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Student War ──羅刹女──  作者: 天井舞夜
鳥の王・原山大樹
69/86

第66話

注意

暴力描写有り

主人公勢が外道

 雀に憑依した俺は難なく誘拐犯一味のアジトである廃病院に潜入した。

 俺が調査する場所は地上部分──要するに1階から三階。目的はボスと思われる木谷という男を見つける事、地上部分に誘拐かれた奴らがいるかの有無。今のところ2つとも達成されていない。

 それにしても見た目に反して綺麗な内装だな。

 俺は壁を見る。壁紙自体に真新しい感じはない、かといって荒れているわけではない。それどころか不良やヤンキーが出入りした痕跡もない。古い建造物だが中は思ったほど荒廃していないというのが適切かもしれない。

 外から見た限り窓がある部屋は板などで打ち付けられていないため中が見えた。もちろん誘拐された奴らはいなかったが。そして今は窓のない部屋を内から調べている。

 誘拐犯の一味はどの階にもいた。上は大学生くらいの奴らから下は小学生低学年くらいの奴らまでが2人一組で常にいる。

 コイツらは一体何の集まりなんだ?

 若いといえばみんな若いがその中でも年齢はバラバラだ。


『大丈夫か原山?』


 俺の元の体に高田が話しかけて来た。俺は返事する。


『大丈夫だ。問題ない。それより地上部分にシオン達はいなさそうだ』


 俺は慣れてきたからか、元の体にボンヤリと意識を残す事ができるようになった。慣れてきたというよりむしろ感覚を取り戻すようだ。


『そうか。木谷は?』

『2階にはいない。たぶん3階だな』


 俺は高田と会話しながらも翼で空間を切り飛行をして調査を続ける。

 いよいよ3階部分に上がろうというところで階段の上から俺を見る10歳ほどの少年がいた。そして少年の手を引く高校生くらいの女がいた。

 俺を見ている少年に女が言う。


「どうしたの?」


 少年は俺を指差し言う。


「あの雀……中身は人間だ!」

「え? わかった! すぐにみんなにテレパシーで伝えるね!」


 ヤバい! 上から下からも人が集まる声が近づいて来る!

 俺はそんな事を無視して彼らの上空を飛び越えて3階に上がる。


『高田! 見つかった!』

『捕まりそうなのか?!』

『俺は鳥だぞ! アイツらの上を飛べばいいだけだ』

『わかった。できるだけ奴らを引きつけてくれ。月見の負担を減らしたいからな。そしたら戻って来い!』

『鏡華は私の事は気にしないでいいよ。だけどまあ助かるよ』


 滝沢……功労者は俺だ。まあいいけど……。ん……? 何だ?

 羽ばたく音だ。俺のじゃない。この音はカラスか?! カラスと雀じゃ相性が悪い。遂に俺はカラスと対峙する。

 カラスはカーカーと鳴き、俺はチュンチュンと鳴く。

 このまま俺は雀から意識を離せば俺は無事助かる。もし、俺が鳥に憑依してる時に憑依してる鳥が死んだらどうなるかはわからない。だが、かつて不死鳥だった俺はこっちの勝手で巻き込んだ雀を見捨てるほど非情じゃない。この雀は間違いなくカラスに狩られる。ならば俺はこのピンチから逃れる責任がある。前世で『鳥の王』と呼ばれた者として……。

 来いよ……。

 俺は挑発的な目でカラスを睨む。

 しかしカラスは何時まで経っても襲って来ない。俺はカラスの目を見た。同時に少女の声が聞こえる。


「どうしたの?! 早くやっつけなさいよ!」


 だが、おそらくカラスを操っている少女の言う事も聞かない。少女はたぶん理由もわからず喚き散らす。俺にはわかる。このカラス……俺に怯えている。

 ここは見逃してくれないか?

