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秘められた力

朝から色々あったけど落ち着いたのかな。

何時ものようにお昼が並べらている。

今日の献立は林檎とジャガイモのスープと何時ものパン、ジャガイモのスープは冷えていてこういうのはビシソワーズって言うんだったかな?

前世の記憶で名前だけ覚えていた、実際前世では食卓に並んだことは無かったからね。

フィリエルさんがケルスに氷をぶつけていた事を思い出す。


「このスープってフィリエルさんが魔法で冷やしたの?」

「そうよ、私は水の魔法が得意なの」

僕の質問にニコニコしながら応えてくれる。

「そうじゃの、フィリエルはこの国で5本の指に入る水魔法の使い手じゃったからのう」

ガルさんが上級の冒険者だったらしいと言ってたけどこの国の規模は分からないけど、それでも五番以内ってすごいんじゃないかな。

つい尊敬の眼差しでフィリエルさんを見ると、くすぐったそうに「昔の話よ」と言い捨てた。

「まぁメンタル面はまだまだじゃがのう」

「もう……それは言わないで」

意地悪そうに笑うレリックさんに苦笑するフィリエルさんやっぱり仲がいいなぁと思う。

今朝からのゴタゴタを思い出すと冷静さはちょっと欠いていたのかも、でも普通の人なら取り乱すよね。


僕もいつかは伴侶として……ま、まだ考えるには早いかな。

この体になって一ヶ月にも満たないんだからまだまだ先の話と思うことにする。

頭の中でそう結論付けるともぎゅもぎゅとパンを頬張ることにする、今度大蒜とバターを用意してもらってパンに塗ってみようかな?

僕の魔法で炙るくらいはできるだろうしね。

和やかな雰囲気の中食事を楽しんでいると……ドンドンとドアを叩く音がする。

フィリエルさんがドアに近づき「どちら様?」と声を掛けると「魔物討伐に遣わされたので挨拶に参った」と男性の声が返ってきた。

ガルさんが魔物討伐に来るらしいと言ってたっけ。

ドアが開かれると黒髪の頭部を除く全身に金属の鎧を着込んだ50代ぐらいのに鼻の下から弧の字に髭を生やした男性が立っていた。

腰に下げられている鞘の大きさから見ると片手で持つ剣なのかな?

「ガーラントか久しいのう」

「フィリエル殿、レリック殿お久しぶりです」

「ガーラントさんお久しぶり」

双方名前を呼んで挨拶するところを見るとガーラントと呼ばれる男性と二人は知り合いみたい。

会話に入れそうに無い僕はもぎゅもぎゅとパンのを噛み締めている。

「そちらのお嬢さんはフィリエル殿に良く似てるがご息女か?」

挨拶が終わったガーラントさんは僕へと視線を移す。


「シェリーの娘でリーラちゃんよ」

フィリエルさんが僕を紹介してくれるけど、パンを噛み締めているままなので名乗れない。

急いで飲み込んで挨拶を……うぐ、のどにつっかえた。

胸の辺りをトントン叩きながらスープを飲み干す。

「焦らなくて良いのよ」

苦笑いしながらフィリエルさんが背中を軽く叩いてくれる。

うう……こんな時に詰まらせるなんて……。

何とか飲み込んだので挨拶を「はじめまして、リーラでしゅ」

あうあう、慌てて言おうとして噛んでしまった。

僕は恥ずかしさのあまり俯いてしまう、そんな僕の行動をレリックさん達は微笑ましい物を見るような温かい目で見ていた。

「それでレリック殿このリーラ嬢との本当の関係はなんです?」

ガーラントさんは再度僕との関係の説明を求める。

さっきフィリエルさんが説明したのになんで聞き直すんだろう?

「やはりガーラントはごまかせんのう」

楽しそうに笑うレリックさんに僕は首を傾げてしまう。

説明した関係に納得してないのになんで笑ってるのかな?

