第64話
暴力描写及び流血描写 注意!
私はコンビニの買い物カゴに菓子パンを入れていく。
コンビニの食べ物なんて食べられないよ。私にはサラダ買って来てね。
と言った月見には注文通りサラダだ。菓子パンもだがコンビニのおにぎりもカロリー高いらしいからな。一応モデルだからスタイルには気を遣っているのだろう。
それにしても相手は何人だろうか? 20人くらいなら私一人でもなんとかなるが……。一応寺スを呼んでおくか?
私は携帯を取り出し件の3人にメールする。メールを送信し、私は引き続き昼ご飯を選ぶ。最後に飲み物を3人分カゴに入れレジに持って行った。
3人分の昼食なのに2000円とはどういうことだ?
私がコンビニを出ると急に横から女子の突進を喰らった。
「キャン!」
「うわっ!」
私はタッチの差で回避が間に合わず、当たった勢いでのけぞって倒れかけたが片足を倒れる方向に動かし踏みとどまった。当たった腕が少し痛い。
危ないな。
どうやら相手は当たり負けて尻餅を付いたらしい。突進した方が跳ね返されるなんてかなりショックだ。私の体……私が金属なのか、相手が紙なのか……。両方かもしれないが。
「大丈夫か?」
そう言いながら私は女子の手を取り立たせた。
女子は夜山中の制服を着て、ツインテールで可愛い系の容姿だった。
女子は今にも泣きそうな顔で激昂する。
「なんなの?! 走ってるところに急に飛び出して来ないでくれる!」
「はっ?」
私が悪いのか? むしろ私は被害者だろう。
「あんたの自業自得だろう? 私は悪くないからな」
「何? 責任逃れって奴? 言っとくけど私は全然悪くないから」
何を言っても無駄かな? この女馬鹿そうだしな。
私は怒ってる女子から背を向け歩き始める。
「私は馬鹿じゃない! ていうか何? 逃げるわけ?」
私はイライラが募る
ムカつく女だ。外見も中身も私の好みの真逆をいく女だ。というかこんな頭が緩そうな女に構ってる暇はないな。時をドブに捨てるようなものだ。
「私の頭は緩くないから! この変態!」
別に私は変態じゃないが。というコイツ今私の心読んだのか?
私は立ち止まり振り返る。そこには悔しそうな表情で怒りの視線を私に向ける女子がいた。
「馬鹿じゃないの? 心なんか読めるわけないじゃん!」
女子はそう言った直後、私の心を読んだのか驚愕の表情を浮かべる。今ので私の疑問は確信に変わった。この女子は人の心が読めるという確信が。
この女子はあまり頭が良ろしくないようだ。黙ってればいいものをわざわざ自分からバラすとは……。
私が背を向けている時に私の心の声を聞いた。つまり女子は肉声と心の声の区別が付かない事がわかる。完全に偶然だけれど。
まあ、こんなのに構ってる暇はないな。早く戻ろう。
私が走り出そうとした時、携帯の着信音が鳴り響いた。私のではない。私に絡んだ女子の携帯だ。女子が携帯を取り出した。そしてチラッと見える画面に表示された名前──木谷平太。
正直強力な超能力とはいえこの女子が誘拐から逃れられるとは思えなかった。
コイツ誘拐犯の仲間か!
「え?」
女子の思わず漏れた声を無視し、私は女子が携帯を持っている手を強く掴み上げた。
「痛っ!」
女子は手から携帯を落とし、私はそれを空中でキャッチする。
「何するの?!」
「それはこっちの台詞だ。この誘拐犯。悪いがあんたのボスと話させてもらうぞ」
棚からぼた餅とはこの事だな。
私は女子の腕を放し、携帯の通話ボタンを押した。携帯の先から聞こえるのは声変わりもしていないであろう男子の声だった。
『もしもし藤澤かな? どうだい? 秘密裏に高田鏡華の一味に潜り込めたかい?』
「残念。その藤澤とやらは高田鏡華の一味に潜り込む前に失敗したようだ」
『……高田鏡華か。やっぱり養殖者は駄目だな。普通の人間を舐めてるからこうなる』
藤澤は顔を青くして私から携帯を取り返そうとするが私はそれを避けながら話す。
「目的は知らんが晴恋とシオンと部長──恋歌先輩と大矢を返してもらおうか?」
『あれ? みんなを救うために動いてたんじゃないのか?』
「漫画や小説の主人公じゃないんだ。そんな事して本当に大事なものを失ったら馬鹿らしいだろう? 私は寛容じゃないし傲慢でもないんだ」
今までの経験で身に染みた事がある。私は所詮普通の人間だ。人を守る器も救う器も小さい。友達を守るので精一杯だ。知らない奴、無関係な奴には悪いが自分の事は自分か自分の友達か主人公に頼ってくれ。それでどうにかなっても私は全然悪くないけどな。
『寛容でも傲慢でもないか……。そうだな。寛容な人間も傲慢な人間も寄って来る人間は似たような人間だ。なるほど羅刹女というのは随分厳格で謙虚な人間だ』
「褒め言葉として受け取っておこう」
『しかし、僕はお前の事が気に入ったから一つだけアドバイスしてあげよう』
「なんだ? 居場所でも教えてくれるのか?」
『居場所は教えられないけどね。これでも僕は予知能力者でね。簡易的に直感で予知する事があるんだ。高田さん、お前のその身の丈に合っていない謙虚と厳格はいずれ身を滅ぼすだろう。それに支配される前に本当の自分を取り戻す事だ』
「今回の事に関係ないとはいえ敵に送る言葉じゃないな」
『だから言ったろ? 気に入ったって。個人的にはお前の携帯を取り上げた判断力は評価できる。じゃあそこの馬鹿女は煮るなり焼くなり好きにしていいよ。僕は超能力者だろうが女だろうが頭の悪い人間が大嫌いなんだ。じゃあね』
携帯の通話が切れた。私は携帯を藤澤と呼ばれた女子に投げて返した。
「もう用はない。帰っていいよ」
「あ、ああ、た、助けてよ!」
藤澤は私に絶望にも似た表情で縋り付いて来た。
「何? 悪いが暇じゃないんだ。あんたは自由の身らしいぞ?」
「そんな……あなたの所為だ! この馬鹿馬鹿馬鹿! ふざけるな! 死ね!」
ここまで来るとムカつく通り越して面倒だな。
「大体何を助けてほしいんだ?」
私が尋ねた時、藤澤は急に頭を押さえて地面の上でのた打ちまわった。
「痛い! 痛い痛い! やめてください木谷様! ごめんなさい!」
これが璃子の言ってた超能力者を調教するアプリの力か?
