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千早(25)・心のありか



 ──元来、「待つ」のはあまり性に合わない。

 もともと短気なところがあるからか、昔から思い立ったらすぐ行動に移しがちな面は、時に長所で、時に短所にもなった。判断が早く、機敏に動けるという点ではいいかもしれないのだが、逆に言えばそれは、せっかちで堪え性がない、ということにもつながる。

 千早も一応、自分のそういうところは自覚しているので、成長してから、特に頭代理となってからは、たいていの場合、動く前に考えることを念頭に置くよう心がけていたつもりだった。

 しかし、だ。しかし、それはあくまで、仕事上のことなのである。それ以外のところ……いやもうこの際はっきり言ってしまうが、こと「女」に関して、千早は待つなんてことをしたことがない。見た目が気に入って声をかけて、話がまとまればすぐ宿に──なんていう女ばかりを相手にしてきたのが悪いのか。そのツケがここで一気に廻ってきたような気がする。

 つまり千早は現在、けっこう切実に悩んでいるわけだ。


(……待つって、どれくらい待てばいいんだ?)


 困ったことに、こういうことを相談出来るような相手に、千早は心当たりがない。父親は絶対嫌だし、三左は無理だし、十野は相談相手として向いていない。笑われるのを覚悟すれば、七夜がいちばんの適任なのだろうが、あいにくあの情報屋はまだ島に戻ってきていなかった。他ならぬ千早が、仕事を頼んだからだ。


 不知火島の偵察なんて、言葉で言うほど簡単なものじゃないから、おそらくなかなか戻ってはこないだろう。


 無法者の集まりであるあの島は、ごつごつとした岩だらけで外観からして荒々しく、まるで要塞のように竹矢来に囲まれ、見張りが随所に立っている。少しでも近寄る舟があろうものなら、容赦なく襲って沈めてしまうから手に負えない。

 いくら七夜でも、あの島の中の様子を探ろうと思ったら、かなり苦労を強いられそうなのは想像できた。


(けど、七夜のやつ、案外あっさり引き受けたな)


 あのねえ頭、そりゃ確かに俺は顔がよくて腕も立つけど、なんでも出来るってわけじゃないんだよ? くらいの皮肉は言われるかと思っていたら、ちょっと考えるような顔をしてから、わかった、けど少し時間を貰うよ──という言葉だけでさっさと出かけて行った。

 別れ際に、


「頭、いろいろと気をつけな……って言ってもムリかな。まあ、そこがあんたのいいところだしね」


 という謎めいた忠告を置いていったのが気になるといえば気になるが。七夜は時に、ひどく持って回った言い方をするから厄介だ。

 だがまあとにかく、七夜はまだしばらくは帰ってはこない。そうすると、やっぱり千早は自分一人でこの件をなんとかせねばならない。さすがに、七夜が帰ってくるまで何もしないでいるなんてことはしたくない。ていうか、出来ない、多分。

 要するに、ひなの了承もとったことだし(と千早は決めつけている)、もう少しなんというか状況を前進させたいのである。しかしやっぱりそれには前提として、「二人っきりになる」、ということが必要不可欠なのではないかと思うのだ。

 その前提からして困難な場合、果たしてどうすればいいのだろう。


「ううーん……」


 くだらないことをぐるぐると考えていたら、子供たちの甲高い歓声が耳に入ってきた。

 顔を上げて視線をやってみれば、海の上に一艘の舟が浮いていて、声はそこから聞こえてくる。

 最初に確認できたのはでかい図体をした三左だ。舟を漕いでいるのはコハクである。歓声を上げているのは彼ではなく、同乗している二太と三太のようだ。仕事を終えた三左が、子供たちにねだられて舟に乗せてやっているのか、それともコハクに教えてやろうというつもりなのか、どちらかだろう。

 眺めていると、コハクは自分で言っていたように、舟の操り方がかなり巧みであるのが判った。このあたりの気紛れな波に手こずってはいるようだが、それでも三左に上手いこと手を貸してもらいながら、なんとか流れを読もうとしている。あの年頃であれだけ出来れば上々だ。


