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Student War ──羅刹女──  作者: 天井舞夜
思考・性善(失敗)
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第73話

 私は東宮さんとリーダーを交互に見る。

 東宮さんは悪意のない笑みをリーダーに向けている。リーダーは悪意のある眼差しを東宮さんに向けている。

 リーダーの悪意ある眼差しは仕様だ。

 それよりも悲観的予想が働かない。結末が予知できない。

 そういえばリーダーと北見さんの邂逅の時も予知できなかった、と思い出す。

 仮に悲観的予想ができても予想外な事になりそうだけど。

 という事で私はリーダーと東宮さんのやり取りを見守る事にした。

 リーダーは東宮さんを見て邪悪にくつくつ笑うと口を開く。


「てめーが例の失敗作か? 最悪の善人」


 東宮さんも無邪気にニッコリと微笑み返して言う。


「あなたが雛型なの? 初めまして、最善の悪人さん」


 リーダーは一歩また一歩と東宮さんに近づきながら言う。


「お前が噂の転校生か。なるほどなるほど。これはこれは美少女だな。こう雪や桜のように儚い感じじゃなくて、どちらかというと青空や大海原のように眩しい感じのな。どうだ? 俺の彼女にならねーか?」


 リーダーは悪意を撒き散らしながら笑みを浮かべて近づくとその長い手で東宮さんの顔面を思いっきり殴り飛ばした。


「がぁっ!」


 東宮さんは背から壁に激突して、背に壁を預けてへたり込んだ。

 リーダーはしゃがみ込んで倒れている加賀美君の顔を見て言う。


「大丈夫かよ加賀美ちゃん? いきなりスタンガンを当てるとかヒデー女もいたもんだなぁ」

「くっ! 大倉か。まったくざまぁないな……」

「おい動くなよ。モロに喰らったんだ。しばらく休んどけ」

「優しいんだなお前……」

「知らなかったか? 俺は気に入った奴には優しいんだよ」

「……今まで悪かったな。俺はお前に負けたくなかったんだ。大倉、俺も悪党に入れてくれないか?」

「負けず嫌いは嫌いじゃないぜ。いいだろう。たったの20人で俺達悪党と渡り合ったお前が味方になるなら100人力だ」

「そうか……ありがとう」


 リーダーと加賀美君はそんな応酬を繰り広げた。

 リーダーは最初から加賀美君を悪党に引き入れようとしてたからね。これはリーダーにとってあまりにも幸運な出来事だった。

 残党の一番厄介な人がいなくなったんだ。事実上残党は壊滅だね。


「なるほどね。不意打ちは悪なんだ」


 東宮さんは顔を押さえながらリーダーに近づきスタンガンをリーダーの首に押し当てようとする。しかし、リーダーはそれを体をねじりながら立ち上がって回避し、東宮さんの顔を手で掴み足を一歩踏み出し壁に頭から激しく押し当てる。


「覚えておけよ。てめーの相手をしてるのが悪だ。つっても根っからの善人のてめーにそんな事わからねーか!」

「そうだね! やっぱ本物の悪人さんは違うね!」


 東宮さんは苦悶の表情を浮かべながらも何かを初めて体験した幼子のように好奇心を刺激されているかのようにはしゃいでいる。


「悪人さん、自分を傷付けるのは悪? 他の人を傷付けるのは悪なんでしょ? それじゃあ、肉を切らせて骨を断つは悪なのかな? 善なのかな?」


 東宮さんは自身の顔を押さえているリーダーの手にスタンガンを押し当てる。素肌同士の接触、それはお互いの感電を意味する。正に肉を切らして骨を断つ。

 リーダーは痛みを感じて東宮さんから手を離す。


「悪い事教えてやるよ。肉を切らして骨を断つ、善人がやったんだから善に決まってんだろぉが!」


 リーダーは東宮さんの腹を足底で蹴る。東宮さんは咳き込んで再びへたり込んだ。リーダーは床に落ちたスタンガンを蹴って遠くへ滑らせる。


「善とか悪とか白々しい奴だ。最初から不意打ちも肉を切らして骨を断つも善だと思ってる癖によ」


 リーダーは東宮さんを見下ろして言った。


「痛いな~。だから性悪で正真正銘な悪人さんに悪を教えてもらおうとしてたんだよ私」

「はっ! そういうのは後で聞いてやるよ。徳さん」

「え、な、何ですか?」


 私は急にリーダーに呼ばれてビックリした。


「とりあえずコイツらを保健室に連れて行くぞ。徳さんはこの女に肩貸してやれ。俺は糸乃と加賀美ちゃんを連れて行くわ」

「え? 糸乃さん?」


 私は隣りにいる糸乃さんを見る。


「え? ちょっと糸乃さん! 大丈夫ですか?!」


 私は糸乃さんの肩を抱き寄せる。

 糸乃さんは気絶していた。顔をエロく紅潮させて体を痙攣させている。

 糸乃さんは共感覚の持ち主である。人を見る聞く感じると風が吹くらしい。相手が普通の人ならただ風を感じるだけなのだが、化け物のような人間相手だと風で感じるらしい。糸乃さん曰わく凄いものは共感覚を感じるのではなく共感覚で感じるとか。


