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交錯する想い

ハルクさんが去って行った後

自分達の有様を再確認……。

「ひどい格好ね……」

フィリエルさんは苦笑いしながら一言で表現する。

村の人たちが見たらびっくりするよね……。

「リーラちゃんはまだ動けないし、レリックもなんとか立てる程度よね」

フィリエルさんが確認を取るように言うと、

「うん……」

「ちと厳しいのう」

二人で小さく返事をする。


眉をハの字に曲げて申し訳無さそうにするレリックさんはちょっと珍しいかも。

そうは思っても手を借りないと動けない僕の方が申し訳ない。

手のひらで地面を押してみるけど、やっぱり力が入らない……いつになったらもどるのかな。

「リーラちゃん無理しなくていいのよ、魔力の消耗しすぎて自身の体力も使ってしまってるから、夜ゆっくり寝たら戻ると思うわ」

フィリエルさんに言われてシュンと肩を落として俯く、今日一日このままなのね。

僕の様子に苦笑しながらそっと頭を撫でてくれた。

「名誉の負傷だと思いなさい」

「そう思うのも悪くないのう」

フィリエルさんの言葉にレリックさんは楽しそうに頷く。

名誉の負傷……か僕があそこに居なければ、レリックさんも負傷することは無かったのかな……。

僕が足手まといにならなければ……。

「ほーら考え込まないの」

両頬をフィリエルさんの手のひらでペチと叩かれて考えていることが中断する。


痛みは全く無かったけど……どうしてわかったんだろうと、目を見開いてフィリエルさんを見つめると、

「顔と耳に書いてあるわよ『僕は落ち込んでいますって』ね」

あうあう、見抜かれてる。

フィリエルさんは苦笑しながら、

「そんなリーラちゃんには荒療治が必要ね」

「ふむ、何をするんじゃ?」

フィリエルさんは僕に聞こえないようにレリックさんの耳元でささやくように小声で言ってる。

耳も澄ましたけど聞き取れなかった。

「確かに今考えていることは、そっちのけになるかもしれんが……」

呟くようにいうレリックさんは僕をチラリと見ると、

「いいのかのう」

すごく気になる一言がレリックさんの口から漏れる。

何をされるのか不安になってしまう……。

「レリックはリーラちゃんと居てね、私は着替えをとってくるから」

「わかった、待っとるぞ」

レリックさんの言葉を合図にフィリエルさんは家へと戻っていく。

「レリックさん……荒療治って何するの?」

おそるおそる、レリックさんに尋ねてみると、

「言ってしまったら荒療治の意味がないからの」

気まずそうに僕から視線をそらすレリックさん。

すごく気になっちゃうよ……。


しばらくすると、フィリエルさんが着替えを持ってくる。

着替えが汚れるのを気にしたのかな、服は緑色のワンピースに変っていた。

「それじゃレリック言った通りに始めましょうか」

「ううむ、ちと気が進まんのだが」

笑顔で言うフィリエルさんにそれを渋るレリックさん。

一体なにが始まるの……すごく不安になってきた。

「リーラちゃん怖がらなくても大丈夫よ、汚れちゃったから水浴びしてきれいにするだけよ」

水浴びするだけなんだ……フィリエルさんの言葉に胸を撫で下ろす。

でも、荒療治ってなんだろう?