あの反抗的な女の変わりように私は驚く。そしてシオン達の事が心配になる。
大丈夫かシオン達は……? 早く助けなきゃな。
****
私は晴恋に言います。
「晴恋準備はいいですか?」
「大丈夫」
私は床に横になり雛萌と男子が覗き込みます。晴恋は椅子を持ちドアの横に待機しています。私は作戦開始のサインを出します。
「シオンさん大丈夫?! シオンさん!」
「シオンさん! しっかりしろ!」
2人が心配するような声で私の名前を叫んでいます。2人とも演技派ですね。そして晴恋がドアの先に向けて叫びます。
「誰かーー!! シオンさんが倒れたの! 誰か!」
3人は力の限り叫びます。私は荒い息遣いにして大変な状況を偽装します。
作戦の要は晴恋。私達は陽動役、晴恋は奇襲役。運動神経が鈍い晴恋が奇襲役というのは不安があるがこの役は晴恋にしかできません。後は誰が最初にこの部屋に入って来るかです。あの木谷という人なら万々歳ですね。理想です。
おそらく一分もしない内に私達がいる部屋の中に向けて声がかかります。
「どうした?」
声の主は木谷です。運は私達に味方してます。木谷に答えるのは雛萌です。
「シオンさんが倒れたの! どうにかして!」
「わかった。ちょっと待ってろ」
すると私──私達3人はアプリの効果で頭痛を覚えます。私達は頭を押さえて絶叫します。しかし、一人だけ頭痛を起こしていません。そう、晴恋です。
なぜ頭痛を起こしていないかというと、この頭痛は嘘だからです。それならば晴恋か嘘破りで嘘の頭痛を消す事ができます。たぶん、私のサイコメトリーでも同じ事ができます。しかし私のは超能力であるため超能力を使った瞬間に超能力調教の超能力制限機能の所為でサイコメトリーができません。その点、晴恋の嘘破りは超能力の嘘破りも目覚めたとはいえ、晴恋が本来持っている超能力ではない嘘破りがあります。以前、月見から聞いた事があります。人間は多少なりとも自分に嘘を吐く生物であると言いました。要するに暗示の類の事、月見は前に晴恋が自分自身におまじない程度の暗示をかけていたと言ってました。そこから月見は晴恋の嘘破りは自分自身に対してオートで発動していないと考えました。ならばと私は考え、晴恋が自分自身に超能力ではない方の嘘破りを使えば超能力調教の頭痛を消せるのではないかと結論しました。
結果、どうやら成功したようですね。
ドアが開きます。そして木谷が部屋に入ろうとした瞬間、晴恋が椅子を振り下ろします。しかし、木谷は部屋に入る事はせず立ち止まっていました。晴恋が振り下ろした椅子は床に激突し、鈍い音がなります。木谷が椅子を踏みつけると、晴恋の顔を思いっきり殴りました。さらにお腹を蹴っ飛ばします。晴恋は鼻血を出し、お腹を押さえて床をうつ伏せに転がりました。
「は……るこ」
私は頭の激痛を我慢しながらも必死に晴恋を呼びかけます。木谷は晴恋の脇腹を蹴ってから言います。
「悪いけどお見通しなんだよ。僕は予知能力者だからね。中山が椅子で殴りかかって来る事も、シオンがこの作戦を考えた事も。お前らより先にお前らが実行する事も知ってた」
最悪です。最早言葉も出ません。
「お前らはお痛が過ぎるな。お仕置きさせてもらう。今回のはキツいぞ。中山はどうやら超能力調教が効かないようだけど……まあ、いいか」
そして私達のいる部屋は阿鼻叫喚、地獄絵図になりました。
助けてください。鏡華、月見、璃子、風麿、大樹……。
補足
超能力調教の頭痛はあくまで思い込み。早い話が前に出た榎宮昴の才能・想造演起と同じです。理屈で言えば思い込みの痛みは嘘の痛みなので晴恋の嘘破りで嘘と自覚して痛みを否定する。後に伊集院が命名して自分嘘破りとなります。