「糸乃は化け物同士のぶつかり合いを見るのは初めてだからな。コイツには刺激が強過ぎたんだろ。それでも敏感過ぎる気がするが」

「さすがにこれは私も初めて見ました。リーダーと東宮さんは知り合いなんですか?」

「知り合いだけど顔見知りじゃないよ~」


 私の問いに答えたのは東宮さんだ。


「後で詳しく話してやるよ」


 リーダーは糸乃さんと加賀美君を担ぎ、私は東宮さんに肩を貸して保健室に向けて歩いた。




 糸乃さんと加賀美君をベッドに寝かせ、リーダーと私と東宮さんは別室で待機している。リーダーは教卓に片膝を立てて座り、私と東宮さんはリーダーを見るように椅子を並べて座っている。


「てめーが噂の転校生か?」

「うん」

「名前は?」

「東宮美優」

「俺は大倉黄葉。夜山中学の一大勢力悪党のリーダーで、お前の言う性悪、『首悪』だ」

「私は『根本的性善説証明計画』の失敗作だよ」


 私は手を上げて質問する。


「東宮さんの根本的性善説証明計画の失敗作ってどういう意味ですか?」


 リーダーはくつくつと笑う。


「6大実験の一つだよ。『人工的超能力開発実験』、『強制的前世記憶想起実験』、『自発的多重人格育成』、『根本的性善説証明計画』、『精神的人間動物化計画』、『理想的彼女育成』。この前の誘拐事件の犯人共もその内の一つ、人工的超能力開発実験の被験者だな。コイツはそれとは別の実験──根本的性善説証明計画の被験者って事だ。どれもこれも性悪の俺から見ても人を人と思ってないド外道実験だ」

「根本的性善説証明計画。性悪があるならと、性善を証明しようとした実験。計画は失敗。7人の被験者は私を除いてすべて廃人になったの」


 廃人って……言葉では簡単だけど廃人なんてそんな簡単になれない。


「あれ? だけど東宮さんは失敗作って……」

「失敗作だよ。私は目指すものとは違ったみたい。失敗だってわかったらあの人達は、後は自由に生きていいよって私をゴミのように捨てたの」

「最低ですね」

「そうさ。奴らは最低だ。そのキチガイ科学者達は俺ら性悪を悪の頂点みたいに言ってやがったが俺からすれば奴らの方が俺らよりよっぽど悪だぜ。奴らは俺ら性悪を根本的に誤解してた節があったからな。俺ら性悪をちゃんと理解すればもしかしたらもしかするとひょっとしたらひょっとすると本物の性善が万が一にも一人くらい生まれたかもしれねーのにな。けど性悪な俺からすればむしろお前は成功作だと思うぜ? お前を失敗作というレッテルを貼ったのはあくまで実験に携わった奴らの意見だからな。性悪の俺からすれば奴らの言う理想の善よりよっぽど本物の善に近いと思うがな。結局奴らの善つうのは奴らにとって都合の良い善であって本物の善じゃねー。本物の善つうのは普通の人間にとっても性悪な人間にとっても心底気持ち悪いもんだ」


 リーダーは東宮さんを見て続ける。


「東宮、てめーみたいにな」


 東宮さんは笑顔を崩さないでただ黙って聞いている。


「この世界に神や天使がいるかわからねーが、万能な神様がいるとしたらきっと思考はお前と同じだと思うぜ? なんせ俺ら人間に神は理解できない。だからこそ無宗教な国では悪魔に親近感が湧く人間が多いんだ。なぜなら悪魔の思考は人間にも理解できるからな」

「それは遠回しに私の思考を理解できないっていいたいのかな?」

「わかってんじゃねーか。徳も罪も、人助けも人殺しもあらゆる物事が善になる考えなんて常人の思考じゃねーだろ。教えてやるよ東宮。この世界では善も悪も誰かわからない奴に決められてるんだよ。お前みたいなすべて善になる善一元論みたいな考えは言わばこの世界では人格破綻者なんだよ」