僕は首を傾げてしまう。

気が進まないといったレリックさんと『荒療治』という言葉が引っかかる。

「リーラちゃんの為なのよ」

「わかった……」

そういうとレリックさんは僕をお姫様抱っこし、湖へと連れて行く。

その歩みはちょっと不安定で少しふらりふらりとしている、まだ本調子ではないみたい。

「レリックさん大丈夫?」

ちょっと不安になり尋ねてみると、

「恥ずかしがっておらんのう、この状態にも慣れてきたかの?」

恥ずかしいという気持ちより、ちょっとふらふらしてるレリックさんの体調のほうが心配になる。

動けない僕を抱えてもらってるのに文句なんて言えない。

その後ろをフィリエルさんが着替えを汚さないように持って付いてくる。

湖に少し入ったところで下ろしてもらう、座った状態で脚が水面にから少しのぞくぐらいの深さで、あることに気付いた。

ワンピースの服だから座ったままじゃ脱げない……立てない僕は自分で脱げない……。

水に使った部分のワンピースが水を吸ってしまい、脚にくっつく感触が少し心地悪い。


「私がリーラちゃんを立たせるからレリックが服を脱がせてね」

「うむ……」

レリックさんが僕の服を脱がす?

言葉の意味はわかるけど、どうしてレリックさんなの?と僕は少し混乱してしまう。

フィリエルさんは着替えを汚れの少なそうな石の上に置き、僕へと近づいて、

僕を抱き上げ、立たせると、レリックさんが僕のお腹の辺りから服を掴み、空へと投げ飛ばすように力をかける。

あっという間に衣服は僕をすり抜け脱がされるとフィリエルさんは僕を座らせるようにゆっくりと湖の中へと戻した。

生まれたままの姿にされてしまった僕は呆然となり湖に座る。

「ごめんなさいね、立てないリーラちゃんの服を脱がすのは一人では難しいのよ」

フィリエルさんの言葉に我に帰った僕はそれなら動けるようになってから洗えばといいのではと思っていると。

「そのまま寝るのって心地悪いでしょ?リーラちゃんは恥ずかしいと思うけど綺麗にした方が良く眠れるわ」

苦笑いのフィリエルさんに仕方ないと思い直して、成すがままにして洗ってもらう。

「レリックは向こう向いて一人でおねがいね」

僕を洗いながらレリックさんへと指示を出す、少しずつ女性の体に慣れてきてるのかな、レリックさんに見られたらと思うと恥ずかしく感じる。

確かに一緒に水浴びって言うのは僕にとって荒療治になるのかも……暗い気持ちになりそうな考えは思いつかなくなってきていた。

その反面恥ずかしい思いがその部分を占めちゃったけど……。

くすぐったくて、我慢するのがちょっと大変だったけど、洗い終わると、フィリエルさんは僕を抱え上げ、湖の外へとゆっくり歩く。

「私の力ではちょっと厳しいわね」

すこしふらふらとしながらも湖の外へとでて、平らな石の上へと僕を座らせる。

洗ったことで僕についている水分をしっかり乾いた布でふき取りながら、

「リーラちゃんの暖かい風の魔法を私が使えればいいんだけどね」

とふき取り終わったのか服を上からかぶせるように僕に着せる。

魔力を消耗しすぎた状態でも使えるかもしれないけど、やめたほうがいいよね。

「つかっちゃだめよ?」

僕の考えを読んだのか苦笑しながら指で頬を少し突いてくる。

「レリックの水浴びが終わったらスカートを履かせるわね」

明日までとはいえ、自分の体に力が入らないことがもどかしいな。

その後、水浴びが終わったレリックさんとフィリエルさんにスカートを履かしてもらって、

レリックさんにおぶってもらったところで僕の記憶は途絶える。


気が付くと寝室に寝かせられていた。

「あれ……」

「リーラちゃんレリックに背負われた後すぐに寝ちゃったのよ」

隣に同じように横になっていたフィリエルさんは穏やかな微笑を浮かべると、僕をそのまま優しく抱く。

「ごめんなさい、荒療治が過ぎたみたい」

申し訳無さそうに苦笑いしているフィリエルさんの言葉に、色々な疲れで少し眠っちゃったのかなとぼんやりと思う。

……落ち込みそうな気持ちは吹き飛んじゃったけど、別のことですごく悩んじゃいそう……。

「リーラの荒療治というよりわしへの罰かと思いたくなったわい」

反対側からレリックさんの疲れきったような声が聞こえる。

僕の着替えを手伝ったのも二回目だもんね。

僕を中心に川の字になってるのかな?

