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Student War ──羅刹女──  作者: 天井舞夜
臆病者・神代善人さらに思考・善
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第41話

注 : 残酷描写タグが仕事します。というよりこの章はほとんど残酷描写タグが仕事します。


ちなみに最新章のあらすじ変えました

 璃子の奴全然来ないじゃないか。

 私は食堂の椅子に座って待っていた。待ち合わせ時間の2

分前くらいに来ていたが、今は待ち合わせ時間の20分後だ。

 正直ちょっとイライラしている。お腹は空いたし暑いし……。

 すると、私の座っている背後で誰かが立ち止まった音を聞いた。


「おや? 高田さんじゃないか」

「ん?」


 そこには鞄を持った伊集院がいた。美形と天才以外は何も取り柄のない男だ。最近は天才かどうか怪しいと文芸部員は思っている。


「やあ。こんな夏休みの学校で何してるんだ? もしかして今日部活だったか?」


 最近、部長が我が校の文化祭で出す文集の文を考えるように言われた。コピー誌のため、それ自体の期限はけっこうギリギリまで大丈夫らしいが、部長と月見はもう終わっているらしい。


「違うよ。僕はただ単に金石君に夏休みの宿題の答えを売り来ただけさ。もう終わったけど」


 金石とはこの学校の情報屋だ。この学校の生徒と他3校の有名な生徒の情報、さらに学校側の情報も握っているらしい。まあ、テストの内容も持ってるんだから教師も利用してるのかもな。


「へぇ、なんの情報だ?」

「生憎だけど、情報交換じゃないんだ。テレビ番組の録画をもらったんだ。高田さんはなぜここに?」

「璃子に呼び出されてな。だけど待ち合わせ時間を過ぎてもまだ来ないんだ。まだ部活が終わってないのかもな」

「ふ~ん」


 伊集院は私の向かいの席に座った。


「それにしてもこの前のは驚いたよ」

「この前の?」

「『悪意』がどうとかって奴さ。あれって僕や高田さんが『悪意』で歪まないとも限らないんだろ?」


 歪むだろうとは思う。文芸部メンバーの中にも怪しい奴いるしな。


「私達が小説やアニメの主人公とか特別な存在だったら歪まないかもな」

「だけど現実は小説より奇なりとも言うよ。正に今、僕達の状況はそれじゃないかな」

「確かに」


 少なくとも霊能者と超能力者と天才とお金持ちは身の回りにいる。

 ふと私の目に野球部の男子がカレーとラーメンを運んでいるのが飛び込んだ。


「お腹空いたし何か食べるか。伊集院はどうする?」

「僕も食べようかな。調度カレーが食べたかったんだ」


 私と伊集院はそれぞれ定食とカレーを頼み、元のテーブルで食べ始めた。

 この中学校のカレーはうまい。インターネットの口コミサイトなどで5つ星を取るくらいうまい。学外にもファンがたくさんいるが、実質部外者がここのカレーを食べる事が出来るのは授業参観などで許可証をもらった人や文化祭などで一般向けに開放した時だけである。公立なのに。

 私が箸を進めていると、伊集院が厳しい顔で言う。


「そういえば高田さんは今日、5人の不良と喧嘩したかい?」

「したが」


 殴り合い──一方的な殴りをする私は女子としてどうなんだろうか?


「あいつら4組のイジメっ子達だよね。確か神代君って子をイジメてた」

「神代を知ってるのか?」

「人づてに聞いただけだよ。それよりも高田さん、金鎚で殴るのはやり過ぎだと思うよ」

「は?」


 何言ってんだコイツ?

 私は箸を止めて伊集院に言う。


「私は金鎚で殴ってないぞ」

「ん? だけど彼らに金鎚で殴りられた跡が──」

「だから殴ってないって! むしろ金鎚で殴りかかって来たのは奴らだ」


 伊集院は頭に疑問符を浮かべた。


「じゃあ誰が殴ったんだ?」


 知らん、と私が答えようとした時、遠くから女子生徒の悲鳴が聞こえた。

 伊集院にも聞こえたのか、目を見開いている。


「どこからかな?」

「視聴覚室だな」


 伊集院の疑問に私は答えた。

 視聴覚室といえば演劇部が活動を劇の練習などの活動を行っている場所だと璃子から聞いている。そして璃子は今日部活だ。


「つまり一条さんがいるかもしれないということじゃないか! ヤバいんじゃない?!」

「確かに悲鳴の声がビックリしたとかの類じゃなかった!」


 どちらかというとまるで悪い意味で予想外の出来事が起こったような……。


「ただならぬ自体じゃなさそうだね」


 私が伊集院の言葉に同意しようとした時、食堂に入って来た男子が叫ぶ。


「誰かが視聴覚室から落ちたらしいぞ!」


 私──いや、食堂にいる全員が男子に驚きの目を向けた。


「誰かが突き落としたらしい!」


 その時、視聴覚室の方から男子と女子の複数の悲鳴が聞こえ始めた。そして、私の耳が正しければ悲鳴の数が少しづつ減っている。自然に止まるというより強制的に止められているようだ。


