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Student War ──羅刹女──  作者: 天井舞夜
魔眼・十さらに人形・邪道
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第50話

桃園 夢 : ももぞの ゆめ

 私は月見と晴恋を探すついでに店を回っていたら、目的とついでが入れ替わってしまっていた。

 私と月見はベンチに座り、私は呟いた。


「今更だけどすぐに携帯で連絡すれば良かったな」


 月見は子供を馬鹿にしたような笑みを私に向けて言う。


「今更じゃん。私は最初から気付いてたよ」

「なぜ言わなかった」


 まあ、月見を責める気はない。そもそも普段なら思い付きそうな事を思い付かなかった私の所為だ。


「今日は暑いからね。頭が回らなかったんだよ。きっと」


 そう言った月見は心配そうに、でもどこか嬉しそうでもあった。まるでその様はかつて私が、彩七がいないところでパパを独り占めしたような印象を受ける嬉しさだった。

 私は適当に答える。


「そうかもな」


 とりあえず私は携帯で晴恋に電話をかけた。

 月見は笑みを浮かべているが悲しそうな表情だ。

 しばらくのコールをするが出ない。


「あの娘は携帯をバッグに入れてるからね。マナーじゃ気付かないよ」


 私は電話を切って月見に反論する。


「音かもしれないだろう?」


 月見はため息を吐いて呆れた声で言う。


「この人混みだよ? みんな鏡華みたいに耳が良いわけじゃないんだよ」


 そんなものか……。


「じゃあ探しに行くか」

「そうだね」


 私と月見は立ち上がり再び歩き出した。




 私と月見が歩いていると石段が見えた。石段は真ん中に小刻みの階段、そのサイドに大きな石段がある。大きな石段では老若男女が休憩を取るために座っている。その中でも一際目立つ少女がいた。

 黒い髪はおかっぱ、目鼻立ちはハッキリしているが和を感じさせる容姿、幼くはないが小柄な体躯。白いゴスロリドレスを着こなし、愛嬌のある西洋人形を抱きかかえている様は容姿と相まってアンバランスだが絵本から飛び出た少女みたいだ。

 嫌でも目を奪う。

 背後から月見の舌打ちが聞こえた。

 少女は立ち上がり階段を下りる。階段を下りる仕草は上品だがどこか幼稚な印象を受けて危なげだ。

 少女が残り数段のところで下ろした足の足首が内側に曲がり少女はバランスを崩した。

 私はそれに気付いて走る。

 少女はバランスを崩した勢いで前方に体を投げ出される。残り数段とはいえ、その高さで地面に落ちれば怪我を負うだろう。しかし、少女は無関心なように無表情だ。

 私は少女が落ちる軌道を予測し、落ちて来る少女を受け止めた。

 少女は無表情に私の顔を見つめる。しかし、落ちている時の無表情とは違い目を見開いている。


「大丈夫か?」


 私は笑顔で少女に聞いてみた。しかし、尚少女は無反応で私の顔を見つめる。やがて目が合うが少女は目をそらさない。


「えっと……」


 私は困って思わず呟いた。


「足は大丈夫?」


 少女は可愛らしく首を傾げる。無表情だがむしろそれが可愛らしい。

 やがて少女は口を開く。


「ありがとう」

「どういたしまして」


 私は答えた。

 少女は無表情を崩して困ったような顔だが嬉しそうだ。そして、少女は私の唇に刹那の口づけをした。

 は?

 唐突な展開に一瞬だけ思考が途切れる。

 少女は私から離れると再び口を開く。


「桃園夢……14歳」


 まさかの私より年上である。

 桃園先輩はそれだけ言うと歩いて行った。

 月見が私に近づき呆れたように言う。


「鏡華……。姫都があなたにキスした時から思ってたけど、あなたって唇がお留守だよね」

「唇がお留守って……」


 月見はため息を吐いた。


「あ~、あの人が桃園夢さんか……」


 私は誰に向けたわけではなく言った。

 璃子のメールに書いてあった。朝山、昼山、夕山、夜山の中学生の間で『悪意』の校争が起こる。その校争を起こす原因とされる2人がいる。璃子が見た予知夢によると私はある2人に接触する必要があるらしい。一人は北見蓮十郎、もう一人は桃園夢。

