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眠り姫(前編)<フィリエル視点>

※フィリエルの視点でのお話になります

『ブレッシングベル』

リーラちゃんが私の今までの経験で聞いた事のない魔法を唱える。

隊員さん達の頭上に大きな鐘が出現して、ガーンゴーンと大きく響き渡る音を出す。

それを包むように霧が発生し、霧が収まると共に鐘も消えてしまった。

場に居る全員が魔法の始めから終わりまで呆然と見ていた。

鐘が消えると同時にリーラちゃんはまるで操り人形の糸が切れたように膝をつき倒れこむ。


「…………」

倒れこむまでの間に何かを言おうとしていたみたいだけど、それは小さすぎて聞き取れなかった。

疲労しきった体を動かそうとすると同時にレリックに抱きかかえられ、そのままリーラちゃんへ駆け寄る。

すぐ傍で私を降ろし、レリックは無言で頷いた。

つまり、リーラちゃんの容態を見るのは私に任せると言うことね。

疲労のたまった体を何とか動かしリーラちゃんを抱き起こす。

目はしっかり閉じられており、呼吸は穏やかにスースーと規則正しく聞こえる。

顔色は正直よくない……土気色まではいかないけど真っ青。

額に手のひらを当ててみるけど熱はないみたいね。

経験から導かれるこの症状は……重度までは行かないまでも魔力切れの症状そのもの。

命に関わるほどの症状では無かったことに安堵する


「重度ってほどじゃないけど魔力切れね命に別状はないわ、眠っているのは生存本能が働いたためね……三日は目を覚まさないと思うわ」

私の言葉にレリックは安心したのか険しくなっていた表情を少し緩める、

「そうか……」

一言だけ言うと振り返り「ガーラント」、旧知の友人の名前を呼ぶとこちらをただ傍観していたガーラントさんが反応する。

「は、はい」

突然名前を呼ばれて戸惑ったように返事をする。

多分私以外の皆もリーラちゃんの使った魔法は見たことないと思う……だから無理もないわね。

「このことは内密にな、隊員達にも徹底しておくんじゃ」

「わかりました。 厳重に口止めしておきます」

レリックの言うように口止めは徹底して欲しいと思う。

おそらくリーラちゃんの使った魔法は神聖魔法で神の祝福を得た者が使えると言われているものだと思う。

もし広まってしまえば、リーラちゃんが自由の利かない身になってしまうかもしれないから……それは避けたい。


私が自分の魔力の量を見誤った為にリーラちゃんが魔法を使う事になってしまった。

良いとこを見せてあげようと思って助けられてしまった正直自分が情けない。

眠ったままのリーラちゃんをきゅっと抱きしめ「ごめんね」と小声で謝った。

「リーラがこんな状態になってまでかけた魔法じゃ無駄にするでないぞ、行ってこい」

「わかりました、リーラ嬢が目覚めるまでに掃討作戦を完了させるぞ!」

ガーラントさんが隊員さん達へとの激励に「おおー!」と地響きがしそうなぐらい大きな叫びが返ってきた。

リーラちゃんのおかげでいがみ合っていたはずの隊員さん達は一体となった。

隊員さん達の鎧は光が反射してるわけでもないのにうっすらと輝いている。

魔法の効果はわからないけど私のよりもしかしたら強いかも。


「ガーラントさんこれを持って行ってね」

思い出したようにガーラントさんを呼び止め、私は白い布に包んだものをと手渡す。

「これは?」

「ケルス用解毒薬。 多分必要はないと思うけど念の為に渡しておくわね」

「お心遣い痛み入ります」

薬を懐へしまい、深く頭を下げてお礼を言って振り返り「吉報をお待ちください」と言って隊員さん達と共に森へ消えていった。

「歩けるか?」

抱きかかえているリーラちゃんをレリックへ渡し、ふらふらしながら立ち上がる、まだちょっときついかも……。

「肩につかまりなさい」