 俺の思いを受けカラスはこの場から逃げて行く。良い子だ。

 なるほど……鳥に憑依している間は俺は前世の俺に戻るのか。よし! この能力の名前は『鳥の王│(ロードオブバード)』だ。


「何あのカラス?! 私の洗脳を無視してどっか行ったよ!」

「どうやらあの雀に憑依してる人間のロードオブバードとかいうふざけた能力の所為らしいな」


 おい! ふざけてねーぞ! だったらテメーにネーミングセンス見してみろ!


「バードエンペラーなんてどうだ?」

「あなたも相当だね」


 俺の方がハイセンスだな。まあ悪くはないがな。

 さて、そろそろいいだろう。




 俺は完全に意識を取り戻した。俺は脇目に拘束されている藤澤を見つつ立ち上がり言う。


「みんな! 今なら一階は手薄だ!」


 高田はニヤリと笑い透き通るような声を高らかに言う。


「良くやった原山! さあ行くぞ!」


 高田は建物の影から飛び出し、ポニーテールを靡かせて走り出す。俺と滝沢と寺ス先輩達も高田を追って走り出す。高田は一足先に入口を見張っている奴らを気絶させていた。

 相変わらず意味のわからない女だな。2人の人間を気絶なんて大の男でも容易じゃないだろうに……。こういう時はあんな鬼神みたいな女なのに不意に魅せる笑顔は反則だよな。

 俺達は入口で待つ高田に追い付き、高田のよく通る声が指示を飛ばす。


「私達は犯人の一味を制圧だ! 原山、寺井、寺原、寺島は私のサポート! 月見はシオン達の救出! 行くぞ!」


 この女……本当にこの少数精鋭で成功させるつもりか? 自信があるのか、狂気の沙汰なのか……。いや両方か? いや、そもそもその高田に酔わされている俺達も正気の沙汰じゃないな。

 俺達は病院に入り、滝沢と別行動を取る。俺達は高田を先頭に階段を駆け上がり3階を、滝沢は階段を駆け下りて地下を目指した。

 上から誘拐犯の一味が駆け下りて来るのがわかる。


「高田、子供はどうする?」

「知らん。適当に相手しとけ。まあ、前線には来ないだろう」


 先頭は女子が2人だった。高田は2人の女子の頭を掴み、お互いの頭を強くぶつけた。そしてすぐ後ろにいる高校生くらいの男の腕を掴み思いっきり引いた。男は受け身も取らずに階段から落ちた。頭から落ちなかったのは不幸中の幸いだな。

 高田の奴……高さのハンデをあまり気にしてないな。

 高田は出て来る相手を者ともせずになぎ倒して行く。いつにもまして高田は真剣な顔だ。

 あっという間に3階に到着した。しかし、階段を背に俺達は囲まれていた。上ってきた階段を見ればなぎ倒されて動ける奴らが階段を上って来ていた。


「あの人数を相手して息切れすらなしかよ。コイツら人間じゃねえ!」


 俺達何もやってませんけどね。

 高田は言う。


「木谷はどこだ?」

「木谷ならこの先にいるぜ」

「そうか……」


 高田は質問に答えた男を殴り飛ばして、そして近くにいた女の胸ぐらを掴み思いっきり下に向けて引っ張り倒した。それを合図に周りの奴らが一斉に襲いかかって来る。


****


 私達は度重なる頭痛や心的疲労や緊張状態による疲労から起き上がれません。

 何か上の階が騒がしいですね。

 微かに聞こえる男と女の叫び声と女子の意味不明な言葉。地面を伝う足音。そして私の耳に馴染みのある女子の声が耳に届きます。


「シオーン! 晴恋! 部長ー! どこー?」


 その声は私のクラスメートにして同じ部活に所属する女子──滝沢月見です。

 月見、助けに来てくれたのですね。それでは上が騒がしいのは鏡華が暴れるいるのでしょうか?

