第60話
時は経ち午後だ。
一年2組の私の教室で私、月見、原山、金石が4つの机をくっつけ囲って椅子に座っている。
金石の情報だと、結局今日誘拐された生徒が11人。先程の話題に上がった大矢雛萌と長崎とやら、そして友達の晴恋とシオンだ。また2年生にも知人の被害者が一人。私が所属する文芸部の部長であり見た目は小学生低学年の女子の宮永恋歌だ。学年の内訳は一年生が4人、2年生が3人、3年生が4人であった。男子は4人女子は7人だ。
また、教師にどういう意図があるのかはわからないが今日は生徒全員が早退となった。しかし、教師側からは何も言及されていないのもまた事実だった。そう、誘拐の事に関しては話題に出さず、それどころか注意喚起すらない始末だった。
生徒の反応は様々だった。所詮は噂や悪戯などと結論に至り帰る者や遊ぶ者、逆に噂を信じ集団で帰る者や親に迎えに来てもらう者、そして私達のように誘拐された生徒を助けようと独自に動く者もいる。
そして今私達がやっている事は動かずに今ある情報で検証をしているところだ。
理由としては情報自体が現状のものしかなく犯人や監禁場所に直結する情報がないからだ。また、今私達はある情報を待っている。
「身の代金の要求あるかな」
原山が呟いた。
そう、私達が待っているのは身の代金の要求があるかないかの情報だった。
金石は携帯を見ていると思ったら、それを机の上に置いて言う。
「悲報だ」
私達は金石に注目する。
「どうやら朝山学園、夕山学園、夜山中も同様の誘拐事件があったらしい。目撃情報、教師や警察の対応も似たり寄ったりだ」
私はある考えが過ぎり質問する。
「他の学校の被害者も知りたい。何か共通点が出るかもしれない」
検証の結果、少なくとも昼山中内部の生徒だけでは共通点が見つからなかった。ならば他の3校の被害者と合わせて何かメッセージでもあるのではないか?
金石は携帯を見ながら紙に名前を記した。
私は書き終わった紙を見る。そして月見に渡す。
不謹慎ながら知っている名前がなくて安心した。そして同時に共通点や暗号などを見つける事が出来なかった。
それはそれとして私達は病院にいる伊集院達や北乃先輩達にも情報を送っている。この分だとあっちも手詰まりみたいだ。
もう一つ問題がある。璃子だ。なぜか朝からずっと起きてないらしい。伊集院曰わく脳は覚醒状態らしい。つまり現在予知夢を見ている状態であるらしい。その状態が少なくとも6時間続いているとか。
璃子は大丈夫だろうか?
そしてさっきから違和感を覚えている。どうも共通点がある気がしてならないのだ。しかし見つける事が出来ない。
私は改めて最終的な被害者一覧を見て言う。
「やっぱり何か違和感があるな」
「違和感?」
月見が聞き返した。私は紙を月見に渡して言う。
「この一覧を見て何か気付かないか? どうも私にはこの被害者一覧がしっくり来ないんだ」
月見はその紙の向きを変えたり、裏から覗いたりしてから原山に渡す。金石がムスッとした顔で言う。
「俺の情報が間違ってるとでも?」
「すまん。そういうつもりで言ったわけじゃない。私が言いたいのは誘拐犯側が誘拐する奴を間違えたって可能性だ」
月見は私の言葉を聞きどこか納得したように言う。
「その可能性はあるよね。警察が動かないってことは逆に考えれば『悪意』が絡んでる事は間違いない。ということは身の代金目的ではなくそういう人達を狙った可能性もある」
私が言いたいのはそういう事じゃないんだが……。そもそもシオンの透視とサイコメトリーは生まれ付きだし、晴恋の嘘破りもそうだ。
ん? いやこれは……。
「なあ、金石」
「なんだ?」
「あんたは超能力を信じるか?」
「ないと証明されていないものは一応信じることにしている」
「そうか。それなら良い。今から私が説明する仮説はぶっ飛んでいるかもしれないが聞いてほしい」
金石は怪訝な顔で私を見つめる。当然といえば当然だが。私は説明を始める。
「これはシオン以外の奴については未知だし、誘拐犯は奴の誘拐に失敗した可能性もある。それらがわかればここにあの娘が入っているのは不自然だ」
月見は呆れた顔で私に言う。
「鏡華の言いたい事はわかったよ。確かにそれが成り立てば身の代金目的の線は確実に消えるよね」
原山と金石は疑問符を浮かべている様子だ。私は金石に言う。
「金石、調べてほしい事がある」
「それが今回の誘拐事件に関して進展するなら何でも調べるが」
「少なくとも誘拐犯達の目的はわかるはずだ」
私は金石に何を調べてほしいか説明した。それを聞くと原山と金石の息を呑む音が聞こえた。
この情報の裏が取れれば誘拐犯の目的が裏付けられる。同時に裏を返せば誘拐された生徒の安全が保証される事にもなる。
問題はあの娘の取り扱われ方だな。
「とりあえず今日は帰ろう。誘拐犯達との勝負は明日からだ。頼んだぞ! 金石!」
私達は解散した。
そうだ。今は情報を集める時だ。金石の情報収集と璃子の目覚めを待とう。
その夜、朝山から夜山までの大人が集まって誘拐事件対策本部が設立された。
****
目が覚めると私はほんのり明るい部屋にいました。窓がなくコンクリートで打ちっ放しの壁、まるで監禁室です。
起き上がると私を呼ぶ声がする。
「あっ、シオンさん気が付いた」
この声は晴恋ですね。
「確か私は誘拐されて……ここはどこですか?」
私は不安そうに歩いて来る晴恋に聞きました。
「わからない。だけど私の他にも人がいる」
周りを見渡すと私と晴恋の他に2人の女子と男子がいました。
女子は亜麻色の髪でパッチリした栗色の目の小柄のかわいい女子でした。残念ながら男子は特に特徴がありませんでした。強いていうなら茶髪で髪が少し長かったです。
「私はシオン=オルコールです。あなた達の名前はなんですか?」
女子はかわいい笑顔で答えます。
「私は大矢雛萌って言うのよろしくね」
私は雛萌の目を見ました。その目はまるで魅了するような目でした。
男子との自己紹介を早々に済ませて、私達は何が起きているか話し合いをしました。
それでわかったことはお互いみんな昼山中の一年生だというです。
そして私はさらに床をサイコメトリーしています。
誘拐犯は複数ですか。そして……っ!
