眠り姫(後編)<フィリエル視点>
※フィリエルの視点でのお話になります
村からでて家へと戻る道すがら考える事ばかりだった。
ライル村長の言葉が私の脳裏から離れない。
『酷使されて死ぬ運命にしかならんじゃろうな……』
リーラちゃんの使った魔法が神聖魔法であればその運命は決まったものになる……。
大きな音を鳴らした鐘に神秘的な霧に包まれた集団。
決まったわけじゃないけどあの魔法の雰囲気からいうと神聖という言葉がしっくりきてしまう。
私があのとき無理をしなければ……リーラちゃんは魔法を使わずに済んだ。
そう思ってしまうとどんどん私の心に闇がかかっていく。
歩幅は狭くなり肩を落としてしまう。
考えれば考えるほど取り返しの付かないことをしてしまったと思い。
リーラちゃんに重い十字架を背負わせてしまったのではないか?
そんな想いが進むにつれてレリックに話して早く楽になりたいという気持ちが強くなり、
狭まった歩幅は広くなり、歩く速度は早くなるけど、心は沈んでいくばかりだった。
やっとの想いで家に着くと、テーブルに荷物を置いて寝室へと急いだ。
起きたのかリーラちゃんを目を細めてみているレリックが目に入る。
「レリック!」
「フィリエル戻ったの……」
名前を呼ぶ私に気付き言葉をかけようとするのを遮るように、レリックの胸に飛び込んだ。
私がぶつかる衝撃に一歩も下がることなく受け止めてくれる。
逞しく鍛えられた胸に顔をうずめると、ホッとするように少しずつ心が落ち着いてくる。
レリックと一緒に居るという事を感じられる事が私を安心させる。
「一体どうしたんじゃ……」
どこか呆れた声が頭の上から聞こえ、頭の上で手のひらがゆっくりと優しく動かされる。
すごく心地いい……心にかかってしまった闇がどんどん晴れていくよう……。
しばらくすると動かされる手のひらは止まる。
「落ち着いたか?」
「うん……」
レリックを見上げるように見ると、途端にレリックの表情険しいものに変わる。
「ひどい顔じゃな……何があったんじゃ?」
心配するように言うレリックに私はぽつり、ぽつりとライル村長とのやりとりとその後家に戻るまでの事を話し出す。
「そうか……」
「私がしっかりやっていれば……」
私の言葉にレリックは首を振る。
「わしの何時も言っている言葉を忘れたか?そんな事でどうするんじゃ」
その言葉にハッとする……村に行くときもそれを思い出して落ち込んでたのに……。
同じ事を繰り返してしまった自分の愚さに俯いてしまう。
「仕方ないのう」
レリックの言葉が聞こえたかと思うと優しく抱擁されていた。
「お前がそんなことでどうするんじゃ、自分の失敗だったとしてもそれを補わんといかん」
「補う?」
言葉の意図を掴みきれずオウム返しする。
「うむ、わしらで守っていかねばならんということじゃ」
レリックの言葉が私の中を巡ると自分が情けなくなる、でも肩を落としてなんて居られないリーラちゃんをせめてここに居る間だけでも……。
ここに居る間だけ?それだけでは無責任になっちゃうのかなと想いを巡らすうちにを思いつく。
「リーラちゃんがここに居る間……守るだけでいいのかな?」
「ふむ……と言ってもリーラも帰る場所があるからのう、ずっとここに居るわけにもいかん」
私の言いたい事を読み取ったのかあごに手を当てて思案顔になる。
「リーラちゃんがいるうちにシェリーが帰ってきたら引越しなんてどうかしら」
思いついたのは私とレリックもランド村へ引っ越せばリーラちゃんと一緒に居られないかという単純なもので、
シェリーが帰ってきたらとつけたのは、連絡をとる手段が無くなってしまう可能性があるから。
「ここに腰を落ち着けて長いからのう……死ぬまでに一度環境を変えてみるのも一興じゃのう」
満更でもない様子でリーラちゃんを見つめている。
「でもシェリーが帰ってこない事には始まらないわね」
私はリーラちゃんの近くへと腰を下ろし頭を優しく撫でる。
スースーと寝息を立てながら眠ったままのリーラちゃんは心地いいのか表情が少し緩んだ気がする。
「その時はフィリエルだけでも付いて行くのじゃ」
レリックの言葉に目を見開いてしまう、一緒になってからというもの離れたことがなかったからだ。
「なに、離れても一年か二年じゃろう、シェリーが帰ってくればすぐに向かうようにする」
「私が耐えれるかしら……」
レリック無しの生活……でもいつかは考えなければいけないこと。
わかってはいるけど時々考えようとしては、やめてしまっていた。
「気が早いのう、まだ決まったわけじゃないんじゃぞ?」
その気になって考えようとしている私を苦笑して窘める。