 北見蓮十郎は現在9つの魔眼を持つ。しかし、近い将来10つになる。

 桃園夢は人形愛好家だ。こっちは相当ヤバいらしい。個人的には悪い子には見えなかったが……。

 この予知自体の回避は可能らしいが、回避した先の未来がどうなるかわからない。回避した先の未来が最善の未来か最悪の未来か……。それは予知した未来を回避しないとわからないと言っていた。

 だから璃子は出来事のきっかけを変えてほしいと私に伝えた。どうやらきっかけは2人が私に好意を持つ事らしい。

 ならば嫌われたらどうか? ということらしい。単純な回避なら私が好意を持たれないように2人に会わなければいい。しかし、それだと校争という出来事が起きない。璃子が予想した最悪の未来は校争が起こらず、どこかの学校が他の3校を奇襲か何かで制圧するかもというものだ。あくまで予想だがそれが起こらないとは限らない。

 あの喜界島先輩の言い分が本当ならば、私の考えた『悪意』の仮説だと大変なことにる。私が危惧するのは璃子の予知ではなく予想だ。

 ちなみに璃子曰わく、未来の出来事には重要性のグレード、回避の難しさのハードル、そして影響度のレベルがあり、そらぞれを5段階に表すと5、2、5らしい。

 北見蓮十郎には嫌われただろう。桃園夢は……好意を持たれたかもな。一応、きっかけは変わった形ではある。

 こんなので本当に大丈夫なのか? 璃子……。きっかけを変える事に意味はあるのか?


****


 夢はいつもより早足で歩く。

 その表情は照れと嬉しさが混じり合っている。無表情だけど。

 夢は問い掛けて来る。


「恥ずかしい」


 それは恥ずかしいだろう。女の子とはいえ初対面の相手にキスだからね。


『大体なんでいきなりキス?』


 私は夢に当然の質問を言った。


「取り乱した」


 どうして取り乱したらキスになるのか……。


『普段から人と話さないからそうなるのよ。そんなんじゃあなたのこの先心配よ』


 夢がシュンとするのがわかる。無表情だけど。


「でも……チョコ」


 申し遅れたわ。私は夢に抱きかかえらている西洋人形、名前はチョコ。私の存在は所謂生き人形というやつよ。


『でもじゃないわよ。でもまあ、ちゃんとお礼を言えただけましかしら?』


 これでもこの娘との付き合いは長い方だからね。この娘に人間の友達が少ないのは知ってる。皆無ではない。ほとんど類友だけどね。


「そう?」


 夢は無表情に首を傾げる。


『普通は人同士でちゃんとお礼を言えるのが当たり前だからね』


 夢は普段この当たり前が出来ない。そういう意味では誉めもいいかもしれない。

 私は夢と会話ができる。会話といっても、ただ私がテレパシーをしているからだけど。

 そもそも私は生き人形でこそあったが、テレパシーなど使えなかった。3ヶ月程前から使えるようになった。たぶんなんらかの超常現象が関わっている。現にそんな超常現象を追っている2人組に会ったしね。

 そんな超常的な人形を夢は私の他に2体所有している。


『しかも初対面の相手にキスも普通しないわよ?』

「戻ってる」


 戻ってる? 話が?


『大事な話だから! いくら友達になりたいからっていきなりキスは引かれるわよ』


 夢は照れたように言う。


「だって可愛かったから」


 可愛かった?

 あの娘──確か名前は鏡華だったかな? は確かに可愛かった。

 同性愛の気でもあるのかしらこの娘?

 それならそれでいいけど……夢の場合は普段他の子達と関わらないから単に接し方がわからないだけかもしれない。


「笑顔とか」


 そういえば夢がお礼した後に微笑んでたわね鏡華って娘。あの笑顔を見て確かに夢は嬉しそうだった。


『でも次はいつ会えるかしら? 夏休み終わったらまた寮生活でしょう?』


 夢は泣きそうな顔になった。無表情だけど。


「名前聞いてない」


 名前聞いてないって……。


『鏡華よ』


 私の言葉に夢は目を見開く。


「なんで?」


 なんで知ってるか?