 私は声を絞り出します。


「月見!」


 足音は一旦止まり、私達のいる部屋に早足で近いて来るのがわかります。ドアの前で足を止めた月見はドアをノックして中にいる私達に声をかけてきます。


「シオンいるの?」

「はい……」


 月見は、ちょっと待っててね、と言うとドアの鍵を開けました。しかし、ドアの先から男の声が聞こえます。


「お前侵入者か! ぶっ殺してやる!」

「シオン、耳押さえててよ。○☆■○#△#△■§☆○△△」


 私は月見の言う通り耳押さえます。すると月見は意味不明な言葉が微かに聞こえてきました。その言葉はまるで私の中の恨みを育てているような気がします。ドアの先では男の取り乱すような叫び声が聞こえてきます。しばらくすると男は静かになりました。

 そしてドアが開かれ、月見は私に駆け寄り顔を覗き見て言います。


「大丈夫? シオン」

「私は大丈夫です」

「大丈夫じゃないよ。顔がぐちゃぐちゃ」

「アハハ、みっともないですね。私より晴恋がヤバいです。木谷という男に殴られてましたからね」


 月見は私の頭を優しく撫でてから晴恋の元に駆け寄りました。


「晴恋、気絶してる。ヒドい……。鼻血は出てるし……これは痣になるかも」


 どうやら私が思ってる以上に晴恋は怪我が多いみたいです。

 月見はスマフオの画面を弄ると、それを耳に当てます。


「鏡華? 私の方は大丈夫だよ。シオン達も無事救出したから。だけど晴恋が顔怪我してるのよ。私達は鏡華達が超能力調教を破壊するまで地下で待機しとくから早く終わらせてよ? またね」


 月見は電話を切りました。どうやらここに来るまでの間に情報を集めていたみたいですね。

 鏡華は大丈夫でしょうか? 無事でいてください。


****


 私は電話を切り、ポケットに携帯を仕舞う。

 私は向かって来る男の鼻に思いっきり拳を叩き込む。そして背中から倒れた男の腹にジャンプして踏みつけた。男は白目を剥き気絶した。私は怯んでいる近くの女子の顔面を殴り飛ばした。私は歩き、起き上がろうとしている女の頭を蹴った。

 結局のところ私はまた友達を守れなかったわけだ。本当に無力な自分が嫌になる。本当に悠長にしていた自分は馬鹿だ。本当に駄目だな私は……。

 晴恋、顔に怪我か……。傷ができたのか? 顔の残る傷だったらどうしよう? 女の子なのに可哀想だな。晴恋、可愛い顔してるのに。とりあえず今は木谷から超能力調教を奪わなきゃだな。

