第51話
果たしてノートを出品する人なんているの?
ノートという微妙な物は本と一緒に売られているのか、その他諸々と一緒に売られているのか……。
私と妖恋さんは店一つ一つをじっくり見て回る。妖恋さんは見てないけど。
私は探し始めてしばらくしてから思った疑問をぶつけてみた。
「妖恋さんはどうやってこのフリマに『王女攻略本』があるとわかったの?」
フリマは事前に何が出品されるか告知されない。ならば、どうやって例のノートがこのフリマに出品するとわかったのか。
妖恋さんは紅い唇を開く。
「信じられないかもしれないけど、私の友達には予知能力者がいるの」
本当の事。
予知能力者……。超能力者って実はけっこう身近にいる? 最近知ったけど璃子さんも予知能力者。
「驚かないの?」
妖恋さんは私が驚かない事に驚いている様子。
「私の友達にも予知能力者がいるし」
それどころか知り合いに超能力者が2人もいる。
「あら? そうなの」
しかし、超能力者がいる日常が常になっているのか、妖恋さんの発言を私が気にしないように、妖恋さんも私の発言を気にしている様子はない。
それにしても『悪意』を知っている事といい、身近に超能力者がいる事といい、どうも私が属する友達のグループに似てる。
私が店の品物を見定めていると、後ろにいた妖恋さんがパンッと手を打ち合わせた。
「そうだ晴恋ちゃん! 暑いしかき氷食べない? お礼も兼ねて奢るからさ」
妖恋さんは手を合わせたまま首を傾げる。
「ノートは?」
「別に大丈夫。見つかる予知はされてるから。見つからなかったら見つからなかったでいいし」
楽観的な性格。
「妖恋さんがそう言うなら」
私は肯定した。
私は妖恋さんの手を引き、一旦フリマ会場から出て、近くにある妖恋さんに指定されたかき氷屋へ行った。
私は奢ってもらうのを遠慮したけど──
「こういう時は遠慮するものじゃないよ。友達だったら尚更ね」
と言われたのでお言葉に甘えて奢ってもらった。
どうやら少々値は張るけどシロップに力を入れている店らしい。私はハチミツレモン、妖恋さんは果肉入りイチゴシロップを頼んだ。
私はストローとスプーンの融合したアレで掬って食べた。
おいしい。
氷を飲み込むと頭があの痛みに襲われる。手で頭を抑える。
妖恋さんが言う。
「大丈夫?」
「大丈夫」
私が答えると妖恋さんはスプーンにかき氷を掬い、私に差し出す。
「どうぞ。こっちもおいしいよ」
私はイチゴの果肉が乗ったかき氷を食べる。
「おいしい」
「でしょ」
私もお返しにかき氷をスプーンに掬って差し出す。
妖恋さんの真っ赤な唇がスプーンに近づく。なぜかそれを見ているとドキドキ。それはまるで背徳感。甘くて危険な雰囲気。
妖恋さんの真っ赤な唇が近づくにつれドキドキが高鳴っていく。
妖恋さんの口にかき氷が含まれる。私は最高にドキドキ。
「う~ん。おいしい」
しかし、嬉しそうに口元を歪める妖恋さんの姿を見て、私は罪悪感を覚える。
「どうしたの?」
妖恋さんの言葉に私はビックリして声がうわずる。
「なんでもない!」
私達はかき氷を食べ合いながら他愛もない会話をした。
かき氷を食べ終わると私達は再びフリマ会場に戻った。
私達はフリマに戻ってすぐに例のノートを見つけた。
売り主は私達と同い年くらいの男の子だった。ノートの値段は1000円というかなりの高額で、どう考えてもぼったくりな値段のノートを妖恋さんは躊躇いなく買い取った。
私達はフリマ会場の中でもある程度落ち着けるスペースに行った。私達はそこのベンチに座っている。
「妖恋さん……そんなただのノートにどんな価値が?」
ノートの正式名称は『王女への革命』、作者は『moon viewing』という人。内容は読んでいないのでよくわからない。
「晴恋ちゃんには価値がないかもね。そもそもこれは作者が王女を攻略するために書いた攻略本だからね。あっ! 本物の王女じゃないから、あくまで異名だから」
「そのくらいはわかる。それをどうするの?」
私は恐る恐る聞いてみた。
妖恋さんは考える素振りをする。
「晴恋ちゃんに嫌われたくないから言わない」
妖恋さんは悪戯に笑い言った。
「じゃあ約束通りそのアプリをどうにかして上げる」
「う、うん」
私がバッグからスマフォを取り出すと、あっ! と妖恋さんが言って手のひらをグーで叩いた。
「私、晴恋ちゃんの事が気に入っちゃったから特別大サービスして脱いであげる」
「へ?」
妖恋さんの脱ぐ発言に私は間抜けな声を出してしまった。私は慌て止める。
「ちょっと妖恋さん! そ、そんな脱ぐなんて止めて!」
妖恋さんは驚きで口を開けていると笑い出す。
「アハハ、違うよ。服じゃなくて目の布を脱ぐって事よ」
私は体温がさらに高くなる感じがした。
妖恋さんはさらにからかうように言う。
「女の子なのにそんな事を考えるなんて悪い子ね。それとも他の女の子の裸に興味あるの?」
私は妖恋さんの言葉の背徳感にドキドキと胸が高鳴る。
私は黙る。妖恋さんはさらに続ける。
「あれ? 答えないの? 沈黙は肯定と受け取るけど?」
「ち、違う!」
私は思わず声を荒げて答えてしまった。
「ごめんね。冗談だよ」
妖恋さんは申し訳なさそうだけど、どこか面白そうに言った。
そんな妖恋さんに私は怒りを感じない。むしろ、罪悪感すら芽生えた。
「じゃあ脱ぐね」
妖恋さんは目を隠すように巻いている布を解く。心地よい端切れの音が聞こえる。布によって隠されていた目が露出。しかし、その目は未だ閉じられたまま。女の子らしく綺麗で長いまつげだった。
やがて目が開く。瞳の色は土のような茶色。まるで人を誘うような目でありながら監視するよう目。
私は妖恋さんの目を見つめる。目が離せない。
突然妖恋さんが苦痛の表情を歪める。
「だ、大丈夫?」
私が聞くと妖恋さんは笑みを浮かべて言う。
「大した事ないから大丈夫。ほら、携帯見せて頂戴」
「うん」
私は妖恋さんに促されてスマフォを渡した。
妖恋さんは真剣な眼差しでスマフォを見つめる。
「なるほど……。やっぱり粗悪品か」
妖恋さんはスマフォを操作し始める。
そして、手を止めると私にスマフォを渡した。画面を見ると不気味なアプリは消えている。
「どうやらそのアプリにメアドを入力するとメアドの携帯の持ち主が死ぬみたい」
「ええー!」
そんな危険なアプリだったの?!
