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Student War ──羅刹女──  作者: 天井舞夜
才能・想像演技
60/86

第57話

榎宮 昴 : えのみや すばる


時間開いてしまった。

 私達は芸術科にある私の教室に戻り、私と先輩、青木さんは3人で机を囲って座っていた。午前中に終わる崩壊後なだっけあって教室に残っている生徒は少ない。


「くそ! 僕があそこでもっとイカサマを疑っていれば!」


 机に思いっきり拳を振り下ろして先輩が悔しそうに声を上げた。

 先輩の突然の大声に私を含め教室にいる生徒すべてが吃驚した。


「私が悪いんです。私が芸能科の校舎に行かなければこんな事には……」


 私は零れそうになる涙を必死にこらえた。2人を巻き込んだ私に泣く資格はない。一番の役立たず……。

 私は青木さんを見た。青木さんはさっきから腕を組んで目を瞑っている。何かを考えているようだ。

 その時、誰かが私の肩を叩いた。

 振り向くと男子が立っていた。短いとも長いとも取れない黒髪、顔は良いけどどうも地味、中肉中背という普通を感極めたような見た目の男子だった。


「えっと……どちら様?」


 私はとりあえず聞いてみた。

 私の声で先輩と青木さんはこちらに向き男子の存在に気付いた。

 男子は地味な見た目とは裏腹に流れるような動きで左足を引き、右手の肘を曲げて胸の前に持って行き、まるで紳士のように丁寧に一礼をして挨拶する。


「こんにちは。私の名前は益田真と言います。芸能科2年5組、知名度0人気0で最低権限のしがないエキストラ俳優です」


 知名度0というだけあって、顔も名前も思い出せない。先輩も青木さんも怪訝な顔をしている。私同様にこの人が誰かわからないのだろう。


「ふん。本当に芸能科の人間か? いくらエキストラとはいえ芸術科校舎にいて浮かないわけがない」


 先輩がイライラをぶつけるように益田さんに吐き捨てた。益田さんはそれを流れるように答えた。


「私はプロのエキストラ俳優です。私にかかれば大衆に紛れ、背景の一部になるのは造作もありません。現に私は芸能科校舎でゴールドとゲームをしている時から今まであなた達を見ていましたし、あなた達も何回も視界に入れていたはずですが」


 青木さんは言う。


「つまり存在感を消す事ができるんですか?」

「いえ、本当にただ大衆や背景に溶け込むことができるだけですよ」

「存在感を放つ限りどんな人も物も完全に大衆や背景の一部になることはできません。そういう意味なら益田先輩も榎宮と同等に唯一無二の才能を持ってると言えますね」


 さっきから思っていたけど先輩や青木さんはこういう事に耐性があるようだ。さっきからアニメの能力解説を聞いている感じなんだけど。


「青木さん、意味がわからないんだけど……」

「ドラマとかで主役のキャストよりエキストラに目が奪われる事がたまにあるでしょ? 理由はいろいろだけど。つまり益田先輩の存在感は視界に入っても気にならないの」


 私が言いたいのはそういう事じゃないんだけど……。


「それで? そんなすごいんだかすごくないんだかわからないエキストラ俳優さんが僕達に何の用だ? 追い討ちか?」


 益田さんはニッコリとして言う。


「あなた達は姫路と接触したいみたいなので現状把握と榎宮、姫路に関しての情報提供を……」


 先輩と青木さんは険しい表情になる。


「どういうことだ? お前は芸能科側の人間だろ? それを抜きにしても僕達に情報を提供する理由がない。メリットがない」


 先輩の言葉を受けてニヤリと笑い益田さんは言う。


「まあ、そうですね」

「それじゃ私は聞きます。ここまで来たら意地でも榎宮を止める」


 青木さんは最初私に協力するためと言ってたけど目的が変わってる。

 私もここまで来たら引き下がれない。それにまだ姫路さんに会える可能性は十分ある。


「わ、私も聞きます! 一体芸能科で何が起こってるんですか?」


 私も青木さんと同じく聞きたい。


「じゃあ僕も聞くよ」


 先輩はやれやれといった様子で同調する。

 益田さんはせき払いをし話し始める。


「それでは今の状況を話しましょう。まず今日は姫路が榎宮によって公開処刑される前日です。ちなみに2人は今日仕事で休みです。姫路は明日が自身の処刑日だと知らされてません」


