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僕に出来る事

「ごめんね驚かせちゃったかな?」

口調は申し訳無さそうなのに耳は上下に動いている……狙ってやったのね。

「びっくりしましたよ……フィリエルさん狙ってやったでしょ」

少しだけ動悸が静まり、落ち着くと口を尖らせて文句を言う。

「お小言は中で聞くから先に入りましょう」

不満そうにする僕を置いてドアを開いて中へと入ってしまった……仕方ないので僕も続いて家の中へ入る。

「よいしょっと」

テーブルに背負子を置くと肩が軽く感じる、それなりの時間背負いっぱなしだったからかな。

腕をくるくると回して軽く伸びをすると、籠を置いてきたのかフィリエルさんが戻ってきた。

背負子に固定された蜂蜜の瓶を見て一言。

「カリンさん気が利くわね」

感心するようにうんうん頷くと、途端に真面目な顔をして、

「村で何かあった?」

「え?」

僕は眼を見開いてしまう、

「後ろから見たリーラちゃんの耳がしおれた葉っぱみたいになってたのよ」

つまり後ろから見ても落ち込んでるのが分かってしまったと。

「ひどく気落ちしてるようだったから、気を紛らわす為にと驚くように声を掛けたの」

僕のためを思ってだったんだ……確かに気は紛れたけど。

「それで何があったのかな?」

優しく呼びかけるように僕に尋ねる、僕はカリンさんとのやり取りをポツリポツリと話し出す。

隠してもフィリエルさんがカリンさんに聞けば分かってしまうことだから……。

話し終えると頭をゆっくりと撫でられていた。


「私から見れば『そんなこと』なんだけどリーラちゃんから見れば大事なことだったのね」

見上げると少し目を細めて優しい眼差しで僕を見ていた。

「うん……」

これは僕の気持ちの問題で、だれが悪いということは無いから。

「ほらほら、深く考えすぎないの」

「でも……」

煮え切らない僕にフィリエルさんは苦笑いしてしまい、

頬に手のひらを当てて少し考え込む素振りをして口を開く。

「リーラちゃんが来た日にねレリックと決めたのよ、ここで一緒に住むうちはリーラちゃんの笑顔を一つでも多く見よう、

その為には多少の贅沢もしようってね」

「僕の笑顔を見る為……?」

「そうよ、だからこれは私とレリックの好きでやってることなの」

思いがけない回答に戸惑う僕をフィリエルさんは僕の両肩に手を置き、正面に僕を見据えるようにして

「今朝のパンを食べてる時の笑顔は良かったわよ?」

優しく微笑みかけるフィリエルさんに笑顔を褒められて恥ずかしい僕は俯くしかなかった。

笑顔を正面から褒められたことは無かったからね。


「思うところはあると思うけど、今は出来ることをすればいいの」

優しく諭されて僕はこくりと頷く。

「うんうん、それじゃ夕食は楽しみにしててね」

笑顔で言うフィリエルさんを見て、ふと前世の記憶を思い出す。

食事を美味しいって食べてた時の母さんの顔は嬉しそうだったなぁと。

フィリエルさんも同じように嬉しいのかな?

そう思うと僕は今まで通りにやっていることが一番になるけど。

「ほーら、もう悩まないの、今まで通りしてればいいんだから」

思ってることずばり見抜かれてる……もしかしたら、顔か耳にでてるのかな。

「気分切り替えるのに水浴びしてらっしゃい、汗もかいてるでしょ?」

言われて気付く、村の往復でそれなりに汗をかいているちょっと不快かも。

「行って来ます」

「行ってらっしゃい、戻ってきたらお昼にしましょう」

フィリエルさんに見送られローレ湖へと歩き出す。

水浴びですっきりするといいなと考えていると、光の反射によりキラキラと光る水面が見え出す。

ちょっと眩しいなと思いつつ近づいていくと穏やかな湖面に鳥がちらほら見える。

僕と同じように水浴びに来たのかなと思いつつ着ていた衣服を脱ぐと湖でパシャパシャと洗い出す。

ちょっと冷たい水が心地いい、洗い終わると『ウォームウインドベル』何時もの魔法で乾かす。


日常に役立つ便利魔法、洗濯物乾燥で役に立てるかなぁ。

自分に出来ることがないかないかとふと考える、ランドの村のときみたいにお手伝いできるかな?

