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森の向こうから

武装した集団が僕達を見つけたのかこちらへと近づいてくる。

途中に息絶えた熊の存在に気付き先頭の隊長と思しき人物が指示を出し、後から続く集団は熊へと向かって行動を始めた

フィリエルさんとレリックさんは向かってくる人物に警戒を解く様子が無い。

僕は立ち上がれないままなのでただ見るだけ……。

「失礼だがローエル村の住民か?」

隊長と思われる男性からこちらへの質問が投げかける。

「人に者を尋ねる時は自分から名乗るもんじゃがの?」

レリックさんが真剣な面持ちで質問を返す。

相手の身元も目的もわからないんじゃ仕方ないよね。

「こ、これは失礼した私はリンド王国所属の魔物討伐隊の隊長でハルクと申す」

慌てて頭をさげ自己紹介する隊長ハルクさん。

「国境まで越えて討伐とはどういうことかの?」

「質問に答える前に、礼儀に従ったのだからそちらも名乗って頂きたい」

二人の間に穏やかでない空気が流れてる気がする……にらみ合ってる二人がちょっと怖い。


「ふむ、お主の言うとおり、ローエル村に住んでおるレリック、こっち妻のフィリエルに、孫のリーラじゃ」

ハルクと名乗った男性に僕達の名前を教える。

「レリック……あの『鉄拳のレリック』殿か」

名前に聞き覚えがあるのかハルクさんは目を見開き驚いた表情になり、

「いかにも……しかしその年でわしの呼び名を良く知っておったの」

レリックさんの呼び名がいつからのものかはわからないけど、隣の国の人でも知ってるぐらい有名なんだね。

ハルクさんは三十そこそこぐらいに見えるけど、そういえばレリックさんていくつなんだろう?

会話を聞きながらぼんやりと思った。

「隊長~このスクリームベア俺らが追っていたやつ間違いないです、でも致命傷は頭部に刺さってる氷みたいですよ~」

熊へと駆け寄っていった隊員の一人からハルクさんへ向けてこちらにも聞こえるぐらい大声で伝える。

「とするとあそこで息絶えてるのは……」

「わしらが倒した」

レリックさんの言葉にハルクさんは青ざめて行き……。


「申し訳ありませんでした」

と頭を僕達へと下げ、大声で謝罪を口にする。

これに僕達と隊員の人たちは呆然としてしまった。

ハルクさんが言うには、

スクリームベアと交戦していたものの、被害が大きくなり見張りだけ残し一度撤退し準備を整えて戻ってきたところ……国境を越えてローエル村の方面へ向かったと聞き、大急ぎで追いかけてきたということらしい。

「この近くまで来た時に、不自然な白い光を見たので警戒して来たのです」

多分それは僕がレリックさんへ魔法をかけたときの光かも。

「私達が倒さなければいけないものをレリック殿が倒してしまったということです」

レリックさんはあれが村へ行くと全滅と言っていたから……。

ハルクさんが打ち漏らしたこと自体が大問題であったのね、国境を越えてでも討伐しにきてるぐらいだから。

「最初見たときはあれが、打ち漏らした時の傷で息絶えたのかと思ったのですが……」

ハルクさんは苦い溜息を吐くと続けるように、

「レリック殿が倒したと聞いて……」

僕達をゆっくりと見回すと再び溜息をつく。

「レリック殿達の有様に再確認して申し訳なさで一杯です」

ハルクさんに言われて気付いた、僕達の衣服は血で赤色に染まってしまっている。

血が固まってしまったらもう服を洗濯しても着れなくなっちゃうかな。

フィリエルさんが作ってくれたワンピース駄目かも……熊に吹き飛ばされた時に背中から落下して破れてしまっている。

現状を認識してしょんぼりしてしまう。


「まぁのう……わしらが止めれなければ村が全滅してたかもしれんからのう」

「それだけが救いです、ありがとうございました」

深々と頭をさげるハルクさんはちょっと気の毒に見えたけど、

意図しないとはいえ、僕達を危険にさらしてしまったからしかたないのかな。

「ハルクさんは早く引き上げないといけないんじゃないかしら?」

「そうですね……討伐の確認もできましたし……」

フィリエルさんに指摘されハルクさんは頷くと森へと向き直り、歩み始めようとした矢先、何かを思い出したかのように振り向く。

「レリック殿……申し訳ないのですが……」

「スクリームベアの処理は任せる、わしらでは手に余るからの」

「あ、ありがとうございます」

再び深々と頭を下げるハルクさん、結構腰が低い人なのかも?

頭を下げた後、熊に集まっている隊員の元へと駆けていく。

「処理って?」

ちょっと気になったのでフィリエルさんに尋ねてみる。

「この魔物は動物でもあるのよ、だから毛皮とか牙とかばらしちゃうの、あれはちょっと私達じゃ無理ね」

熊を見ながら説明を続ける。

「ハルクさんの場合は討伐した証拠がいるんじゃないかしら、国境越えてまで来たものね」

「その通りです……情け無い限りです」

いつの間にか戻ってきていたハルクさんがばつが悪そうにこたえる。

「それではハルクよ、わしからの頼みを聞いてもらえるかの?」

「私に出来ることなら何でもやらせて頂きます」

レリックさんの問いに嬉々として応じるハルクさん、借りを少しでも返そうとしてる感じかな?