 青木さんが質問する。


「榎宮はどこですか? 会うことさえできれば姫様の公開処刑を止める事ができるんですが……」

「あなたは確か榎宮の弱味を握ってるんですよね? それは姫路の処刑を回避できるほどの決定打はありますか?」


 青木さんは不敵な笑みで答える。


「姫様の処刑の理由が私の予想通りなら決定打となりえますね」

「そうですか……。なら明日は朝から榎宮か姫路に接触してください」


 青木さんは私の方へ向き言う。


「楽園さんは姫様と接触して。私は榎宮と接触するから」

「わかった!」

「先輩は楽園さんについてってくださいね?」

「言われなくてもそのつもりだ。カノジョを守るのはカレシの役目だからな」


 カレシ面しないでください。


「おや? 本当に恋人同士だったんですね」


 益田さんはマジで驚いた様子で言った。


「恋人じゃありません!」


 だけど、やっぱり見た目釣り合ってないよね。……それはそれで悔しいんだけど。


「そ、そうですか。それは失礼」


 益田さんは気圧された感じで謝罪した。


「いえ、大丈夫ですよ」


 別に失礼とは思っていない。

 青木さんは申し訳なさそうに言う。


「話を切って申し訳ないんですけど、芸能科に協力者はいるのでしょうか?」


 ふむ、と益田さんは考え込んでから言う。


「芸能科は基本的に格上の人の指示に従わなければなりません。つまり私の言う事を聞く人は誰もいないのです。なぜなら榎宮が最高権力者であり我々はあくまで駒でしかありません」

「でも益田さんはその最高権力者に反逆してますよね?」

「実際私のような姫路の処刑に反対する人がいないわけではありません。しかし、かといって芸能界から干されたくない。実質、エキストラ俳優で知名度0人気0で失うものがない私しか動いてないわけです」

「最高権力者に楯突けるのが最低権力者とは皮肉なものだな」


 先輩は見下すような態度で吐き捨てた。

 益田さんは鋭い目つきで先輩を睨みつけるが、すぐに目を離した。


「それでは私も出来る限りの情報は伝えました。一応これからドラマの撮影があるのでこれにて失礼します」


 益田さんは一礼すると教室から出て行った。


「僕達も帰ろう。姫路姫都がいないなら学校に残っている理由もないからな」


 先輩の一声に私と青木さんは賛同し家に帰る事にした。


****


 9月2日。朝のホームルームまで残り30分。

 私と先輩は姫路さんと接触を謀るべく芸能科校舎の玄関の前で待っていた。

 青木さんは既に登校していると思われる榎宮さんに会うために芸能科校舎に潜入している。

 私と先輩は姫路さんが登校して来るまでの間に談話する。


「いよいよだな」

「はい。これで高田さんに会えます。思った以上に大事になりましたけどね」


 平凡な私が求めた天の人。私は彼女の圧倒的なピアノに彼女を感じた。だけど今思えば私はその前のステージに上がった彼女に既に魅了されていたのだ。

 そうか。あの時の高田さんのピアノが大衆に──私達に向けられていなかったから私は彼女に心を奪われたのか。

 圧倒的な存在感、魅力的な笑み。恋愛感情なんてものじゃない。まさに心を奪われたのだ。ただ忘れたくなかった。忘れられなかった。平凡な私の前に現れた特別な存在を……。


「それにしても高田鏡華とかいう奴は本当に女なんだろうな?」

「女ですって! 何回も聞かないで下さい」

「だけど楽園ちゃんの顔……」

「私の顔?」

「何でもない。確かにそういう顔じゃないな」

「はぁ……」

「それより来たみたいだぞ」


 私は先輩の示した方を見る。

 小顔でパッチリとした二重、ショートカットの髪の毛先がくるんとしているためか中一女子にしては低くない身長に反して幼い印象を受ける。

 そんな少女──姫路姫都がこちらに向かって歩いて来る。周りの芸能科の生徒がジロジロと見ているが気付いてないのか気にならないのか無視している。「とりあえず話しかけに行こう」