私の行動から状態を読み取ったのかリーラちゃんを抱えたまま私がつかまりやすいように肩を少し下げ、何時もとは違う口調で優しく言ってくれた。

こんな時にレリックの妻になってよかったと思う、冷静で優しくて……いつも私に寄り添ってくれる。

寿命の違いで私のほうが長く生きてしまうから……レリックが逝ってしまった後は塞ぎ込んでしまうのかな。

リーラちゃんにはシェリーがいるから大丈夫と言っちゃったけど、それも私のちょっとした強がり、正直言えば自信なんてない。


「ほれほれしっかりつかまるんじゃぞ」

レリックの声でいつかは来るであろう未来を考えていた私の思考は中断する。

肩を借りて少し寄りかかるようにして前へと進みだす。

家はすぐそこなのに疲労しきった体では遠く感じられた。

レリックは私に合わせてゆっくりゆっくりと家の中へと入りそのまま寝室まで歩いた。

私がなんとかベッドへと腰を下ろすとその隣にリーラちゃんを仰向けになるようにおろす。

「布と温かいお湯を汲んできてもらえるかな」

普段なら私がそのまま取りに行くんだけど……今は立って歩くのもちょっと厳しい。

レリックはしばらく意図がつかめなかったみたいだけど私の視線の先を見ると納得したように「わかった」と部屋を出て行く。

しばらくすると湯気のたっている桶と乾いた布を数枚を腰の高さのテーブルごと持ってきて「これでいいかの?」と私の前に置いてくれた。

テーブル事持ってきたのは私が屈む事が辛いと思っての配慮だと思い「ありがとう」笑顔で返す。


「わしはここにいないほうがいいかの?」

「うーん……リーラちゃんには悪いけど手がいると思うからいて欲しいわ」

私がすることを察してか席を外そうとするけど、本調子ではない私一人では心許無いので残ってもらう。

布を桶のお湯に浸し、湿らすとリーラちゃんのまずは足を拭いていく、地面に直接付いてしまった膝の辺りは砂がついていて、少しだけど血が滲んでしまっていた。

勢いは無かったけどやっぱり擦りむいていたみたい。

丁寧に汚れを取り拭いていく途中、意識は無くても痛みに反応するのか伸ばされた脚がびくっと曲げられる。

汚れた布を置き次の布を湿らせて腕を拭いていく、地面に付いた片面だけが少しだけ汚れている傷は無さそうなので汚れだけを丁寧に落としていく。

「私が内緒で作ってたあれを持ってきてもらえる?」

次の布を湯に浸しながらレリックへと視線を向けると、無言で頷いて取りに行ってくれた。

このクリーム色をした衣服、これしかないからって洗ってはすぐ乾かして何時も着ている。

一緒にカリンさんお店に行った時に丁度似合いそうな古着を勧められたけど「今のままで十分です」と苦笑いに断ってたわね。

転生前は男の子だって言ってたから、着る物にはちょっと無頓着なのかな。

顔の辺りを優しく拭いていくと穏やかな寝息がスースーと聞こえる……「はふ」少し力を入れて欠伸を噛み殺す。

なんだか釣られて寝てしまいそう。

「少し寝てからにしたらどうじゃ?」

声を掛けられたほうを見ると、いつの間にか戻ってきたレリックが浅緑色をした布を持って立っていた。

正直言えば疲労困憊でかなり辛い……でもレリックだけに任せてしまうと手に余りそうだから終わるまでは頑張らなきゃ。

「終わらせてからゆっくり寝るわ」

自分なりの笑顔を作って返したつもりだけどレリックは表情を緩めない、長年連れ添っているからわかるのね。

「わかった」

小さく溜息をついたけど、『先に休みなさい』とか言わない辺り私を良く知った上での対応だと思う。

「それじゃ私が脱がすから抱き起こしてね」

レリックにリーラちゃんを起こしてもらい上着を脱がし、スカートも脱がすと生まれたままの姿になる。


使っていない布をお湯に浸して体を拭いて行く。

少しレリックに目を向けてみると、目のやり場に困っている様子だった。

まだ未熟な少女の体とはいえ、見るのにはちょっと罪悪感があるみたいね。

多分リーラちゃんが目覚めてちょっとしたらこの事を告げて反応を楽しむだろうと思う。