ぼんやりと考えながら乾いた服を置いていざ湖へ、ゆっくりゆっくりと湖の中へと入る。

いっそちょっと泳いじゃえとこの体になってから初めての水泳、ちょっと勝手が違うけど何とか平泳ぎでちょこちょこ進む。

足が届きそうに無いところまで進んだところでUターン、足をつってしまったらまずいしね。

久々の水泳を楽しんで岸へとあがると微風が僕を撫でる様に吹く、さっきまで沈んでいた気持ちを水の中に捨ててきたみたいにさっぱりとした気持ちになる

「うーん」

軽く腕を上へと伸ばし背伸びをする、気持ちいい。

魔法で体を乾かし、着ていた服を持ち上げる。

クリーム色の服とスカート……どこにでもあるような衣類だけど、ある意味この世界へ来た僕へのプレゼントだ。

今思えば素っ裸で放り出されなかっただけましなのかもしれない。

この使える魔法のおかげで水洗いしても乾かせるからずっと着ていられるんだよね、地味に着心地はいいし。

さっぱりしたし家へと戻ろうかと思った矢先……『グルル』家へと戻る方向から唸り声がする。

ケルスが木々の後ろから現れた一匹ならなんとか逃げ切れ……と思ったけど甘かった。

次々に姿を現すケルス2、3、4、5……ご丁寧に僕の退路を潰すようにほぼ等間隔で弧を描くように並んでいる。

一歩一歩と僕ににじり寄るケルス達、僕はそれに合わせて下がるしかない。

正直駄目かもしれない、5匹なんて逃げれるわけが無い……そんな考えが頭をよぎると背筋が震える

噛み付かれたら終わり、ケルスの毒がある牙がキラリと光った気がした。

ばしゃ、ばしゃ、後ずさるように下がり続けて湖へと少しずつ入ることに……太もものあたりまで水につかるとケルス達は近づいてこなくなった。


疑問に思い様子を伺うと、『グルル』と唸り声だけ上げるケルス達は水の中へと入ってこない。

もしかしたら水が怖いのかな?追ってこない事に安心した僕は勝手な憶測を立てる。

ひとまず落ち着いて対処を……といっても様子を見るしかないけどね。

反対側まで泳いで……だめかなケルス達に先回りされたら全く意味が無い。

とりあえずケルスの興味が無くなって去るのを待つしかないかな。

水がそこまで冷たくないのがせめてものすくいで長時間でも多分耐えれるかも。

最悪このまま夕方までとかなるならフィリエルさんかレリックさんが助けに来てくれるかな。

この状態を脱する事の可能性に期待と不安が入り混じる。


…………一向にケルスが動く気配が無い、魔物に詳しいわけじゃないからなんとも言えないけどずっと諦めてくれないっぽい?