「はい」


 私と先輩は姫路さんの前まで駆け寄った。

 私と先輩が突然目の前に現れたからか姫路さんは困ったように笑みを浮かべて言う。


「えっと……。私に何か用かな?」


 これに先輩が対応した。


「まあな。ちょっと僕達と来てもらおうか姫路姫都。悪いようにはしないから」


 先輩、言葉を選びましょう。その言葉は安全をアピールしてるけど悪い人が使う常套句です。姫路さん怯えた目で私達を見ています。


「えっとね姫路さん……私聞きたい事が──」

「見つけたよ。姫路さん……」


 私が高田さんについて聞こうとした時、声変わりしてない男子のソプラノボイスが校舎の方から聞こえた。

 私達は声のする方へ振り向いた。

 芸能科校舎の2階の窓から私達を見下ろす天才俳優──榎宮昴その人がいた。

 中性的で美しい顔立ちを不機嫌に歪めた榎宮さんの視線はただ姫路さんに向いている。

 榎宮さんは窓枠に足をかけてそこから飛び降りた。

 周りの生徒がざわめく。私と先輩はその行動に目を見開いた。

 そして榎宮さんの背中から純白の翼──まるで天使のような翼が生えた。榎宮さんは翼を羽ばたかせ私達の前に舞い降りる。


「やあ、芸術科の人達。悪いけどどいてくれるかな? 姫路さんに用があるんだ」


 榎宮さんは私と先輩に優しく語りかける。

 一体何が起こってるの?!


「榎宮昴、悪いがこっちが先に話しかけたんだ。まず話をさせてくれないか?」


 榎宮さんは先輩の言葉を受けて少し間を置いて言う。


「まあいいよ。あなたの言葉も一理ある」


 榎宮さんは聖人のように素直に見守る。

 先輩が困惑している姫路さんの方に振り向いて言う。


「姫路姫都、お前が出ていたキスサバイバルあるだろ? その優勝者の子についてこの子が知りたいらしいんだ」


 先輩が私を示して話した。姫路さんは屈託ない笑みを私に向けて言う。


「鏡華ちゃんの事? 鏡華ちゃんと知り合いなの?!」


 テレビで見る彼女とキャラが変わらない。これは素のようだ。


「うん。それで──」

「我が断罪の聖剣よ。僕に力を」


 後ろから榎宮さんの声が聞こえた。


「ぐはっ!」


 横から先輩の何ともいえない声が聞こえた。姫路さんは恐怖に歪みきった顔をする。先輩の方を向くと、先輩は剣によって貫かれ血を流していた。刺した人物は榎宮さんだ。榎宮さんが先輩の体から剣を抜くと、先輩は地面に倒れ地面に血だまりができていく。


「ヒッ!」


 姫路さんはその光景を見ると目から涙が零れ恐怖によって後退するが、ジャランという音とともに姫路さんは止まった。

 姫路さんの足に鎖の足枷が付いていたのだ。同じく私にも。

 私は声を出す暇もなく腰が抜けて地面にへたり込み、姫路さんは足枷を見て絶望的な表情をする。

 榎宮さんは先輩を見る間もなく姫路さんの前に優雅に歩いて行き、その剣を振るい姫路さんを一閃する。姫路さんは体から血飛沫を出し地面に倒れた。

 顔にかかる血は熱さを持って忌々しい匂いが鼻を付く。


「あなたが悪いんだ。あなたが彼女の唇を奪うから……」


 そう言った榎宮さんを私は震えながら見る事しかできなかった。

 榎宮さん鬼のような形相で冷たく私を見下ろす。


「芸術科の人達、あなた達も同罪だ。僕の前であの忌まわしい話題を出したんだから」


 私の首筋に剣が触れる。その剣は冷たく、嫌でもその存在感を主張する。


「何、死にはしない。ただ壊れるだけだから」


 榎宮さんがその剣を振りかざした。


「榎宮! 待って!」


 その時、青木さんの声が榎宮さんの動きを中断した。

 私と榎宮さんは青木さんの方へ振り向くと、青木さんは芸能科校舎から出て来て私達に近く。


「榎宮、それくらいにしときなよ。キョウカさんが好きなのはわかるけど女相手に嫉妬なんて見苦しいから」


 キョウカ? どこかで聞いたような名前だ。


「青木さんか……自分でも見苦しいのはわかる。だけど僕はタカダさんのファーストキスを奪った姫路さんが許せない」


 タカダ? キョウカとタカダ……タカダとキョウカ……タカダキョウカ……高田鏡華?!

 まさか……つまり、姫路さんの処刑される理由ってキスサバイバルに出ていた高田さんが榎宮さんの片思いの相手で、高田さんにキスした姫路さんが許せなかったから。そして私の探し人である高田さんの話題を出したから私達も巻き込まれた。

 偶然にも姫路さんの処刑の原因の中心人物と私の探し人が同一人物だった。

 あれ? 今までの会話の流れからすると青木さんも高田さんと知り合い? 昨日の会話を聞いた限り結構仲が良いみたいだし……。

 つまり…………入学した時からチャンスは常に転がってたって事! 確かに青木さんに高田さんの事は聞いた事なかったけど!