「これはヤバい!」


 私はすぐに立ち上がり、走り出した。


「あっ! 待ってよ高田さん!」


 伊集院も立ち上がり私の後を追って走り始めた。




 食堂から飛び出し、伊集院が私と並び尋ねる。


「どこへ行くんだい?!」

「視聴覚室! なんかヤバい! 悲鳴が減ってる! 璃子が心配だ!」


 食堂は一階、視聴覚室は2階。それぞれ同校舎にあるが、位置的には逆の位置にありかなり離れている。


「悲鳴が減ってるって…………本当に君の耳は良過ぎるね」


 みんな曰わく私の耳は良過ぎるらしい。良過ぎるかどうかは知らんが、正直言うと喧嘩でもよく使う。死角にいても反応できる理由の一つは足音や風を切る音などの微かな音でも拾えるからだ。


「今はそんなことどうだっていいだろう。……ん?」

「どうしたんだい?」


 私の妙な様子に伊集院は気になったのか声をかける。


「よく聞くと璃子の悲鳴は聞こえないな」

「え? それってつまり……」


 考えられるパターンは2つ。既に悲鳴を上げてないか、その場にいないかだ。


「それに今、何か鈍器が床を思いっきり叩く音も聞こえ──!」


 悲鳴が止んだ。正確にはまだ悲鳴はある。しかし、その悲鳴は新たな悲鳴だった。


「微かに聞こえる悲鳴が止んだと思ったらまた聞こえてきたね」

「ああ、しかもさっきとは全員別人の悲鳴だ。伊集院、これは想像以上に大事かもしれないぞ」


 私はさらに走る速度を上げて廊下を駆け抜けた。




 私は伊集院を置いてきぼりにして悲鳴の聞こえた場所に到着──視聴覚室の前に到着するとそこは頭部から血を流す生徒、気絶する生徒、泣き叫ぶ生徒が溢れ返る正に地獄絵図だった。

