表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Student War ──羅刹女──  作者: 天井舞夜
イベント・『悪意』オークション
80/86

第70話 裏

 僕、原山君、滝沢さん、シオンはオークション会場に到着し受け付けを済ませて席に座っていた。オークション会場は夜山町にあるホールで行われようとしている。このホール会場は所謂一階の席は使われず2階以上の席が使われ、それぞれ縦横3列毎にカーテンで仕切られている。つまり招待状一枚につき9人まで入れるという事だ。一階の席が使われないのは滝沢さん曰わくオークション品を強奪されないようにするためではないかと言っていた。


「けどこれ鏡華には意味ないですね。鏡華ならこの程度軽々飛び下りられますから」


 シオンはスマフオを弄っている滝沢さんに言う。


「ん~、そうだね。でもあまり本人に知らせたくないんだよね」


 そう、滝沢さんは頑に高田さんの協力を拒む。

 まあ、滝沢さんが書いた羅刹女退治とかいう高田さん限定攻略本はあまり本人に知られたくないよね。


「しかし、いくら高田さんに知られたくないからって高田さんをわざわざ足止めするなんて手が込んでるね。高田さんと泉先生のスキャンダルの情報を買い取って泉先生を脅迫するなんて……」


 僕は滝沢さんに言った。


「別に……。泉は脅迫ができるくらいの事をやってたからそれを利用しただけだし」


 滝沢さん恐いね。

 可愛い顔してその悪い笑みは恐過ぎる。

 その時、僕達の席の後ろから声をかけられた。


「あら、滝沢さんはまた何か悪巧み?」


 声の主は席を外していた2人、滝沢さんがこのオークションに同行させてくれと言って交渉した相手にして張本人達。すなわち、北乃奏先輩と中山獅子象先輩だ。

 北乃奏。前髪パッツンの姫カットの髪は腰まで伸びている美人な先輩で、昼山町にあり観光地にもなっている北乃神社の由緒正しい巫女さんでもある。北乃先輩の巫女舞は何回か見た事あるけど綺麗だった。そんな彼女も本物の霊能者らしい。

 中山獅子象。中肉中背で無造作ブラックヘアーのイケメンな先輩。中山さんのお兄さんだ。


「中山先輩こそこんなところで何してるんですか? 今日は演劇部休みじゃないですよね?」

「滝沢、なんで北乃に仕返しするんじゃなくて俺に八つ当たりする?」

「別に……」


 先輩達と喋っている間も滝沢さんはスマフオの画面から目を離さない。仮にもお願いした人間の態度じゃない。


「おい滝沢、先輩達にその態度はまずいだろ」


 原山君が滝沢さんに言った。


「原山君、言っとくけど『悪意』の事に関しては私達と先輩達はあくまでも対等イーブンな関係。私達は先輩達に協力しなきゃいけないし、先輩達は私達に協力しなくちゃいけないんだよね」


 北乃先輩が苦笑いをする。

 僕はそういえばと思い滝沢さんに質問する。


「そういえば滝沢さん、高田さんを攻略するノート『羅刹女退治』は僕達以外に誰か狙ってたりするのかい?」


 僕の質問に先輩達を含めたみんなが滝沢さんに注目する。滝沢さんは相変わらずスマフオを弄りながら答える。


「色々いるよ。ヤバいくらい。おそらくこの会場にいるほとんどの勢力、個人が狙ってる」


 僕──いや、先輩を含めた僕達はおそらく恐怖した。少なくともシオン以外のみんなは小学生時代、傍若無人な暴力による支配をしていた羅刹女といえば近辺の生徒なら誰でも知っているもはや生きる伝説だ。その羅刹女である高田さんを倒す、潰す、殺す方法が記されたノート、これがもし高田さんを恨む人が手に入れたら、高田さんを殺したいと思っている人が悪意を持ってノートの内容を実行したらどうなる? 容易に想像できるからこそ僕達は恐怖する。

 滝沢さんはさらに続ける。


「純粋に鏡華を倒そうとする奴、鏡華の情報がほしいマニア、その情報を高値で売ろうと企む奴、その情報で鏡華を勢力に引き込もうとする奴……。私が確認できる限りこのオークションに招待されていないのも含めてそのノートを狙っている個人、団体はその数少なくとも55!」


 55……。もしこれが大物芸能人などなら大した数ではない。しかし、高田さんは普通の中学生だ。普通の中学生の情報がこの数の個人、団体に狙われるというこの状況はまさに普通ならありえない。


「だけど月見、私思うんですがなぜ月見の書いた鏡華の攻略本がそんなに需要あるのですか? 攻略対象の鏡華はともかく筆者の月見も普通の中学生ですよね?」


 シオンが疑問を口にする。確かに納得がいかない。高田さんの情報に需要があっても信頼性の低い攻略本がそんな数に狙われる?