僕が不思議そうに見つめていると僕の視線に気付いたのか、

「ガーラントはシェリーの友人じゃからの」

「未だにレリック殿を超える人を捕まえていないようですから」

レリックさんの言葉にガーラントさんは苦笑しながら続けるように応える。

シェリーさんに子供が居るはずがないと知っているから関係を聞きなおしたのね。


「リーラちゃんは森で魔物に襲われて逃げるうちに国境を越えたみたいなのよ」

「リンド王国の森か、そうするとランドの村辺りですか?」

フィリエルさんの説明にガーラントさんは僕が居たであろう場所を推測する。

「そうです」

その問いに頷くと、

「そうか……シェリー殿の娘と言ったのも二人の配慮ですか」

「そうじゃ、だから他の者には言わぬように頼むぞ」

納得したように呟くガーラントさんにレリックさんは口止めを要求する。

「確かにフィリエル殿に似ている分他の者は納得するだろうな……これは自分の胸三寸に収めておこう」

「すまんのう」

「それで本人には言っているのです?」

ガーラントさんの問いにニヤリと意地悪い微笑を浮かべ、

「勿論言ってないのう」

これにはガーラントさんも苦笑い。

「レリック殿らしいですな」

「そうじゃろそうじゃろ」

レリックさんはその返答に満足そうに頷いた。

シェリーさんって可愛い娘ってわけじゃないのかな……扱いがひどい気がする。

しかし、僕の為を思っての事なので心の中でまだ見ぬシェリーさんへごめんなさいと手を合わす。

「ガーラントさんは挨拶に来ただけじゃないんでしょ?」

「はい、フィリエル殿に討伐隊の者に『ロックスキン』をかけて頂きたくて」

フィリエルさんの指摘に頷き目的を言うガーラントさん、でも『ロックスキン』って何だろう?

「ふむ、リーラには魔法は見せてはおらんからのう、『ロックスキン』というのは言わば肌を岩のように硬くする土の魔法じゃな、

硬くするといっても、外からの衝撃とかに対してのことじゃ、肌自体が硬くなるわけではないぞ」


レリックさんの説明にすごいなーと思いながら納得する。

ケルスに向かって土の魔法を使ってたような気がするし、フィリエルさんは土の魔法も得意な方なのかな。

「私の魔法は高いわよ?」

フィリエルさんは片目を瞑ってウインクすると茶目っ気たっぷりに言う。

「出来るだけ被害は減らしたいので……今回の討伐隊は五十人です。これでなんとかお願いします」

それに対してガーラントさんは真面目に返答し金貨を1枚テーブルに置く。

一人に対して銀貨二枚!二人で蜂蜜一瓶買える。

僕は置かれた金貨を見て目を丸くしてしまった。

フィリエルさんの魔法技術に対してぽんと高額なお金が出てきたことに驚く、

つまり『ロックスキン』が銀貨を払ってでもかけて欲しい魔法ということなんだよね。

でも五十人にかけるのってすごく大変なんじゃないかな?

置かれた金貨を見つめながらどんな魔法なのかなと思っていると、

「仕方ないわね、ガーラントさんの頼みだからこれで引き受けるわ」

「かたじけない、本来ならもう一枚出さないといけないところですから」

やれやれと言った感じのフィリエルさんに頭を下げるガーラントさん。

「本音はリーラに良いとこ見せたいだけじゃろ?」

「も~レリックばらさないでよ~」

何時もながら楽しそうに茶化すレリックさんに口を尖らせて抗議するフィリエルさん。

いいとこって、僕を助けてくれた時に十分見せてくれた気がするけど。


「これはリーラ嬢のおかげで助かったかもしれませんね」

それを横目にガーラントさんは口を綻ばせながら呟く。

「僕のおかげ?」

自分を指差しながら首を傾げる。

話の流れだと僕にフィリエルさんがすごいところを見せたいために何時もより安く引き受けたみたい?

そんなことしなくても十分尊敬してるんだけどなぁ。

「そうじゃな、何時ものフィリエルなら首を縦にふらん」

「レリック~」

思惑をばらされてしまい、もうやめてと言わんばかり声のトーンで若干涙目になっている。

「安く済んだことで助かりますが……レリック殿ちょっとやり過ぎでは?」

可愛そうに思ったのかガーラントさんが止めに入ったところで、ザッザッと足音らしきものが外から聞こえてきた。

「この音はガーラントの部下達かの?」

「そろそろ来るとは思ってました、確認して来ます」

素早くドアに近づき開けたかと思うと外へすっ飛んでいった。

それに続くようにレリックさんフィリエルさんと僕の順番で外へ出ると……。

「全員整列!」

体に振動が伝わるぐらいの大声で号令がかかる。

討伐隊員が五列×十人で並んでいる、その全員が同じ様にガーラントさんと同じ様な金属の鎧を全身に着込んでいる、金属が日光を反射してちょっと眩しい。

ケルスの牙に毒があるからその対策なのかな、弾いてしまえば毒に犯されることもないもんね。

並んだ隊員さんの視線が何故か僕に集中する……それに耐え切れずフィリエルさんを壁にするように隠れてしまう。

なんで僕に集中したのわからないけどちょっと怖かった。


顔だけ少し出して様子を見るとガーラントさんは額に手を当てて苦笑い。

「お前らリーラ嬢に興味があるのはわかるがジロジロ見るんじゃない」

とりあえず注意してくれたおかげで僕へと向かう視線は減ったかな?

