第55話
VS.手品師 of トランプ!
集会が終わり後は掃除をして帰るだけ。今はそんな掃除中である。
私の班は教室前の廊下という比較的楽な場所を割り当てられた。
私が箒で掃除をしていると雑巾を持って青木さんが近づいて来た。
「楽園さん、姫様のクラスがわかったよ」
「どこ?」
「3組だって。他にも情報はあるけどそれは彼氏さんが来てからまとめて話すよ」
「うん」
他の情報とはどういう事だろうか?
掃除を終わらせ、帰りのホームルームが終わると同時に先輩がドアを開けて入って来た。
先輩は真剣な顔で私に近づくと手を取って、まるで恋人を攫うように手を引いて私を教室から連れ出した。クラスのみんなの生暖かい眼差しが心に残りました。
そして当選の如く青木さんがニヤニヤとしながら私と先輩を見て後ろからついて来る。
青木さんは先輩と合流したら何か話すと言っていたけど、どうも情報を話すより私達を見る事を優先している節がある。
「青木さん、先輩が来たら何か情報を話すって言ってなかった?」
仕方がないので私は青木さんに話を振った。青木さんはハッと思い出したような表情になった後に言う。
「そうそう。2人は芸能科で今は誰がナンバーワンかわかる?」
ナンバーワン……つまり芸能科で今一番発言権がある人の事だよね。ナンバーワンは知名度や人気、実力で決まる。そして、この学園に通っている芸能人でそれらに当てはまる名前といえば──
「榎宮昴!」
私と先輩は声をハモらせて答えた。
榎宮昴。私と同じ一年生。優男な顔立ちは中性的で間違いなく美形。少年でありながら女性役や男性役を演じる事が出来て、8年前に老婆役を見事に演じた映画はあまりにも有名。役に年齢や適性など関係ないと言わんばかりの演じぶりは役者としてあまりに破格で、全国どころか世界的に名が知られ『神の子』という異名を持つほどだ。
「確かに間違いなく奴がナンバーワンだな」
先輩が言った。
「それで? 榎宮さんがどうしたの?」
私は青木さんに質問した。
榎宮昴が姫路姫都にどう関係するかわからない。
「簡単な事、今の芸能科の状況を作り出してるのが榎宮なら芸能科校舎の攻略は100%成功したも同然だからね。榎宮が釘を刺せば芸能科の生徒も大人しくなるんじゃない?」
言ってる意味が半分もわからない。
「青木さんが言いたい事はわかる」
先輩はわかったらしい。先輩は続ける。
「だけど僕達には榎宮昴に会う伝手がない」
確かに。青木さんは簡単に言ったが姫都姫都に会うのも難しいのに、ましてや格上の榎宮さんに会えると思えない。
「先輩が言うように伝手がないなら姫様に直線会う方がよほど簡単でしょう。しかし、伝手があるなら?」
「伝手あるの?!」
先輩とまたもやハモる。
「先輩と楽園さんて本当にお似合いだよね」
「ハモっただけじゃん!」
私は青木さんの言葉に反論した。しかし、青木さんは無視して続ける。
「伝手ならあります。私と榎宮は一応知り合いですから」
そんな人と知り合いなんて青木さん何者?
「榎宮の弱味も知ってますよ。文字通り惚れた弱味というやつですけどね。その娘の名前で釣れば大体聞き入れてもらえると思いますよ」
榎宮さんも好きな人いるんだ。天才俳優といわれてもまだ中学生だからね。
先輩は納得いかない──というか釈然としない顔で疑問を青木さんに投げた。
「青木さん、君は榎宮昴とどういう知り合いなんだ?」
確かに。青木さんの口振りからすると好きな子も知っているくらい親しい間柄みたいだけど……。
「知り合いって言っても小学生の時に同じクラスだっただけですよ」
「へぇ、青木さんすごいじゃん!」
「楽園さんってホント普通の反応しかしないよね」
青木さんはそう言うと携帯を取り出しメールを打ち出した。
「誰にメールしてるの?」
「榎宮」
私の質問に青木さんは簡潔に答えた。
しばらくすると青木さんの携帯にメールが返って来た。それを見ると青木さんは険しい顔になった。
「どうしたの?」
「あいつ……アドレス変えてる」
青木さんはため息を吐いて言う。
「ごめん楽園さん、榎宮に連続が取れない」
つまり振り出し?