 私が考えを巡らせている間に青木さんと榎宮さんの会話は続く。


「あんたって立派なヤンデレだよね」

「ヤンデレって何?」

「あんたみたいな人だよ。女相手に嫉妬とか頭おかしいんじゃない? 鏡華さんに相手してもらえないからって八つ当たりとか笑える」

「あなたにはわからないだろうね。高田さんは性別関係なく人を魅了するんだ! カリスマがあるんだ! 金石君からの情報で小学生の時と違って僕以外にも高田さんを好きな男子がいるみたいだし……」

「鏡華さんがあんたを相手しない理由は本気じゃないからだよ」

「僕は本気さ!」

「そういう意味じゃない。埒があかない」


 青木さんはウンザリといった感じで携帯を取り出し耳に当てる。誰かに電話をかけているらしい。

 私と榎宮さんが見守ってる中、青木さんは喋り出した。


「あっ! 鏡華さん久し振り。元気だった? …………。そう。こっちも元気!」


 どうやら青木さんは私の探し人である高田さんと話しているらしい。

 榎宮さんの弱点──惚れた弱味ってそういう事か。


「今どこ? …………。登校中? ちょうど良かった。ちょっと助けてくれない? 榎宮が暴走して姫様が大変なの。…………。そうそう姫路姫都。…………。鏡華さんから榎宮に頼んでよ。…………。わかった。代わるね」


 私と榎宮さんが黙って見守る中、青木さんは私達の方へ向き小馬鹿にしたような笑みを榎宮さんに投げてこれまた馬鹿にしたように言う。


「榎宮……鏡華さんが代われだって。鏡華さん切れてたよ」


 榎宮さんは顔面蒼白になり近いて来た青木さんから携帯を受け取ると恐る恐る耳に近づけた。

 一喜一憂に榎宮さんは電話に対応する。


「ひ、久し振りだね高田さん。…………。な、なんでもないから大丈夫。…………。高田さんは姫路さんとどういう関係なんだ! …………。わかったよ。じゃあ」


 榎宮さんは不機嫌そうだかどこか嬉しそうな顔で青木さんに携帯を投げてよこし、姫路さんの方を向き言う。


「今回は高田さんに免じて許してあげるよ。だけど次はないと思って」


 そして榎宮さんは校舎へと消えた。

 気が付くと嵌められた足枷は消え、先輩と姫路さんの傷は消えていた。

 2人は起き上がり、青木さんは言う。


「2人とも大丈夫ですか?」


 2人は確かめるように自分自身の体を触る。


「大丈夫だ。確かに痛みを感じたはずだが」

「はい。今は全然痛くありませんね」


 どういうこと? まさか回復魔法でも使ったっていうの?


「まあ、当然ですよ。だって2人とも斬られてないんですから」


 私達3人は青木さんの言葉に疑問符を浮かべる。


「あれが榎宮の真骨頂で唯一無二といわれる才能『想造演起』です」


 私達はポカーンとする。


「要するにただのイメージです」


 ますます意味がわからない。


「要するにどういうことだ?」


 先輩が代表して説明を求めた。


「つまり、榎宮の上手すぎる演技に3人とも榎宮が剣を持っていると想像し、刺されたと想像し痛みを感じ、足枷が付いてると想像して動けなくなったんです」


 青木さんはサラッと言ってるけど──


「それってすごいことなんじゃ……?」

「そうだね。催眠術も立体映像も使わずに演技だけで他人にあそこまで想像を創造させるのは難しい。まあ、気にしないで。そんなことより楽園さんは姫様に用があるんでしょ?」