「そうね、今はリーラちゃんが起きてからのことを考えなきゃね」
「うむ」
レリックは頷き、私と同じように腰をかける。
「フィリエル」
「うん?」
レリックに呼ばれ反応すると続けるように話し出す。
「五十人に一気に『ロックスキン』をかけることは出来るか?」
「無理ね、十人にかけることが出来るかどうかよ」
そう……同時に魔法をかける場合の魔力の消耗は人数が増えるほど激しくなる。
厳密に言うと同時に書ける場合は範囲を思い描いて魔法を使うということで、範囲内の空間全部に魔法をかけるということになる。
つまり個別にかけていく方が魔力は節約できるし、無理をしてしまうことは少なくなる。
リーラちゃんの魔力は正直計り知れない、あの魔法自体の魔力の消耗量がわからないからのもあるけど。
五十人に一斉にかけるという事はその空間に対して一気に魔力を放出しまうということなので、とても危険なことである。
魔力を消耗しすぎると、自信の体力から補っていくので無理をしすぎると命は無い。
「そうか……この小さな体に背負うものとしては重過ぎるのう」
私の回答に悲しみを含んだような目でリーラちゃんを見つめだす。
魔法が違うから単純に比較するのは難しいけど、十人がやっとの私と五十人で眠りについたリーラちゃん。
ブランクはあるけど私の魔力は高いほうにあたるからそれを理解した上の言葉だと思う。
「私のせい……かな」
その言葉にレリックは首を振り、
「リーラは優しい子じゃからの、昨日の事が無くともいずれは魔法を使っておったじゃろうよ」
私にあまり気にするなと言葉を選んで言ってくれる。
「いずれは?」
再びオウム返しをしてしまう私に頷き、
「そうじゃ、わしらの前で見せた事がリーラにとって幸運だったと思うべきかもしれん」
レリックの言葉にハッとする、もし別の場所で……村の真ん中で使ったとしたら。
目撃者からは口々に情報は尾ひれを付けて伝わっていく、そして……その後は考えるのをやめる。
言い様の無い光景が目に浮かんでしまった……魔力を枯渇し満身創痍なリーラちゃんに早くしろと鞭を振るう兵士。
魔力に理解の無い人間はいくらでもひねり出せるものと思う傾向がある。
ライル村長の言葉通りにしない為にも何とかしなければ。
「生まれてきたからには意味はあるはずじゃが……神の悪戯にしてもリーラに何をさせたいのじゃろうな」
レリックの溜息に自嘲が混ざってしまう、そういえば寝室でリーラちゃんと話したことをレリックに伝えてないことに気付いた。
「あのねレリック……」
リーラちゃんから聞いた話をレリックへと伝える。
「なるほどのう……自分の種族のことに対しての知識が無かったのもそういうことか」
腑に落ちたのかうんうんと頷いていた。
「リーラは神によって作られた存在なのかもしれんのう」
この世界に来てからの記憶しかないのは、リーラちゃんという存在……少女のエルフが生きてきた期間の記憶が無いという事になる。
つまり、存在が作られたのかもしれないということだ。
でも、私達の憶測があってるかどうかはあまり意味がないのかも……リーラちゃんがそこに居るという現実だけで十分な気がした。
「そうだとしても、リーラちゃんが変るわけじゃないでしょ?」
「それもそうじゃのう、だからと言って扱いを変える気もないからのう」
お互いに苦笑する。
リーラちゃんがどんな存在であれ私達にはごく普通の少女でしかない。
ごく普通の少女と言われると本人は苦笑いしそうだけどそれはそれ。
「そうすると問題はガーラント達じゃのう」
厳重に口止めをお願いはしたものの簡単に人の口には戸を立てられない。
「明日には戻ってくるかしらね?」
確か前回来た時にはそのぐらいで戻ってきていたはず。
「リーラの魔法の効力次第でもしかしたら変るかもしれんぞ」
レリックの眉間に皺がよる、何を懸念してるのだろう?
効力次第ってことは……あっ!
「そういうことじゃ」
魔法の効果が高すぎればそれだけ噂が広まりやすい……自慢じゃないけれど私の『ロックスキン』もそこそこに有名なのだ。
元々はレリックの武器……拳にかけていたものを防具に応用したところ 好評だったのでガーラントさんは討伐の前にここでかけるようにしているのだ。
リーラちゃんの魔法の効果次第では噂が広まる可能性が高くなる。
「戻ってきたら報告をしに来るじゃろうからその時にもう一度『お願い』するしかあるまい」
どう『お願い』するかは気になるところだけど……無茶だけはしないで欲しい。
ドンドンとドアを叩く音がする……もしかして、ドアに近づくとドア越しに声が聞こえる。
「ガーラントです討伐の報告に参りました」
え……もう?
