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揺れる心

カリンさんのお店へ行く道すがら。

「フィリエルさん」

「うん?どうしたのリーラちゃん」

僕の呼びかけにフィリエルさんが振り向く、柔らかい微笑みが日差しと相まってすこし眩しい。

「レリックさんがどうしてあそこまで怒ったのか、よくわからなくて……」

「思ったときに言えばよかったのに、どうして本人に聞かなかったの?」

優しく僕に聞き返す、それはそうなんだけど……。

「怒鳴ったときのレリックさんが怖かったから……」

少し俯いて、呟くように答える。

「そうね、レリックの顔は怖かったものね」

僕がこくりと頷くと、フィリエルさんは苦笑する。

「う~ん、どう説明しようかしら」

フィリエルさんは人差し指をあごに当てて、思案顔になる。

しばらくすると、考えがまとまったのか口を開く。

「リーラちゃんはどうして、石を売っても大丈夫だと思ったの?」

「魔力を込めてる所を見られなければ、僕がやったってわからないと思ったから……」

フィリエルさんは僕の言い分にうんうんと頷くと、

「それはね、大多数の人には当てはまるけど、少数の人には当てはまらないの」

謎かけみたいなフィリエルさんの解答に僕は首を傾げる。

どういう意味なのかな……思考を巡らせていると、フィリエルさんは微笑みながら話し出す。

「私を例にあげると、少数に近いほうに当てはまるかな、大体この国で言うと二十人ぐらい同じものを作れる人がいるのよ」

「二十人以内に入れるんだ……フィリエルさんすごい人なんだね……」

尊敬の眼差しでフィリエルさんを見てしまう、フィリエルさんは苦笑いになり、話続ける。

「つまりね、私が魔力を込めて石を売った場合は、それなりに珍しいから高く売れるの」

珍しいものほど、高くなりやすいよね、どれだけ欲しがる人がいるかにもよるんだろうけど。

なるほどと頷きながら聞いていると、不意にフィリエルさんは真剣な表情を僕に向ける。

「リーラちゃんはまだ自覚が足りてないみたいだから言うわね、私もレリックもリーラちゃんが魔力を込めた石を持って驚いたわね?」

「うん」

僕が質問に頷くと、

「私もレリックもそれなりにこの国を周って、珍しいものを見てきたつもりだけど、その石を手にしたことも見たこともないの」

「二人も見た事がない……あ」

二人が見た事も手にした事もないものが市場に流れたら……。

「わかったみたいね、それだけ珍しいものは探し出そうと躍起になる人が出てくるものなの、

人為的に込められたものだから、込めた人が居るはず……とね」

理由がわかり、自分の言ってしまった事をすればどういうことになるかを知り、しょんぼりとしてしまう。

「わかればいいのよ、レリックも売ってしまったらどうなるかを考えた上で、怒ったと思うわよ」

「後でレリックさんに謝っておきます」

「それがいいわね、リーラちゃんから言ってくれたほうが、レリックも安心するわ」

そういって僕へと微笑みかけてくれるフィリエルさんが、とても眩しく感じる。

なんというか、僕を良く理解してくれて、優しく接してくれる。

そんな事を考えていると、

「レリックに怒られたリーラちゃん、泣くのを必死に我慢してたわね、まるで男の子みたいだったわよ」

笑顔で言わないでよ……ちょっと恥ずかしくなって、少し俯いてしまう。

「懐かしいわ、昔の私を見ているみたい」

遠くを見るように目で僕を見つめながら小さく呟いていた。

フィリエルさんが僕ぐらいの年齢の頃はこんな感じだったのかな?

容姿は似てると思うし……でも、さっきは男の子が何とか言ってたみたいだし……あれ?

