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眠り姫(中編)<フィリエル視点>

※フィリエルの視点でのお話になります

食事が終わるとレリックはリーラちゃんの隣に寝そべるとすぐに寝息を立てだした。

もう、無理しちゃって……若くないんだから。

心の中で呟くと私は食器の後片付けをはじめる。

一つ残ったスープの入った容器をとパンをそのままにして他を水洗いして乾かしておく。

残しておくのは『作りすぎてしもうたからのう、残りは起きた後にでも食べるとするかのう』とレリックが言ったから。

食器も片付いたし、カリンさんに仕入れてもらいたい物をレリックに頼まれたから村へ行かなきゃね。

ふっと思いついたのでレリックとリーラちゃんの頬に軽くキスをしてっと。

ここに住みだしてから使っているお金をしまっている箱から金貨と銀貨を数枚とりだし、愛用している巾着袋に入れると革のベルトを腰に巻きそれに吊るす。

リーラちゃんがいつも肩に下げているショルダーポーチも便利そうね、同じようなポーチをアルゴさんが来たら作ってもらおうかしら。

でもアルゴさんここに滞在する時間あまりないかもしれないし、依頼を出すだけになってしまいそうね。

リーラちゃんと御揃いのポーチを下げて行くのは無理そう、ちょっと残念。


「さてと」

準備も終わり外へと出ると、家の周辺を見回る、ガーラントさんの討ち漏らしや手負いのケルスがこちらへ向かってきてるとも限らないのだ。

ドアをしっかり閉めておけば家の中には入らないからレリックたちは大丈夫だけど、村へ降りていっても困るものね。

一応昨日リーラちゃんが襲われた湖の辺りまで行ったけど特に異常は無さそう。

もう一度家のドアをしっかり閉めておいてっと……よし。

村へと歩く道すがら昨日のことを思い出す、我ながらひどい失敗をしてしまったと思う……リーラちゃんに助けてもらったけど、

その為に多すぎる対象に魔法を使ったせいで魔力切れを起こして眠ってしまっている。

心が少しずつ暗いものに変わっていく……リーラちゃんを湖に行かせなければいつも通りこなせたのかな?

ふと考えがよぎる……そんなことを考えちゃ駄目駄目、しっかりしなさい私。

自分の中で再度反省しなおす。

レリックはいつも言ってたっけ

『後で『もしも』を考えても時は戻らない、失敗したら次は同じ事をしないように心がけろ』

その通りです……忘れかけていた自分に自己嫌悪してしまう。

「はぁ……」

気が付くとため息が出ていた。

この気持ちをレリックに聞いてもらってすっきりさせたい、何時ものように甘えたいという考えが浮かび、それと同時に別の考えも浮かぶ。

私はレリックに甘えれる、だけどリーラちゃんが心の底から甘えられる対象はあるんだろうか?