『然地堂のゲーム発表会で新作ゲームの体験してたじゃない』

「そうなの?」


 あの時点では興味なかったのね。

 夢は興味ない人間には無頓着だからね。


『なんなら戻って鏡華ちゃんにメアド聞けばいいじゃない?』


 夢は羞恥に口を開く。


「恥ずかしい」

『戻って会うのが恥ずかしいの? あの娘は気にしなさそうだけど』


 だってあの娘、無表情の夢に対してけっこう微細な変化に反応してたし……。初対面であれはすごい。


『ほら、勇気を出して』

「嫌」


 駄目ね。対人コミュニケーションのレベルが1ね。いえ、今は2かしら?


『何回も言うけどもう少し人とコミュニケーション取りなさいよ』

「必要ない」

『必要よ』

「だって人形にするから」

『人形じゃなくて人間にしなさい』

「鏡華ちゃんを人形にする。人間人形・鏡華」


 そっちの意味?!

 私は思わず絶句。


『それは駄目よ!』

「冗談」


 まったく、夢が言うとシャレにならないわ。


「あ」


 夢が急に声を上げた。


『今度はどうしたの?』

「あれ」


 夢の指し示した方向には風呂敷の上に人形が置かれて出品されていた。

 私と同じ西洋人形だ。

 夢がその人形に近づく。

 今日、夢が夜山祭りに来た理由が人形探しだ。ただ探しに来ただけ。

 夢が人形の置いてある店の前に立つと、夢が人形に興味を示している事に気付いたのか売り主のお爺さんが言う。


「お嬢ちゃん、この人形に興味があるのかい? やめた方がいい。この人形危ないから」


 危ない? どういう事かしら?

 夢はしゃがみ込んで件の人形に手を触れる。すると、無表情だけど痛みを感じたらしい事がわかる。夢の指には血が流れていた。


『夢! 大丈夫?!』

「平気」


 夢はそう言ったがお爺さんは慌てて言う。


「大丈夫かい?! お嬢ちゃん!」


 夢は頷いた。


「悪いね、お嬢ちゃん。こういう事だから売って上げられないんだ。あわよくば酔狂な収集家が買ってくれるかと売り出したが見向きもしなくてね」


 夢はお爺さんを見つめると説明を始める。


「これは邪道人形シリーズの第11ドール、針人形・蠍」

「邪道人形……邪道人形ってあの邪道人形かい?!」


 お爺さんが声を荒げた。

 邪道人形シリーズ。制作者不明の人形。邪道の由来は子供が遊ぶための王道ではなく、子供を傷つけるための邪道から。


「蠍は皮膚に針を仕込んでいて、触れた者を傷つける」

「邪道人形シリーズ……それならマニアが買い取ってもおかしくないはずなんだが……」


 確かに、酔狂なマニアなら堪らない一品でしょうね。高値が付くと思うわ。


「買う」


 夢はただ一言そう言った。

 そういうことか……。

 この人形が売れない理由。それは夢が手に入れるからだ。

 夢は今までどんな人形も手中に収めた。例えどんな過程があっても最終的には夢に人形が行き着いてる。まるで人形が夢に寄って来るかのように、はたまた運命が夢に味方しているように……。


「悲しい」


 そして夢は人形の感情を感じる共感覚の持ち主。

 お爺さんと私が見守る中、夢は人形を素手で触り持ち上げる。その手には傷など付いていない。


『さすが夢。人形の扱いには手慣れたものね』

「あなたが人を傷つけた分だけ私が愛して上げる」


 そう言った夢の無表情は崩れ、幼子のような無邪気な笑みを浮かべていた。

 これが人形を愛する人間であり、人形に愛される人間──桃園夢である。

作者の人形に関する知識は人並みです。

子供を傷つける人形は邪道? それともそういう目的で作られる人形はメジャー? メジャーなら無知晒しでかなり恥ずかしですね(笑)

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