言葉通りなら僕みたいに性別が変わって、同じ時期があったという意味になるけど、そんなことあるはずがないよね。

考え込んでいると、頬を突かれる。

「リーラちゃんの百面相かわいい」

その言葉に見上げるとフィリエルさんが楽しそうに僕を見ていた。

からかわれた事に頬をふくらませて抗議したけど、すぐに突かれてしぼんじゃった。

怒った振りは通じないみたい、やっぱり僕はわかりやすいのかな。


村へと入ると、

「リーラちゃんお目覚めかい?」

「ちょっと寝すぎちゃったかも」

ガルさんの変った挨拶の言葉に、ちょっと苦笑いになって返す。

いつものようにガルさんに声を掛けられるけど、仕事は一体何をしているんだろうと思ってしまう。

「ガル、他にいうことあるでしょ?」

フィリエルさんの言葉にガルさんは僕をじっと見て、しばらくするとポンと手を打つ。

「そのリボン似合ってるな、いつもは飾り気が無かったのにどうしたんだ?」

「フィリエルさんに貰いました」

褒められて嬉しい反面ちょっと恥ずかしくなる。

フィリエルさんやレリックさんに褒められるのとは、ちょっと違う新鮮さがあった。

「照れてるところが、特に可愛いのよ」

「確かに」

フィリエルさんの言葉にうんうんと頷くガルさん。

「もー、二人ともからかって」

頬を膨らませて抗議すると、

「リーラちゃんそりゃ、逆効果だ」

ガルさんが苦笑して言うと、逆効果の意味を捉えかねて、首を傾げてしまう。

「わからないのなら、それもいいのかもしれないわね」

フィリエルさんはクスクス笑いながら僕の頭を撫でだし、心地よさに身を任せてしまう。

気が付けば、膨らませた頬はしぼんでおり、その後どうして首を傾げて居たのかを思い出せず、首を傾げてしまった。

別れ際のガルさんは穏やかな笑顔で僕達を見送ってくれる、どこかすごく満足そうだったけど、なんでだろう?


カリンさんの雑貨屋さんへと歩いて近づいていくと……微かにどこかでかいだことのある香りを感じる。

「カリンさん、まだやってるのかしら……」

フィリエルさんは少し眉を潜める。、ドアに近づくたびに、香りが強くなっていく、この中から漂って来ているみたい。

『まだ』って言う事はフィリエルさんこの香りの正体を知っているのかな。

フィリエルさんによってドアを開けられると、香りの洪水が押し寄せてくる。

胸のすーっとする良い香りなんだけど、ちょっとむせ返るぐらいきつい。

中を覗くと、苦笑いの表情を浮かべたカリンさんが立っていた。

「フィリエルさん、リーラちゃんいらっしゃい」

「カリンさん、まだミントの蜂蜜漬け作ってるの?」

フィリエルさんの言葉にカリンさんは苦笑したまま頷く。

この香りはミントだったのね、昔、ハーブティーを飲んだ事があったかも。

どうりで、どこかで感じた事のあると思ったわけね。

ミントの蜂蜜漬けってどんなのだろう?

前世ではミントの葉を見る機会が無かったのから予想がつかないや。

「ええ、漬け込み具合を知るために分けて仕込んでるのだけど、四六時中この香りの中にいると頭が痛くなりますね」

カリンさんは額に手のひらを当てて、少し辛そうにしている。

空気の入れ替えをすればいいのに……でも、棚に並んでいるものは痛むからだめなのかな?

物によっては湿気とか嫌う物もあるだろうし、う~ん、でもミントの香りが移ってしまうのはいいのかなぁ。

「棚に置いてある物には、この香が移っても大丈夫なの?」

「そういった物はしっかり移動してあります」

フィリエルさんの質問に胸を張って答えるカリンさん、

お店を開いてるからには、品質にも気をつけてるんだね。

僕だったら……ひどい有様が目に浮かぶように見えるので、考えるのをやめた。

「流石店主、抜かりはない見たいね」

「大事な商品ですから」

ちょっとふざけたやり取りに、お互いくすくすと笑い出す。

その光景を僕はいいなぁと、眺めている。

ローエル村に来てから、同じ目線で話せる子がいないので、何時も見上げてばかり、

十分幸せな生活をしてるはずなのに、ちょっと寂しいかな。

ちょっぴり感傷に浸っていると不意に、

「リーラちゃんそのリボンしてくれたんだ、似合ってるわよ」

カリンさんに褒められ、嬉くて少しくすぐったい気持ちになる。

でも、不思議とガルさんの時とは、ちょっと違う感じがする、どうしてかな?

同性と異性の違いになるのかな? とするとカリンさんは同性でガルさんは異性。

体の性別で言うとそうなるんだけど、心は……僕の今の心はどっちなんだろう?