ランドの村の夫妻と過ごした時間も十日あまりと言っていたし、ここに来てからも同じぐらいの時間しか経っていない。

この世界に来て三十日も経っていないリーラちゃんにその対象は居ないと思う。

ならば……ここにいる間だけでも自分達に甘えてほしいかな。


「あれ、今日はリーラちゃん一緒じゃないんだ?」

ガルの言葉に歩きながら思い悩むうちに村に入っていた事に気が付く

「昨日色々あってね、まだ眠ってるの」

昨日あった事をそのまま言うわけには行かないので少しぼかして応える。

「そういえば昨日魔物の討伐隊が挨拶に行っみたいだね、相手に疲れたのか」

「そんなところね」

相手に魔法を使って眠り込んでしまったから嘘じゃない。

「リーラちゃんも災難だな、むさいおっさんの集団を相手にするなんてな」

おどけて言うガルに苦笑いで返す、折角討伐に来てくれた人達をその表現するのはどうかと思う、悪意は無いみたいだけれど。

「命を懸けて戦う人たちをそう表現するのは感心しないわよ?」

昔私も同じような討伐隊に参加したことがあるだけに大変さは身に染みて理解している。

「一応尊敬はしているんだけどな」

「態度に示さないと意味が無いわよ……」

やれやれと言った様に溜息をつく、何時もながらガルには呆れさせられる。

「そうじゃないとな、いつものフィリエルさんらしくないよ」

ニッと笑いながら両腕を頭の後ろで組ながら楽しそうに言う。

「いつもの私らしくない?」

ガルの言っている意味を計りかねて聞き返してしまう。

「難しい顔して村に入ってきてたよ、声を掛けるまで俺に気付いてなかっただろ」

考え事してて本当に気付いてなかったから言い返せない。

「リーラちゃんに何かあったんだろ?」

私は目を見開いてしまう、正直ガルの口からでたとは思えない言葉だったから……。

「俺はいつもフィリエルさんを見てるんだよ、レリックさんの関連じゃない事は見ればわかるさ」

ガルはどこか心配そうに私を見ているけど……昨日の事を言うわけにはいかない。

嘘をつくわけにもいかないし、苦し紛れの嘘はすぐにばれてしまう、リーラちゃんの関係もシェリーがふらりと戻ればわかるものね。

どうしようか思案していると……。


「無理に聞こうとは思ってないよ、リーラちゃんが大怪我をしたとかじゃないんだろ?」

「理由は言えないけど……リーラちゃんは大丈夫だから」

他に言い方や、やり方はあったかもしれないけど……これだけ言うのが精一杯だった。

「それで十分だよ、なんだかんだでリーラちゃんと話すのは好きだからな」

「伝えておくわね」

リーラちゃんが少しずつ村に馴染んできているみたいで少し嬉しかった。

この世界に来てからの続く急な環境の変化にも対応できてるみたいで安心かな。

ガルと別れ目的のカリンさんのお店へと歩いていき、お店が見えたところで「あ……背負子持ってくるの忘れてたわ」

後で返却にいかなきゃと思っていたけど色々あったせいでお店を見るまですっかり忘れていた。

木の扉の取っ手をまわしドアを開くと、何時ものいろいろな薬草の混ざった臭いではなく胸がスッとするような香りがする。

「あ、フィリエルさんいらっしゃい

カリンさんが私に気付き持っていた木の器をテーブルに置くと応対するために近づいてくる。

「この香りは何かしら?」

「ミントが手に入ったので蜂蜜漬けにしようと思ったんだけど、漬ける前に香りが充満しちゃって……」

「ちょっと楽しむ分にはいいけど強すぎるわね」

お互いにこの香りに苦笑いしてしまう。

「昨日はリーラちゃんに背負子を持たせてくれてありがとう」

「リーラちゃんを落ち込ませちゃってごめんなさい」

お互いの噛み合わない言葉に再度苦笑する。

「いいのよ、私も正直言えばあそこまで落ち込むとは思ってなかったの」

「リーラちゃんはちょっと優しすぎますね」

「そうね」

カリンさんの一言に同意するけど、ちょっと違うのかもしれない。

優しいのはそうなんだけど設定上だけで本当の家族ではないから気兼ねをしちゃってるところが少しあると思う。

私とレリックはもう家族として受け入れてもいいと思っているぐらいなのよね。

リーラちゃんに与えて貰った物に比べれば金銭なんて微々たる物に思えてしまうからそこに溝があったのかな。

「フィリエルさん今日は何をお探しに?」

カリンさんの声に当初の目的を思い出す。

「レリックに頼まれたのだけど、ダイヤモンドって扱ってるかしら?」

「ダイヤモンドですか……」

カリンさんはあごに人差し指を当てて考える素振りをしながらしばらくすると……「ちょっとまってて下さい」

と言い残して奥へと入っていく。

何か心当たりがあるのかしらとしばらく待っていると平べったい木のお皿を持って戻ってくる。

「お待たせしました、これだと思います」

お皿の上には水晶に似た小粒のいびつな形をした石が五つ乗っていた。

