第65話
私はそのままにしておくのも忍びなかった藤澤の腕を引いて月見と原山を待たせている公園に戻って来た。
「おーい!」
私は喧嘩中のカップルのような距離でベンチに座っている月見と原山に声を掛ける。2人はあからさまに面倒くさそうなの連れて来たよ、と思っているのがわかるほど顔を歪ませている。
藤澤は今頭痛は治まっているが放置するのも忍びなかったので連れて来た。一応聞きたい事もたくさんあるしな。
私は原山に言う。
「原山、情報に該当する車のある場所はあったか?」
「いや……それが無かったんだ」
無かったのか。なるほど……。
場所の条件の特定はできた。後は該当する場所を探すだけだな。
そして月見が余裕でいて不敵な可愛い笑みで立ち上がり言う。
「鏡華の言いたい事はわかるよ。この人からアレコレ聞き出そうって言うんでしょ? ここは私に任せてくれない?」
「いや、まあ別にいいが……」
「決まりだね。じゃあちょっと適当に離れててくれない? あまり人に見せるものじゃないし」
勝手に進む会話に藤澤がここぞとばかりに反抗、挑発する。
「悪いけどこんな頭の悪そうな女じゃ私から情報聞き出すなんて無理だから。それに私は悟りの超能力を持ってるのよ。自分で言うのも難だけどコイツ、私より馬鹿そうじゃない? メッシュなんかしちゃってさ」
これが小説や漫画ならその台詞は死亡フラグだな。もしくは敗北フラグ。
それに月見は見た目だけは正統派な美少女だけど中身は性悪な悪魔だ。私の予想ではコイツのボスより月見の方が残虐で残酷で頭が悪い│(頭は良い)。伊達に小学校とはいえ見えざる恐怖で学校を支配した女じゃない。
そして藤澤は月見の心を読んだのか段々と顔色が悪く恐怖に顔が歪んでいく。
「ちょっと……嘘よね? そんな事しないよね? 人間の発想じゃないよねそれ? 研究者でもそんな事考えた人間はいないよ」
「なんの事かな? 私は何も言ってないよ? それに研究者? あなたの出自なんて関係ないだよね」
まあ確かに月見の発想は人間というのは大袈裟にしても中学生の発想じゃないのは確かだな。
藤澤は私に慈悲を乞う目を向ける。個人的には藤澤がどうなろうと私には関係ない。嫌いなうえに敵相手に優しくする程私は寛容じゃないんだ。
私が助けないとわかると、次に原山を見るが早々に目を逸らされて遂に藤澤は泣き出してボロボロと喋り出す。結果的に言うと目新しい情報は特になしだ。
「使えない女だよね。思想も下らないし、だから見捨てられたんじゃないの?」
藤澤は月見を睨み付ける。しかし、月見がただ目を合わせただけで萎縮する。
「月見いいから。そんな毒にも薬もならない奴相手にするな」
「それよりさっさとコイツらのアジトへ行こうぜ。アジトは廃病院だっけか?」
アジトの場所は藤澤が勝手に吐いた。一応、原山の情報からある程度は絞れてたんだがな。
夜山町にある唯一の廃病院というのは特定の条件に合致する。まず前提となる多人数を収容もしくは監禁できる事。そして原山の情報から導き出した多数の車を隠せる地下駐車場が設置されている事。この2つが条件に合致するのが例の廃病院だ。
私は動き出そうとした原山を止める。
「まあ、待て。とりあえず腹ごしらえをしよう。寺スもここに呼んだから待つついでに昼ご飯だ」
「お前はよくそんなにのんびりしてられるな」
「私達だけじゃどう考えても人数不足だからな~。男手がもう少しほしかったんだ」
「鏡華……なんなら私が作戦立てようか? まあ、誘拐犯達の命とか……精神とか……肉体とか…………保証はしないけれどね」
月見は私に悪気のある笑顔を近づけて言った。
「いや、別にいいよ。気にするな。ここは私達に任てくれ」
この娘はシャレにならないからな。精神肉体以前に本当に命の保証がない。私は2年前にあんたが私にやった事を忘れてないぞ。あの時は本当に危なかったんだからな。
まあ、昔の事は置いておこう。藤澤の話によるとボスの木谷、その下に藤澤と同様に木谷に調教されて命令されている奴らがいるらしい。その際、藤澤が自分の出自を語ろうとしたが月見が打ち切った。月見は事情を知っているっぽいが、曰わく関係のない話しだという。
私はベンチに座り月見に袋からサラダと烏龍茶を取り出して渡した。袋を見ている月見は何か言いた気だ。
「原山は何がいい?」
私は原山に見えるように袋を開く。
「じゃあメロンパンと焼きそばパンとコロッケパンをもらおうか。後アップルジュース。…………だけど高田……それ全部食べるのか?」