 いや、戦争などを経験している人達からすれば大したことないかもしれないが、私達普通の生徒の日常からすれば十分地獄絵図だ。

 私は近くにいた比較的落ち着いている男子に声をかける。


「おい! なんだこれは?!」

「い、い、い、いきなり男子が、し、視聴覚室から出て来て!」


 駄目だコイツ、落ち着いてるように見えるだけで落ち着いてない。


「とにかく救急車を!」


 私は携帯電話を取り出し、119とボタンのナンバーを入力した。相手はこちらの切羽詰まった状況を察したのか、すぐに来てくれるらしい。

 そして私は次に110と入力し、電話をかけた。しかし──


『おかけになった電話番号は現在使用されておりません』

「はあ?!」


 私は押し間違えたと思い再びナンバーを入力するがやはりかからない。

 そういえば……。

 私は北乃先輩に言われたことを思い出す。警察や教師は当てにならないということを……。

 周りを見てもこれだけの大事にも関わらず教師が未だに一人もいない。


「やっぱり警察は駄目だったか? 高田」


 私が声の主を見ると先程の話に出て来た情報屋である金石がいた。熱血漢でスポーツ刈りというスポーツマンな見た目の男子だ。


「やあ、金石。やっぱりということはあんたもかけたのか?」

「まあな。しかも今学校には教師──それどころか大人が一人もいない状況だ」

「運動部の監督とかもいないのか? 私が食堂にいた時にはご飯を出すおばちゃんがいたはずだが」


 金石が首を横に振る。

 つまりいないのか。


「とりあえず璃子が心配だ」


 私は開いてるドアから視聴覚室を覗き込むと見た限り璃子はいなかった。


「璃子はいないのか……落ちた生徒か?」


 私は窓に駆け寄り顔を出して見下ろすと、横になりうずくまっている男子とそれを囲むように生徒が何人かいた。相変わらず教師はいない。


「中山先輩……」


 その男子は北乃先輩とのコンビの片割れであり、晴恋の兄である中山先輩だった。

 中山先輩は窓から顔を出す私を見つけて、近くの生徒に言う。

 高田に下りて来てって伝えて、と小さな声で。

 私は視聴覚室から出て近くの階段を駆け下りて、一階の窓から校舎の外に出た。

 私は中山先輩を囲っている人混みをかき分け中山先輩の傍まで歩み寄る。


「中山先輩……一体何があったをですか?」


 中山先輩は苦しそうに口を開く。


「演劇部の午前中の活動が終わった後に女子がいきなり視聴覚室が入って来たんだ。そしていきなり塚原さんを──あっ! 塚原さんって部長な。それでその塚原さんをいきなりパイプ椅子で殴り始めたんだ。俺は止めに入ったんだけど、俺もボコボコにされて窓から落とされてこの様だ。確かあの人は塚原さんの元カノだったかな? あの人……塚原さんに部活に専念するからってフラレたから」


 まさかの痴情のもつれかよ!


「たぶんあの人、演劇部全員を血祭りに上げるつもりだ。とんだ巻き込まれ損じゃね~か」


 塚原先輩の元カノ恐いな。これが噂のヤンデレって奴か。


「たぶんあの人……『悪意』で歪んだ人だな。おそらく、塚原さんに対する愛が歪んだんだ」

「そんなのはどうでもいいです。璃子はどこですか?」


 つまり璃子は血祭りの対象に入ってるということだ。


「一条か? 奴は部活が終わるなりお前と会うとか言って出てったぞ。一条以外にも何人か出てったな。そういえば……」


 まだ璃子は大丈夫なのか…………いや、危ないな。

 演劇部部長の元カノさんはあの視聴覚室から出るために無関係の奴も巻き込んでる。つまり璃子や他の演劇部を血祭りにするために邪魔な無関係の奴も巻き込まれるのは確実だ。

 璃子を探すより元カノさんを封じた方が早いな。犠牲も少なくて済む。

 夏休みで人が少ないからいいものの、夏休みじゃなかったら大惨事だな。

 それにしても璃子とすれ違いになるなんて……。


「しかし……いくら演劇部が喧嘩の素人とはいえ複数を相手にこんな一方的な……」


 喧嘩に素人も何もないがな。


「それじゃあ私は璃子を助けに行って来ますね」


 この先輩は大丈夫だろう。視聴覚室にいる奴らは心配だが。

 私は身を翻して走った。

 後ろから中山先輩の応援のエールをいただいたが、こっちの身にもなれ、と思った。


****


 なんか騒がしいな~。

 私──一条璃子は鏡華ちゃんと会うために待ち合わせ場所である食堂に向かっていた。

 演劇部の練習が長引いてしまい終わったのがちょっと前、待ち合わせ時間を少し過ぎてからだった。

 鏡華ちゃん怒ってるよね。

 私は先生がいないのをいいことに廊下を思いっきり走る。

 相変わらず足は遅いけど演劇部に入ってそれなりに体力は付いたと思っている。

 その時、私は体育着を着て歩いている2人の女子とすれ違った。


「なんか視聴覚室から人が落ちたらしいよ~」

「え~、マジで? 視聴覚室って確か演劇部が劇の練習をしてる所だよね」

「そうだね~」


 え? さっきから騒がしいのはそういうこと?

 私が来た道を戻ろうとすると背後から声をかけられた。


「一条さん見つけたよ」

「え?」


 振り返るとそこには文芸部部員の一人、伊集院風麿君がいた。


「あ、こんにちは」

「こんにちは一条さん」

「伊集院君なんで学校にいるの?」

「別に僕のことはどうでもいいじゃん。そんなことより鏡華ちゃ──高田さんが一条さんが無事か心配してたよ」


 今伊集院君、鏡華ちゃんのこと鏡華ちゃんて言おうとしたよね? この人もしかして一人の時、鏡華ちゃんのこと鏡華ちゃんて読んでるのかな?