この前より早くの帰還に驚き、レリックと顔を見合わせる。
でも負傷者が出たために戻ってくることもありうるし、色々な考えが頭の中をぐるぐる回る。
しかし、開けないわけには行かないのでドアを開くと、
出発する時より所々に土の汚れが目立つ状態になったガーラントさんが立っており、後方には隊員たちが並んでいる。
「疲れているだろうから座ってていいぞ、私は中で話がある」
ガーラントさんの言葉がかかるとガシャンガシャンと金属がこすれる音が響きだす。
隊員さん達全員座ったのを確認して中へと入る。
ドアを閉めるとテーブルを囲って三人腰をかける。
「ガーラントさんお疲れ様、早かったわね」
「これもフィリエル殿とリーラ嬢のおかげです助かりました」
ガーラントさんは私に向かって礼をすると討伐の状況を語り始めた。
いつものように討伐に赴いたのに体が軽く感じられ、ケルスと対峙しても易々と倒せたこと。
今回はスクリームベアーにも遭遇し、死人が出ることを覚悟したが軽傷者が数名でるだけで収まったこと。
スクリームベアーとは文字通り雄叫びをあげる熊だけど、雄叫びに動きを止められた者を狙う厄介な魔物で、人数いれば倒すこと自体は難しくないけど、作戦次第で死傷者が増大する。
今回は雄叫びにかかる人数が少なく、楽に倒せたとの事。
『ロックスキン』にそれを防ぐ効果はないから、リーラちゃんの魔法には精神的防御をあげ、身体的能力を向上させる効果があるみたい。
「リーラ嬢にもお礼を言いたいのですが……」
「まだ眠っているわ」
「そうですか……残念です」
ガーラントさんは本当に残念そうな表情をしているだけに、リーラちゃんの魔法が大いに役立ったことがよくわかる。
「本当に目覚める前に帰ってきおったからのう」
「正直ここまで順調に終わるとは思っていませんでした」
お互いに苦笑しあっていると、ガーラントさんが思い出したようにテーブルに金貨を一枚置く。
「リーラ嬢に差し上げてください、今回の負傷者の手当てに用意された一部です」
「でもそれは、ガーラントさん達に用意されたものでしょう?」
「隊員たちと話し合った結果です、これでも安いぐらいですよ」
そう言って置かれた金貨を指で押さえ私達の方へと滑らす。
「目覚めたらリーラちゃんに伝えておきますね」
私は金貨を拾い上げると寝室へと歩いていきベッドにつるされたポーチをあけると紙包みと銀貨が一枚入っていた。
紙包みを開けてみると今日カリンさんに貰った物と同じ蜂蜜飴が四つ入っており、昨日の事を思い出す。
落ち込んでいてこれのことを忘れてたのかなと苦笑しながら元に戻し、金貨を入れておく。
目を覚まして思い出したら、申し訳無さそうに謝って来るかなと光景を思い浮かべてクスリと笑う。
穏やかな寝息がかすかに聞こえる。
この部屋の眠り姫も明日ぐらいには目覚めるかな。
リーラちゃんが目覚めるのが待ち遠しい反面ちょっと怖くなる。
神聖魔法の説明をどうするか悩ましいな、しっかりレリックと相談しておかないと。
頭を少しだけ撫でて部屋を後にした。
戻るとレリックとガーラントさんが難しい顔をして迎えてくれる。
「二人ともどうしたの?」
「ちょっと困ったことになってのう」
「フィリエル殿、お願い致します」
レリックは苦笑し、ガーラントさんは私に頭を下げている。
良くわからない状況に首を傾げてしまうと。
「隊員たちに食事を振舞って欲しいのです」
「五十人となると厳しいからのう……」
村に大規模な食堂なんてないものね。
「わかったわ、小麦、馬鈴薯、玉葱の買出しお願い」
私は今朝から下げていた巾着袋をベルトから外すとレリックに渡す。
「それでは調達にいってくるかのう」
と言い残してレリックが外へ出ようとしたところで、
「ちょっとまって、背負子の返却もお願い」
今朝持って行くのをすっかり忘れていたのを思い出す。
「なんじゃ返してなかったのか」
と苦笑して立てかけてある背負子を持って出て行った。
「ガーラントさんは隊員さん達にあれを持ち出して振舞ってね」
奥においてある樽を指差す。
空けてない酒樽だけど足りるかしら……五十人という人数に不安になる。
「これで飲んでね、数は無いから申し訳ないけど使いまわして」
五つの木の器をガーラントに渡すとかたじけないと頭を下げ、樽を持ち上げて歩き出す。