「電話番号は?」
先輩が聞く。
「さっきも言いましたけど、私と榎宮はホントにただのクラスメイトなだけだったんですよ」
「榎宮昴の好きな人に直接連絡してもらうのは?」
「まあ、榎宮の好き人も一応榎宮と知り合いではあるんですけど、基本的に榎宮に興味がない子でして榎宮の完全な一方的な片思いというか……。その子は電話番号どころかアドレスすら知らないと思いますよ」
榎宮さんも苦労してるんだね。
「仕方ないよ。とりあえず姫路さんに会いに行こう? ありがとう青木さん」
「いや、お礼なんてい~よ。協力できなかったわけだし」
「クラス教えてもらったよ?」
「あ、うん、そうだね。乗りかかった船だ! 最後まで協力するよ」
そんな青木さんを仲間に加えて、気付けば私達は今朝同様に芸術科校舎と芸能科校舎を繋ぐ渡り廊下の前に来ていた。
私達は立ち止まった。
私は口を開く。
「誰もいませんね」
「ああ、今朝のは本当にたまたま三重野野ばらが通りかかっただけだったみたいだな」
私達は歩みを進めた。
結果的に渡り廊下は無事に渡り終える事ができた。
「さて3組だったな。さっさと行こう。どうやら歓迎されてないみたいだしな」
先輩の言う通り芸能科の生徒の厳しい視線が私達に突き刺さる。居心地が悪い。
私達は視線を振り切りながらも難なく3組の教室の前に到着した。
「えっと……なんて言って入ればいいのかな?」
私は2人に聞いた。
今までの状況から察するに歓迎されない事請け合いだ。
「ドア開けて姫様の名前を大声で呼べば? どうせ歓迎されないのは今更だし」
青木さんは言った。一理ある。
私はドアを開けた。教室にいる生徒が怪しいものを見る目で私を見る。その事に私は少し怯んだが教室に顔だけ入れた状態で大声で姫路姫都の名前を言おうとした時に胡散臭い笑みを浮かべた男子が近づいて来た。
「君達芸術科の人達だよね? こんな魔が這う巣窟に何か用かい?」
魔が這う巣窟?
「会いたい人がいるんですけど……」
教室を見渡した感じ姫路さんの姿は確実できない。
「へぇ、誰をお探しかわからないけどファンなのかい?」
ファンといえばファンでないとはいえないけど……。
「まあ一応……」
男子は顎に手を当て考える素振りをしてから言う。
「誰だい?」
「姫路姫都さんです」
私が男子の質問に答えると教室にいる生徒、廊下にいる生徒がざわめいた。
な、何?
男子も笑みを崩し険しい顔になっている。
私は廊下に控えている先輩と青木さんを見る。
先輩は何が起こっているかわからない感じだ。青木さんも同様。
すると男子は先程の胡散臭い笑みを浮かべて言う。
「君達、さしずめ噂を聞きつけた姫路のファン……てところか」
男子は近くの席に座り、ポケットからトランプを取り出す。
「姫路は今いないよ。彼女が戻って来るまで僕とゲームしない? 後ろの2人も一緒に」
私と先輩と青木さんは教室に入り男子の席の前に立つ。
「受けるってこと?」
「暇つぶしにな」
男子の質問に先輩が神妙な顔で答えた。
「じゃあ始めようか」
男子はそう言うと私にトランプを渡した。
「その中から好きなカードを一枚選びな? 君の独断でもいいし相談しても構わないよ」
私は後ろにいる先輩達の方へ向いた。
「どれにします?」
私はトランプのカードの束を扇のように広げた。
「一体どんなゲームをやるんだろうな?」
「別に適当に選べばいいんじゃないですか? どうせ遊びですし」
先輩と青木さんが言った。
私達はゲームをやるとしか言われていない。カードを選べと言われただけで、その他のルールは説明されていない。
「そういえばあの人、どこかで見た事あると思ったらマジシャンのゴールド喜明ですよね?」
青木さんは例の男子を見て言った。
「ゴールド喜明? 有名なのか?」
先輩も男子を見て言った。
そういえば最近よく聞く名前のような気がする。
「最近メディア露出が増えた子供マジシャンです。年相応の幼くも整った顔立ちでありながら怪しい笑みで女性ファンが増えているらしいですよ」
「手品の腕はどうなの?」
私は質問した。
「トランプのマジックは本当の意味で魔法と呼ばれるほどのテクニックとパフォーマンスを持ってる。巷ではトランプの魔導師って呼ばれてるよ」
「まあ、なんでもいいだろ。これな」
先輩はトランプの束からハートの6を引き、そしてゴールド喜明さんの元に持って行った。
「これだ」
ゴールドさんが手を差し出したので先輩は彼にカードを渡した。
「じゃあルールを説明するよ。要は君達がこのカードを当てるゲームさ。選んだカードとさらにカードを適当に4枚選び、カードを机の上に並べる。選んだカードの場所を当てる。単純だろ?」
ゴールドさんのルール説明を受けて先輩は言う。
「ルールは理解した。だけど選んだカードを当てて5枚の内一枚を当てるのはフェアじゃないと思うが」