 滝沢さんが答える。


「moon viewing……これが何かわかる?」

「月見……それは羅刹女退治の筆者の名前かい?」

「そうだよ。私の筆者名。私の筆者名にはネームバリューがある。というより以前にも何冊か他の人の攻略本をmoon viewingとして書いたものがあるんだよね。そのほとんどは昼山町近辺で流通していてその攻略本によって不登校になった人や転校する羽目になった人がいる。といっても随分前の話だけどね。そういう理由で信頼性という意味では保証されてる」

「君が悪いんじゃないか」

「私は悪くないよ。ただそれらを捨てただけだしね。拾った人が悪い」


 裏を返せば滝沢さんは今まで高田さんの攻略ノートを手元に置いていた事になる。


「なんで高田さんの攻略ノートは家に置いてあったんだい?」

「別に、ただ鏡華が好きだからだよ。友達を危険な目に合わせないように誰の目にも触れないように部屋に保管してただけ。盗まれるとは思わなかったけど」


 本当にそうなのだろうか?

 高田さんと滝沢さんの因縁は2人と一条さんが教えてくれたから知っている。これは僕だけではなく原山君も中山さんもシオンも知っている。もしかしたら滝沢さんこそ高田さんを恨んでるじゃないのかな? ……いや、友達を疑うのは良くないね。


「お前ら静かにしろ。そろそろオークションが始まるよ」


 中山先輩がそう言った。


「いい、羅刹女退治の紹介が始まったら全力で盗りに行くよ」

「本気か滝沢!」

「冗談。当初はそうしようと思ったけどね……」


 原山君の言葉に滝沢さんは会場を見渡して歯切れ悪く言う。


「招待客に厄介なのがたくさんいるわけよ。おそらく強奪は成功しない。それに羅刹女退治を狙っているのは私達だけじゃない。そういう人達も全力で邪魔してくるし主催者側も邪魔すると思うしね。それに──」


 滝沢さんはため息を吐いてから続ける。


「少なくとも羅刹女退治を狙う勢力が3つ会場にいる。これはいくらなんでも分が悪い。鏡華がいるなら余裕で強奪できそうだけどね」

「じゃあどうするんだ?」


 原山君は滝沢さんに質問をした。

 まあ、会場での強奪が不可能なら手に入れるならあのタイミングしかないね。


「もちろん、落札者と交渉して譲り受ける。決裂したら強奪する。それだけだよ。一応20万持って来たよ」


 ちょっと?! 随分な金額が飛び出したよ。


「月見、随分セレブですね」

「まあね。これでも有名専属モデルだからね。貯めたお金を使うのは痛いけど、この程度で鏡華が無事で済むなら安いものよ」


 いや、中学生がその金額を持つのはどうかと思う。決して羨ましいわけじゃなくて倫理的に。


「スマン滝沢、俺200円しか持ってねぇ」

「私も1000円しか持ってません」


 原山君とシオンが財布を出して中身を確認して落ち込んでいる。僕も財布の中身を確かめてみる。記憶が確かなら3000円入っている。


「あれ? 13円しか入ってない」


 そういえば昨日マンガを買った事、さっき電車代はチャージするのに1000円使ったんだった。


「ごめんね滝沢さん、どうやら僕はその交渉に協力できそうもないや」

「大丈夫。最初からお金に関して伊集院君には期待してないから心配しなくてもいいよ。そんな事より伊集院君は誰が攻略ノートを落札するか計算しといてよ」

「うん。そうだね。そのくらいしかやる事なさそうだよ」


 その後、滝沢さんは僕の他にも原山君とシオンにもそれぞれ役割を与えた。それぞれの主な役割を簡単に説明する。

 原山君は主に肉体労働。要は交渉が失敗した時の強奪役であり僕達を守るガード役らしい。まあ、運動神経はともかくケンカは今いるメンバーの中では一番強いから妥当だろうね。