リーラちゃんはまた『うにゃぁぁぁ』と顔を真っ赤にして叫ぶのかなと、その光景が目に浮かぶ。

くすりと自然に笑いが漏れてしまう。

でも目が覚めるのはまだ先の話だから、看病というわけじゃないけど見守ってあげなくちゃね。

体を拭き終わるとレリックからリーラちゃんには内緒で作っておいた浅緑色のワンピースを受け取る

リーラちゃんが寝た後に上から大きさを大体あわせておいたから多分大丈夫。

なんとかレリックに手伝ってもらい、リーラちゃんにワンピースを着せて寝かしつける。

着せる時に特にきつそうな所は無かったのでちょっと安心、我ながら上手くできたと思う。

「ふむ、いい出来じゃのう、よく似合っておるわ」

レリックに褒められるとちょっとくすぐったく感じるけど、私も同感だから気分はいい。

後でリーラちゃんの着ていた物もしっかり綺麗にしておかなくちゃ……でもちょっと限界かも。

着せ終わった満足感からか急に眠くなってくる。

「一緒に寝てやるのじゃな、意識は無くとも肌の温かみに触れている方が安心できるかもしれんからの」

レリックの言葉に頷いてリーラちゃんの隣に並ぶようにして横になり、目を閉じると意識はすぐに途切れていった。


目を覚ますと、隣からスースーと寝息が聞こえる。

顔を覗き込んでみると穏やかな寝顔で少しだけ顔色がよくなった気がする。

でも目を覚ますのはまだ先かな。

「体調はどうかの?」

目を覚ましたのに気付いたのかレリックより私を気遣う言葉が掛けられる。

「良く眠れたからもう大丈夫よ」

「そうか」

少し目を細めて微笑むレリックに私は心配をかけてしまったと思う。

「どのくらい寝てたかな?」

「ほぼ一日じゃな、余程昨日の事が体にきてたようじゃの」

と言うことは……レリックは一日見守っていてくれたのね……良く見ると目の下にくまが出来ている。

「寝ずにずっと見守ってたの? 眠らないと……」

私はまだまだ先があるから体はそこまで老いてはいないけど、レリックは別。

徹夜で起きていることは体に来るはず。

「この老体には少し応えたがまだまだいけるぞ、ちと目の保養には長すぎたがのう」

おどけた態度でほっほと笑っているけど早く休んでもらわないと……。

「そう不安な顔をするでない、一緒に食事したら今度はわしがリーラと寝るとするかのう」

そういってレリックが向けた視線の先のテーブルの上には黒いパンと玉葱で作られたスープが置いてあった。


「いつも作っておった方のがやりやすかったんでの」

レリックは久しく小麦のパンは焼いていないから、ライ麦のパンを焼いてくれたのかな。

スープもパンもすっかり冷めていた……私が起きたらすぐ食べれるように早く作っておいたのね。

「すまんのう、早く作りすぎた」

レリックが苦笑交じりに言うけどその心遣いだけで私には十分だった。

ゆっくりと二人の食事が始まる。

少しの間食べなかっただけなのに黒いパンを食べるのが久しぶりに感じられる。

この少し硬いところは嫌いではないんだけれど、やはり白いパンには柔らかさの魅力の前には少し劣ってしまうかな。

なんだろう? パン以外にも何か一味足りない気がする。

「何時もどおりのはずなんじゃが何か足りない気がするのう」

「レリックも?」

私の思っていたことをレリックも思っていたようだ。

何が足りなんだろう?と考えを巡らせて行くとレリックが何か気付いたように、

「作りすぎてしまったかのう」

その一言に気付いた。 よく見れば三人分用意してあるのだ……私とレリック、そしてリーラちゃんの分。

「いつの間にか一緒に居ることが普通に感じてしまったようじゃの」

置かれた三つの器のうち手が付けられてない器が一つ。

気が付けばリーラちゃんが食べる時見せる笑顔が私達夫婦の食事のスパイスの一つになっていた。

読了感謝です

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