」
頭を下げて男性にお願いすると、
「えらくおおまかだな……ん?お嬢ちゃんはエルフか」
男性は私の耳を見たのか少し驚いた様子で話し続ける。
「まぁいいか、自己紹介が遅れたがとりあえず俺はドルゴというんだが、お嬢ちゃん名前を聞いてもいいか?」
「わ、私はフィリエルといいます」
初めての身内以外の人への自己紹介にちょっと焦ってしまう。
「えらく正直だな……エルフはプライド高いと聞きくが、噂は当てにならんのかもな」
「私が変わり者だからかもしれませんね」
ドルゴさん言葉に里の風景が蘇り、父がそうなのかなと思いながら苦笑する。
自分の生い立ちをや現状を思うと普通とは言いがたいものね。
「まぁそうだな一人でこんなとこにいるお嬢ちゃん……フィリエルちゃんと呼んでもいいか?」
私の事を言い直して呼ぼうとする辺り、ドルゴさんはいい人なのかもしれない。
「私もドルゴさんと呼ばせてもらいますね」
話しかけてもらって、こうして話せることが、私の心を少し軽くしているのかな。
自然と笑顔でになって応対している自分がいた。
「ほう笑顔になるとずっと綺麗に見えるな」
「からかわないで下さい」
面と向かって言われたことがちょっと恥ずかしくて俯いてしまう。
たぶん冗談で言ってるのはわかってるけど、男性から言われるのはまだ慣れない。
「そうだな、いきつけの店があるんだが、そこで話さないか」
ドルゴさんが指差す方向には一軒の建物が見える、里の建物と造りが違うから何の店か良くわからない。
私がちゅうちょしてるとドルゴさんは私に小声で、
「さっきからフィリエルちゃんに目をつけてる奴がいるんだ、一緒に来たほうがいい」
珍しいからか、色々な視線が私へと注がれているのはわかってたけど……。
ドルゴさんの勧めに従って店へとついていくことにした。
店の中へ入ると中は閑散としており、客らしき人は数人いるだけ、
「込み合う時間からずれてるからな」
私が店内を見回したことに気付いたのか、理由を説明してくれる。
初めて入るから、正直どのくらい混雑するものなのか予想が付かないけど……。
「何時もの頼む二人前な」
入ってすぐドルゴさんが注文をかけると、近くのテーブルの椅子に座ると、私もそれに習って向かい側の椅子に座る。
「お金の心配はしなくていい、俺が払う」
初対面の私に、どうしてそこまでしてくれるのだろうと疑問に思ってしまう。
「そんな顔しないでくれ、俺を不信に思う気持ちはわかるがな」
ドルゴさんは苦笑しながら、私の思っている事を言い当てる。
「フィリエルちゃんの行く末が見えてしまったからさ」
ドルゴさんの言っている意味がわからず首を傾げてしまう。
「俺がさっき言った言葉を覚えているか?」
「私を狙っている人がいるって言いましたね」
ドルゴさんの質問に答えると満足そうに頷いた。
「君を捕らえて売り飛ばそうとしてたのさ」
私だけに聞こえるぐらいの小声で言うと、目を大きく見開いて驚く。
「どうしてそう思われたのですか?」
「そうだな……まず君がエルフであり、容姿が結構な……こういってはなんだが上玉だ」
何と言っていいのか困ってしまう、容姿を褒められているけど何か違うような気がする。
「それに、俺ら人間の社会を全く知っていないというところだな」
それについては全く言い返せない、エルフの里から出たことが無かったもの。
「エルフだと高価になるんですか?」
容姿についてはひとまず置くとして、エルフが高価な理由がわからない、
ちょっとした興味本位になるけど聞いてみる。
「人間よりは跳ね上がるだろうな、人里に現れるエルフ自体すくないからな……金に糸目をつけない連中なんぞどこにでもいる」
「つまり私の存在は……」
ドルゴさんは小さく溜息をついて答える。
「歩く宝石箱」
思わず突っ伏したくなるほどの衝撃が私に走る。
「よかったな、俺みたいなそういうのに興味が無いのに声掛けられて」
ガハガハと笑うドルゴさんに苦笑するしかなかった。
ひとしきり笑った後、真剣な表情にもどしたドルゴさんに、
「さてお金の稼ぎ方の事になるんだが、フィリエルちゃん一人だとさっき言ったことになりかねないからな、俺の知り合いがやってる宿に住み込みで働かないか?」
何も知らない私にとって渡り舟としか思えない言葉だけど……。
信用していいの……かな?
