第56話
VS.手品師 後編
先輩が良い事を言ってる時に、青木さんはその空気を壊すように携帯の画面を見て言う。
「先輩の言う通りだよ楽園さん。私達はどっちにしてもこのゲームに乗る必要がある。そして勝たなきゃいけない。じゃなきゃ、先輩の言葉を借りるならチャンスをその手から逃す事になる」
え?
状況を把握できない私の代わりに先輩が青木さんに質問する。
「どういうことだ? 必ず勝つ必要はないのだろう? 僕の時計なら気にしなくてもいい」
しかし、青木さんは顔を曇らせて言う。
「先輩、そうではありません。状況が変わりました。ところでゴールド喜助さん、今からあなたの賭けの対象を変える事はできますか?」
どういう事?
青木さんは血相を変えてゴールドさんに質問した。ゴールドさんは答える。
「駄目だ……と言いたいところだけど面白い芝居を見せてくれたお礼に内容によっては聞き入れてあげるよ。僕のサインでもほしいのかい?」
「まさか! 榎宮昴の居所を教えてもらいたいの。私ファンだから」
青木さんは榎宮さんに会いたいのかな?
「まあ、いいよ」
「ありがとう。楽園さん、先輩ちょっと集まって」
青木さんに言われて私と先輩は青木さんの元に集まった。最初に口を開いたのは先輩。
「どうした? 青木さん、絶対勝つ必要があるって」
「今までの話を聞いて何か違和感がありませんか?」
「え、えっと……なんか微妙にゴールドさんと会話が噛み合ってないよね」
青木さんは褒めるように言う。
「その通り、ここまでの話に出て来た姫様の噂……たぶん内容は姫様が榎宮の逆鱗に触れた事、さらにそれに関して姫様が何かされる事だと思う。おそらく芸能界を干されるか、下手すると……考えたくもない!」
「逆鱗って……それくらいで芸能界を干されるのか?」
先輩が疑問を青木さんにぶつけた。
「芸能界は大物ほど権限を持つ世界ですよ。大物の芸能人が新人を芸能界から排除するのはあまりにも有名です。そうなれば姫様は転校しなければなりません。しかし──」
青木さんは溜め息を吐いて、辟易している。
「それはまだマシな方、最悪姫様は廃人──精神が壊れる可能性もあります」
いくらなんでもそれは……。
「いくらなんでも大袈裟じゃないか?」
先輩が言った。
「大袈裟じゃありません。榎宮は伊達に天才役者だなんて言われてるわけじゃありません。いえ、彼は天才なんてものではありません。彼の才能は唯一無二──彼だけの特別な才能です。映画やドラマで見せる彼の演技は彼の実力の半分もありません。先輩は夜山の人ですよね? その才能で羅刹女と互角以上に渡り合えたといえばわかりますか?」
先輩は羅刹女という単語に反応し、真剣な顔になる。
「オーケー、わかった榎宮が僕の想像以上にヤバい奴というのは」
「わかりましたか。不幸中の幸い、私は榎宮の弱味を握っています。榎宮と直接会えればたぶんなんとかなると思います」
私は状況についていけず、ただ黙っていた。というより何を話していいかわからない。
「だとしたらまずは目の前のゲームだな」
「はい。チャンスは残り2回、カードの枚数は4枚、順当に行えば当たる確率は12分の7ですね」
「チャンスは2回……楽園ちゃんと青木さんか」
「はい。後は──」
その時青木さんの携帯が鳴る。青木さんはメール画面を見て考え込む。そして私達に言う。
「ちょっとゴールド喜助と話しをして来ます。できれば黙っていてください」
青木さんの言葉に私と先輩は黙って頷いた。
青木さんは携帯をムービーのカメラモードにしてゴールドさんの方へ向き、質問をする。
「ゴールド喜助さんは今回のゲームにイカサマをした? それともこれからする予定?」
「いやいや、いくら僕がマジシャンでもイカサマなんてするわけないし、するつもりもない」
「ありがとう」
青木さんは私達の元に戻ると、今録音したファイルをメールで誰かに送った。
「誰に送ったの?」
私は興味で聞いてみた。青木さんは不敵な笑みで答える。
「頭の切れる友達。イカサマしたかどうか質問して録音して送れって言われたから指示に従ったの」
すぐに青木さんの携帯が鳴った。青木さんはすぐに携帯を開きメールを見る。
「どうやらゴールド喜助はイカサマをしているらしい」
青木さんはメールを打ちながら言った。
「なんであの質問だけでイカサマかどうかわかるんだ?」
先輩の質問はもっともだ。仮にゴールドさんがイカサマをしててさっきの質問に嘘を言ったとしても嘘か本当かなんてわかるわけない。
青木さんは余裕のような笑みで先輩の質問に答える。
「友達の友達に絶対に嘘がわかる人がいるみたいなんです」
絶対に嘘がわかる……。そんな事可能なのか?
「まあ、今は私を信じてください。それにイカサマの根拠はそれだけじゃないみたいですし」
「それだけじゃない? おかしいところなんてあったか?」
先輩は私に聞いて来る。私は首を横に振る。
私にわかるわけない。
「実はさっきのルールもメールで送ったんですよ。それで友達がルールがおかしいって送って来たんですよ」
うん。わからない。
確かルールは机の上に並べられたカードの中からカードを当てるんだっけ?