「だから君達が一人づつ解答すればいい。もちろん外れても選ばれたカードは除外して新たなカードも補充されないし、場所も移動しない、相談もオーケー。これでフェアだろう?」
まあ、所詮遊びだしそこまで極まったルールはいらないと思う。
「いいだろ。じゃあ始めようか。その代わり4枚のカードはこちらが選ぶぞ」
「どうぞ」
先輩はトランプの束の上から4枚引きゴールドさんに渡す。ゴールドさんはハートの6のカードを確認し、5枚のカードをシャッフルし、机の上に裏側で5枚を横に並べた。
そこでゴールドさんは鼻で笑うと本題とばからりに切り出した。
「それじゃあお互い何を賭けようか?」
「賭け?」
私は思わず聞き返してしまった。
「どういうことだ?」
先輩が納得いかないと言わんばかりに食ってかかる。ゴールドさんは涼しい顔で答える。
「だってつまらないだろ? それに遊びじゃ君達も本気出さないだろうし確実に僕の勝ちだ。それに勘違いしてるかもだけど君達が僕のゲームに付き合ってるわけじゃないよ? 僕が君達を引き止めてあげてるんだ。僕が引き止めてなかったら君達はここに長居はできないからね。さあ! 君達は何を賭ける?!」
何を賭けると言われても……。
青木さんが質問する。
「まずあなたは何を賭けるの?」
ゴールドさんは躊躇いなく答える。
「噂の真相でも答えてあげるよ」
「噂になんか興味ない」
「君達は姫路のファンで噂を聞き付けてここに来たんじゃないのかい?」
ゴールドさんが疑問符を浮かべる中、青木さんは携帯を弄りだす。
何をやってるの青木さん……。
青木さんはしばらく画面を見て、携帯をポケットにしまい口を開く。
「賭けるものといっても私達はあなたにとって得になるものはないと思うけど……?」
「青木さんの言う通りだ。僕もそうだし、僕の彼女もあまりに普通の女の子だから何もないと思うが」
先輩……彼女って私の事ですか? さも当然のように初対面の相手に主張しないでください。
そもそも、それ以上に私はこの展開についていけないんだけど……。2人はなぜこうも順応しているのだろう? もしかして私がおかしい? それとも私が普通なの?
ゴールドさんが2人の言葉を聞き考える。
「そうだね……。君達の言う通り君達にとって姫路の噂は重要なものだとして賭けるものか……」
ゴールドさんが私達3人を品定めするように見る。
そもそも姫路姫都に関する噂って何? どうもゴールドさんと私達の間の情報にズレがあるみたいだ。
ふむ、とゴールドさんは呟き先輩を指差す。正確には右腕に付けている腕時計を指差して言う。
「じゃあ芸術科の先輩が付けてる腕時計で」
先輩の腕時計?!
とてもじゃないけど釣り合うとは思えない。
先輩の作った時計は洗練されたデザイン、高度な技巧、心地よい針の音などが評価されていて時計愛好家などに好まれ、世間に出回る事が少なく高値で取り引きされる事も少なくない。
それを知ってか知らずかゴールドさんは先輩の腕時計を要求した。
先輩は右腕の腕時計を見つめると諦めたようにに言う。
「言いだろう。僕は時計を賭けよう」
先輩は右腕の腕時計一つを外し、机の上に置く。
「せ、先輩! 何も時計を賭けなくても……」
「そうですよ。別に長居する必要ないですし、また日を改めて接触を謀ればいいだけなんですから」
私はもちろん、私同様先輩の時計の価値を知っている青木さんも先輩を止めに入った。
しかし、先輩は満足そうに言う。
「いや、いいんだ。時計なんてまた作ればいい。それに姫路姫都に会うなら時間的にできるだけ早い方がいい」
そして私に後押しするような笑みを向けて続ける。
「楽園ちゃん、時間は戻らないんだ。もしこの時が姫路姫都と会う最後のチャンスならどうする? ここで逃したらチャンスは巡って来ないかもな。時間を賭│(か)けなきゃチャンスは巡って来ない。楽園ちゃんはもう8年という時間をかけたんだろ? 今この時に楽園ちゃんにチャンスが巡って来た。今は神の手、魔の手、卑怯な手……どんな手を使ってでもチャンスを掴む時だ」
私は感心した──というか圧倒された。青木さんも驚いた表情をしている。
私達が尊敬したような目で見ているからか先輩は照れたように言う。
「ぼ、僕の言葉じゃないからな! おばあちゃんが言ってたんだ!」
そうですか。でもさすがに時計は……。
私がそう思っていると先輩はカードを手に取り言う。
「これだ!」
え? 先輩!
先輩は私達に有無を言わさずにゲームを始めてしまった。
カードを見るとクローバーのクイーン。外れ。
先輩はニヒルな笑みで私に言う。
「楽園ちゃん、これでもう楽園ちゃんのためだけじゃない。僕のためにもこのゲームをするんだ」
私は不覚にも先輩にドキドキしてしまった。
VS.手品師 は後半に続きます
芸能人とはなんなのだろうか?