「準備は頑張るけど調理に時間はかかるわよ」
「かたじけない」
野菜を必死に刻んで寸胴の鍋に流し込み火にかける、量を一気に作るには野菜のごった煮が一番。
その余熱を利用できるオーブンの中に作り置きしておいたパン生地を一口ぐらいの大きさにして並べておく。
そうこうしているうちにレリックが食材を持って戻ってきたので、小麦粉をぬるま湯をかき混ぜ、そぼろ状になったところを力を入れて押して伸ばして繰り返す。
寝かす時間がないので崩れてしまうかもしれないけどぐつぐつと煮え立ったごった煮の鍋に小さく千切ってはいれ千切ってはいれる。
すこし煮込んで「レリックこれお願い」と自分では持ち上げられない鍋をレリックに持っていってもらう。
レリックが出て行った、少し経った後に大きめの底の深い籠をだしオーブンを開きパンを取り出す。
あくまでパンはおまけで、汁物でお腹を満たしてもらうしかないので足りるか心配。
パンで籠が一杯になったら木の器に蜂蜜を入れて一緒に外へと出る。
外へ出ると隊員さん達は自前の器を持ってレリックの前で一人ずつごった煮よそってを貰っていた。
貰った隊員さん達は汁物の熱さに息を吹きかけて覚ましていたり所々で『熱っ』という言葉が聞こえ悪戦苦闘しているようで、
その一人一人に小さなパンを器に入れた蜂蜜をつけて渡して歩く。
「ありがとうございます」と渡す度にお礼を言われ、五十人に配り終えると二つ残ったのでレリックとガーラントさんへと渡すと、
「すまんの」「かたじけない」と言葉が返ってきた。
空っぽになった籠をみてちょっとした充実感に浸っていると……ガーラントさんとレリックが空になった鍋を持ってこちらへと歩いてきた。
「突然の無理な注文を聞いて頂きありがとうございました」
「急いで作っちゃったから美味しいかはわからないわよ?」
もう少し作って欲しいという言葉じゃなくて少し安心する。
「十分です、皆満足そうにしていますので」
ガーラントさんが振り返ると隊員さん達の食事は終わり寛いでいた。
「ガーラントすまんが隊員たちを集めてもらえるかのう、頼みたいことがあるんじゃ」
「わかりました、食事が終わった者はこちらへ集まれ」
ガーラントさんの掛け声により隊員さん達は周辺に集まる。
レリックは『お願い』するって言ってたけどどうやって口止めを頼むのかな?
「レリック殿から話があるそうだ心して聞くように」
「お主らの見たわしの孫のリーラの魔法がすごく特殊なものでな、実感したお主らが良くわかっているものかと思うのじゃが」
レリックの言葉に隊員さん達が各々頷いている。
「これが広まるとのう……恐らくリーラは戦争に繰り出される兵士の補助魔法を使う要員として駆り出されてしまうじゃろう」
レリックの言う通りガーラントさんからの感想が広く伝われば戦争に使われることも容易に想像できる。
「すまんがそれだけは避けたいんじゃ……孫が可愛い爺のお願いじゃ、この事は内密にして欲しいこの通りじゃ!」
突然レリックは地面に膝を付き隊員達が集まっている場所に向けて深く深く地面に付きそうなぐらい低く頭を下げた。
辺りはしん……と静まりかえる、だれもがレリックの行動を予期できなくガーラントさんと私さえもその場で呆然としてしまった。
「あの『鉄拳のレリック』がこうまでして頼んでいるのだ、これで約束せねば男がすたるぞ」
いち早く我に返ったガーラントさんが隊員達へと声を掛ける。
「わ、私からもお願いします」
私も深々と頭を下げてお願いする。
「フィリエル殿まで……」
ガーラントさんの困惑する声が聞こえ、隊員さんが一人こちらへと近づいて来て、
「レリック様、フィリエル様、頭を上げてください、我ら討伐隊員に支援魔法を頂き、食事まで頂きまして、ありがとうございました」
隊員さんが礼をすると続くように後方の隊員さん達も礼をする。
「ガーラント隊長からも口止めされておりましたが、お二人が我ら兵卒に頭を下げてまで守りたい御様子に感動いたしました。我ら五十名この事を内密にすることを誓います」
一斉にこちらに向かって礼をする隊員さん達に「すまぬがよろしく頼む」とレリックは隊員さん達へ深々と頭を下げていた。
ガーラントさんと討伐隊員さん達が去ってから疲れ果ててしまった私とレリックは早々寝室へと入った。