 悪いけどもう容赦しない。

 私は逃げようとする女子高生の後ろ襟を掴み強制的に引き寄せた。そして後ろから耳に囁いた。


「晴恋の怪我させた奴は誰だ?」

「し、知らないわよ! 木谷じゃないの!」

「あ、そう。ありがとう。だけどあんたも共犯だ」


 私は女子高生の背中を思いっきり蹴り飛ばした。

 正直、友達を誘拐して傷付けた奴らにただ暴力を振るうだけの私は優しいと思う。

 私は2人がかりで押さえつけられている寺島を助けて言う。


「原山! 寺ス! こんな奴ら相手にしても時間の無駄だ! さっさと木谷を見つけるぞ!」

「あ、姉御! だけどこの人数から逃げ出すのは……」

「そうだぜ高田! 俺からすればまだ捕まってないのが不思議なくらいだ!」


 私は後ろから振り下ろされる椅子をよけて相手の鼻を殴る。


「ならば私が一人でここを引き受けよう! みんなは木谷を探せ!」


 ザッと見た限り残り20人程だ。この程度なら私一人で一網打尽にできる。

 私が原山達に早く行けと叫ぼうとしたその時、人混みの中から私達の方に歩いて来る足音が聞こえて来る。

 この冷静な足取りはまさか……。

 その人物は人混みを掻き分け私達の前に現れた。


「やあ、高田さん。やっぱりお前は来たか」


 木谷だ。余裕綽々な笑みで私達を見下すように続ける。


「なるほど実物は予知で見るより美人だ。とても畏怖の対象である羅刹女とは思えないな。それに……」


 木谷は床に気絶して転がっている奴らを一瞥した。その目はまさにゴミを見るような目だ。


「これでもこの人達は一応全員超能力者なんだがな。やっぱり養殖ものは駄目だな」


 木谷は近くに倒れている男の顔面を蹴った。そしてポケットからスマフオを取り出し操作する。


「宮沢、篠田、小柳、神崎、ああ……ちょっと多過ぎるな。まあいいや床に転がっている人達全員お仕置きだ。ついでに藤沢もお仕置きだ」


 木谷が言葉を終えると倒れてる奴らが悲痛の叫びで頭を抱え始めた。涙を流し、顔を歪める。木谷に命乞いをする者、縋る者、果ては頭を壁や床に打ち付ける者やあまりの痛みに窓から飛び降りようとして止められている者。頭痛のない奴らも恐怖に顔が歪んでいゆ者、感化されて泣き出す者、頭痛を訴える者に言葉をかける者。阿鼻叫喚地獄絵図因果応報狂気非道。

 原山も寺スもあまりの凄惨な状況に怯えている。当の私も心が折れそうだ。私は平静を装っているのだろうか? 恐怖で腰が引けていないか? 涙を流していないか? 怒りではない。雰囲気に我を忘れていないか?

 ただ木谷だけが狂気を孕んで平然としている。笑いも泣きもしていない。ただただ平静だ。


「羅刹女の私が言うのも難だがあんたも大概鬼だな」

「強がりか? いやいや、人の心でありながらこの状況にギリギリ耐えられているのはさすがは天然物だな。だけど、お前は本当にギリギリだな。気付いてるか? 涙が流れているぞ」

「えっ?」


 私は頬を触る。指に涙が当たる。

 な、何が?

 気付けばあまりの惨状に圧倒されて怒りも消失してしまっている。わからない。これは何だ? 戦意も削がれている。原山達に至っては完全に戦意が喪失している。


「で? どうする? 僕はお前と喧嘩してもいいけど……お前は既にそんな気ないよな?」


 コイツ……仲間を使い捨ての駒くらいにしか思ってない。

 不幸中の幸いなのは戦意を喪失しているのが木谷以外全員ということだ。

 なんか気持ち悪くなってきた。言葉を出す気にもなれない。


「きょ~う~か! 大丈夫?」


 私の耳に可愛い聞き慣れた声が聞こえた。私と木谷は声が聞こえた階段の方を見る。


「嫌な予感がして来てみたらピンチじゃないの」


 月見が腕を組んで壁に寄りかかって私に安心させるような笑みを向けている。月見は壁から離れ、細くて長い足で歩いて来る。


「超能力者だが何だか知らないけど五月蠅い人達だよね。木谷だっけ? 策士の私から見ても良い作戦だよ。鏡華を過小評価せずに役に立ちそうにない駒を全部使って鏡華の戦意を喪失させる」

「滝沢月見……」


 月見は私の後ろに回り込み両肩に優しく手を添える。そして耳に唇を近づける。


「鏡華……」


 私の耳元で月見が囁いた。耳に月見の息が当たって……。


「安心して……晴恋達はちゃんと助けたよ。あなたは雰囲気に呑まれてるだけだよ。晴恋が傷付けられた怒りもないの?」


 私は沈黙すると月見から微笑む音が聞こえた。


「少し怒った? だったらもっと怒る、この空気が気にならなくなる魔法の言葉をかけてあげるよ」

「えっ?」


 月見の一息が私の耳に当たる。


「○☆■○#△#△■§☆○△△」


 え? 月見、なんでその言葉を知ってるんだ?