 その舟がこちらの方に戻ってくる様子なのを見て、船止め場の方にぶらぶらと足を向けながら、そういやコハクがこの島に来てもう十日以上が経つんだなあ、と千早は考えた。


 三左によると、真面目に稽古もしているらしいし、口には出さないものの、本人は早く不知火島に行きたいと焦れていることだろう。

 不知火の外道集団に攫われた女は、大体、長くて一年、短くてふた月ほどで捨てられてしまうという話だ。文字通り、斬って殺して、海に「投げ捨てる」のだという。生きている間も、相当な苦痛と屈辱を味わわされていることは想像に難くない。

 助けられるものなら、なるべく早いうちに助けてやりたいのだが──


 三左たちの乗った舟が船止め場に到着すると、二太と三太がまず真っ先に元気よく舟から飛び降りた。

「コハク、早く行こうぜ!」

 陽気に言われ、うん、と返事をしながらコハクが続いて舟からすとんと身軽に降りる。二太と三太が彼を見る目は、子供らしい憧れに満ちている。二人からすると、頭がよくてなんでも器用にやれてしまうコハクは、頼りになる兄さん格、といったところなのかもしれない。本当の兄の一太は、もう一緒に遊んでくれるほど幼くはないからなおさらだ。


「よう、ご苦労さん、三左」


 声をかけると、三左は軽く頭を下げ、舟を陸に繋ぐための作業に取りかかり始めた。それを手伝おうとしたコハクは、「いいから、行きな」と三左に言われて、少しためらってから頷いた。こうしてみると、この二人こそ年の離れた仲の良い兄弟のようでもある。


 駆けていった二太と三太に続こうとして、コハクは千早の前まで来て足を止めた。


「舟、上手いもんだな」

 笑いかけながらそう言うと、少し複雑そうな表情をした。一瞬、視線を彷徨わせて、

「……三の兄さんが、いろいろと教えてくれたから」

 と、呟くように言う。

 「三の兄さん」とは、三左のことらしい。島の人間は子供も大人も「三左」と気安い呼び方をするが、一緒に暮らしているひなが「三左さま」なんていう呼び方をしている手前、コハクも気を遣っているのだろう。


「そうだろ。三左は顔は怖いがいいやつなんだぜ。仲間内でも、いちばん信頼のおける男だからな」


 ちょっと自慢げにそう言うと、コハクは目を逸らしたまま 「……ふうん」と返事をした。

 この子供が自分に対する時に態度が固くなるのは、海賊の頭、ということがあるのだろうと千早は思っているから、素っ気なくても気にしたりはしない。不知火とは違うと理性では承知していたって、割り切れないものがあるのは当然だろう。だからなるべく自分とは関わりを持たないでいいように取り計らったつもりなのだが。

 背後で、「コハクー!」と待ちかねる声が聞こえる。呼んでるぜ、と言うと、コハクはこくんと頷いて足を動かしかけたが、一歩進んだところでまた止まり、意を決したように千早を見上げた。


