第74話
悪党の集会が始まる。
教師ではなく、悪党首悪大倉黄葉ことリーダーを支持する夜山中学の生徒達は校庭に集まてっいる。
集まった生徒数約700人の内約660人──一年生から3年生まで、驚異的な人数がクラス毎に並んでいる。だらしない服装の生徒、弱々しい生徒、真面目そうな生徒、強面な生徒、美形な生徒。それらはただの悪党。
私と糸乃さん、他数名の幹部は列に入らず集団の前にいる。
そしてリーダーは校内、来賓出入り用の昇降口に座って時間まで待機している。
「休みは21人ですね。そちらの方々には追ってクラスリーダーが連絡するでしょう」
「夜中が誇るもう一人の化け物北見君も現れてませんね」
北見蓮十郎。目に関する9つの能力を持つ超能力者。おそらく今回の作戦に限っては邪魔する立場だろう。
やがて集会が始まる時間になる。
リーダーは校内から姿を現す。校庭にどよめきが広がる。リーダーは台に上り見渡す。
マイクなど必要ない。生まれ持っているその声はよく通り、場を支配するように重々しい。正に人の上に立つためにあるような声が校庭に響く。
「静かにしろよ」
それだけで校庭の生徒は静かになる。
首悪という性悪の性悪な性質、糸乃さん曰わくその内一つの真骨頂──暴力的カリスマ。
「静かになったな。まずはおはよう。休みがいるのは仕方ないとして悪党メンバーのほとんど集まって俺は嬉しい限りだ。さて、俺達──悪党は近い内に昼中のあるものを強奪する。それさえ手に入れば朝山学園、昼山中学、夕山学園、夜山中学の4校を陥落できるような代物だ。それに関しては後でクラスリーダーがプリントを回すからそれに目を通せ。それに当たって俺達は昼中の化け物、生きる伝説、お前らも知っているだろ? 羅刹女。そいつを完全無力化するんだよ。いや、ぶっちゃけ仲間に引き入れる」
生徒──否、ここはもう悪党メンバーとしよう。
悪党メンバーはざわつく。
羅刹女といえば小学生の頃に学校を恐怖で支配したとか、成人男性を病院送りにしたとか、3階から飛び降りて余裕の着地とか、色々な逸話がある。もっとも、そのくらいリーダーもやってるので特別珍しくはないだろう。
「黙れ」
再び校庭に静寂が訪れる。
「最近はそういう逸話は聞かないが噂では未だにその強さは健在らしい。コイツがいる限り4校──昼中の崩落の障害になる事は容易に予想できる。他にも朝学には天才俳優──榎宮昴、夕学の性悪──黒木妖恋もいる。もちろん、コイツらを仲間に引き入れるのは容易ではない。いや、でも黒木は殺していいか。アイツの事は名前聞いただけで気持ち悪くなるほど大嫌いだしな。まあ、最近夕学も内部抗争を終えて黒木が頂点に立っている。おそらく次の強奪作戦は悪党、昼中、夕学の三つ巴戦になるだろう。だが俺達の狙いはあくまで昼中のアレの強奪と羅刹女を仲間に引き入れる事だ」
悪党メンバーの一人がおずおずと手を挙げる。
リーダーは、お前、と言ってそのメンバーを指差す。
「そもそもどうやって羅刹女を仲間に引き入れるのですか?」
「良い質問だ。至って簡単な事なんだがな。悪党全員──つまり総勢約700人で羅刹女を退治する。実物を見て作戦に微妙な調整をするかもしれねーがこれを基本に作戦を遂行する。羅刹女だなんて大層な異名だが所詮は人間……数で攻めて疲労させて後は拷問やら催眠術やらで首を縦に振らす。それだけだ」
流石は悪党リーダー。そして悪党メンバーもこれに異を唱える者、否定する者はいない。
エグいな~。
これがリーダーの首悪の性悪『首悪共有』。感情や精神がリーダーと共有、つまり同じになる。例えば、特定の相手への悪口をみんなで話したり、みんなで楽しんだり、運動会でみんなと優勝を狙ったり、そのような感情の共有みたいなものだ。これがリーダー大倉黄葉の悪い性質だ。
どこが性質悪いか?