 しかし、そんな疑問を飛ばす程の怒りが私の心に沸々と湧き上がる。

 私は肩から月見の手を優しくどける。


「ありがとう月見」

「あはっ! 友達を助けるのは当然だよ」


 私は月見から離れ木谷に近づいて行く。木谷は明らかに焦った顔になる。私は後ろにいる月見を見て言う。


「月見……後でさっきの言葉の事で話しがある」

「いいよ。あなたとならいくらでも話してあげる。だからサッサとその男から超能力調教を奪いなよ。何の話かな? ガールズトークかな?」


 何の話かわかってるくせにわざとガールズトークとか言う。

 木谷は一歩後ずさりスマフオを誇示するように私の方に突き出し見せ付けて見下すように言う。


「これ以上近づいてみろ! お前もご存知の通りこのアプリが人質に発動させるぞ!」

「人質……シオン達の事か。それは困るな」


 私は素早く大きく足を踏み込み2歩目で加速する。私は手を伸ばし木谷が私に見せ付けていたスマフオを奪い取る。木谷は一瞬間抜けな顔をして私を見る。何が起きたのか、何が起こるかわからなかったようだ。差し詰めこの奇策は予知能力で知ったのか。月見に対策されていたが。

 私は月見にスマフオを投げる。


「解除は頼んだぞ」

「お任せよ」


 木谷は懇願の言葉を口にしている。悪いけど周りが五月蠅くて全然聞こえない。


「晴恋達の代わりに恨みを晴らそか。こんな屑のために暴力を振るわせるわけには行かないからな。まああの娘達はか弱くて可愛いからな。それに、たぶん私が一番あんたを痛い目に合わせる事ができる」


 木谷の謝罪の言葉はコイツの駒の阿鼻叫喚で私には聞こえない。

 私は怯える木谷の髪の毛を掴み下に引っ張ると同時に自身の膝を勢い良く突き出した。木谷は醜い声を出して顔面に私の膝が思いっ切り当たる。顔面が下を向いててよく見えないが苦痛に表情を浮かべているかもしれない。私は木谷の頭をそのままの高さにして、顔面を当てた膝で回し蹴りのように攻撃。

 まだ2発なのにもうグロッキーか?

 私はついに泣き始めた木谷に言う。


「良い事を教えてやろう。喧嘩というのは不意打ちでもなんでも一撃当てられて怯んだら後は暴力の嵐をただ受けるだけだぞ」


 私は壁に向かって木谷の髪を勢い良く引っ張り手を離す。私に思うがままにされていた木谷の体はそのままの勢いで壁に顔面からぶつかる。そして私は壁に木谷の頭を後ろから踏みつける要領で蹴りを入れた。

 気絶したか……。晴恋を何発殴ったか、シオンに何回あの頭痛をやったかわからないが手加減の3発じゃフェアーじゃないな。

 私が木谷の頭から足を離すと、木谷は壁との口付けをやめて床に倒れた。

 私は腰に手を当て月見に顔を向いて言う。


「で? シオン達の調教は解除できた?」


 月見はにんまりと笑い親指と人差し指で輪っかを作り言う。


「バッチリだよ! 誘拐された人達の縛りモードは解除できたよ。ついでに登録も削除したよ。なんか調教にはこのスマフオで相手の顔を直接撮った画像と本人の携帯電話と直接赤外線通信する必要があったみたい」