フィリエルさんに抱かれてしまっている為反対側を向けないけど、すぐそこから聞こえた声から推測する。

「そうね、罰かも知れないわね」

その声には少しの怒りが混じっているみたい……フィリエルさんがこんな声を出すのは初めてなので僕は少し驚く。

僕を抱きしめる力が少し強くなったので、

どうしたのだろう?とわからずに見上げるようにフィリエルさんを見ると、

悲しみに満ちた表情で小刻みに震えていた。

「罰じゃったのか……それならわしの体力が戻ってからでもよかったろうに……」

本調子ではない状態で僕を抱えて歩いたのがちょっとしんどかったのかもしれない、

ちょっと恨みがましいような声が聞こえる。

「あの時レリックが死んでもいいと思ったとかいうから……」

「フィリエル……?」

「本当に死に掛けていたのに死んでもいいと思ったとかいうから!」

半ば叫ぶように言うフィリエルさんに僕もレリックさんも目を丸くする。

「後に残されたらって思った私の気持ちも考えてよ……」

フィリエルさんの声は震えていて、目頭からぽろり、ぽろりと涙が溢れ出し、

まるで僕の体の温かみを求めるように抱きしめる。

「すまん……」

レリックさんが謝罪を口にする、それは本当に申し訳なさそうに聞こえた。

僕へと熊が腕を振り下ろす瞬間とその後、僕を庇ったレリックさんの怪我の具合を見たフィリエルさんの気持ちはどんなものだったのだろう?

気が気でない状態になりながらも熊を倒したフィリエルさん。

その心への衝撃は計り知れない。

熊との戦闘から今まで押さえ込んでいた感情が噴出しちゃったのかな?

それが僕なりに考えられる情報を整理した答えだった、正しい解答は本人にしかわからないもんね。

「レリックとリーラちゃんのどちらも欠けちゃ駄目……なんだから」

フィリエルさんが小さな声で呟いた。

『どっちも欠けちゃ駄目』その言葉は僕をどれだけ大切に想ってくれているかがよくわかる。

声を殺して泣いているフィリエルさんを見上げて、恥ずかしい気持ちは消えてしまい、すごく嬉しく、暖かい気持ちになる。

抱きしめられた状態からなんとか片腕を抜いてフィリエルさんの頭を力なく撫でると、

その行動に驚いたのか目を見開いて僕を見る、

「リーラちゃん、ありがとう」

その声がかけられると同時に目を細め、僕を抱きしめる力がまた強くなる、ちょっと苦しいけどなすがままにすることにした。

しばらくすると、抱きしめられている力が弱まったかと思うと、スースーと寝息らしきものが聞こえ始める、

フィリエルさんの細めていた目は閉じられていた。


「今日は色々あったからのう……一番疲れてしまったのはフィリエルかもしれんのう」

声がするほうへ視線をずらすと、レリックさんが苦笑しているのが見えた。

レリックさんが僕を必死に庇い、僕はレリックさんを一生懸命癒した。

お互いがお互いを想い、カバーした格好だ。

二人を想うフィリエルさんは単純に言えば、想う気持ちが二倍。

出来たことは心配したり必死に声を掛けるだけ。

負担かけちゃったよね……。

「起きている時の方が喜ぶかもしれんがの」

そういうとレリックさんはフィリエルさんの右頬へキスをする。

「それじゃ僕は」

沢山の感謝の気持ちもこめて左頬へとキスをする。

「起きてから知ったら、怒るか拗ねるかするかもしれんな」

僕がキスするのを見て、レリックさんはニヤリと笑う。

なんとなく思い浮かぶその光景にクスッと笑いをこぼす。

「今日はしっかり休むとしようかの」

「うん」

再び川の字になるように横になると目を瞑り、

意識が遠のくと、長い一日が終わりを告げた。

読了感謝です


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