「水晶じゃないのね?」

「私もはっきりとはわからないんです……」

カリンさんが言うには母親がお店を経営していた時に仕入れた石で、はっきりとした由来はわからないらしい。

「私の知識ではダイヤモンドは非常に硬い水晶のように透き通ってる石としかわかりません」

自分の知識不足を恥じてか申し訳無さそうに応える。

だから由来はわからないけどこれじゃないかと持ってきたわけね。

「ごめんなさい、私も区別が付かないわ」

レリックに頼まれたものの私も現物を見たことはないのだ。

「ですのでレリックさんに見てもらって下さい、お代……私にも価値はわかりませんので言い値で結構です」

カリンさんは小さな巾着袋をだし落とさないようにと石を入れて渡してくれる。

「今更ですけど今日はリーラちゃんと一緒じゃないんですね」

「昨日色々あってまだ眠っているのよ」

ガルと同じ事を言うカリンさんに苦笑しながら同じように応える。

リーラちゃんが来てから一緒に来なかったことが無かったからだと思う。

「そうですか……私が原因だっから申し訳ないです」

「気にしないでいいのよ、眠ってる原因は別だから」

私は首を振って応える。

リーラちゃんを落ち込ませちゃったのはカリンさんだけど、原因となったのは私とレリックにあったから。

ふっと視線をずらすとカリンさんの後ろの棚にある二つのヘアアクセサリーが目に入る。

「あのリボン気になります?」

私の視線の先にあるものに気付いたカリンさんに尋ねられる。

浅緑色をしたリボンの形をした髪留め……着せたワンピースと同じ色で似合いそうな気がする。

二つあるからお揃いにも出来そう、ポーチは無理だと諦めていただけにこれはいいかも。

「リーラちゃんに似合いそうですね、私としてはもう少し飾り気があってもいいと思うんですが」

「そうね……これ二つ貰っていくわ、おいくら?」

リーラちゃんには飾り気がありすぎるのはちょっと駄目かもしれない、まだ女の子になりきれて居ないだろうから実用的なものから入らないとまだ抵抗があると思う。

寝てる間にワンピースに着替えさせた私が思うのもちょっと可笑しいかもね、心の中で苦笑する。

「私の趣味で作ったものだから差し上げます、その分石の値段に乗せてくださいね」

「商売上手ね」

うまい具合に石を売ろうとするカリンさんに苦笑してしまう。

「まぁダイヤモンドと決まったわけじゃないんですけどね」

リボンを丁寧に布に来るんで手渡してくれる。

「ありがとう」

商品を受け取ると「そうそう」と言ったと思うとカリンさんから小さな紙包みを渡される。

「これは?」

中身は何だろう?と首をかしげて尋ねると、

「特製の蜂蜜飴です、昨日も持たせてあげたんですけどもう食べきってると思うから」

「起きたら渡しておくわね、きっと喜ぶわ……でもいいの?」

甘いものに目が無いリーラちゃんならすごく喜ぶだろう、だけど蜂蜜は決して安くないはず。

「フィリエルさんは沢山お金を使ってくれてるから大丈夫です」

笑顔で返してくるカリンさんの回答に私は苦笑してしまう、商売上手な若手の担い手このお店は安泰ね。

カリンさんのお店を後にしてライル村長の家へと向かう。

家へと近づいていくと、何時ものように椅子に座って日向ぼっこしているライル村長の姿が見える。


「ライル村長今日は」

「おお、フィリエルか何か用事か?」

声に反応し見上げるように私を見る。

「神聖魔法について何か知ってる?」

「使い手はもう居なくなったと聞いておるのう、世界は広いからどこかに居るかもしれんが」

昔の事を思い出すように応える。

「居たとしたらどうなるのかな?」

「酷使されて死ぬ運命にしかならんじゃろうな……」

ライル村長の言葉に私は凍りつく「どうして?」と必死に動揺を隠しながら何とか返す。

「そりゃのう伝え聞く魔法の効果が傷を癒したり病を治す魔法と聞いておる」

基本的に使われる四属性の魔法にはそのような魔法は無い。

「それが出来るのなら、貴族王族が放っておくはずが無いじゃろう?」

確かにそんな便利なものがあったら手放すはずが無い。

「つまり使い手が居なくなったのは必然のなのかもしれんな、人の欲望に限りは無いからのう」

苦笑するライル村長に合わせるように私も苦笑する。

「しかし、唐突じゃったな?」

「ちょっとレリックの調べ物のお手伝いよ」

神聖魔法についてどんな扱いになっているかを村長に聞くように頼まれていたのだ。

「ふむ?何か変った武器でも作るんじゃろうか?」

「レリックが何を作ろうとしてるのかはわからないわ」

なんとか平静を保って村長との話を終えて帰路へ付く。

リーラちゃんの使った魔法が神聖魔法で無い事を祈りながら……。


読了感謝です

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