「リーラちゃん難しい顔してどうしたの?」

フィリエルさんは、考え込んでいる僕の顔を様子を窺うように覗き込む。

「僕の心はどっちなんだろうと思って」

思っていた事をそのまま口に出すと、二人とも首を傾げてしまう。

そうだよね……僕の心がどっちの性別に傾いてるのかなんてわからないよね。

まして、『どっち』が男か女のどちらかという事に気づいてはもらえないと思う。

ぼんやりと、首を傾げてしまった二人を見つめていると、

フィリエルさんが何かに気付いたように、僕の頬に手のひらをあて、正面に見据える。

そして、穏やかに微笑んで、

「大丈夫、今はどちらか曖昧なのかもしれないけど、時間が経てばはっきりしてくるわ、私が保証する」

僕の謎かけのような言葉の意味を、しっかりと汲み取ってくれていたみたい。

「うん」

理解してもらえたのが嬉しく、僕は少し強く頷いた。


「1、2……20、確かに」

ダイヤの支払いの金貨を、カリンさんが一枚ずつ丁寧に数えていく。

「しかし、本物だったとしてこれは多すぎる気がするけど……」

「レリックがその金額でいいって言ったのよ、それに、カリンさんが金額は任せるって言ったものね」

二人して苦笑いしている、レリックさん大盤振る舞いしちゃったのかな。

「目に付いた品物のお代は、今日も頂けそうにないわね」

「一昨日のリボン以上の掘り出し物はあるかしらね?」

フィリエルさんの言葉にカリンさんは僕とフィリエルさんを交互に見て、

「リボン二つあったからお揃いで来られると思ってたんですけど」

僕だけがリボンをしている事に気付いたのかな。

昨日はお揃いだったんだけど……僕がしてたリボンは破けてしまったので、今しているのはフィリエルさんが身につけていた物だ。

「一つはちょっとした事故で破けちゃったの、折角貰ったのにごめんなさいね」

僕が言おうとしていた事をフィリエルさんが代わりに言ってくれる。

正直、言いにくかったのでありがたかった。

「あらら……近いうちに作っておきますね」

カリンさんは苦笑しながら、そう言ってくれた。

同じ物を作ってくれるみたい、フィリエルさんとまたお揃いにできるのかな。

その光景を想像するとちょっと嬉しかった。

「それじゃリーラちゃんに似会う服でも探していきます?」

「出来れば、私が作ったのを着てほしいのよね、布地はある?」

フィリエルさんの要求に少し「う~ん」考え込んだ後に、奥へと消えていった。

目的に副えるものに心当たりがあるのかな?

しばらくすると数種類の布地を手に持って戻ってきた。

水色、朱色、青色、桃色、あとはフィリエルさんが作ってくれていたワンピースと同じ浅緑色。

「これにするわね」

とフィリエルさんが手に取ったのは浅緑色。

作り直すっていってたもんね、出来上がりが楽しみ。

それを選んだフィリエルさんを怪訝そうな表情で見つめるカリンさん。

選定がおかしいのかな? 色的にはおかしいとは思わないけど。


「この前と同じ色ね、もう出来上がるって言ってたけど布地足りなかったの?」

「ワンピースは出来たんだけど、事故でだめにしちゃったのよ」

困ったような笑顔でフィリエルさんが答えると、

「残念ですね、リーラちゃんに着せると似合いそうなのに」

少し残念そうに言うカリンさんに、見せてあげたかったなぁと思う。

僕があの時、しっかり逃げていればと、思い返す度に心が沈んでいく。

くよくよしても仕方ないのはわかるんだけどね、割り切るのは難しいや。

「何か不味い事言ったかな?」

カリンさんは僕を見つめながら眉をひそめる。

「実はね、事故が無ければカリンさんにワンピースも、お披露目するはずだったの」

「僕がしっかりしてなかったから、駄目にしちゃったんです」

フィリエルさんに続くように言い、肩を落としてしまう。

「あらら……ごめんなさいね」

申し訳無さそうにカリンさんが謝り、何かを思いついたのか奥へと消えていった。

カリンさんが消えていくのを確認して、フィリエルさんは僕を軽く抱きしめる。

「色々考える事はあるだろうけど、あまり落ち込んじゃ駄目よ」

優しい言葉と、フィリエルさんから感じられる鼓動が僕の心を暖かくしてくれる。

僕の表情をみて、大丈夫と判断したのかフィリエルさんは僕から離れた。

それを見計らったかのようにカリンさんが戻ってきて、

「リーラちゃん少しだけ口をあけてくれるかな?」

カリンさんの言葉に疑問に思いながらも言う通りにすると、

口の中に何かを放り込まれる、それは甘く少しだけスーッとする香りを感じられる。

「二日間漬けた物を飴にしてみたの、どうかな?」

「回答聞くまでも無いんじゃない?」

僕に尋ねるカリンさんに続いて、フィリエルさんが言う。

聞くまでも無いってどういう意味だろう?

「そうね、聞くまでも無いわね」

首を傾げる僕と対照的に二人とも笑っていた。

読了感謝です

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