 確かに誘拐でもしなきければこの条件は厳しいな。まあ、私には関係ないが。


「原山、寺原、寺井、寺島は大丈夫か? 雰囲気に呑まれるなよ」

「ヤバい気分が……すみません姉御、ちょっと外の空気吸って来ます」

「俺も!」

「すみません」


 寺スは悪い顔色で階段を下りて行く。

 仕方ないか。こんな地獄絵図が初めてじゃない私も相当精神的にヤバかったからな。


「原山も外の空気吸って来ていいぞ」

「俺はギリギリ大丈夫だ……たぶん。大丈夫かもしれない」

「言っとくがあんたもアイツらと同じくらい顔色悪いぞ」


 原山は黙ってよろよろと歩き、壁に背を預けて頭をうなだれて座り込んだ。


「で? 月見は平気なわけか?」

「この程度どうって事ないでしょ」


 本当にこの娘のメンタルは化け物だ。木谷はサディスティックが異常で人格破綻を起こして平気だったような感じだが、月見は単純にメンタル強度が半端じゃないな。

 周りを見ると、頭痛を起こしていない何人かの誘拐犯は私とボロボロになっている木谷を交互に見つめ、やがて超能力調教がインストールされているスマフオを持っている月見を見る。


「おい! そこの女ぁ! 痛い目に会いたくなかったらそのスマフオをこっちに寄越せ!」


 男は厳つい顔で月見に向けて凄む。


「そうよ。そっちは眼鏡の女とメッシュのあなたの2人しかいないのよ? 対してこっちは20人以上、痛い目見たくなかったら早く渡した方が賢明よ」


 女もそれっぽい事を言って自分の優位性を示した。月見にそんな虚言通じないぞ。

 月見は鼻で笑い、馬鹿にした笑みを向けて言う。


「あら? あなた達馬鹿なの? 超能力調教は私の手の中にあるんだよ? あなた達は私に交渉や脅迫できる立場だと思ってるの? それにこっちはあなた達の束縛を解除しないでこれを壊す事も、今から鞭を打つ事もできるんだよ?」


 男は焦ったように黙り込む。女だけが脆い言葉を紡ぐ。


「それ使ったらあなたも木谷と同じよ? それでもいいの?」


 よくわからないが月見の良心に訴える作戦か?


「別に私は気にしないよ。それにあなたは2つ勘違いしてるよ」


 月見は腕を組んでスマフオを持っていない方の手で人差し指を立てて一を示す。


「一つ、木谷は誘拐した人達と部下のあなた達を調教していた。だけど私はあなた達誘拐犯を調教する。だから木谷と同じじゃない」


 月見はさらに中指を立てて2を示す。


「2つ、こんなのなくたってあなた達を制圧する手段なんていくらでもあるの。鏡華が暴力にものを言わせるのもありだし、魔法の言葉を聞かせるのもありかな? あなた達はどっちがいい? それとも私が調教してあげようか? この豚共……いや、豚はかわいそうかな鏡華?」

「そうだな、豚が可哀想だ。豚は綺麗好きで体脂肪率も少なくて数少ない鏡の自分を認識できる動物で私達に人間に協調性があるし頭が良いからな」

「そうだよね! この人達って綺麗好きで体脂肪率が少なくて鏡の自分を認識できるくらいしかないから完全に豚以下だよね。強いて言うなら埃かな?」


 月見の奴、やけに煽るな。

 女が悔しそうな顔で声を荒げる。


「そんなメッシュでチャラチャラしていかにも頭が悪そうな雰囲気で馬鹿そうだから上手く状況をひっくり返せると思ったのに……」


 見た目からわかる事なんて顔とスタイルと服のセンスの良し悪しくらいだろう。何を勘違いしてるんだコイツは?


「面倒だ! このムカつく女から直接奪い取ればいいだろうが!」


 厳つい顔の男が拳を振り上げて月見に向かって走り出した。


「あなた達は鏡華の暴力を聞きたいわけだね。頑張ってね鏡華♡」


 世話の焼ける。

 私は全速力で走り、男の脇腹にドロップキックを決めた。男は盛大に吹っ飛ぶ。私は着地と同時にジャンプし、うつ伏せで倒れ起き上がろうとしている男の頭を右足で踏みつけた。私は男の頭から足を退け、月見の方を向いて言う。