 シオンは透視による招待者の確認および攻略ノート落札者の確認役。

 僕は前述の通り落札者の予測と落札者の行動を予測する役。

 そして滝沢さんはその落札者と交渉する役。

 場合によっては細かい役割が与えられるかもしれないけど大体はこんな感じだ。

 やがて『悪意』のオークションが始まる。




 会場のライトがすべて消えるとステージにライトが当たる。ステージの上には一人の男子が立っている。

 甘い顔でスーツを着こなして中3くらいだと思われる男はマイクを通して声を出す。


『レディースアンドジェントルメーン! いや、ボーイズアンドガールズというべきですかね? 司会は私、仮名│(かりな)ジョーカーです。お見知り置きを』


 仮名ジョーカーという男はそう言ってから優雅なお辞儀をした。はっきり言ってカッコいい。しかし、女子の声どころか人の声すら聞こえない。まるで司会などどうでもいいようだ。

 ジョーカーは続ける。


『さて、始めに今回のオークションについて簡単な主旨の説明をしたいと思います』


 会場は尚も静けさを保つ中、ジョーカーの声だけが会場を支配する。


『さて、まずは主催者たる私達の自己紹介から、組織名は校平委員会。朝山学園、昼山中学、夕山学園、夜山中学の均衡を保つ事を主な役割とした偽善団体です』


 自分で偽善という人ほど悪い意味で信じられない人もいないね。


『今回の私達の主な役割は前言の4校に対して武器を提供する事です。武器と言っても所謂『悪意』によって歪んだ道具の事ですけどね』


 北乃先輩がジョーカーの言葉を聞き小さい声で言う。


「そうなのよね。私や高田鏡華達のように一部しか知らない『悪意』の情報がいつの間にか浸透してるのよ」

「たぶん校平委員会が悪意を持って情報を流布したんだと思いますよ」

「そもそも校平委員会ってなんだ?」


 滝沢さんが北乃先輩の疑問に答えてから原山君が疑問を口にする。滝沢さんが答える。


「推測でしかないけど国が発足した組織だと思うよ」

「国は今まで無視こそすれ介入はしてませんよね。なんで今になって介入するんでしょうか? どうしてオークションなを開催したんでしょう?」

「国が無視して来たのはあくまで事件だけだからね。警察すら出動させないとか税金のぼったくりもいいところだよ。まあ、事件の無視もある意味介入といえば介入だと思うよ」


 確かに警察の出動を放棄は国の介入だよね。やらなきゃいけない事をやってないんだから。


「今回オークションを行った理由も大体察し付くよ。いずれ説明あると思うけど」


 滝沢さんが一旦会話を区切る。


『ここで生徒諸君はなぜ我々が武器を提供するか疑問に思うでしょう? 理由は単純。4校の間に人材の差があるからです』


 人材の差……つまり在籍する生徒数、生徒の質という意味かな?


『現在の4校のバランスがどのようになっているかは秘密ですが少なくとも今は強さのバランスが悪いんです。だから私達はこのように武器を提供する場を設けて4校の均衡を整えようというのが私達の目的です』


 滝沢さんが呟く。


「やっぱりね。現状4校の強さのバランスは理論上は昼中に偏ってるからね」

「そうだね。北乃先輩が『悪意』に歪んだ道具を集めてるから僕達昼中はたくさんの武器を持ってる事になるわけか」

「実際は集めてるだけで誰も使ってないから本当の意味の強さという点では昼中の強さが一番偏っているというのは疑問かな?」

「人材の差じゃないのかよ」


 原山君が僕と滝沢さんの会話に入って来た。


「たぶんここで言う人材は『悪意』によって歪んだ生徒とそうでない生徒の事を言ってるんだよ。問題は普通の生徒。普通の生徒は確かに『悪意』で歪んではないけど、『悪意』で歪んだ道具を持ってないとは限らないという事。この前の誘拐事件みたいに道具を持っている人もいるかもしれない。つまり、人材の差を埋めるなら道具持たせるって事だよ」


 滝沢さんが言った。


『さて、本番と参りましょう。このオークションのルールは招待状に書かれていた通りですが改めて説明させてもらいましょう』


 ジョーカーの説明したルールをまとめるとこうなる。


・観客席の一番右端の招待席のスペースから時計回りに金券の枚数またはパスを宣言する。最後に金券を宣言したスペースから一周した時に落札される。

・最初に金券10枚を宣言した場合落札される。また11枚以上の金券の宣言は認められない。

・落札品はすぐに付与される。

・宣言者は招待スペースの中の誰が宣言してもよい。

・オークション品の紹介される順番は基本的に入場の際に配られたプリントの通り。


 こんなところだ。ちょっとしたゲーム性があり通常なら僕の独壇場とも言うべき状況だ。


「いい? 伊集院君、招待者の中にも『悪意』で歪んだ人が確実にいる。あなたが予測計算を始めるのは羅刹女退治が紹介されてから。今から計算しても確実に失敗する」

「わかってるよ」


 ステージの台の上に眼鏡が置かれる。


『まず一つ目の品はこちら『透視眼鏡』。文字通りレンズ越しに透視ができる眼鏡です。度は入っておりません』


 北乃先輩は『悪意』によって歪んだ物を集めているらしいがこれは手に入れない。入場前に言われた話しだがもし可能なら北乃先輩は金券10枚使って高田さんの攻略ノートを落札してくれるらしい。北乃先輩曰わくすべての物の回収が不可能なら自分達に不利益になりそうな物を落札する。色々考え羅刹女退治を落札するつもりのようだ。