「まさかレリックがあそこまでやるとは思わなかったわ……」
リーラちゃんを挟んで両隣に腰掛け話し始める。
「もう二十年と持たぬ老いぼれの頭なら下げてもいいもんじゃ」
あそこまでやってしまえば早々漏れる事はないと思う。
二十年と持たぬか……なんだか実感のこもった数字が出てくる。
「フィリエルとリーラはあといくつ生きるかわからんがのう」
ほっほと笑うレリックもあと何回見えるのかなとしんみりと考えてしまう
「ほれほれわしの事を考えるよりもまずはリーラのことじゃぞ」
考えていることを見抜かれて「そうね」と苦笑い。
「わしが考えるにじゃが、とりあえず人の居ないところで練習した方がいいと思うんじゃが」
「そうね……自分の使える魔法を良く知っておくほうがいいわね」
レリックの提案に賛成する、今回は何とか内密にお願いできたけど、次に同じような事があった場合止めることができるかわからないものね。
「リーラちゃんにはすごく希少な魔法で人前では目立つから使わない方がいいという説明でいいかしら」
「そうじゃの、そのぐらいが丁度よさそうじゃの、一年ぐらい経ったら全部教えればいいじゃろう」
一年といったのはずっと隠すことが難しいからだと思う。
隠しているのに気付かれるより明かした方がショックは少ないはず。
「いつまでも黙ってるわけにはいかないものね」
「うむ」
レリックも同視したところで私は小さく欠伸をする……色々あったし疲れちゃったかな?
「そろそろ寝るとするかの、明日にはリーラも目覚めるかもしれんしの」
「うん」
レリックの提案で今日はリーラちゃんを真ん中に川の字になるように寝る事になった。
多分明日からずっとこうなりそうな気がする。
リーラちゃんの顔色もほぼ普段と遜色無いものになってるし、明日には目覚めてくれるかな?
そんなことを考えながら私は眠りへと落ちていった。
目が覚めると、ぐっすり眠れたおかげか爽快な目覚めだった。
体を起こして隣を見るとリーラちゃんはスースーと寝息を立てていた。
「目が覚めたか?」
レリックは私より先に起きていたようだ。
「おはよう」
「うむ、おはよう」
「多分今日には起きそうかな、もう魔力は戻ってるみたい」
リーラちゃんから何時ものように魔力を感じるようになっていた。
「そうか」
レリックの返す返事も明るく、表情は微笑を浮かべていた。
いつもの会話を交わしつつリーラちゃんを見ていると。
まぶたがうっすらと開いている。
「リーラちゃんおはよう」
「ふぃ……り……えるさん?」
声は小さいけどしっかりと私を呼んでくれる。
我が家の眠り姫様が今目覚めた。
レリックを見てみると目を細めて少し眩しそうにこちらを見ている。
少しずつ少しずつ目が開き、ぱっちりと大きく開く。
「おはようございます?」
現状が上手く把握できていないのか挨拶が疑問系になっている。
リーラちゃんが眠りに付いたのはお昼過ぎだったものね。
力が入りにくいのか少しずつ体を起こし自分の体を見下ろすと小首を傾げる。
その様子は可愛いもので、首をかしげた理由は……。
「リーラちゃんが倒れた後に服が汚れちゃって洗うのに私とレリックで着せ替えたのよ」
私のお手製のワンピース気に入ってくれるといいなぁ。
「うむ、珠のような綺麗な肌だったのう」
さも見てきたかのようなレリックの言葉に、私はあれだけ見ないようにしていたのにと思い出しクスリと笑いを漏らす。
一方、リーラちゃんは目を見開くと、顔が赤く赤く染まっていき……「ふにゃ」と言葉を残し仰向けに倒れる。
「レリック……」
「すまん、目覚めたのが嬉しくてつい……な」
良く見るとリーラちゃんは目を回しており、それを確認すると、くーきゅるきゅるとお腹の虫がなっていた。
そっかほとんど丸二日食べてないものね、普段なら叫ぶところを空腹の体力切れで気絶してしまったようだ。
頬を膨らませて拗ねるリーラちゃんを想像し、フフッと笑みが漏れる。
ご機嫌を取るために美味しい蜂蜜バターのパンを焼かなきゃ。
レリックにリーラちゃんの様子を見てもらい、私はパンを焼く準備をするために寝室を出て行った。
読了感謝です
これにてフィリエル視点を終了します
次回より何時もの視点でのお話に戻ります