「語尾にハートを付けるな」

「なんで? 男子は語尾にハートマークを付けてあげると頑張ってくれるよ」

「別に私はハートなんていらないから」

「何? 私のハートなんていらないと?」

「私はハートなんていらないと言ったんだ」

「私″は″ということは、それは不特定多数という事で私もその中に入ってるって事だよね? やっぱり私″の″ハートもいらないんじゃない」


 私は背後から静かに近づいて来ていた女の顔面を裏拳で殴った。


「近づいて来てるなら教えてくれないか?」

「どうせ聞こえてるんでしょ? ……ちょっとくらい派手にやってもいいんじゃない? 悲惨な状況見てもどうせ誰も一人の女子中学生がやったなんて思わないよ」

「何その理屈? それむしろ私何者だよ」

「綺麗な黒髪が自慢の高田鏡華」

「何それ? まあいいや。じゃあサクッと終わらせて、シオン達を保護してこんなところおさらばしよう」




 数分後。

 私達の活躍により、2日に渡る大規模な誘拐監禁事件は解決した。

 ちなみに同時期に朝山町の病院で連続爆破予告が起こったらしいが犯人は捕まらなかった。


****


 私達は誘拐犯達をもはや大虐殺ならぬ大虐待を終えると誘拐された奴らを保護した。何かあると大変なので誘拐された奴らは救急車を呼んで│(ここは病院だが)病院に送った。

 そんな誘拐された奴らを助けた私達は電車で帰宅途中だ。原山と寺スも私の勧めで一応病院へ行くように言った。

 原山達は大丈夫だろうか? 怪我はさせなかったから身体的には大丈夫だろう。問題は精神的な方だ。相当参ってたな。

 私達は改めて廃病院内部を調べたが電気椅子やらよくわらない拷問器具│(たぶん)やら毒薬やらホルマリン漬けの何かが入ったビンやらとても病院だった所とは思えない異様な雰囲気だった。

 なんで病院に銃火器があるんだ? あそこは何かの実験場か何かだったんじゃないのか? それにしても……。

 私は横に座っている月見をチラリと見る。

 あれで平然としてるとかこの娘化け物か?

 そんな事よりあの事を聞かなきゃな。


「月見はどうやってあの意味不明な言葉を知ったんだ?」

「たまたま聞いたんだ。あの6人の生徒が暴れた事件の時に鏡華、放送であの言葉喋ってたじゃん」

「はあっ?! あの時いたのか?」

「外だけどね。大変だったよ。暑いわ日差しは当たるわで……日焼けしちゃうから日陰に隠れてたよ」


 月見は私の質問に笑顔で答える。


「そうだ! 今日は親が帰って来るから私も帰るよ」

「そうか」

「うん。せっかく泊まったのにのんびりできなかったのは残念だけど」


 月見は悔しそうに薄く笑う。


「そうだな……」


 そういえば誰が大矢雛萌だったんだ?


****


 その後、私は傷心した奴らと今回協力してくれた奴ら計6人と6日かけてデートする約束を取り付けられてしまった。

 後に知る事になる。

 今日、身近で『悪意』によって歪んだものがある。また、月見の家が泥棒に入られていたらしい。しかし、盗まれた物は何もないという奇妙な事件だった。

気づいたら月見無双だった。全体で見ても原山の活躍少ないですね。

超能力調教の入ってる携帯はブレイクしました。


アプリ・超能力調教

超能力者を支配し調教するアプリケーション。相手を痛め付ける鞭モード、相手を快楽させる飴モード、相手が超能力を発動すると自動的に痛め付ける縛りモードがあります。使用条件として相手の画像と携帯と赤外線通信が必要。弱点は超能力者以外にはアドバンテージが取れない他、超能力者でも携帯を持っていなければ大丈夫。


超能力・鳥の王

鳥に意識を憑依する能力。『悪意』によって前世の記憶が歪んで作られた超能力。一応まだこれでも能力としては一部。ちゃんと前世の記憶設定は生きてますよ。

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