「じゃあ大倉君も人格破綻者じゃん」

「お前ほどじゃねーよ。これでも俺ら性悪は善も悪もあんだよ。いくら殴られても怒らない善人とはちげーの」

「そうなんだ」


 なおも東宮さんは天真爛漫な笑顔を崩さない。まるで聖母のようだ。

 確かに今になってわかる。リーダーや北見さんは化け物と言ってもせいぜい怪人程度。だけど東宮さんは同じ化け物でも正真正銘人の皮をかぶった人外といった感じ。


「まあ、この人格破綻者と話しても時間の無駄だな。徳さん」

「何ですか?」

「例の女が来るのはいつだっけ?」

「今週の土曜日ですよ。図書委員交流ですよね? 確か糸乃さんが参加するはずです」

「そうだったな。まあ糸乃なら大丈夫だろ」

「どんな人なんですかね~?」

「たぶんゴリラみたいな奴だろ。あー。けどキタミンが一目惚れたから顔はそこそこかもな。筋肉ムキムキで可愛いゴリラ顔か?」

「くもちゃん、何の話ししてるの?」


 東宮さんが質問して来たので答える。


「情報収集の話しですよ。悪党はある目的のために障害となる人物の情報収集をしてるんですよ。……ん? 例の女を調べるという事は夕山学園で何かあったんですか?」

「まあな。さっき夕山の奴らがゲーセンにいたからな」

「という事は夕山学園の内部校争はあの人が勝利したんですか? 確かあの人の目標は規則を破る自由ですから」

「だろうな。奴の事は死ぬ程大嫌いだが実力に関しては折り紙付きだ。ただの人間に負けるような『あのド低能』とは違う。まあそれはそれとして夕山が開放されたとなると好機だな」

「ええ、閉じられた学校の落校は難しいですからね。あの人もカリスマはありますけど集団を統率するという意味では首悪であるリーダーの足元にも及びません。そういう意味では──」

「2人とも無視しないで!」

「忘れてました」


 東宮さんは無表情だった。聖女のような笑みでもなければ人のような怒りでもない。正に人形のようだ。


「ハハハ。東宮、明日話してやるよ。何をするかは明日だ。明日すべてを全校生徒に話す」


 明日。遂にこの時が来た。駒はすべて揃ったという事か。


「で? 徳さん、例の女の攻略ノートを奪った奴は見つかったか?」

「私が思うに例の女の攻略ノートに関しては狙わない方がいいです。おそらく全校生徒を賭ける程の価値はないかと」

「そうだな。なんとなく見当は着いてるがそれが無難だな。じゃああれより優れた無難で万能な物を狙おうか」


 リーダーの不敵に笑う声が教室に響く。そして、東宮さんを指差してリーダーは言う。


「東宮、てめーはキタミンを潰してこい。籠絡できねーなら潰すしかねー」

「別にいいけど私が悪党に入るのは決定事項なの?」

「あたり前だ。敵も味方も中立も俺にとっては仲間で友達だからな。まあ、俺の座右の名なんてどうでもいいな。東宮、ほとんどの人間にとっててめーは天敵だ。どんな運動能力も超能力も異能力も才能も思考も関係ない。俺の考えでは例え例の女がどんな暴力を振るおうと負けるのは例の女だ。前情報だと精神力は凡人に毛が生えた程度だ。だかまあ、まずは目先の問題│(キタミン)だ」

「それは悪?」

「悪人が命令してんだ。間違いなく悪だろ。という事はお前は悪だ」

「うん。わかったよ!」


 東宮さんは好奇の笑顔を振りまいている。東宮さんは教室を出て行った。おそらく北見さんを潰しに行くのだろう。


「それでリーダー、東宮さんに北見さんを倒す勝算はあるんですか?」

「さあな? 十個目の能力が開眼したら勝算ゼロかもしれないが……キタミンの精神自体は弱い。もちろん取り巻きの女どももな」

「けど東宮さんには超能力も異能力もありませんよ?」

「ならばここで説明してやるよ。東宮の長所──顔以外の唯一の長所と言ってもいい。それが何かわかるか?」

「先程の話しを聞いた限り、精神力、あるいは思考ですか?」

「その通りだ。カードゲームで例えるなら精神力は守備力、思考は攻撃力だな」


 なぜカードゲームで例えた。


「その例で例えるなら東宮さんはエクスカリバーな思考とイージスシールドな精神力を持ってるとかですか?」


 私は少しおちゃらけて言った。


「正にその通りだな」

「そうですか」

「どっちにしても精神力が凡人のキタミンじゃあの化け物を相手にできねーよ」


 そうだろう。リーダーが夜中の生徒相手に真っ先に手を出すくらいだからね。


「そういえばリーダーはなぜ東宮さんに北見さんを潰すように命令したんですか? 邪魔なら自分で潰せるでしょう?」

「友達に暴力を振るうなんて悪以前にカス、クズ、ゴミだろ」

「そうですね」


 これが性悪『首悪』の悪党リーダー大倉黄葉である。




 数10分後。

 東宮さんは、どこにもいなかった、と言って戻って来た。

 そもそも北見さんがどういう人かわからなかっただけかもしれないが……。

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