第59話
俺は登校中、今朝の夢の事を考えていた。
俺──原山大樹の前世はフェニックスとカオスだ。まあ、別にただ転生したってだけでフェニックスやカオスの能力が使えるわけではないが。
だから今朝見た夢は懐かしかった。正確にはその感覚が懐かしかったというべきか?
雀になって空を飛ぶ夢だ。
久し振りの感覚に俺は興奮した!
空から町を見下ろす感覚、翼を羽ばたかせ空を飛ぶ感覚、鳥の足で着地する感覚……すべてが懐かしかった。
色々なものを見た。例えば散歩するオッサンとか、通勤するOLとか、後は……ルーラーとムーンウィッチ──もとい高田鏡華と滝沢月見が一緒に寝ているとことろか。いつも通りなんか危ない雰囲気だった。
決してやましい考えがあったわけではない。断じて。だが着替えるところは見ても良かったかもしれない。どうせ夢だったわけだからな。
後、気になる事があった。ウチの学校の男子生徒が攫われるところだ。俺のクラスの男子だ。夢とはいえ気になる。
そんなことを考えながら歩いていると前の方にコネクトナイト改めエスパーガール──シオン=オルコールが歩いている事に気付いた。
俺は声を上げる。
「おーい! エスパーガール!」
シオンは俺の声に気付いたのか振り返ろうとした。しかし、それは俺の目の前でそれは起こった。
車が俺を抜き去るとその車はシオンの側で止まりドアを開けた。すると車の中から一人黒いマスクをかぶり男か女かわからない奴が出て来て、シオンの口を押さえ車に引き込んだ。
俺はその一連の行動に呆然としていた。俺は我に返り、大声で叫びながら全力で走り出す。
「おい! 待てよ!」
しかし、当然犯人は俺を一瞥するだけで待ってなどくれない。すぐに車は走り出す。もちろん人間の足で車に追いつけるはずもない。それならばと俺は車のナンバーを覚えようとナンバープレートを見た。しかし、ナンバープレートは布で隠されていた。遂に車は見えなくなってしまった。
「な、なんて奴らだ! 他人の目の前で堂々と誘拐かよ! とりあえず警察だ!」
俺は携帯を取り出し警察に電話をかけた。しかし、その番号は使われていなかった。俺はもう一度電話番号を確認してかけ直す。
「なぜかからない!」
どうなってんだ?!
俺は近くの家の人に事情を説明し、電話を貸してもらいそこからかけた。同様にかからない。家主がかけても同じだった。
俺は家主に促されとりあえず登校することにした。
歩きながら考える。
そういえば高田もこの前の事件の時電話がかからないって言ってたよな。つまりそういうことか? こうしちゃいられん! 早く高田達にこの事を話さねーと!
俺は学校に向かって走り出した。
****
私が教室で席に座りクラスの友達と話していると、突然女子が血相を変えて教室に入って来た。荒々しく開かれたドアの音に私含めてクラスのみんなが注目した。
その女子に一人の男子が質問する。
「どうした? お前はこのクラスじゃないだろ」
女子は息を切らしながらも切羽詰まった様子で男子の言葉を無視して私の元に歩いて来て言う。
「警察も先生も頼れない! 高田さん! 友達が誘拐されたの!」
唐突な言葉に私と話していた友達は驚く。
すると隣りのクラス3組でも似たような話題で騒然となっていた。私は騒然としそうになる教室に一喝する。
「静かに!」
私はクラスメイト達に注目される人差し指を唇に当てて黙るようにジェスチャーする。私はツインテールを解き、ポニーテールにする。
やっぱりこれの方が引き締まる。
私は優しく言う。
「落ち着いて。冷静に。ね?」
私は女子を宥める。私は椅子から立ち上がり女子の背後から肩を優しく触り、椅子まで誘導して座るように促した。
「とにかく座れ。疲れただろう?」
「はい」
ボーと私を見る女子を尻目に私は隣りの席の椅子に女子の方を向いて座った。
さてまずはこれから聞こうか──
「まずあんたは誰かな?」
女子はハッと我に返り落ち着いたからか喋り方も大人しく言う。
「私は一年一組の島田未歩といいます」
「原山と同じクラスか」
「はい」
「私の名前は高田鏡華だ。よろしく」
「こちらこそ!」
つまり私はこの女子──島田とは初対面だ。相手は私の事を知っていたみたいだがな。
「それで? 誘拐とはどういうことだ?」
島田はうつむきながら話し始める。
「はい、私と誘拐された友達が登校している時の事です。突然車が私達の側に止まって、車の中から男か女かわからないけどマスクを被った人が出て来て友達を誘拐したんです。私は恐くて腰が抜けちゃって……。それでも私には興味ない様子で、私を置いて車を走らて逃げました。私はそれでも車のナンバーを覚えようとしましたけどナンバーが隠されていて……」