「……頭とひなは、恋人同士なの?」


「は?」

 いきなりの質問に驚いたが、自分の気持ちが定まった今となっては、そんな言葉で動揺するほど初心でもない。すぐに気を取り直し、口の端を上げてみせる。

「そう見えるか?」

「あんまり見えない」

「…………」

 子供は時々残酷なまでに正直である。

 「けど」と、コハクは少しためらってから、再び口を開いた。

「……けど、ひなは一人でよく考え事をしてる。そういう時はいつも、手に櫛を持って」

「櫛?」

 思わず聞き返す。櫛、といったら千早にとって思い浮かぶのはひとつしかなくて、鼓動が跳ねた。


「悲しそうな、目をしてる」


 今度は何も言えなくなった。

 千早が贈った櫛を見て、悲しそうな目をするって、それは──

「俺にはよくわかんない」

 コハクがふと、目を伏せる。いつも大人びた子供だが、この時は本当にただの戸惑う子供の顔をしていた。


「ひなは、頭のことが好きなんだと思ったんだけど、違うのかな。俺にはわかんないよ。でも、ひなが悲しそうな顔をするのを見るのは、好きじゃない」


「──コハク」

 コハク、何してんだよー、という声がまたかかった。千早はそちらをちらりと振り返り、また目の前の子供に顔を戻して、その小さな頭にぽんと軽く手の平を置く。

「悪いけどお前、もうちょっとあいつらと遊んでてやってくれるか」

「うん」

 コハクは頷いて、

「ちょっと帰りが遅くなるかもしれない、ってひなに言っておいて」

 と言うと、二太と三太の兄弟に向かって走り出した。

 なかなか話の通じるやつだ、と千早はその後ろ姿を見ながら感心する。

 そして、心の中で呟いた。


 ……俺だって、ひなが悲しい顔をするのを見るのは、好きじゃないんだ。



          ***



 ひなの家に行くと、彼女は囲炉裏の前で、せっせと夕飯の支度をしているところだった。

 日が沈むまでにはまだ時間がある。ひなはコハクが来てから、食事はすべて自分で用意しているという話だ。大分慣れてはきたらしいが、やっぱり八重に比べると時間がかかるので、千船のところに来ても、以前よりも早く帰ることは知っていた。たまに十野もくっついてきて手伝ったりしているようだが、今日はいない。なによりだ。


「よう」

 と声をかけながら入っていくと、ひながびっくりしたような顔をして、ぽっと頬を染めた。


 これだ。この顔、どう見たって嫌がっているわけじゃない。というか、恥じらってるようにしか見えない。こういう顔をされて、男がどう思うかなんて、判りそうなもんだと思うんだが。

「旨そうな匂いがするな」

 鍋から立ち昇る湯気が鼻腔を刺激する。そういえば、千早はまだ、ひなの手料理を食べたことがなかった。食べたら死ぬ、とはもう言わないから、食わせてもらうかなあ、と思っていたら、ひなの方からもじもじと口にした。

「あの、大したものではありませんけど、よろしかったら、召し上がっていかれますか。たくさん作りましたから、千船さまのところにもお持ちください。もうすぐあの子も帰ってくると思います。三左さまに舟に乗せてもらうと言ってましたけど」

「うん、そうだな。そうするかな」

 コハクがまだしばらく帰らないことは判っているが、それを言う必要はないな、と判断した。そんなことを言ったら、「探してきます」なんて言って逃げられそうだ。


(──逃げる、か)


 自分で思って、溜め息をつく。未だに千早は、ひなが逃げていくのを警戒せずにはいられないわけだ。こんな風に、気軽に家の中に入って、共に食事のできる立場になってさえ。

 鍋の前に座って覗き込むと、中では魚がぐつぐつと音を立てていい具合に煮えていた。ひなは料理を八重に習ったのだから、きっと八重の家の味がするのだろう。そうすると、ひなの味はつまり、八重のところの味ってことか。いや、でも十野ともよく一緒に料理をしてるようだから、いろんな味が混ざってるのかな。

 ……その味を、千早の家の味とも合わせたい、って言ったら、ひなはどうするんだろう。

 やっぱり、逃げるんだろうか。


 ──俺はどうすれば、お前の心を丸ごと手に入れることが出来るんだ?