 それより気になる言葉が──


「鏡華ちゃんが私を心配ってどういうこと?」


 伊集院君は普段滅多に見せない厳しい顔をした。


「いやね、高田さんが今視聴覚室の演劇部が大変なことになってるって言ってたからさ」

「そうだ! 視聴覚室に行かないと! 誰か落ちたみたいなの!」


 私が視聴覚室に向かって走ろうとすると伊集院君が私の手を掴んだ。


「ちょっと何?」

「高田さんが一条さんを見付けたら掴まえとけって言ってたからさ」


 伊集院君が笑みを浮かべて言った。


「一条璃子……善。伊集院風麿……悪」


 私と伊集院君は突然の声に振り向く。

 そこには男子がいた。目つきは悪いけど間違いなくイケメンのカテゴリーに入るキリッとした男子だ。


「君は誰だい? 出会い頭に人を悪とは失礼だね」


 伊集院君は私から手を放し、若干不機嫌な声のトーンでその男子に言い返した。


「伊集院風麿……善とはなんだろうか? 悪とはなんだろうか? 人間は善を説明するために悪を作った……というのが一般的な見解だ。ではどうやって善を悪で説明するか? 答えは簡単だ。勧善懲悪だよ」


 男子は伊集院君との距離を詰めた。そして、伊集院君の顔にパンチを叩き込んだ。

 伊集院君は勢いで転がった。

 私はいきなりの展開に唖然とする。

 伊集院君は起き上がり、険しい顔を手で押さえながら言う。


「善とか言ってる割りには暴力を振るうんだね」

「暴力に善も悪もない。強いて言うなら悪を懲らしめるための手段なだけだ。悪の暴力は手段でもなんでもない。ただの人を傷付ける行為だ」


 伊集院君はポケットに左手を入れ、右手を男子に向けて伸ばして手の平を上に向けてクイッと指を曲げた。所謂来いというジェスチャーだ。


「ムカつくな~。来なよ。本気で相手してあげるからさ」


 ただこの場合、この行為は挑発だ。

 男子は右手を振りかざして伊集院君に突っ込んだ。




 私の前では伊集院君が見るも無惨な姿で横たわっていた。

 善がどうのこうの言っていた男子は伊集院君を圧倒した。

 伊集院君は運動神経が良いし、所謂天才というもので物理的な計算で未来を予測できる。

 男子は伊集院君の傍まで来ると思いっきりお腹を蹴って、私を睨むとその場から立ち去った。

 私はそれを呆然と見送り、伊集院君の呻き声で我に帰る。

 私は膝を付いて伊集院君の背中に手を置いて揺すった。


「伊集院君! 大丈夫?!」


 私の言葉に伊集院君は呻き声で返した。

 私はポケットから携帯を取り出した。


「こ、こういう時は警察に連絡だよね?」


 普通なら最初は救急車だろうが、パニクってた私は警察に電話をかけた。


『おかけになった電話番号は現在使用されておりません』


 しかし、携帯から流れて来る無慈悲に淡々とした声だった。


「なんで?!」


 私な泣きそうになりながらも電話を切って、リダイヤルから鏡華ちゃんに電話をかけた。

 鏡華ちゃんはコールが鳴ってすぐに繋がった。


「もしもし! 鏡華ちゃん?!」

『璃子、あんた今どこにいるんだ?』

「そんなことより伊集院君が大変なの! いきなり変な人に襲われて伊集院君が怪我しちゃって──」

『襲われた?! 璃子は無事なのか?』

「うん。伊集院君が目的だったみたい」

『はあ? なぜ伊集院?』

「さあ? よくわからないけ──」


 ガン! と突然背後から何か金属を床にたたきつける音が聞こえた。


『璃子! なんだ今の音?!』


 私がおそるおそる後ろを振り向くと美人だが目に力がない女子がパイプイスを床にたたきつける格好でいた。

 女子は私に殺意を込めたような視線を向けて言う。


「君は演劇部?」

「は、はい」


 言うな! と電話越しに鏡華ちゃんが言ったのと私が答えたのは同時。


「じゃあ消えて」


 女子は私を狙ってパイプイスを野球のバットを振るようにスイングした。

 私は思わず目を閉じた。

 しかし、私に当たったのはパイプイスではなく人だった。目を開けると伊集院君の脇腹にパイプイスが当たり、伊集院君はその衝撃で私に当たったらしい。

 携帯が私の手から放り出され、私は伊集院君の下敷きされる形で倒れた。

 床に当たった痛みを我慢して伊集院君に問いかける。


「大丈夫?! 伊集院君?!」

「一条さん逃げて……」


 伊集院君は自力で私から退くと立ち上がって私と女子に間に入って言う。


「誰かわからないけど一条さんを倒したければ……まず……僕を倒してもらおうか。一条さんは逃げて……君邪魔だからさ」


 私は立ち上がり走った。振り返って伊集院君に言う。


「伊集院君待ってて! すぐに鏡華ちゃん連れて来るから!」


 私は伊集院君を助けるため、鏡華ちゃんを探すために走った。

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