 そうだ。私の目的は高田さんのことを聞くことだ。

 その前に──


「青木さんの友達の鏡華さんってもしかしてキスサバイバルに出てた鏡華さん?」


 青木さんが答えるよりも先に姫路さんがハキハキと答える。


「えっ! 君、鏡華ちゃんの友達なの?!」


 確定しました。

 青木さんは姫路さんの言葉に答える。


「うん、小学校が同じだったんだ」

「そうなんだ! 鏡華ちゃんってもっと恐い人かと思ってたけどかわいいよね! あの時も助けてくれたし」

「まあ、あの人は気に入った人にはとことん尽くすからね」


 青木さんと姫路さんが高田さんの話題で持ちきりである。

 言うタイミングを失ってしまった。

 先輩も何とも言えない笑顔で私の顔と青木さん達をチラチラ見ている。

 そして姫路さんとの会話に夢中になっていた青木さんが思い出したような顔で私に向く。


「あ、楽園さん。質問に答えてなかったね。そうだよ」


 私は体の緊張が解けたのか一気に疲れを感じる。


「ねぇ、2人とも。私に高田さんを紹介して!」


 2人は驚いた顔で私を見る。

 そりゃそうだ。一番無関係そうな私が高田さんの名前を出せば驚く。


「高田さんって高田鏡華? 高田水鏡の娘の?」

「キスサバイバルに参加した鏡華ちゃん?」


 青木さんと姫路さんは確認するように聞き返した。


「そうだよ。その高田さんだよ」


 しばらく沈黙が流れると青木さんが盛大に笑い出した。


「ハハハハ! そうなんだ! 羅刹女の高田さんか! 言ってくれれば良かったのに! アハハハハ!」

「だって知り合いとは思ってなかったから」


 青木さんも同じヴァイオリン専攻だけど環境は私と同じのため高田さんの事は知らないだろうと思って聞かなかった。

 ここで先輩も口を挟んだ。


「羅刹女だって?! 楽園ちゃん、たぶんそれ人違いだな。羅刹女といえば粗暴で乱暴、暴力で学校を支配して教師を病院送りにした女だぞ?」


 青木さんはムッとして先輩に食ってかかる。


「先輩、鏡華さんが教師を病院送りにしたのは事実だけどそれには理由が──」

「はい! 楽園ちゃん!」


 姫路さんは青木さんの言葉を遮って、私に携帯を差し出した。画面には鏡華ちゃんという文字とともに携帯番号、そして呼び出し中だった。


「えっ?! ちょっと?!」


 姫路さん行動早過ぎ!

 私は慌てて携帯を受け取り携帯を耳に当てるとタイミング良く出た。


『あ! 姫都か?! 大丈夫か? 榎宮に変な事──誰だあんた?』


 電話越しに高い声とは合わない男らしい口調が聞こえた。キスサバイバルの時に聞いた声だ。

 どうして私が姫路さんじゃないとわかったんだ?

 なんにしても私は今7年探し続けた高田さんと話している。……まだ私からは喋ってないけど。


「わ、私は鈴木楽園っていいます! えっと、えっと……」


 ドキドキ胸が高鳴る。嬉しさに緊張する。

 だけど何を話せばいいのか……。

 こっちは一方的に高田さんを知ってるけどあっちは知らないだろう。

 とりあえず何か言わなきゃ!


「高田さん! ず、ずっと……ずっとファンでした! 友達になってください!」


 沈黙。

 もしかして引かれた?


『へぇ、私のファンなのか……。私みたいなののファンとは酔狂な奴だ』

「そうじゃなくって……。高田さんのピアノが大好きで……」

『ピアノ……。おいおい私が最後にピアノやってたのは7年も前だぞ……。そっちの方がよっぽど酔狂だと思うが……』


 やっぱりピアノはやめてたんだ。

 予想は付いてた。


『悪いが私はもうピアノをやめたんだ。だから──』

「それでも! 友達になってください!」

『…………わかったよ。あんたも変わってるな。物好きというか』

「私は別に……」

『名前は楽園だったか? ごめん。もうすぐホームルームなんだ! またな楽園。葵と姫都によろしく言っといてくれ』


 高田さんは最後は切羽詰まった感じで通話を切った。

 わかる。自分の顔は今綻んでいる。にやけを抑えられない。


「ありがとう姫路さん!」


 私は携帯を返しながら言った。


「先輩、青木さん! どうもありがとう」


 先輩と青木さんには迷惑をかけた。だけどこうやって高田さんに巡り合わせてくれた。だから私はお礼を言った。


「さすが僕の彼女だ! 普通にお礼が言えるなんて」

「先輩大袈裟ですよ」

「大袈裟じゃないよ楽園さん。普通なんていうのは普通ではないことと同義なの。心から普通にお礼なんていうのは美徳だよ」

「青木さん、それは言い過ぎ」

「そうだよ! 楽園ちゃんは私を助けてくれたじゃん」

「私ほとんど何もしてなかったよ」


 私は誉められて照れる。




 平凡を極めれば非凡だと何かで聞いたことがある。

 だけど私は非凡じゃない。それでも平凡でもない。

 だって私は一度しか見たことない一人の少女に執着した人間だから。

 これは普通に正常? それとも普通に異常?