全然悪くない。いや、やっぱ悪い。なぜならどんな悪い事でもノリでみんな行動してしまうからね。リーダーが一言、拷問しろ、と言うだけで総勢約700人がそれに同意し肯定するのだから。
「後でそれぞれの役割分担表もプリントで回す。今日の放課後はそれぞれの役割の奴らと集まってそれぞれ役割の隊長から説明を聞け。それでは解散!」
リーダーの解散宣言で校庭にいた悪党メンバーは普段の学校の集会以上に迅速かつ調和して校内に入って行く。
今週の土曜日──つまり明日。
その時の図書委員交流で羅刹女のデータを入手。
そのデータを元に作戦内容を微調整。
目的第一は昼中のある生徒が持つ情報。目的第2は羅刹女の仲間引き入れ、それに伴い羅刹女一人相手に悪党メンバー全員で無力化。
作戦参加人数は合計約700人、この人数は夜山中学の総生徒数の約9.5割に上る。
決行は来週の火曜日。
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土曜日、今日は昼中と夜中の図書委員交流の日。
私──高田鏡華はトレードマーク│(だと自分で思っている)ポニーテールを振動で揺らしながら昼中図書委員の一人と夜中校内を歩いている。
「鏡華ちゃん鏡華ちゃん」
「うん? 何だ米子?」
八坂米子。私と同じ一年の図書委員で中一にしては小柄で黒髪に大きなリボン付けていて、妙にそれがしっくりする可愛い少女だ。図書委員の中では一番仲が良い。
ちなみに今、他の図書委員達と別行動を取っている理由でもある。
「私、夜中来るの初めてなんだけど」
「いや、私も初めてだ。確かに公立の癖に相当大きいな」
まあ、ニュータウンだからな。反面、昼中──というより昼山町は朝山、夕山、夜山の中で一番古いらしいので仕方ないといえば仕方ない。一応我が校の名誉のために言及すると昼中も数年前に改装工事したらしいため下手な私立より設備は整っていて広い。
そんな昼中より広い夜中。私達は見事に迷子になっていた。
「ここはどこなんだろうね」
「さあな。如何せん図書室の場所を聞こうにも生徒に会わん」
なぜか示し合わせたように生徒に会わない。
「確か図書室は一階にあるとか言ってたよね」
「ああ」
しばらく歩くとようやく図書室を見つける。
私はドアに手をかけると中から声が聞こえる。
『羅刹女ってどんな人ですかね?』
『ポニーテールにしてるらしいわよ』
『ぶふぉ! ゴリラがポニーテールとか笑える』
『羅刹女の前では笑わないでね』
昼中の図書委員達ではない。聞いた事ない声──おそらく夜中の図書委員がヒソヒソ声で私の噂をしている。
失礼な奴らだ。
別に自分がずば抜けて容姿端麗とは思ってないが、ゴリラとも思ってない。確かにちょっと筋肉が付き過ぎてるかもだが。
私は図書室のドアを開ける。テーブルに囲んで座ってた奴らが私達に目を向ける。夜中の奴らは私を見て驚いている。特に垂れ目で無駄にスタイルが良い女子の驚きが半端ない。
「ハアハア……」
やがて垂れ目の女子は息を荒げて、顔を紅潮させ、口から涎を垂れ流し、目をトロンとさせている。
なんというかその状態はどう考えてもアレな状態だ。
そして、垂れ目の女子は顔からテーブルに突っ伏し、体をビクビクさせている。
「あの……大丈夫ですか?」
そう質問したのは私ではなくて米子だ。間違いなく垂れ目の女子に向けて放った言葉だ。
答えたのは他の夜中図書委員。
「大丈夫大丈夫! ちょっと気分が悪くなったみたい。私はこの娘を保健室に連れて行くからみんなは図書委員交流始めてて」
夜中図書委員は垂れ目の女子を連れて図書室から出て行った。
「どうしたのかな?」
「……あんたには関係なさそうだな」
「どういう事?」
「可愛い奴だなって事」
「ええ?! そんな、可愛いだなんて!」
私は空いている席に座る。米子にも隣りの空いてる席に座るように促した。
図書室に微妙な空気が流れる中、昼中と夜中の図書委員交流は始まった。
次は『組織・悪党』です。
タイトルの『思考・性善』というよりこっちの方が『組織・悪党』みたいな話みたいだなと