「でも大丈夫。消して上げたから。晴恋ちゃんには必要ないでしょ?」
「うん。ありがとう」
とりあえず安心?
私はバッグにスマフォをしまおうとした時、着信があるのに気付いた。鏡華さんからだった。
私は鏡華さんに大丈夫だとメールをし、フリマ会場の出入り口で待ち合わせしよういう事が決定した。
「ねぇ、晴恋ちゃんは私がなんで目を隠してるか聞きたい?」
私は首を傾げ曖昧に返した。
興味ないといえば嘘になる。
「聞いてほしいの?」
「どっちでもいいよ」
本当にどっちでもいいらしい。
妖恋さんは口元に手の甲を持っていき微笑む。
「じゃあ聞く」
私が言うとまるで待っていたとばかりな表情をする。
「わかった。じゃあ言うね」
妖恋さんはひたすら私と目を合わせる。
「もしかして魔眼?」
「違うよ。似たようなものだけど。私は天の眼なの」
「天の眼?」
「そう。人の善悪を監視する神の眼よ」
神……確かにそれなら妖恋さんの不思議な雰囲気も納得。
「妖恋さんは神様なの?」
私がそう言った瞬間、妖恋さんは不敵な笑みになる。
「違うよ。むしろ神とは真逆の存在かな」
そして妖恋さんは私に顔を近づける。鼓動が高鳴る。
「天の眼は善でも悪でもない。だから善人が使っても悪人が使ってもいいの」
「妖恋さんは悪人?」
妖恋さんは開き直ったようにニッコリ。
「そう、私は根っからの悪人だよ」
本当。
それはまるで善を否定するのではなく、悪を肯定するような感じ。
「例えば、あなたは人殺しは悪だと思う? 善だと思う?」
唐突な質問。
「殺しは悪だよ」
もしかして人を殺した事あるのかな?
そう思うと私は恐くなる。
「恐がらないで。じゃあ質問を変えるね。あなたは人殺しを肯定する? それとも否定する?」
「人殺しは駄目だよ」
果たして妖恋さんは肯定か否定か……。
「私と同じだね」
本当。
私は安堵感と同時に疑ってしまった事に罪悪感を感じる。
「人殺しって善悪じゃないの。肯定するか否定するか。ある宗教は殺される事は否定したけど殺す事は肯定したの。戦争だって人殺しを肯定してる」
「なんで妖恋さんは人殺しを否定するの?」
「だって親しい人に嫌わたくないじゃない」
「親しい人に嫌われなければ殺すの?」
卑怯な質問だと思う。
「否定する理由はないかな」
妖恋さんも私の質問にぼかして返した。
妖恋さんはさらに顔を近づける。
「ねえ? あなたは背徳的な事に快感を覚えた事ない? 例えば、女の子にドキドキしたりとか」
私はギクリとする。私は目を逸らそうとしても逸らせない。それどころか……。
「今のあなた……罪悪感に染まってる」
「別に……」
そんなことは……。
「それは肯定? 否定? 大丈夫。背徳は徳の否定じゃない。勝手にみんなが背徳を否定してるだけ」
そういうことじゃなくて……。
妖恋さんの目は甘い罠のよう。不安と期待が積もる。
その時、バッグからのスマフォの着信音で我に帰った。
助かった。
私はスマフォを取り出す。
鏡華さんからのメールでわかったという旨の内容が書いてあった。
「残念」
本当に残念そうな声で妖恋さんは言った。
妖恋さんは布で再び目を隠した。
「もう少しで晴恋ちゃんが堕ちるところだったのに……。まったく運が良いのか悪いのか……」
妖恋さんは立ち上がる。
「どういうこと?」
私も妖恋さんにつられて立ち上がる。
妖恋さんは涼しい笑みで言う。
「別に……ただあなたを罪悪の海に堕とそうとしただけ」
妖恋さんは踵を返し私に背を向ける。
「またね。また近い内に会うでしょう」
私は不安感から解放され、期待が後悔になった。
私は後悔を覚える私自身に疑問に思う。
「うん。またね」
妖恋さんは歩き出す。
しかし、その歩みを止めて私の方へ振り向き、私を指さし悪意を込めた誘惑するような笑みで言う。
「出血大サービスで教えてあげる。私の悪は罪悪。法律、道徳、宗教に背く悪。次、会ったら全身全霊で晴恋ちゃんを罪悪感と背徳感の快感の海に堕としてあげる」
必要悪の次は罪悪です。
罪悪の女の子に気に入られてしまった晴恋でした。
アプリの性能はレベルアップ式。メアドを入力すればするほど強くなります。