「つまり、友達は3つの根拠をもとにゴールド喜助がイカサマをしていると判断しました」
3つも?! 私なんか当事者だけど一つも思いつかないよ。
「友達の提示した根拠一つ目、友達がさっきの質問の答えを嘘だと判断したから」
「そんなの根拠になりえないだろ……」
「そうですね。まあ、私達が考えるうえでこれは除外しましょう。根拠2つ目、さっきのルールの言葉の表現です。友達曰わく、ルールの説明で″カードを選ぶ″ではなく″場所を選ぶ″はおかしいらしいですよ」
確かに指摘されると″場所を選ぶ″という表現はおかしい。私はそれを勝手に″机の上にあるカードの場所を選ぶ″と考えた──というより変換したけど……。
「″場所を選ぶ″をそのまま解釈するなら机の上とは限らないってことか」
「はい。もちろんこれ自体考え過ぎと言われればそれまでですね。根拠3つ目──」
青木さんはゴールドさんをジッと見つめる。私達も倣って見つめる。
「なんだい? 何か質問でも?」
「別に」
私達の見られていたゴールドさんはそう質問し、青木さんは適当に返した。そして、私達はゴールドさんから目を離すと青木さんは言う。
「ゴールド喜助はトランプを使った手品が得意な生粋のマジシャンということです」
私と先輩は青木さんの言葉に妙に納得した。
「青木さん──というより青木さんの友達の言いたい事はわかったよ。だけど、イカサマをしてない可能性もあるんだよね?」
「そうだね。私達としては彼がイカサマをしている証拠もなければその逆の証拠もない。せめて一連の行動をムービーに撮っとけば良かったね」
「ならばここはいっそのこと正々堂々と選んでみないか? イカサマをしてないなら確率は12分の7で当たるわけだしな」
「それもありでしょう。しかし、イカサマをしたもしくはイカサマをこれからするとすれば当たる確率は0です。逆に考えるならば、イカサマを見破れば確率に関係なく勝てますよ?」
再び青木さんの携帯が鳴った。青木さんはメールを確認して顔が雲る。
私は聞いてみる。
「どうしたの?」
「いや、やっぱり直接見ないとイカサマはわからないって」
どんなイカサマか聞いたの? 確かにメールの文章と音声の一部だけじゃわからないよね。わかったらわかったで普通じゃないと思うけど。
先輩もさすがに痺れを切らしたのか言う。
「ふん、そんな適当に外野からアドバイスしてる奴の言う事なんて参考にならない。とりあえず今の僕らには選ぶしか道がないんだ」
青木さんは吹っ切れたような笑みを浮かべて言う。
「そうですね」
ゴールドさんに向き直り、青木さんは机に並べられた4枚のカードを見定めると一枚を手に取る。
青木さんはそれの表を見ると、悔しそうに顔を歪めて言う。
「外れか」
カードに書かれた数はクローバーの6だった。
青木さんがこちらを向く。
「外れたちゃった」
「仕方ない。だが後一回選べる」
「そうだよ。次で当てればいいんだよ!」
そう、次で当てればいい!
私が当てればいい……。
私は当てられるのかな……。
私は緊張で握り拳を作る。
「楽園さん楽園さん、そんなに気負わないで。リラックスリラックス」
「そうさ。これに勝つのは第一目的じゃないんだ。あくまで姫路姫都が来るまでの時間稼ぎが第一目的なんだ。このまま楽園ちゃんは姫路姫都が来るまで時間が経つのを待てばいい」
青木さんと先輩が私を落ち着かせようとする。
そうか。私は姫路さんに会うのが目的なんだった。
私は落ち着きを取り戻した。
しかし、ゴールドさんは私達を面白くなさそうに見ている。そして、何かを思い付いたのか怪しい笑みを浮かべると口を開く。
「君達、時間稼ぎは構わないが闇雲に時間を稼いでどうするつもりだい? 悪いけど今日は姫路は学校に来てないよ」
ゴールドさんはここに来て爆弾発言をした。
姫路さんが来てない? じゃあ私達はここで一体何をやってるの?
「どういうことだ?」
先輩が私の代わりにゴールドさんに問い詰める。青木さんも眉をひそめている。
ゴールドさんは先輩に答える。
「どうもこうもない。君達が姫路のファンだからからかってただけだよ。榎宮から明日の姫路の公開処刑まで姫路のファンはせいぜい遊んでやれと言われていてね」
青木さんはさすがに切れて机を思いっきり叩き言う。
「何?! 公開処刑って榎宮は姫様に何をするつもり?!」
「知りたければ僕に勝って居場所を聞けばいいだろう? ほら君の番だよ?」
ゴールドさんは私を見て言った。私は怖くなった。
「は、はい!」
私はゴールドさんに言われた通りに思わずカードを手に取ってしまった。
先輩と青木さんを私を見てやってしまったといわんばかりの顔になった。
そこで私も自分のやってしまった事態に気付いてしまった。
「あっ……」
私は恐る恐る持っているカードを裏返す。
スペードのエース。
私が選んでしまったカード。
「残念だね。答えは下を見てごらん」
私が下を見ると机の下に表向きでハートの6と書かれたカードがあった。机の上には裏向きの2枚のカード。
「ヒヤヒヤしたよ。君達が一時イカサマを疑った時は。だけど不幸中の幸いにもイカサマを見抜いたのがメール越しの部外者だったこと、その部外者の知り合いがそこ女だけだったこと、そして何よりも君達が僕の言葉をあっさり信じたこと。おかげで僕は勝つ事が出来たよ」
ゴールドさんは机の上に置かれた先輩の時計を手に取る。
「ほしかったんだ。墨染ブランドの腕時計。僕はあまりに高値で取引される墨染ブランドの時計には手も足も出なかったからね。君達風に言うなら、今この時にあるチャンスはどんな手を使ってでも掴めだよね」
私達はただこの状況に呆然とするだけだった。
私達は改めて芸能科の特異性を実感することになった。
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