「千早さま?」

「ん、ああ」

 考え事をしていたせいで、思考が逸れた。心配そうに呼びかけられ、慌てて返事をする。

「どうかなさいましたか」

「あ、いや、十野がさ、お前と飯を作るのは楽しいって言ってたから」

 考えていたこととは全然違うが、内容は別に嘘じゃない。

 ひなは目を細め、優しい表情になった。

「わたしも、とても楽しいです。……でも、十野さんがお嫁に行ってしまったら、もうそんなことも出来なくなりますね」

「あー、そうだな。あいつ、いつになったら行くのかね」

 本当だったら、もうとっくに嫁入りしている予定だったのだが。実際、あっちの島では、亭主になる男が、今か今かと十野がやってくるのを首を長くして待っているらしい。何をずるずると引き延ばしてんだ、と訊けば、まあ返ってくる言葉は予想がつくのだけれど。


 ──あんたたちのことが心配で、見届けるまではおちおち嫁にも行けないのよ!


 とか。うん、言われそうだ。ものすごくうるさく。鬱陶しいから、こっちから言い出すのはやめておこう。

「早く行けばいいのによ。嫁に行けば、あいつもちょっとはしおらしくなるかもしれねえし」

 憎まれ口を叩くと、ひなが少し窘めるような顔をした。ひなは俺よりも十野の味方なのか、と思うと、ちょっと面白くない。

「十野さんは、とても女らしいところがおありですよ。相手の方のことを話す時なんて、特に可愛らしいです」

「俺はあいつの可愛いとこなんて、見たことがねえもん。あんなんで大丈夫なのか、って心配になるくらいだぜ。亭主に愛想尽かされて、こっちの島に戻されないといいんだけどよ」

 かなり本心からそう言うと、ひなが袖の先で口元を押さえ、くすくすと笑いだした。

「なんだ?」

「千早さまは、時々、十野さんを妹みたいに言われるんですね」

「まあそうだな。ガキの頃からずっと一緒にいたし、妹みたいなもんかな」

「十野さんもよく、千早さまを『世話の焼ける弟みたい』って仰ってます」

「勘弁しろよ。あんな口やかましい姉はいらねえ」

 閉口して顔を顰めたら、ひなが可笑しそうに、軽く声を立てて笑った。ああ、やっぱりいい声だなと思う。


 ずっと見ていたい笑顔、聞いていたい笑い声。


「笑ったな」

 目元を和らげてそう言うと、ひなが、え、という表情で千早を見返した。

「お前はそうやって笑ってるほうがいいよ。可愛いし、綺麗だ」

 みるみるひなの首から上が朱に染まる。袖の先で口を押さえたまま、恥ずかしそうに下を向いた。長い髪を後ろでひとつに束ねているから、そうやって俯くと、襟足までの細いうなじが覗く。

 時間が止まったかのように、沈黙が支配した。家の外からは、なんの物音もしない。


 ぴんと張りつめた空気の中、先に動いたのは、ひなだった。


 「あの」とぎこちない棒読みで声を出し、糸に引っ張られた人形のような動きで唐突に立ち上がる。

「わたし、ちょっと外を見てきます」

 くるりと背を向け、土間に足を下ろす。千早は素早く腰を上げ、同じように土間に下りて、腕を伸ばした。

 ひなを背中から強く抱きしめる。


「──また逃げるのか?」


 囁くように言って、後ろから腰に廻した腕に力を込めた。華奢な首に自分の顔を押しつけたら、ちっちゃな貝殻のような耳たぶが、真っ赤に色づいた。

 ひなはじっと身動きもしない。背を向けているから、顔は見えない。抗いはしないが、身を委ねてくるわけでもない。その身体から発散される甘い香りにくらっとして、思わずうなじにそっと唇を当てたら、ひなが身を縮めるようにしてわずかに震えた。

「待つ、とは言ったけど、もう離さない、とも言ったよな?」


 嫌われているのなら、諦めもしただろう。

 けど、そうじゃないはずだ。

 ひなは、千早のことを好きだと言った。言葉だけじゃない。彼女の顔も、瞳も、態度も、すべてがそう言っている。

 好きだ、好きだって、そう言ってる。

 なのにどうしていつまでも逃げようとするんだ。

 千早から貰った櫛を見て、どうして悲しい顔をする必要なんてある?