 金券一枚目からの宣言に始まり、4枚目になったところである団体が騒ぎ始める。


「やめてください! 透視眼鏡のために金券かけるなんて正気ですか?!」

「そうよ! 大体透視なら使える人がいるじゃない!」

「うるせー! 俺が透視できなきゃ意味ねーだろ!」

「リーダーの意見に同感。透視眼鏡がないと僕らは視れないじゃないか」

「その通りだ! 俺らは7──グッ!」

「私達はパスよ」

「お前、リーダー殴るとか……」

「仕方ないじゃない! こうでもしないとこの人止まらないし……」

「あ~あ、リーダー気絶しちゃったよ」


 そして何事もなかったように彼らは静かになった。


「随分賑やかな人達だね」

「どうやらリーダー格の人が暴走していたようですね」

「そのリーダー殴られてたようだけどな」


 僕、原山君、シオンが話してる中、滝沢さんと先輩達は苦渋な顔をしていた。


「どうしたの?」

「面倒な奴がいるなと思ってね」

「そうね。あの人達は間違いなく夜山中学内最大勢力『悪党』ね。そしてそのリーダー、とんでもない大物が参加してるわね」


 滝沢さんの言葉に北乃先輩が付け足すように話した。


「北見蓮十郎という人ですか?」


 北見蓮十郎。確か噂でしか知らないが9つの目に関する超能力を持ってる夜中最強の生徒。


「違うよ。北見が夜山中学における生徒の頂点とするなら。あいつは次点にして北見以上のカリスマ。個人的には個で強い北見より厄介だよ」


 滝沢さん曰わく、生徒の質という意味では夜山中学が一番良いらしい。そして悪党のリーダーは情報戦がものをいう状況では相当なものらしい。


「もしかして『あいつ』も来てるのかな?」


 あいつとは誰だろう?

 ただ一つ言える事は滝沢さんがかなり不機嫌で話しかけづらい。

 結局、透視眼鏡は4枚目を宣言した人が落札した。

 その後、超能力が通じない封筒や魔眼を持つ蛇など多くの物が競りに出されて落札されていく。そしてついにこの時が来た。


『ついにやって参りました!

今回のオークションの注目の一つ!』


 台の上に一冊のノートが置かれる。一見するとただのノート。表紙にタイトルの羅刹女退治と筆者のmoon viewingと書かれたノート。


『羅刹女退治。かつてmoon viewingの攻略ノートシリーズの中でも唯一町に出回らなかった幻とまで言われた羅刹女こと高田鏡華に関する攻略ノート』


 ついに来たかと言わんばかりに会場がざわつく。やはり羅刹女といえばネームには力がある。

 とりあえず僕は計算する。誰が落札するのか。参加人数、参加勢力、ここまでの金券の消費枚数。わかる限りあらゆる情報を取り込み計算する。


『さて、それでは競りと参りましょう。順番はこちらの方から』


 ステージのスクリーンに招待者番号が示される。ここで僕も答えを弾き出す。


「一人目で決まるよ!」


 みんなが僕の言葉を聞き取ったかわからないけど、ただ落札者が宣言する。


「10枚出す。これで決まりね」


 女子の声だ。

 早かった。最早これだけが狙いだったと云わんばかりに。

 係員が迅速に対応し、すぐ様付与される。


「シオン、透視できた?」

「はい。顔は暗くてよく見えませんでしたが服や特徴は視えました」

「じゃあ行くよ。北乃先輩、中山先輩、それでは私達はこれにて失礼します」


 僕達はそれぞれ先輩達に挨拶をしてすぐ様会場を出た。


「僕の計算だと落札者はまだロビー内を歩いてるよ」

「とりあえず走ろうぜ!」


 原山君の言葉でみんな走る。しかし、ロビーで倒れている女子を発見した。

 なんだろう……?


