第48話
「チクショォォーー!!」
俺の横のベッドで漫画を持った伊集院君は拳をベッドに振り下ろして叫んだ。
「ちょ、ちょっとどうしたの伊集院君? いくら2人部屋だからって大声出すのは迷惑だって!」
俺はなぜかいきなりヒステリックを起こした伊集院君を宥めた。
「ああ、ごめん神代君。起こしちゃったね」
「いや起きてたから。どうしたの?」
「これを見てくれ神代君」
伊集院君は読んでいた漫画の開いているページを俺に見せた。
そこには見開き一ページで美少女達が海で遊んでいるという絵だ。所謂水着回というやつだ。
「これがどうしたの?」
正直意味がわからない。好きなキャラがいないとか、好きなキャラの水着のデザインが気に入らなかったとかだろうか?
伊集院君は美形で天才ということで学校では有名だ。かつて俺が抱いていた印象は性格が良い人で正に完璧超人なんだろうなと思っていた。だけどそれは今回入院して2人部屋で同室になって評価が変わった。確かに良い人だった。だけど残念な人でもあった。ある意味普通の男子といえば普通の男子だけど。
そんな伊集院君は悔しそうな顔で言う。
「僕はまだ鏡華ちゃんの水着姿を見てない」
下らな過ぎる。そう思った。
「高田さんの水着か……俺も興味あるよ」
だけどそれは仕方ない。そう思った。
「神代君は見たことある?」
「ないよ」
「僕もだ。しかもクラスが違うからスクール水着すら見たことがない」
なんていうか伊集院君は高田さんが好きなこと隠す気がない。清々しい程の堂々ぶりだ。
「鏡華ちゃんって肉付きが良いよね。膝枕とか気持ち良さそうだと思わないかい?」
「ど、どうだろうね」
膝枕とか思考がオッサンだよ。
だけどこう言われると興味が湧いてしまう。今までは特に膝枕なんて考えたことなかったけど妙に魅力的に感じる。
伊集院君は時計を見た。
「そろそろ来るかな」
「誰が?」
高田さんかな?
「一条さんだよ」
一条さんか~。
「残念だよね~」
その感想は正直過ぎると思う。
「伊集院君は一条さん嫌いなの?」
「嫌いじゃないよ。僕はただ鏡華ちゃんじゃなくて残念だよねって意味で言ったんだけどね」
あ、そういう。それはそれで正直だと思うけど。
「だけどこれはお互い様だよ神代君」
何が?
「一条さんも鏡華ちゃんに会いたいはずだから」
「そういえば一条さんは高田さんによくくっついてるよね」
ちょうどその時、病室のドアがノックされた。
「伊集院君いる~?」
一条さんの澄んだ声が聞こえた。
本当に来た。
「いるよ。入りなよ」
伊集院君が答えた。
遠慮がちにドアが開かれる。開かれた先には白い髪と赤い瞳、透明感のある白い肌の神秘的な一条さんがノートと問題集と筆記用具を持って立っていた。
「お、お邪魔します」
一条さんはおずおずと病室に入ると伊集院君のベッドの側の椅子に腰掛けて言う。
「お願い! 伊集院君、宿題教えて!」
なるほど……宿題か。そういえば俺もやってないな。
「伊集院君! お願い! 俺にも教えて!」
俺も一条さんに便乗しよう。
伊集院君は俺達の言葉を聞いて呆れたのか笑みを浮かべる。
「確かに僕が宿題をやればすぐに終わるだろうね。だけど……例えすぐに答えがわかっても宿題提出の5分前に宿題を始めても終わらないんだ。だって字を書く速さは普通の人と同じ速さだから。おかげで僕は小学生の時は毎年夏休みの宿題は提出出来ないんだ」
「つまり宿題やってないんだね」
俺と一条さんはハモらせて言った。
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ゾクッとした。
体に悪寒と快感が走る。
原因は簡単だ。僕がゲームの銃で撃った攻撃を彼女が避けたから。
「どういうつもりですか? 北見先輩」
どうやら彼女──高田鏡華は年上に対する敬意はあるらしい。
そんなことより今の回避だ。
僕は魔眼の予見によって先程のタイミングの攻撃で高田鏡華はゲームオーバーになるはずだった。しかし、高田鏡華はそれを攻撃を回避、同時に予見を回避した。
「ごめんね。鏡華ちゃんだっけ? 羅刹女と呼ばれる君を倒せば僕も有名になれるかなって思ってさ」
僕は再び銃を構えて撃つ。予見に従って。
しかし、鏡華ちゃんはそれをまたしても回避する。回避した先でモンスターが真後ろから鏡華ちゃんに向かって鎌を振り下ろしていた。しかし、鏡華ちゃんはそれを知っていたかのように体をずらしてギリギリで回避。
ゾクゾク!