 まるで──まるでこの先の未来に、明るいものがないみたいに。


「ひな。……自分の過去を、思い出したのか?」

 静かに問うと、腕の中の身体が、びくりと大きく揺れた。

「……は、い」

 小さな声だが肯定の返事があったことに、少しほっとする。それはもう、隠すつもりはないらしい。

「自分が、どこの誰か、思い出した?」

「……はい」

「どうして、海に落ちたのかも?」

「はい」

 ひなは背けた顔を決してこちらには向けようとはしなかった。どんな表情をしているか、千早からは見えないが、答える声からは徐々に、迷いが抜けていくようだった。

「その事情ってやつは、どうしても俺に話せないものなのか? いいや、それならそれで、別に構わねえよ。そりゃ、家がらみのことは、口に出来ないこともあるんだろうからさ。けど──」


「いいえ」


 千早の言葉を遮って、ひながはっきりと言った。ぽつんとした一言だったが、その決然とした響きに、千早は口を噤んだ。

 腕の中で、か細い身体がゆっくりとこちらを振り向く。「いいえ、違います」と千早の目を真正面から見返して言い切ったひなは、震え、青ざめ、苦しげに顔を歪めていた。

「ひな?」

 無意識に、腕に力を入れて、更にひなを抱き寄せる。そうしていないと、本当に消えてしまいそうだった。


「わたし──わたしは、ただ、怖かったんです」


 声も震えている。けれど、その震えが出ないようにと懸命に抑えながら、そう言った。

「怖い?」

「わたしを見る目が変わるのが、怖かった。それくらいなら、『ひな』として嫌われるほうがよっぽどよかった。だから、黙って出て行こうとしたんです。わたしは弱くて、どうしようもなく弱くて、そうするより他に、方法を思いつかなかった」

「……?」

 千早は困惑したまま、ひなの身体を抱きしめるしかない。何を言っているのか、ちっとも判らない。

「ひな、もうちょっと判るように言いな。お前がどこの誰か判ったところで、俺たちは見る目なんて変えたりしねえよ」


 現に、ひなが重保の娘かもしれないと聞かされても、千早の気持ちはまったく変わらなかった。


 しかし、ひなはふるふると頭を何度も横に振り、そんなことじゃないんです、と小さな声で呟いた。焦れったくなって、子供をあやすように、腕の中のひなの身体を軽く揺する。

「じゃあ、どういうことなんだよ。俺たち……いや、俺は、お前のことを嫌ったりなんてしない。過去や素性はどうあれ、お前はお前だろ。そんなに信じられないか」

 語調を強くして問いかけたら、ひなはぎゅっと唇を噛んで、そういうことじゃない、とまた首を振った。


 どうしたんだ、一体。


「なあ、ひな、俺はお前が何者でも──」

「実の父親に、『化け物』と呼ばれるような娘であってもですか」

 眉を上げて涙を湛えた瞳で千早を見据え、ひなは叩きつけるように早口で言った。彼女のこんなところを見るのは初めてで、千早は驚いて目を見張る。困惑は深まる一方だ。

「なに、言って……」

「父は」

 ひなの口からはじめてその言葉が出たが、口調は随分と固く強張っていた。


「父はわたしを、戦の道具にしようと致しました。そのために、ただそのためだけに、わたしを育て、屋敷の中に閉じ込め続けました。わたしを使って権力を独り占めするために、戦を起こして多くの被害を出そうとしました。わたしはそれが嫌で、屋敷を抜け出し、海に身を投げました。母はわたしのような娘を産んだばかりに命を落とし、他にも多くの人が、わたしのせいで、不幸になってしまいました。それもこれも、わたしが異端の娘であったからです。千早さま、わたしはその気になれば、この身ひとつで、たくさんの人を傷つけて殺すことが出来ます。そんなわたしが、どうしてあなたの傍にいられますか。この島と、島の人たちを守りたいあなたの」


 ぽろりぽろりと丸い涙の粒をいくつも瞳から落としながら、ひなは一息に悲痛な叫びを唇から迸らせた。





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