悪い人ではなさそうだし、私を安心させたところで……考えても仕方ないかも。
私をどうにかする気ならもう行動に移るはずよね。
「お願いします」
自分の見通しの甘さと、ドルゴさんにすがるしかない現状に心の中で小さく溜息をして、深々と礼をしてお世話になることにした。
ドルゴさんについて行く事数分、二階建ての大きな建物が見えてくる。
材質は何で出来てるのかわからないけど、頑丈に見える。
中に入るとドルゴさんと同じぐらいの年齢と思われる男性に声を掛けられる。
「戻ってきたのか、後ろの子はお前のこれか?」
男性は小指を立たせてドルゴさんへ笑いかけている。
「ロレンス、おまえなぁ……俺が女連れてるのが珍しいからってそれはないぞ」
ドルゴさんは頭に手を当てて、苦虫を潰したような顔をしてる。
あの小指を立てる行動になにか意味があるのかな?
「あの、これの意味ってなんでしょう?」
小指を立てて意味を聞いてみると、ドルゴさんは深く溜息をつき、ロレンスと呼ばれた男性はそのまま固まってしまった。
何か不味いことしちゃった……のかな?
「すまん、早合点してしまったよ、こいつが女連れなんて珍しくてな」
凍りついた場から復活したロレンスさんが、私に謝りながら言い訳をしている。
「それは認めるが、俺がどうやったら……まぁいい、奥さん出産近いから人を探してただろ」
「そろそろだからな、手がいるんだよ……まさか」
ロレンスさんが私の顔をじっと見る。
そんなにまじまじと見られると、ちょっと恥ずかしい。
「この娘を住み込みで働かしてやって欲しいんだ」
「フィ、フィリエルといいます、よろしくお願いします」
「ロレンスだ、この宿を経営している」
お互いに自己紹介、焦って上手く言えなかった。
「どこでこんな綺麗な……君はエルフなのか?」
途中から目を見開いてしまったロレンスさんの問いにこくりと頷く。
私の耳を見て気付いたのかな。
「この娘が街道を一人で歩いてたんだがどう思う?」
「家を建てる権利書が歩いてるようなもんだな」
ドルゴさんの問いに、ロレンスさんが即答する。
その内容に、がっくりと項垂れる。
「つまりそういうことだ、フィリエルちゃんはもう少し人間社会を知った方がいいと思うんだ」
「そうだな、うちの宿を使うやつは冒険者が多いからな、手出しはしにくいかもしれん」
二人でうんうんと頷きながら話しを進めていく。
私の知ってる冒険者は荒くれ者で無法者が多いって聞いてたけど……。
「うちの宿の冒険者は、今のフィリエルちゃんみたいに連れてきた奴が多いのさ」
「俺が連れてきた奴が多いがな」
会話の流れから二人の仲のよさがにじみ出ている、いいなぁ。
「だからこそ、宿主を裏切るような事はしないからな、他へいくよりは安心して働けるはずだ」
「あとフィリエルちゃん……そんな目でここに居る連中を見るんじゃないぞ、勘違いしちまうからな」
ドルゴさんの言葉に首を傾げる、何を勘違いするのかな?
私の様子を見て溜息をつく二人。
「どうして二人で溜息をつくんですか」
少し恨めしい視線を二人に送る。
「そりゃなぁ……」
「自覚が無いだけに性質がわるいってやつだな」
苦笑いする二人に肩を落とす。
私の知らない常識がここにあるのね。
それでも私を想っての行動だと思うから……思い切って聞いてみることにする。
「どうして見ず知らずの私をそこまで考えてくれるのですか?」
二人とも私の問の顔を見合わせて笑って答えてくれた
「それが好きだからだな」
「そのせいで儲からないがな」
こんな回答をする二人が悪い人なはずは無いわよね。
ここでしばらくお世話になろうと思った瞬間だった。