第61話
「あの変態女が!」
私は近くにあった椅子を蹴り飛ばす。周りの人達が私を注目する。
私はイライラしている。
あの大矢雛萌って女、頭が緩いとか言った。
ムカつく!
男か女かわからない2が私に言う。
「6は一体何を起こってるの? お前の頭が緩いのは事実だろう?」
「2、君はさらに人をイラつかせて何が楽しいのかな?」
「いや、別に事実を言ったまでだ」
私は近くにあったコップを2に投げた。しかし難なくかわされる。
私達という今回の事件の集団はある孤児院の子供だ。
しかし孤児院とは表向きで、裏では非道外道な超能力実験の被験者候補養成施設だったのだ。被験者にもいろいろいた。超能力の実験にされる者、超能力者として育成される者など様々だ。一回死ねば超能力が覚醒するかもしれないと殺された者、神経の電気が関係あるのではないかと電気イスに死ぬまで固定される者、薬漬けにされる者など多数。しかし、結局のところ超能力者などというのは出現しなかった。
そして私達は絶望する。生まれながら超能力者だという存在に。北見蓮十郎に。
転機が訪れたのは6月、私達は超能力に目覚めた。
「うるさいよ。養殖ども」
私達は部屋に真ん中、椅子の上にしゃがみ込んでいる凛々しい顔立ちの男子を見る。
「木谷平太……」
「喋るなよ。予知に集中できないだろ」
木谷平太。この男子は孤児院出身ではない。天然の超能力者で、予知能力を持つ。
なぜここに天然の超能力者がいるか? 答えは簡単。木谷は北見を倒すために私達を従順に調教した。木谷曰わく、近い未来に北見は十つ目の魔眼に目覚めるらしい。北見を倒すために天然養殖関係なくお多くの超能力者が必要らしい。
木谷はスマフオを取り出し弄り出す。すると部屋にいる私達は頭に激痛を覚え、阿鼻叫喚の渦に呑まれる。激痛が引くと私達は崩れ落ちる。木谷は椅子の上で立ち上がり私達を見下して言う。
「うるさいんだよ。僕は今イライラしてるんだ。藤澤、ただ悪口言われたくらいでキレんな」
床に倒れている私は頭を押さえて涙を流して見上げる事しかできなかった。私だけではない。みんな木谷を見上げる。
木谷はスマフオにインストールされている『超能力者調教』というアプリで私達を支配できるのだ。木谷はこれからこれを使って今日誘拐した超能力者を調教するのだ。
「最悪なことに性悪が3人も動き出した」
木谷は溜め息を吐いた。
「前も言った通りあんなふざけた奴ら相手にするのは百害あって一利なしだ」
私は怯えながら手を挙げる。木谷は私を見て手短に済ませと目で語る。
「前から思ってたんだけど性悪ってなんですか?」
時折木谷の口から出る単語だ。
「奴らは所謂性悪説の性悪、生まれ付きの悪だ。奴らは能力も性格もぶっ飛んでるからな。正直な話、誘拐した奴らを戦力に含めても不足もいいとこだ」
そんな人達が3人か。
「そういえば中山晴恋の誘拐には成功したのか?」
「ああ、しかしあいつは超能力者じゃないんだろ? そんな奴を誘拐して意味あるのか?」
木谷の質問に今年大学生になった一が答えた。
「あいつは超能力者でこそないが異能力者だ」
「その異能力者ってなんだよ?」
「異能力者とは普通の能力で超能力者と同じ事ができる奴だ。これは極端な例だが、100メートル走でテレポートで一秒の奴が超能力者、普通に走って一秒の奴が異能力者だ。要は普通の能力で異常な数値を出す奴だ」
木谷は椅子から下りるとホワイトボードまで歩いて行くと、単語を書き連ねた。
超能力、才能、異能力、運命の4つの単語を書いた。
「低脳なお前らために説明してやる」
上から目線で私達に言う。
「超能力、これはわかるだろ? 僕らのことだ。才能、まあ天才ってやつだな。異能力、さっきの説明の通りだ。運命、これが曲者だ。僕は夕山学園の人形女しか見たことないがな」
説明になってない説明だった。
「もちろんこの4つを持っているからといって優劣が決まるわけじゃない。羅刹女と呼ばれる高田鏡華なんか良い例だ。高田さんは中山晴恋という異能力者と榎宮昴という天才を攻略したからな。そういう意味では僕からすると君達が超能力者以外を見下している理由がかわからないね」
私達は木谷を睨み付ける。木谷は笑みを浮かべてスマフオをタッチした。
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私と月見が夕ご飯のおかずを買っていると璃子から電話があった。
私は携帯を取り出し電話に出た。
「もしもし璃子?」
『あっ! 鏡華ちゃん! こんばんは』
「おはよう」
『そんな事より聞いてよ鏡華ちゃん。手短に話すからね』