でも隊員さんの表情はちょっと不満そう。

「シェリー殿の娘だからな粗相の無いようにしておくように、どうなっても知らんぞ」

あ、皆顔を横へ向けた。 シェリーさんは一体どんな存在なの……どんどん謎になってくる。

隊員の不満も押さえ込んだことで場を改めるために咳払いをし

「フィリエル殿、準備がよろしければ『ロックスキン』をお願いできますか?」

「しばらく待ってもらえるかしら、何時も使っている杖を持ってくるわね」

「わかりました」

杖ってなんだろう?と思いつつガーラントさんの返答を聞いて家へと戻るフィリエルさんを目で追っていると視線に気付いたのか

「杖で魔力を補ってもらうんじゃよ、一人二人なら使わずかけるんじゃが、人数が多いと負担が大きくなるのでな」

レリックさんが説明してくれた。僕の視線だけで良く分かったと思う、それとも僕の考えることが分かりやすいのかな?

「どうしてわかったんですか?」

「伊達に年はとってないからのう」

説明になってないよ……と思ったけど、レリックさんならありうるかも?

と不思議と納得してしまった。

しばらくすると「おまたせ」と銀の色をした先のほうが傘の柄のように曲がったワンドを持って戻ってきた。

曲がった部分には黄色の宝石見たいなものがはめ込まれている。

「トパーズじゃよ」

僕の考えを先読みしたように言うレリックさん、宝石をみてたし視線の先をみたらわかるのかも。

「いつでも始めれるわよ」

「お願いいたします」

『ロックスキン』フィリエルさんが魔法を唱えるとワンドにはめこまれた宝石が放射状の光を放ち、

ガーラントさんを包み込むように砂埃みたいなものが舞う、砂埃が収まると鎧が少し黄土色に染まったように見える。

「お次の方どうぞ」

順番に一人ずつかけていく……三十人目ぐらいになった頃フィリエルさんの額に汗が浮かんできた。

それに気付いてレリックさんの様子を伺うと表情が少し険しくなっている。

三十五人目にかけたところでレリックさんは駆け寄り「すまんがこれ以上は勘弁してくれんか」とフィリエルさんの前に立つ。

「レリック私ならだいじょ」

全部を言い終える前にレリックさんは首を振り、軽く抱き寄せる。

すでに消耗しきっているように見えるフィリエルさんはそれに逆らおうとせず体を預けた。

「万全なフィリエルならな……」

「もしかしてフィリエル殿は体調を崩されていたのですか?」

止めに入ったレリックさんの言葉にガーラントさんは驚く。

「いや、魔物と戦闘して消耗してるんじゃよ」

「なっ……もう近場まで出てきていると」

さらに驚くガーラントさんそして、僕はお昼前の湖でのことを思い出す。

もしかして僕のせい?

僕が魔物に襲われてしまったのを助けるために魔法を打ったから……。

その考えに自然に俯いてしまう僕の頭にポンと何かが置かれる。

何だろうと確認する為に見上げてみると置かれたのはレリックさんの手のひらでゆっくり撫でるように動かされる。

僕の視線に気付いたのかレリックさんはゆっくり首を横に振り「元々ガーラントが来ること自体がわかってなかったことじゃからな、リーラが気にすることではない」

そうだけど……レリックさんの言葉に頷いて思う、僕に何か出来たらいいのにと。

自分の両手をじっと見る……細い小さな女の子の手……でもこの体からは感じられる高い魔力があるらしい。

でも使える魔法はほんの少し手品みたいなもので、フィリエルさんみたいな頼んでまでかけて欲しい魔法なんて使えない。

何か出来ないかと考えていると

「もう近くまで出現してきてるとなると……討伐を急がねばならんか」

一人呟くように言うガーラントさんは、レリックさんに抱えられたフィリエルさんを申し訳無さそうに見ている。

再度隊員の人たちへと視線を向けると魔法をかけて貰えた人と貰ってない人が、声にこそ出していないけれど二手に分かれてにらみ合っている。

ガーラントさんは出来てしまった溝に頭を抱えてしまっている。

フィリエルさんの代わりになる魔法をあの人たちに使えたらなぁ。

この体に秘められた魔力を使うことが出来たら、あの人たちの溝を埋められるかもしれないのに。

『ロックスキン』は言わば身を守るための魔法だ、あの人達の防具を強化してあげることが出来れば。

そんな僕の想いが通じたのか言葉が浮かんできた。

今の状態を何とかできるかもと魔法を唱える『ブレッシングベル』

隊員達の頭上に大きな鐘が出現しガーンゴーンと大きく響き渡る音を出したと思うと、

隊員たちを包むように霧が発生する、霧が収まると鐘も消えた。

「あ……れ……」

魔法が終わったかと思うと体に力が入らなくなった僕は、たまらず膝を着いてしまいそのまま倒れこむ。

そして急激な睡魔が訪れ僕の意識は沈んでいった。

読了感謝です!

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