****


 姫路さんの処刑失敗から3日後。

 僕は金石君と公園で会っている。密会のために。


「やあ金石君、待ったかい?」

「いや、待ってない」

「そう、じゃあ例のものと僕のメアドを交換だ」


 金石君は溜め息混じりに鞄から封筒を取り出し僕に渡す。僕は中身を確かめる。

 数十枚という写真が封筒から出てくる。

 当然だ。およそ4ヶ月分の写真が入ってる。数枚、目的外のものも写り込んでいる写真があるがすべての写真にはある人物が写っている。

 勝ち気で生意気な目、髪型はマチマチだが共通して綺麗で黒色のロングヘアー、肉付きの良い脚線美。高田鏡華の写真だ。


「へぇ、三つ編みも似合ってるね。正直ポニーテールより好みだ」

「あのさあ榎宮、情報交換のために一々メアド変えるのやめろよな。けっこう不便だから」

「前向きに検討するよ」


 僕は高田さんの写真を眺めながら前向きに返事をした。

 金石君の情報交換には大体プライベートの携帯のメアドを提示する。楽だから。


「世間では美形で天才役者のお前の今の姿をファンが見たらさぞガッカリするだろうな」


 僕は金石君の嫌味に無言で返した。

 金石君はそう言うが、確かに僕は自分で言うのも難だが世間一般でいう美形で天才役者だと思っている。だけどそれ以前に僕は普通の男子中学生だ。女性の体には興味あるし、勉強は嫌いだけどテス

トで良い点が取れれば嬉しいし、友達とゲームやスポーツもしたいし……好きな女の子だっている。

 もちろん、好きな女の子を好きな男がいたら気になる。


「それで? 高田さんを好きな男って誰?」


 僕が写真を見ながら言った。

 金石君が困った顔をする。どちらかというと悪い意味で。


「誰かを庇っているのかな? だけど金石君は中立だろう? 相応の情報を渡した僕は情報を獲得する権利……いや、金石君は情報を譲渡する義務があると思うけど?」


 金石君は諦めた顔で言う。


「神代善人、伊集院風麿、そして夜中の北見蓮十郎だ」


 誰も聞いたことがない。……いや、伊集院風麿は何年か前に天才少年として持て囃されていた人かな?

 写真を眺めながら考えていると高田さんと一緒にいる女子──滝沢月見と写っている写真があった。


「なんであの女が高田さんと仲良くしてるの?」

「友達だからだろ」

「はぁ?! この女はかつて小学校を支配した性悪女だろう? 高田さんを潰しかけておいて友達面とは最低な奴だね」


 滝沢月見。かつて高田さんや名前忘れたが王女と呼ばれた女子、僕、さらには実の弟、その他多数を見えざる手で潰そうとした女だ。実質、高田さん以外はあの女に負けた。確か高田さんはあの女のことを魔女と呼んでいた。

 この写真は捨てたいところだが可愛い笑顔の高田さんが写っているおかげで捨てられない。


「まあいいか。近い内に神代君と伊集院君、北見蓮十郎、性悪女、王女を壊しに行こう」


 金石君が僕を驚愕の表情で見て大声で言う。


「おい! そんなことしたら朝山学園、昼山中、夕山学園、夜山中の4校で戦争が起こるぞ!」

「だから?」

「最近この周辺ではオカルトな道具やら突然超能力を持ち始めた奴らが出現している! 幸いサイコキネシスやらテレポートとかふざけた能力はないとはいえそんなのが起こったら被害は甚大だ!」

「へぇ、最近三重野さんの演技にプレッシャーを感じるのはそういうことか……。あの手の才能は僕の他にエキストラ先輩だけかと思ったらオカルトの力か」

「そういうことだ。だから壊すのは──」

「だけど高田さんに集る害虫は駆除しとかないといけないね」

「くっ! だけどお前は滝沢に負けてるだろ? 勝つ算段はあるのか?」

「確かにあの女と僕の才能の相性は悪い。いや相性や弱点というよりあれは盲点だった。次は返り討ちにしてあげるよ」


 僕は写真をバッグにしまった。


「じゃあね金石君、またお世話になるよ」


 僕はそう言い残し、公園から去った。

男子のヤンデレ難しい。

ヤンデレにする気など毛頭なかったんだけど気づいたらヤンデレに!


次回タイトル決めてないけどたぶん

『鳥の王・原山大樹』

になると思います。

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