「ハルクはレブの森へ入る時ランドの村から入ってきたのかの?」

「その通りですが」

ハルクさんは首を傾げる、意図をつかみかねてるのかな。

もしかして、僕と同じ所を通って……あ。

質問の意図を理解してレリックさんを見ると、微笑んで頷いてくれた。


「リーラから頼みごとがあるそうじゃ、聞いてやってくれんか」

「は、はぁ」

レリックさんの言葉にハルクさんは面くらう。

そうだよね、レリックさんからお願いがあると思ってたら、僕からあると言われたら驚いちゃうよね。

しかも、こんな小さな子供が何のお願いがあるんだろうかって思われても仕方ないかも。

「リーラちゃん……でいいかな?頼みごとを聞かせてもらえるかな」

座ったままの僕に目線あわせるように屈めて僕へ話しかける。

レリックさんから無理難題を言われなかったから安心したのかな?

僕へ話しかけるハルクさんの表情は明るいものだった。

「えっと、ハルクさんはランドの村を通って帰るんですよね」

「その予定だけど、村に何か用事でもあるのかい?」

僕の目的をなんとなく察してくれたようでハルクさんはちょっと思案顔になる。

特に変哲もない村だから仕方ないのかな。

「ディンさんとミーナさんという方が居ると思うので伝言をお願いできますか?」

「ディンとミーナなら私の友人だが……リーラちゃんが……うん?」

僕の頼みごとに首を傾げちゃった、でもディンさんとミーナさんの友人って事はもしかして……。

「金髪で翠目のエルフで名前が『リーラ』……」

ハルクさんは独り言のように呟く、多分ディンさん達が僕のことを探して欲しいと頼んでいたのかも。

「もしかして、君がディン達が探している『リーラ』なのか?」

「そうです、僕が無事であることを伝えてほしいんです」

少し驚いたように僕を見るハルクさん、でも名前をレリックさんが言った時どうして気付かなかったんだろう?

「リーラちゃんには家族は居ないと聞いていたんだが……」

そう言って僕とフィリエルさんを交互に見るハルクさんに、なんとなく納得する。

僕とフィリエルさんは家族と言えば通るぐらい容姿が似ているんだった。

自分の成長後をフィリエルさんと重ねちゃったぐらいだし……。


「無事に家族と会えたって伝言したらいいのかい?」

気を利かせたつもりだと思うけど、間違って理解されている。

「残念ながら私とリーラちゃんはあかの他人なのよ」

フィリエルさんが助け舟を出してくれる、その表情はすごく寂しそう。

家族同然に扱ってくれてるのにあかの他人って言うのって辛いのかも。

「でもさっきはお孫さんだって……」

「ふむ……ハルクに理由を説明せねばならんかの」

レリックさんがハルクさんへ、僕がここに居る理由と、孫として扱っている理由を説明する。

「そうでしたか、辛い思いをしてしまったんだね」

「でも、そのおかげで、フィリエルさんとレリックさんに会えましたから」

そういった僕は微笑んでいたのかな、フィリエルさんもレリックさんもハルクさんまで目を細めて僕を見ていた。

レリックさんもフィリエルさんも僕にとって大切で掛替えのない人になっていた。

「こうしてみると普通の家族に見えますよ……ディンとミーナに嫉妬されるかもな」

ハルクさんの思いがけない言葉に僕は目を見開いてしまう。

ミーナさんもディンさんも同じくらい大切だから優劣をつけるなんて出来ないよ。

「そう見えることは喜ぶべきかもしれんが、今の言葉はリーラにとっては複雑かもしれんのう」

「すまない、冗談がすぎたみたいだ」

苦笑しながら言うレリックさんの言葉にしまった、というような表情で謝るハルクさん。

「いいんです、僕が無事であることを伝えてくださいね」

「ああ、任せておいてくれ……二人に吉報を伝えることが出来るよ」

ハルクさんは胸をドンと叩き任せてくれと言葉と行動で示す。

「ハルクさんが頼まれた時のディンさん達の様子はどうでしたか?」

正直聞くのが怖いけど、僕は聞いておかないといけないと思う。

「正直かなりやつれていたな、養女として迎えた翌日だったんだろう?」

「うん……」

ああ……僕のせいだよね。

なんとなくはわかってたけど、見てきた人から聞くと実感がわく。

今すぐ会ってごめんなさいと伝えたいよ。

「魔物に襲われたのならどうしようもないさ、村長の孫を逃がすためだったんだろう?」

「うん……」

でもディンさん達を悲しませてしまったことには違いないよね。

心の中にしまっていた感情が溢れ出してくる。

感情が目頭を熱くさせ、涙が頬を伝いだす。

「生きていてくれてありがとな、ディン達を元気にしてやれそうだ」

ハルクさんにお礼を言われ、頭をぽんぽんと叩かれる。

「よろしく……お願いします」

僕はペコリと頭を下げる。

「ああ、早く撤収して伝えることを約束する」

そういい残してハルクさん達は熊を片付けて去っていった。

「早く伝言が伝わるといいわね」

「うん」

フィリエルさんの言葉に頷き、

早く伝わって、安心してもらえるといいな。

そう思いながらハルクさんが去っていった森の入り口を見つめていた。

読了感謝です

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