痺れを切らした僕は少しずつ浅瀬を歩いて湖の反対側へと移動を始める。

……うん、そうなると思ってたよ、当然ケルスもそれに合わせて移動してきました。

どうしよう……時間が経つに連れて脚がだるくなり座って休みたい衝動にかられる。

座って休憩は出来るかもしれないけど……いつでも走れるようにしておかないと危ないよね。

ケルスが水の中へ入ってくる可能性が無いとも言い切れないし。

休みたい気持ちを吹っ切って再びケルスとの睨み合いを再開した矢先、

『アースメルト』ケルスの後ろの方から声が聞こえたと思うと、ケルスの脚が地面に沈んでいく。

突然の出来事に何が起こったのか良く分からない僕と地面にずぶずぶといった感じに沈み行くケルス。

必死に4本の脚で逃れようとするが上手くいかない様子で脚の部分が全部地面に入りきったぐらいで、

『スペルブレイク』再度が聞こえるとケルス脚が固定されたように動けなくなっていた。

『アイシクルランス』次は大人用の傘の大きさぐらいの円錐の形をした氷がケルスを襲う。

地面からでている部分を一直線に貫通しおびただしい赤い液体が氷を伝って流れ出る。

少しの間ひくひくと動いていたがやがて動かなくなった。

僕はただその光景を呆然と見つめていた。


「助かった……のかな?」

絶命したケルスを見回した後に僕の思っていることが口に出ていた。

全てのケルスが絶命した後に倒したであろう者が木の影より姿を現す。

「リーラちゃん大丈夫!?」

フィリエルさんだった、叫ぶように僕を呼ぶ表情がどこか悲しそうに見える。

それを確認した僕は一歩また一歩と岸へと歩み寄り浅瀬になると駆け出していた。

僕に合わせるようにフィリエルさんも次第に歩みを速める。

お互いに近づいたところでフィリエルさんは腰を落としてそのまま近づく僕を抱きとめてくれた。

フィリエルさんの懐の中でやっと安心できたのかな……今になって押さえつけていた恐怖感が僕を駆け巡り、

目頭が熱くなり次第に視界が歪んでいく。

フィリエルさんの胸にすがって嗚咽をもらす。

「ごめんなさい、ごめんなさい」

上から謝罪の声が聞こえ、見上げるとフィリエルさんの悲痛に染まった顔が見える、目頭には涙も見える。

どうして謝られるのか上手く飲み込めない僕は眼を潤ませたままフィリエルさんを見つめていた。

「一人で行かせるべきじゃなったのよ、リーラちゃんが魔物に襲われてここに来たことを忘れてて」

確かに水浴びする時はフィリエルさんは一緒に来てくれてた。

でも僕が襲われたのは森の中だったから……あ、でもガルさんは魔物自体来たらしいと言っていたから森から出ることもあるんだね。

先日の出来事を思い出しながら頭の中で少しずつ整理する。

「中々戻ってこないと思って、迎えに来たら……」

僕が魔物に囲まれて動けなくなっていたと。

フィリエルさんの声に少しずつ震えが出始める。

「笑顔が見たいだなんて言って、魔物が出てくる可能性を見落として、リーラちゃんを危険な目にあわせちゃった」

まるで僕に懺悔するかのようだった。


僕以上に動揺してしまっているフィリエルさんを見て僕は少し落ち着きを取り戻す。

耳がしおれた葉っぱのように垂れ下がっているのを見ると、かなり落ち込んでる様子……。

同じようなことが前にもあった様な……思い出した。

僕が窒息して気絶してしまった時だったっけ。

あの時は思い出して少し恥ずかしくなる、でも多分効果はあるはず。

このままだと同じようにパンを焦がしたりしてしまうかもしれない。

あの時と同じように意を決してフィリエルさんの頬に口付けをすると、

フィリエルさんが目を丸くしてしまったのを見て効果があったと判断する。

遅いと思って来てくれなかったら僕の命は無かったかもしれない。

「僕は大丈夫だから……助けてくれてありがとうございます」

お礼を言うと共にフィリエルさんに向けて、自分なりに精一杯の笑顔を見せれたと思う。

「リーラちゃんに元気付けられたの二度目ね」

落ち込む原因は二回とも僕ですけど。

穏やかに僕に微笑みかけるフィリエルさんを見てホッとする。

フィリエルさんも大丈夫そうだね。

「それじゃ家に帰りましょうか」

「うん」

出来ることを精一杯すればいい、それで良いんだよね。

そう思いながら気が付けば手を繋いで一緒に家へと歩いていた。


家への中に入るとレリックさんが待っていたかのように声を掛けてる。

「二人で手を繋いで戻ってくるとは仲がいいのう」

微笑ましい物を見るように少し目を細めている。

「レリックさんには何も言わず来たの?」

「そうよ、まさかあんなことになってるとは出る時には思わないもの」

魔物に襲われてる可能性はあってもその前提ではこないよね。

「あんなこととな?」

小さく首を傾げるレリックさんに隠すことも無いのであった出来事を説明する。

「ほう……そんなことがのう」

眉をしかめるレリックさんちょっと怖い。

「私が最初から一緒に行けば……」

「終わったことを蒸し返すでない、リーラもそれを望んではないぞ」

僕のほうへ向き直って言うレリックさんに頷く。

その通りで僕もそれは望まないし、責任を感じて欲しくない。

「でも……」

まだ水に流す事に戸惑うフィリエルさんを「仕方ないのう」と言いながら抱き寄せ頭を撫でだすレリックさん。

まるで落ち込んだ娘をあやす父親のように見える。

撫でられるフィリエルさんは目を細めて心地よさそうになすがままにしている。

その光景を温かい気持ちで見る僕……微妙に居づらい気がする

「フィリエルが気付いたからリーラが無事戻ってこれたのじゃろう?」

「うん」

撫でてもらったことで気持ちの切り替えが出来たのかフィリエルさんは素直に返事をする。

「さて仕上げをしておくかのう」

仕上げってなんだろうと成り行きを見守っていると……。

レリックさんがフィリエルさんのあごに手を添えたと思うと、唇と唇を重ねあっていた。

その光景を間近で見ていた僕は顔が熱くなっていくのを感じていく、生まれて初めて見た事に顔を真っ赤にしていたかも。

唇を離すとレリックさんは僕に「リーラの目には毒だったかのう」と意地の悪い微笑みを向け、

「リーラちゃんにはまだ早いわよ」と頬を赤く染めたフィリエルさんからはさっきの戸惑いの表情は見られなかった。

流石年の功と思ったけどフィリエルさんのほうが年上って言ってたような?

そう考えていると二人はもう一度口付けを交わしており、良い雰囲気と言えるような状態になっていた。

僕はここに居て良いんだろうか?と一人蚊帳の外に置かれた気分になっていると……くるくるきゅ~。

雰囲気をぶち壊すように僕のお腹の虫がないてしまう。

これには二人とも苦笑してしまい「お昼まだだったわね」「リーラには敵わないのう」と言われ、

僕はさっきとは別の意味で顔を真っ赤にして俯いていた。

読了感謝です

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