私は頭に一瞬の痛みとともに意識が飛んで倒れてしまいました。急に倒れた私に晴恋が呼びかけてきます。
「シオンさん大丈夫?!」
私は頷いた。私を心配そうに他の2人も見ています。
「どうしたの?」
私は起き上がって晴恋の問いに答えます。
「いえ、いきなり頭が痛くなって」
なんでしょう今のは? まるで妨害されたような……。
「だ~れ~? 今サイコメトリーした人?」
ドアが開く音とともに女の声が聞こえました。私達がドアの方へ振り向くと男か女かわからない人、大学生らしき女性、そして髪を三つ編みにしている女子がいました。
確かあの女子の制服は夜山中の制服ですね。
私は逆らってはいけないと思い黙って手を挙げます。
「あら! やっぱりシオンさんなんだ! といっても昼山中の生徒でサイコメトリーを持ってるのは君だけだからね」
バレてますね。
「シオンさん、あまり警戒しなくてもいいからね。君達は招待されたの。フォースマウンテンエスパーズ、通称FMEにね」
何を言っているのでしょうかこの女子は……。
この部屋に閉じ込められた人は全員敵意を込めた目で3人を睨み付けています。
女子は頬に手を当てて疲れた感じで言います。
「だから警戒しないで! これもう何度目のやり取りなの? すごい疲れる。あまり身構えないで、ここにいるのは私含めて全員超能力者、云わば運命共同体なのだから!」
全員超能力者? どういうことでしょう? この女子の口振りから考えるに私達の他にも誘拐された人達がいて、その人達も超能力者ということでしょうか?
私が思考する最中も女子は続けています。
「私達の目的はただ一つ! それは世界の無能な人間どもへの革命! さあ! 私達とともに無能な人間どもを見下し奴隷のように家畜のように扱おうよ!」
なんか子供の戯れ言を聞いているような感じです。なぜならこの女子はエスパー以外の人間を無能と見下しているが実際無能などではありません。私の身の周りには少なくとも鏡華、月見、風麿そして晴恋がいます。少なくともこの4人は無能などではありません。
私が口を開こうとすると雛萌が先に口を開きます。
「黙って聞いていれば言いたい放題言うじゃない」
雛萌は侮蔑の籠もった目を女子に向けています。女子もこの言葉に反応します。
「私は君の悪口を言った記憶ないけど」
「別に私に悪口を言おうと言わまいと勝手だけど無能が無能の悪口を言うなんて滑稽だなと思って」
「あぁん!」
女子が見るからに切れています。そこに関しては雛萌に同感です。だけど人質の身である私としてはあまり煽ってほしくありません。
女子は明らかに不機嫌な顔で舌打ちをしてから言います。
「君は確か魔眼・魅了の持ち主だったよね? 君ならその眼を使って想い人にどんなに嫌わてても魅了できるじゃん? 無能な想い人をさ!」
雛萌は沈黙します。明らかな憤怒の眼差しで睨み付けています。
それにしても雛萌は魔眼・魅了を持ってるんですね。けれど想い人を魅了ですか。この女ムカつきますね。そうじゃないんですよ。
「別に魔眼使う使わない以前に悲しいことがあってね……。まあ、それ以上にあんたの言葉が気に喰わないんだけど。3回くらい死ねば?」
この娘完全にキレてます。怒りの形相でかわいい顔が台無しですよ?
さらに雛萌は続けます。
「大体上から目線で何様? なんであんたに好きな人を侮辱されなきゃいけないわけ? まあ、あんたって見るからに頭軽そうだからね~。あんた死ねば? 9回くらい」
「うるせー!! この変態女が!」
女子は思いっきり地団駄をして叫びました。そして雛萌に近寄り顔を思いっきり殴りました。雛萌はその勢いで床に倒れると、頬をさすって体を起こしました。女子は雛萌を見下して言います。
「この変態女が! よくも侮辱したな! テメェの方こそ頭ユルユルだろうが!」
雛萌は見下│(くだ)した笑みを女子に向けてます。しかし何も言いません。むしろ女子が息を荒げて罵倒し続けます。
やがて、疲れたためか罵倒を止めると女子達は部屋から出て行きました。雛萌さん含めて部屋の中が安堵感に包まれる中、私は雛萌の顔を覗き込んで声をかけます。
「大丈夫ですか?」
私の問いに雛萌さんは笑みで返し、大丈夫、と一言言いました。そして部屋にいる私達はお互い目を合わせます。
どうやらお互いキチンと自己紹介する必要があるみたいです。
今回の章の主な視点は鏡華、シオン、原山の3人でお送りします