今の予見は鏡華ちゃんが回避した先でモンスターに斬られるというものだった。
僕の魔眼・予見は9ある魔眼の一つで数秒先の景色が見る事ができる。
面白い! もう少し本気を出そうかな。
魔眼・八方。これは全方位を見る事ができる魔眼だ。さらに魔眼・予見。これで全方位を予見できる。
「くっ!」
鏡華ちゃんは苦い顔でモンスターの鎌を回避すると銃をモンスターに撃ち込む。しかし、モンスターにダメージはほとんどない。どうやら鏡華ちゃんに攻撃された事でモンスターは鏡華ちゃんに狙いを定めているようだ。
僕は容赦なく鏡華ちゃんに銃を撃つ。鏡華ちゃんはまたしても回避した。
どういうことだろうか? 予見をこうも連続で回避できるものだろうか?
魔眼・識別を使う。視点を合わせた対象の情報を一つ見る能力。24時間に一回しか使えないけれどね。
なるほど。後出しか……。
僕の予見に対しての後出し……。簡単な話、僕の予見通りの行動をした事象の後に行動している。例えるならジャンケンだ。自分は相手の出す手をあらかじめわかり相手に勝つ手──例えば相手のグーに対してパーを出す。しかし、相手はこちらのパーを見てからチョキを出す。情報の上書きだ。
だけどそう簡単に予見を回避はできない。回避するには相応のスペックが必要だ。逆を言えば鏡華ちゃんはそのスペックを持っていることになる。
「面白いよ鏡華ちゃん!」
思わず声に出してしまう。
その瞬間鏡華ちゃんがこっちを向く。そして床を蹴って走って来る。
ゾクゾクゾク!
僕は予見する。走って来る鏡華ちゃんをここで撃てば当たる予見だ。
僕は銃を構える。
鏡華ちゃんは悪戯に笑み、それでいて上品な笑みを浮かべる。予見にないその笑みに刹那見取れる。
「それ弾入ってます?」
「え?」
弾? もしかして僕の銃に装填されている弾の数を数えていたのか?
「○☆■○#△#△■§☆○△△」
鏡華ちゃんは僕に聞こえるか聞こえないかくらいの声で呪文のような言葉を言った。刹那その笑みを崩して苦痛の顔になる。
僕の脳裏に不安感が生まれる。
僕の銃には弾が残っているのか? 本当に入ってないんじゃないか?
生まれた不安感は成長する。僕は不安感に耐え切れずグリップの装填ボタンを押す。
そこで気付く。眼鏡の画面に弾の数が表示されている事に……。
鏡華ちゃんは僕の懐に入り込む。鏡華ちゃんは腹に銃口を押し当て引き金を引く。
眼鏡の画面に表示された僕のHPが0になる。
「先に仕掛けたのはそっちですからね」
彼女は捨て台詞と勝ち誇ったように生意気な可愛い笑みを残し、綺麗な黒い髪を翻してモンスターに向かって行った。
「ハハハッ……」
まさか僕の思い通りにならない女の子がいるなんて……。
今、僕は高揚感に襲われている。ドキドキする。
「ヤバいかも……」
鏡華ちゃんは競争率が高そうだ。
僕は頭を抱えた。
先読みされるなら後出しすればいいという謎理論