「この人……落札した人です」

「なんだって!」


 僕達は女子に駆け寄った。女子の状態は奇妙だった。争った後どころか外傷もなく、生気を失った目はあえて表現するならば人の形をした器。


「この人どうしたんでしょうか?」


 攻略ノートは持っていない。察するに盗られた後のようだ。

 僕はこれを行った犯人の足取りを計算している。滝沢さんは女子を見下ろして何か考え、原山君は救急車に電話をかけているようだ。


「とりあえずサイコメトリーしてみましょう」


 シオンがそう言って手を女子に近づけようとした。


「待ってシオン!」


 滝沢さんがシオンの腕を掴み止めた。


「シオン、あなたはサイコメトリーも透視も使っちゃ駄目。伊集院君、この犯人の足取りは予測できてる?」

「うん。ここからじゃ見えないけどね」

「すぐ近くにいるって事?」

「うん」

「駄目だ! 救急も対応しねー!」


 という事は『悪意』絡みという事か……。


「とりあえず奥に戻るよ。女子は放置でいいから」


 滝沢さんの指示で僕達はロビーを出るとロビーの影にあたる廊下の曲がり角に隠れるように立ち止まった。


「おい滝沢、あの女子置いてくのか?」

「しょうがないよ。もし犯人が戻った時にあの女子がいなかったら私達も危ないかもしれないからね」


 滝沢さんはまるで犯人がわかってるような口振りだ。


「いいシオン、あなたは絶対に超能力を使っちゃだめだよ。あなた達もロビーは覗かないでよ。そしてちょっと黙って」


 しばらく黙っているとロビーから足音が聞こえる。滝沢さんは緊張した面持ちでロビーの方に耳を澄ませている様子。僕達も滝沢さんに倣い耳を澄ます。足音の主はしばらく立ち止まると再び足音を鳴らし、やがてその音が遠くなった。


「行ったか」


 原山君の一言で場の緊張が解けていく。


「月見、一体どうしたのですか? まるで犯人を見せないような指示でしたけど」

「その通り。私は意図的にあなた達に犯人を見せないようにしてたよ」


 なぜ? 僕達は疑問に思った。滝沢さんは疑問の答えを口にする。


「理由は犯人が精神を壊す能力を持っていたから。あの女子が会場の席を離れてかロビーに来て、私達が女子を見つけるまでほとんど時間がない。それでも女子の精神はしっかり壊れていた。これはつまり犯人は手軽に対象の精神を壊す事ができると予想できるわけ」


 僕達は言葉を失う。

 方法はわからないけど対象の精神を破壊できる。だから滝沢さんはそういう犯人だと予想して犯人に見つからないように隠れたのか。


「なんで犯人を見せてくれなかったんだ?」

「わからないのかい原山君。コカトリスだよ」

「コカトリス……そういう事か」


 さすが原山君だ。コカトリスの一言だけで察したらしい。


「どういう事ですか?」

「あくまで私の推測だけど犯人はコカトリスと同じく、犯人を見た対象の精神を壊す能力の可能性が高いという事だよ。だからシオンには超能力を使わないように言ったんだよ」


 たぶん滝沢さんはいち早く犯人の能力に気付いたんだ。


「なんで犯人の能力がわかったんだ?」

「今言ったように素早く精神を壊せた事と鏡華の攻略ノートを持ち去ったからだよ」

「なるほど、確かにその能力なら犯人にとって高田さんは脅威だね」


 高田さんは耳がとても良い。


『聖徳太子が100人の声を聞き取れたなら私はその倍の200人は聞きとれるな』


 と高田さん自ら自信満々に豪語するほど耳が良い。つまり相手の視覚に頼る犯人にとって高田さんは天敵だ。だから犯人は羅刹女退治を持ち去った。簡単な推理だ。攻略ノートを持ち去られた理由と犯人の能力を分析した結果だね。


「しかし、なんで犯人が戻って来るとわかったんだい?」

「犯人のものと思われる物が落ちてたからね。それにしても負けた。最初は私もロビーかどこかで待ち伏せしようとしたんだけどね」


 しかし結果的に滝沢さんの判断は正しかったのではないかと思う。もし犯人と同じ策でうっかり鉢合わせにでもなったら僕達全員全滅してた可能性もある。まさに不幸中の幸いとはこの事だろう。


「個人的には最悪の結果だよ。犯人は間違いなく羅刹女退治を利用するからね」

「確かに策を外した事が不幸中の幸いというなら、不幸中の最大の不幸は高田さんに悪意を持った人の手に羅刹女退治が渡った事だね」




 こうして僕達の目的である高田さんを攻略するノート『羅刹女退治』の回収に失敗し、僕達に一抹の不安を残す結末となった。

次の予定は『思考・性善』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