原山は袋の中身を見て呆れ混じりな声で言った。私は否定する。
「まさか! 原山がもっと食べると思って多めに買ったんだ! そうだ! 藤澤も何か食べるか?」
「は? くれるの?」
「上げよう。どうせこんなに食べれないしな」
「じゃあこれを……」
藤澤は袋に手を入れクリームシチューパンを取る。
あっ! 私が自分のために買ったパンが……。
藤澤は私の心を読んだのか取ったパンをソッと袋に戻しメロンパンを取った。
それは私の大好きなメーカーのメロンパンだ。それはやめてくれ。
藤澤は再びメロンパンを袋に戻しシュガーアップルパンを取る。
そ、それは私がデザートとして買ったパンだ。
藤澤はイライラした顔で叫ぶ。
「ふざけんな! 逆にどれなら食べていいんだよ! 下手に出てればいい気になって!」
「何だ? あんたは自分が選べる立場だと思ってるのか? あんたなんてカレーパンとクリームパンで十分だ」
私は自分の中であくまで優先順位の低いカレーパンとクリームパンを渡した。正直な話、警察でもなんでもないのに誘拐犯の一味にパンをあげる私は優しいと思う。それでもまだ5個あるから別にいいけれど。
やがて案外早く到着した寺スと呼ばれる3人組、寺井、寺原、寺島と合流した。
「こんにちはっす!」
「ご無沙汰です!」
「で? 俺らは何すればいいんだ?」
コイツら元気だな。
私は今までの経緯を説明した。ついでにこの後、私達がどう行動するか、その作戦も。不良だが試験で上位に入るようなコイツらは理解が早い。
「しかし大丈夫ですかね?」
突然、寺原が不安気に言った。
「何がだ?」
「いや、その廃病院って変な実験をやってたって噂があるんですよ。といっても夜山が開発される前にそんな噂があったという話なんですけどね」
明らかに藤澤の顔が変わった。苦いものを舐めた顔だ。そして月見が溜め息を吐いて言う。
「超能力を人為的に作る事を目的した実験……」
藤澤は驚いたように月見を見る。月見は構わず続ける。
「生まれついて超能力を持つ人間を確認した事により、後天的に超能力者を生み出そうという実験……。それ以上の事は知らないけどね」
藤澤がすごい剣幕で月見に掴みかかり怒鳴り散らすように言う。
「あなた! 私達の事をどこまで知ってるの?!」
しかし、月見は涼しい顔で、それどころかどこか軽蔑するような哀れむような冷たい目を藤澤に向けて言う。
「だからこれ以上は知らないよ。そういうあなたこそ『余計な事』言わないでよね」
私達を置いてけぼりにして2人で話しを進めている。私はおずおずと横槍を入れる。
「月見……話がよく見えないんだが……」
私の声を聞いて月見が私の目と目を合わせる。しかし、その目は熱を帯びて眼鏡越しに私を射抜くように見据える。月見が恐いところはこれだ。その好意を隠そうとしないところ。私が男じゃなくて良かったな月見。
月見はギャーギャー喚く藤澤を無視して言う。
「見えなくていいよ。世の中には見るだけで害になるものとかあるからね。私にも鏡華にも関係のない話だよ」
完全に月見は藤澤達の事情を知っているみたいだけどまるで言葉の通り他人事だな。まあ、月見からそれを聞き出すのは私では不可能だから追求しないけどな。
これ以上は時間の無駄なので私は月見から藤澤を引き離す。
「悪いが藤澤、あんたと時間を無駄にしている事は本当に時間の無駄なんだ。私達の邪魔になる事はやめてくれないか?」
「どういう意味?!」
「意味のない事をやるのは時間の無駄だという事だ」
藤澤は私に喚き散らすが私は無視し、原山に言う。
「いいか原山、作戦最初の役は原山だぞ」
「わかってる。任せとけ!」
原山の最初の役目は鳥に憑依して廃病院の内部に潜入して調査する役目だ。
「それで……月見は一人で大丈夫か?」
「あら? 私の心配? 私は大丈夫だよ。それは鏡華が一番なせわかってるでしょ?」
まあ、大丈夫だな。ある意味このメンバーの中では一番安心できる。
「それで寺スはさっきお願いした通りなんだが……」
「任せてくださいっす!」
寺井が代表して答える。
作戦としては原山が廃病院を内部調査して誘拐された奴らの正確な位置を把握。そして私達と月見の二手に別れ、私達はボスの木谷が持つ超能力調教アプリを無力化、月見は誘拐された奴らの救出だ。月見が単身なのは月見自身が希望したからだ。
私は簡単に作戦の内容を繰り返してからみんなに言う。
「さあ、みんなを助けに行くぞ!」
みんなが一言、ただ私の言葉に快く同意する。