電話越しに伊集院と神代の声が聞こえる。体調は大丈夫みたいだな。
私は月見に会計を任せて離れる。
『いい?! まず原山君! 原山君は鳥に憑依……憑依かな? の超能力に目覚めてるの』
いきなり爆弾発言だ。私は言葉を失う。
そうか……なるほど……鳥に憑依か……。
璃子は今にも眠りそうなフワフワした声で言う。
『後ね、誘拐された人達の安全が保証されるタイムリミットは明日まで』
「明日?! タイムリミットって一体なんのタイムリミットなんだ?!」
『とりあえず今はこっちの話をさせて! グループのリーダーは木谷平太、予知能力を持ってるの。だけどこっちより問題は彼の持つスマフオ、どうやらそのスマフオに超能力者を支配するアプリが入ってるみたい』
超能力者を支配するアプリ? 『悪意』によって歪んだ携帯か。とりあえず、そのアプリにはなんらかの制限はある可能性がある。少なくとも誘拐の時には使われた可能性は低い。晴恋には効かないからな。
『後ね…………』
急に聞こえる璃子のかわいい寝息。私が璃子の名前を叫ぼうとした瞬間に電話から声がする。
『やあ高田さん、こんばんは』
「伊集院か」
『うん、ごめん。一条さん寝ちゃったんだよ。どうやら長時間の予知で脳が疲れちゃったみたいだね。ぐっすりだよ』
私は沈黙で返す。
『どうしたんだい?』
「言いたい事がある。あんた達は女の子の部屋に無断で入ったのだろう? もう少し気を使ったらどうだ?」
『……肝に銘じておくよ』
手短に話すほどしか時間がない璃子がわざわざ伊集院達の部屋に行くとは思えないしな。いくら一人部屋といえど携帯か……。
「それで? 璃子は大丈夫なのか?」
『まあ大丈夫だよ。本当にただ眠ってるだけだし。そんなことより悪者達の居場所の予測のことだけど……』
伊集院が歯切れが悪いように喋る。
伊集院に教えた情報は先程私達が話していた内容と、被害者達の誘拐場所と誘拐に使われた車のわかる限りの経路だ。
個人的な本命は後者の情報を下地にした伊集院の予測計算なのだが──
『計算がまだ終わらないんだ』
いつもなら情報を見せれば一分もしない内に計算が終わるのに、今回は未だ一向に計算が終わらないのだ。
なんとなくだが理由はわかる。ここ最近の度重なる予測外れ及び計算ミスが原因だろう。伊集院は今、自信喪失によるスランプとみて間違いないだろう。スランプは間違いかもしれないけどな。なぜなら能力が衰えたわけでも不調というわけでもない。本当にただの自信喪失なのだから。いや、自己能力否定というべきか? だからこそ厄介なのだ。
私はうんざりとした溜め息を吐いた。
「伊集院……私の下着見てみたくないか?」
会計を終わらせた月見が不快を露わにした顔で私の顔を見る。
『……は? いや、え……?』
「なんなら私のお気に入りを見せてあげるぞ」
『夜山町の南の方だよ。後もう一押し情報があれば正確な位置がわかると思うけどね』
まあそのもう一押しの情報がないんだがな。
本当に御し易い奴だ。
私だって馬鹿じゃないし鈍感でもない。伊集院が私に気がある事くらいわかる。別に付き合う気など毛頭ないから無視してるがな。まあ、外見はこの際良いとして│(美形だけに)中身が駄目だ。某天才俳優と駄目なベクトルは同じだが奴より100倍くらいマシだ。だけどこの認識は少し改める必要がありそうだ。
私は感謝の言葉を言う。
「ありがとう伊集院。感謝する」
『高田さん、僕にパ……下着を見せる約束忘れないでね!』
コイツ……パンツって言おうとしたな。
「フフッ、まあ期待して待っておけ」
私は通話を切った。
月見の目を見ると、その目は正に有り得ないものを見ているような目だった。
「鏡華って痴女?」
「心外だな。言葉の綾だ。私は『下着を見せる』としか言ってないぞ」
「ふぅん、そういう事……」
月見は私の言いたい事がわかったのだろう。しかし、その目は残念なものを見る目だ。
「鏡華って微妙なところでお嬢様という箱入りというか……」
「別に『下着』くらいどうってことないだろう? 『下着姿』を見せるわけじゃあるまいし」
「それはどうかな……」
月見は唇に指を当て何かを考えている様子だ。そして唇から指を離すと期待に満ち溢れた笑みを私に向けて言う。
「じゃあさ……この事件解決したら私とデートしてよ。鏡華」
何がじゃあなのかわからないけど。
「別にデートって言い回さなくても普通に誘えばいいだろう」
そう私が言うと、月見は自身の両手の指を絡ませて悪戯に微笑み妖しく私を見つめる。
「まあそうだね。だけど悪くないでしょ? デートでも」
「まあ私は良いけど」
「決まり。忘れないでよ?」
かわいい。私が男だったら一殺│(イチコロ)だぞ。