ここで再び教室のドアが開けられ男子が大声で叫ぶ。
「おい! なんか4組の長崎が誘拐されたらしいぞ!」
再び教室の中がざわめき島田も戸惑いの色を浮かべる。
余計な事を……。
私は先程と同じように大声で全員に言う。
「静かにしろ!」
クラスメイト、島田、ドアを開けた男子は黙り込み私を見る。私はドアを開けた男子を指差して言う。
「あんたちょっとこっちに来てもらおうか」
「は、はい!」
男子は黙って私の側に来た。そして私はクラスメイトの男子に言う。
「木村と国枝、すまないが教室の外で他の奴らが勝手に入って来ないようにドアの前で見張ってくれないか? 余計な水を刺されたくないからな」
「おう、わかった」
2人はこのクラスでも冷静な部類だ。現に今もさっきも冷静だったからな。
それに正直な気持ち、これ以上混乱するとさすがに抑えられない気もした。火は小さい内に消しとく必要がある。
そして私は友達に言う。
「美鈴は月見と4組の金石って奴をここに連れて来てほしい。頼めるか?」
「わかった」
友達は小走りで教室から出て行った。私はドアを開けた男子顔を向けて言う。
「あんたは少し静かにしていてくれないか? 後で聞きたい事もあるしな」
「あ、ああ」
私は島田の方へ向き直り言う。
「続けてくれ」
「は、はい。車のナンバーを確認できなくて、それで警察に通報したんですけど番号が使われてないって……」
「そういえば夏休みの事件の時も警察にはかからなかったな。それで先生も取り合ってくれなかったと?」
「はい。誘拐された友達の親にも電話で伝えて、友達の親も警察に通報したけど私と同じで……。それなら高田さんや伊集院君達を頼ろうと来ました」
「そうか……」
とうとうここまでスケールの大きい事件になったか。
こういう時に頼りになりそうな伊集院や北乃先輩は入院中だ。だが不幸中の幸い、伊集院も北乃先輩も元気だ。
私はドアを開けた男子の方を向いて言う。
「あんた名前は?」
「5組の砂川だ」
「高田鏡華だ」
「知ってる」
「そうか。長崎って確か男子だよな? 長崎が誘拐されたっていうのは砂川が直接見ていたのか?」
「いや、誘拐されるところを見たのはそいつの友達だ。俺のは又聞きだ」
「そうか。もう行っていいぞ」
「わかった」
邪魔な砂川を教室から追い出し、再び島田に向き直り言う。
「それで? あんたの友達とやらの名前は長崎なのか?」
島田は静かに首を横に振ってから言う。
「いえ、友達はクラスメイトで大矢雛萌っていいます」
大矢雛芽……どう聞いても長崎ではない。
誘拐が短時間に連続で起きたってことか? まあ、この辺は後で金石と合流したら検証しよう。
しかし、それ以上に問題なのは教師に動きがないということだ。少なくとも2件の誘拐が起きている以上教師側は見逃せない問題だ。真に受けたとしたら集会でも開いて注意喚起なりするはず、最低悪戯として処理したとしても少なくとも島田と長崎の友達が呼び出されるはずだ。それに……。
私は時計を見た。朝のホームルームは既に始まっている。教師が朝のホームルームに遅れるのはよくあることだが、他のクラスの教師が騒ぎが収める怒鳴り声などが聞こえない。それどころか他の学年にも今回の誘拐事件に関して波紋が広まっている。
とりあえず教師側が傍観するのは確定だな。
今わかる事は警察と教師は味方ではないということだ。後は手掛かりを聞こう。
「車種とかわかるか?」
「ごめんなさい。車はあまり詳しくなくて……」
「形とか色は覚えてないか?」
「黒色で4人乗りです」
「犯人の特徴は? 顔は見てないけど直接見たんだろう?」
「わかりません。男か女かもわかりませんでした」
「なるほど……」
とりあえず現状は何もわからないな。
「とりあえずメアドを交換しよう。何か気付いたら教えてくれ。後で町の大人達に呼び出されるだろうが、私には現状どうにもできない。とにかく今はクラスに戻れ」
少なくとも今は何もできない……。
私達はメアドを交換し、島田をクラスに返そうとした時だ。
「おい! 高田に会わせろ!」
ん? 原山?
どうやら私の指示に従っている男子と揉めているようだ。
私が教室から出ると原山は真っ先に私の前まで来て言う。
「シオンが誘拐された!」
は?
私が面を喰らっていると、ちょうど月見も小走りでやって来た。月見は慌てた顔で言う。
「鏡華! 大変だよ! 晴恋が誘拐されたみたい!」
私は言葉を失った。
大矢雛萌。果たして覚えている人がいるのでしょうか?
覚えてなくても問題ありませんけどね




